連載ファッションが最強のビジネスである

アパレルを「成長産業」と言い切るスタートアップ。
現状のファッション産業にはコレが足りない!

インタビュイー
木村 昌史

群馬県出身。大学在学中から大手アパレルチェーンにて働き、店長職や本部勤務をこなす。(株)オールユアーズ設立後は、社の理念「ライフ・スペック」の伝道師として、精力的に活動中。

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“斜陽”というイメージがつきまとう昨今の日本のファッション・アパレル産業を、「うちは成長産業なんで」と笑い飛ばす男がいる。カジュアルウエアの製造・ECを手掛けるスタートアップ、オールユアーズの木村昌史社長だ。

強気な発言の背景には、長年、アパレル業界の定石とされてきた手法の真逆をいく発想があった。

  • PHOTO BY YUKI IKEDA
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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ユーザビリティーがファッションは薄い?

オールユアーズが作っているのは、5ポケットのジーンズにフード付きのスウェットパーカ、無地のジャケットとパンツのセットアップなど、どれも一見シンプルで“普通”な服ばかり。「製品の外装(見た目)のデザインはしない」というのが、彼らの考え方だ。

「幼い頃に本の中で見たような“未来の服”を、僕らは今着ていますか?誰も着ていない。それどころか、100年前に発明されたものと同じ構造のジーンズを今もはき続けている。つまり、外装のデザインは完成しているっていうことです。だったら、それをいじるのは良くない」と木村。

ALLYOURS Webサイト

それでは、オールユアーズの服はどこが他と違うのか。実は、冒頭であげたジーンズやパーカ、セットアップには、「何回洗濯しても色落ちや色移りしない」「部屋干ししてたった3時間で乾く」「水滴や汚れをはじく」といった要素が詰まっている。分かりやすい華やかさではないながら、かゆいところに手が届く。こうした使い手の立場に立った課題解決のデザイン、言うなればユーザビリティーの追求こそが彼らの強みだ。

そう書くと、「なんだ、そんなことか」と思う人も多いかもしれない。確かに、ウェブサービスやプロダクトデザインの世界において、ユーザビリティー重視は当たり前のこと。しかし、ファッション業界ではそうではないと木村は言う。

「アップルの製品って、かっこよくは作られているけれど、最優先はユーザビリティーです。使いやすさ優先でデザインから無駄を省いていった結果、ミニマムなかっこよさが出てくる。一方で、アパレルの世界では装飾を付け足していかに価値を高めるかという考え方が主流で、ユーザビリティーが考えられていない。世の中全体の流れから、アパレルだけが取り残されてしまっています。それが、今アパレルが売れなくなっている理由の一つ」と分析する。

ユーザビリティー重視の流れからファッション産業が脱落している理由を、木村は主に以下の2点に集約して話す。

まず1点目。これはファッションに限った話ではないが、モノの作り手は、こだわればこだわるほど良い商品ができると考えがちだ。しかし、そこまで手の込んだスペックを消費者は求めていないというケースはよくある。スマートフォンに取って代わられたガラパゴス携帯はその代表例だ。作り手と消費者の意識には、こうしたギャップがあると木村は考えた。

2点目は、ファッション産業特有の話になる。ファッションの世界は、年に2回パリやミラノで行われるコレクションショーをファッションヒエラルキーの頂点にして、トレンド(流行)がマスという裾野に向かって伝播する仕組みでこの半世紀の間動いてきた。トップダウン構造ゆえに、ユーザーの声を反映するというボトムアップの発想になじんでこなかったのだ。

しかし、状況は変わりつつある。「昔は一部の特権層しかファッションショーを見られなかったので、トレンド情報は高額で売買がされました。でも、今はライブストリーミングで誰でも見ることができる。テクノロジーが全ての利権をぶっ壊していく時代です。だから僕は、ヒエラルキーの上から落としていくのではなく、ユーザーがいいという商品を作っていく方がインターネット的だと思った」

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カリスマ性よりも共感性

見た目ですぐに他との違いが分かるデザインではない以上、オールユア―ズの服は消費者への伝え方、コミュニケーション手法が非常に重要になる。ホームページでは、ブログ形式で商品を紹介。木村やスタッフが何を考え、どう行動しているのかも詳しく載せており、それが共感や信頼に繋がっている。「僕らはメディアではない」と話すが、見え方は非常にメディア的だ。

こうしたコミュニケーション手法は、糸井重里氏が主宰するメディア型ECサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」(ほぼ日)からインスパイアされたものだと言う。

