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「絶対勝つ!」
インキュベイトファンド木村亮介

インタビュイー
木村 亮介

一橋大学商学部経営学科を卒業後、プライスウォーターハウスクーパース株式会社(現:PwCアドバイザリー合同会社)及びKPMGヘルスケアジャパン株式会社にて公共インフラ/ヘルスケア領域に関するコンサルティング業務に従事した後、インキュベイトファンドへ参画し、ispace、Gatebox、Misoca、ベルフェイス、iCAREなどの急成長企業を含む40社超の投資先支援に従事。2017年1月にライフタイムベンチャーズを設立。プレシード/シードステージに特化して投資を行う。Rehab for JAPANの社外取締役も兼務。

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穏やかに微笑み、屈託なく話す木村亮介氏(30歳)は30代を目前にして自身のファンドを組成したベンチャーキャピタリストだ。

彼はコンサルティングファームの後、シード投資に特化したベンチャーキャピタル・インキュベイトファンドのアソシエイトを経て独立。

2017年1月、「IF Lifetime Ventures」の屋号を掲げた(アソシエイトは現在も兼任)。

現在地に辿り着くまでの道のりにおいて、彼は何を思い、どんな努力を重ねてきたのだろう。話を伺った。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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「軍師」になりたかった

29歳でご自身のファンドを組成するまでに3社経験をなさっていますね。

木村そうですね、その経験が今の仕事に及ぼした影響はとても大きいです。

具体的にどんな仕事に就いてきたかというと、まず大学卒業後、新卒でプライスウォーターハウスクーパース(以下、PwC)という会計事務所系のコンサルティングファームに入り、そこから約2年半、公共・インフラ事業や民営化と呼ばれる領域のコンサルティングをおこないました。

その後、KPMGヘルスケアジャパン(以下、KPMG)に移り、医療機関の経営再建や介護事業者のM&A、事業会社のヘルスケア新規事業案件などヘルスケアにまつわる事業に約2年半携わった後、インキュベイトファンドに入社しました。

アソシエイトとして投資先の発掘から支援、ファンドの管理業まで一連の業務を経験した上で、今年1月から、「IF Lifetime Ventures」を開始しました。

もともとコンサルタント志望だったんですか?

木村経営コンサルタントという職業には高校生のころから憧れていました。「軍師」「参謀」と呼ばれる人になりたかったんです。

ヤングジャンプで連載中の歴史漫画『キングダム』なんか読んでてもそうなんですが、将軍や君主、英雄にも憧れはするけど、自分が一番かっこいいと思うのは、作戦を立てて英雄や将軍を支えるほうなんです。

『キングダム』以前だったら、諸葛孔明とか黒田官兵衛ですね。もともと歴史オタクなので(笑)。それで、現代の軍師?と考えたら、経営コンサルタントと思い、コンサルティング業界を志望しました。

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勝たないとおもしろくない

コンサルタントはやりがいがありましたか?

木村すごくありました。入社一年目から上場企業の経営陣や経営企画と接する機会を持てたし、霞が関の官僚に政策を提案することもありました。学ぶことが多く、いろんなチャンスをもらえたと思います。

海外の仕事も多く、なかでもインドには複数回に渡って出張しました。インドオフィスには同世代にとてつもなく優秀な人間がいて、その上自分の年収の7割で働いていることに、「これから自分や日本の若者は、こういう奴らと競っていくんだ」と衝撃を受け、危機感を感じたことはとても良い経験でした。

なぜかというと、日本人は英語が不得手、市場の基礎となる人口も減っている、人件費も高い、つまり同じ分野で戦おうとすると勝ち目がないと感じたのです。

彼らに勝てるビジネスを徹底的に考えた結果、「ヘルスケア/シニア領域こそ日本人が勝てる領域に違いない。

この領域なら、日本自体を市場とみなしてもらうことができ、海外から投資もしてもらえるはずだ」と、ヘルスケア領域へコミットしていこうという考えに至りました。

その後転職し、ヘルスケア領域で国内有数の実績を持つコンサルティングファームであるKPMGヘルスケアジャパンで働くなかで、日本を「市場」として参入検討している外資系の事業会社や投資会社も含めて数多くの案件に携わる経験を積むことができ、この考え自体は正しかったと確認できたことも自分にとって幸いでした。

「闘う」「勝つ」は木村さんにとって重要なキーワードのようですね。

木村基本的に、どんなにやりがいがあっても、勝てなかったらおもしろくないと思うんです。小中高とサッカー部、大学時代はミュージカルサークルに所属しましたが、どちらもプレイヤーとして一流になることはできなかった。そこには、好きでやる分にはいいけど、根本的には成し遂げられないと面白くないと思ってる自分がいるんです。

「ちゃんと生き残る」「勝てるところでしっかり勝つ」っていうのは、人生の楽しさにも繋がるものだと思っています。

だから、自分の投資先には絶対生き残ってもらえるよう、自分ができる最大限のことはなんだろうと常に考えて行動しています。

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第三者から当事者へ

VCになったきっかけは何だったのでしょうか?

木村新卒からずっとコンサルだったことに対して危機感を覚えたからです。

「軍師」になりたいと思ってコンサルを目指し、実際になることはできたものの、あくまで第三者の立場から出られないことには葛藤がありました。また、ビジネスに直接関わった経験を持てないまま4~50代を迎えることにも恐怖を感じました。

じゃあなぜVCだったかというと、正直に言うと結果論でして(苦笑)。約5年コンサルとしてクライアントを通じていろんな「会社」を見た結果、多くの事業会社は自分が働く上で“ちょっと大変そうだ”という印象を感じたんです。

仕事が楽しい・楽しくないじゃなく、組織内に固定化された絶妙な力関係がある。そんな中で四六時中空気を読みながらやっていくことに自分は向いてない。

だから組織が固まってない段階で参画するか、もしくは自分が作るしかないんじゃないか。自分が気持ちよく仕事するならスタートアップの世界じゃないか。初めてそう思ったのが27歳のときでした。

とはいえ、それまで自分はスタートアップ界隈とほとんど関わりがなかったので、めぼしいVCに書類送ってもさくっと落とされて、おお、厳しいんだな……って(笑)。

しかも当時は募集自体少なくて、他に候補がない。じゃあ起業するか……と思っていた折に開催されたヘルスケアハッカソンというイベントに足を運んだところ、そこで出会った方からインキュベイトファンドを紹介していただくことになったという流れです。

最初の面談では、「いまマーケット良いし、起業したら?」と言われたのですが、その数日後赤浦(徹氏。インキュベイトファンド代表パートナー)から連絡があり、早朝にコーヒーを飲みながら「ウチで働かないか」と言われ、一貫性のない人達だなと思いつつ(笑)、参画することになりました。

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スタートアップの外交官でありたい

実際にVCになってからはどんなことを学びましたか?

木村投資先や先輩から学ぶことがとても多いです。インキュベイトファンド内で直属のパートナーでもある赤浦から教わったことで今でも大事にしているのは、「とにかく起業家を信じること」。

忙しい彼らが事業に集中できるよう態勢を整えてあげるということです。特に、シードステージのVCにとっては大事なんじゃないかと思います。

0→1の段階では、生き残るため、儲けていくためにどうするのがベストか読めないものだし、事業が立ち上がらなかったら全部ダメになるわけです。そうならないよう、起業家が集中できる環境を整えて交通整理することは、私たちシードVCの大事な仕事だと思っています。

その上で、私の場合サポート出来ることはなんでもしたい。なかでも、エクイティ/デット問わずファイナンスに関しては最優先事項として取り組んでいるつもりです。

それはかつて、入社して半年頃に出資先の清算に立ち会ったことで、「必死に頑張ってきたのに潰れるってこんなに悔しいのか」と身をもって感じたことがきっかけです。

それ以降、出資先の「お金に関することは自分が責任を持つ」との思いが強くなり、結果的に今では日本のシードステージのVCでは一番デットファイナンスに長けていると自負しています。