「オールユアーズ立ち上げ前に、ほぼ日で服を買いました。服屋以外で服を買ったのはあれが初めて。ほぼ日は販売前から商品にまつわるストーリーをアップしているから、発売日には自然とポチってしまう。この体験で、(ファッション業界が重視しがちな)クリエーションやデザイナーのスター性でなく、みんながこういう風に考えて作りました、というストーリーの方が今は強いんだなと実感しました。求められているのは、カリスマ性よりも共感性だと思ったんです」

自社ECサイトでは、その商品を思いついた経緯や開発秘話を、時系列を追って紹介。販売開始からの経過日数と累計販売枚数、購入人数なども全て開示する。

「透明性の時代なので、全てオープンにする。納期が遅れるといったことも公表して、それをもコンテンツにする」という考え方だ。

他のアパレル企業では、競合に真似されるのを嫌がって取り組み先の工場の情報などは伏せがち。しかし、それも写真付きで掲載し、「この通りに作れば誰でも同じものが作れますよ」と笑う。

その分、オールユアーズは特許や商標などの知財管理に力を入れている。通常、他社のアパレル製品は半年という短期スパンで消費されるため、知財申請があまりされない。「情報を全て開示したいから、真似されたとしてもオリジナルはうち、ということを知財管理によって示したかった」と言う。

こうしたコミュニケーションが対象客に深く濃く刺さり、自社ECのコンバージョン率は5%前後と非常に高い水準になっている。「ビュー数は少ないですが、買い上げ率は異様に高い。発売後1~2時間が最も売れます。我々はファッションビジネスではなくファンビジネスなんだと思う」

17年5月からは、クラウドファンディングサービス「キャンプファイヤー」で“24ヶ月連続クラウドファンディング”を行っている。2ヶ月に1回新商品を企画しており、17年12月までに4商品を発表。累計の受注額は12月下旬時点で3000万円を超えた。予算の約4倍の達成率だという。キャッシュフローの改善、PR効果を狙ってクラウドファンディングを行うファッションブランドは少なくないが、“24ヶ月連続”とすることで話題性を高める発想も実にメディア的だ。

ALL YOURS × CAMPFIRE(金額は2018年1月9日時点)

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毎日同じ服を着ることがかっこいい、という層に

オールユア―ズ立ち上げからの約2年間での購入客数(ユニークユーザ―)は2500人。男性が80%で、30~40代のIT産業従事者が多いという。

「東京を中心に、高所得層がエンジニアやマーケッターなどの私服で仕事をする人に移っている」

オールユアーズの顧客はまさにそういう人たちだ。「アパレル大手企業はそれに気付かず、いまだに週2用(土日)の服を作っているから、モテるかどうかなどを大事にする。週7で着るとなると、ものの選び方が変わってくる。仕事中楽な方がいいけど、でもちゃんと見えた方がいい。そういう時にうちの服はジャストなんです。僕はファッション業界が言うトレンドセッターに服を売っていく気は全くない。でも、今の世の中全体のトレンドを作っているのは、そういうIT系の人たちです」

展開している商品数があまり多くないということも、このターゲットを狙う上では全く問題にならないのだという。「マーク・ザッカーバーグやスティーブ・ジョブズなど、うちの顧客層が尊敬するアイコンは毎日同じ服装をしています。毎日同じものを着るという合理性こそがかっこいいというマーケットであり、ターゲットにとってはこれこそがファッション」

多様なデザインを揃えることよりも、同じものが何度でも買えることの方が重要だと言い切る。

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工場併設ショップで客とコミュニケーション

現在の年間売上高は1億2000万~3000万円。3年後に国内で5億円の売り上げをめざす。今興味があるのは、生産現場を近隣に持つこと。東京・池尻大橋にある実店舗の移転に合わせて、工場併設型のショップにしたいという。

「『今店の奥で縫っているから、要望があれば言ってください』、といったライブ動画を流すなど、お客さん参加型のコンテンツに生かしていきたい」という。

同時に、そこには現状の日本のもの作り現場に対する歯がゆい思いもある。「日本の工場は、30年前の何でも縫っておけば売れた時代で進化が止まっている。工場から店頭までを通したサプライチェーン全体での仕組みの最適化が必要なのに、工場で最適化しているから、店頭で売れ残りが過剰に出たり、反対に機会損失があったりと効率が悪い」。工場併設ショップを持つことで、生産・販売の最適な仕組みを探り、全体に反映していきたいという。

共感、クラウドファンディング、ユーザビリティー等きわめてインターネット的なアパレルだ。“モード”が最先端という意味を表すのであれば、オールユアーズこそモードであろう。いや、インターネット的にヴィジョナリーか。

こちらの記事は2018年01月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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写真

池田 有輝

編集

海老原 光宏

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