入社早々凄絶な経験でしたね。

木村よく「スタートアップの外交官でありたい」と公言してるんですが、これは単に飲みに行くということではなく「いかに良い出会いを提供できるか」ということで、すごく重要だと思います。

寝る間も惜しんでユーザー/プロダクト/チームと向き合い続けている起業家と違って、VCはいろんな出資先や専門家から話を聞いたり、興味がある人に理由をつけて会いにいきやすい立場です。

そこでおもしろい人に出会ってその人たちをつないでいくことも、VCの大事な仕事であり、この仕事の醍醐味だと思うんです。

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長く愛されるということ

独立のきっかけは?

木村インキュベイトのアソシエイトになる条件が、3~5年の間に独立することでした。仕事のやりかた自体は1年でわかるかもしれませんが、いろんな人に会って様々な経験をしないとわからないことも多くあるから、最低3年はここで学べ、でも5年は面倒見ない、と。

結果、少し時期が早まって丸2年働いたところで自分のファンドを持つことになりました。

でも、2年という短い間にも、自分がどんな人に出資したいのか明確になっていき、ファンド名としても掲げている「ライフタイム」をキーワードに、長く愛されて存在し続ける事業に関わっていこうと決意するに至りました。

「長く存在し続けている」代表的なものは、自分が最初に関わった公共事業やヘルスケアなど、いわゆる社会インフラの領域ですが、そういうレガシー領域って解決できていない課題がたくさんあるんです。

また、そういう業界ってテクノロジー業界の人からは所謂「イケてない」人達の集まりと思われがちなんですが、少なくとも自分がコンサル時代にお世話になった人達、例えば下水処理場で水質管理している技師さんも、患者の「死」という厳しい現実と向き合いながら現場で働き続ける医療従事者の方も、プロ意識と専門性と併せもった尊敬すべき人達でした。

だからこそ、テクノロジーを通じて、社会や産業が抱える課題を解決したい。

またコンサル時代の経験から、「世界で勝てる領域でビジネス/サービスを作る」ことに対してもモチベーションが高いです。日本発のプロダクト、コンテンツを世界に発信していきたい。

そのために最初から「誰もが知っているもの」を目指す必要は必ずしもなくて、ニッチで熱量が高いファンを作るのが目標でいいと思うんです。

ニッチなファンを世界中からかきあつめたらすごい数になるし、「グローバルニッチな売り出し方」ってインターネットがあって初めて成り立つものだと思うんですよ。

どんな起業家に出会いたいですか?

木村ユーザーのことをしっかり考えてサービスを作る、人間性・スキルセットが高いのはもちろんのこと、お金を稼ぐことに対して貪欲である人です。

意図としては、ずっと続いているレガシー業界って展開が遅いので、改革するにはそれなりの道のりを歩むことになるわけです。

その間ずっと売り上げ無しとなると厳しいし、悪い意味でNPOとして終わってしまいます。だから、長く愛される事業・サービスを続けていくことは、お金をちゃんと稼ぐことと同義だと認識してくれる人だと魅力的です。

ファンドとして当面の目標は?

木村当たり前ですが、まずはちゃんと投資先の事業進捗、そして結果としてのリターンを出していきたいです。

特に、ご縁があっていろいろ学ばせてもらったヘルスケア領域では、社会的な課題に加え、そこで働いている人の課題も解決しなければならないものが多いのに、そのソリューションにつながる起業家への投資はまだまだ少ないので、積極的に開拓・還元していきたいと思います。ちなみによく「ヘルスケア特化なんですか?」と言われるんですが、違います(笑)。

「長く愛され、存在し続ける事業」を目指す創業前後の起業家の方とお会い出来ることを楽しみにしています!

こちらの記事は2017年08月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

編集

海老原 光宏

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