連載0→1創世記

目指す世界はデベロッパーの理想郷。
クラッシュ解析でエンジニアを沸かすソニー出身起業家

インタビュイー
中尾 憲一
  • FROSK株式会社 代表取締役社長 

筑波大学卒業。米国カーネギーメロン大学(CMU)ソフトウェア工学修士(MSE)。ソニー株式会社、ソニーエリクソンにて、フィーチャーフォンおよびスマートフォン携帯電話のソフトウェア開発に従事。3G端末の立ち上げ、中国オフショア開発、Symbian/Androidをベースとした海外向け携帯端末の開発などを行う。米国留学を経て、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。中国でのスマートフォン事業の立ち上げに参画。2012年8月、FROSK株式会社を創業。

吉井 文学
  • FROSK株式会社 代表取締役社長 

株式会社サイバーエージェントに入社し、子会社にてスマートフォンマーケティングの営業に従事した後、スマートフォンメディアのプロデューサーとしてアプリや広告商品の新規開発に携わる。その後、株式会社リヴァンプにて、主にマーケティング支援や営業改善のプロジェクトに関わる。 2015年4月よりFROSK株式会社に入社し、マーケティングおよび人事の責任者を務める。

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国内の大手アプリデベロッパーがこぞって使う「SmartBeat」は、導入アプリ数1,700以上、導入アプリMAUは1.6億人以上、1日あたり2,000万件以上のエラー検出数を誇るクラッシュ解析ツールだ。

開発したのはFROSK(フロスク)株式会社。

多くのデベロッパーに支持される存在となった今、彼らが次に向かう先はどこなのか。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
  • EDIT BY GEN HAYASHI
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若き日の思いが結実。デベロッパーを沸かせる起業家の誕生。

2012年8月——。5月の東京スカイツリーの開業に日本が沸く裏で、後に多くのデベロッパーを沸かせるスタートアップが静かに産声をあげていた。

名前はFROSK。代表取締役は中尾憲一だ。ソニーでの10年間のソフトウェア開発、カーネギーメロン大学への留学、DeNAでの事業立ち上げ経験を経た末の起業だった。華々しい経験とは反対に、中尾は淡々とした口調でこれまでの経験について語り始めた。

 

中尾のキャリアは、筑波大学で得た情報科学の知識を活かすために新卒で入社したソニーから始まる。

いわゆる組込みエンジニアからのスタートだった。現代では見ることのなくなった白黒のガラケー、”クルクルピッピ“で親しまれたジョグダイヤル、スマートフォンが登場する前のSymbian、そしてスマートフォン。中尾のソニーでのキャリアは携帯電話の黎明期からスマートフォンの登場まで、携帯電話の革新とともにあった。

 

その後、社内制度で米国カーネギーメロン大学に留学。大規模ソフトウェア開発のマネジメントについて学ぶ。携帯電話におけるソフトウェアの割合が大きくなるに従い、開発に関わる人数が増え、今後より効率的なソフトウェア開発手法の導入が必要なのではないかという問題意識がもたらした留学だった。

「入社したころは黙々と開発をしていたけど、徐々にマネジメント業務の占める割合が大きくなり、そこから課題意識が変わっていった」

 

アメリカから帰国後、中尾はDeNAに転職。任されたのは中国事業立上げの技術トップだ。

事業立上げにあたってすぐに上海赴任となり、2年間現地に駐在。駐在期間中はプロダクト開発から現地での採用活動、チームマネジメントまですべてを担い、サービスインまでコミットした。

上海での2年間は、それまで技術に目がいきがちだった生粋のエンジニアである中尾に、サービスやビジネス開発の視点をもたらした時期でもあった。

 

上海から帰国するやすぐ、中尾はFROSK立ち上げに向けて動き始めたが、その背景には面白い出会いもあった。

力を貸してくれたのは、ソニー時代からずっと付き合いのあったエンジェル投資家。当時から、「将来一緒になにかやろう」と約束していたが、中国事業の立上げが一区切りついたタイミングで若き日の約束は一気に実現に向けてスピードを増した。

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初期プロダクトの誤算がSmartBeatにサービス哲学を吹き込む

意外にも現在のメイン事業である「SmartBeat」は創業2年目から手がけられたサービスだ。創業当初に中尾が目をつけたのはスマートフォンアプリへの「プッシュ通知機能」。今でこそ当たり前になっている機能だが、当時は目新しい技術だった。

スマートフォンアプリならではの特徴である「プッシュ通知機能」の活用にチャンスを見出した。そうして生まれたFROSK最初のプロダクトは、ユーザーの現在位置に連動してクーポンがプッシュ配信されるASPサービスだった。

 

着眼点は良かったが、プロダクト普及に向けて問題点もあった。導入までのリードタイムの長さだ。アプリ責任者、開発者、運営者、マーケター、コンサルタントなど、関係者が多すぎて導入までに時間がかかる。

中尾サービスとしては悪くなかった。ビジネスとしても成り立っていた。でも、サービスの性質が僕達の考えるスタートアップの成長スピードに合っていませんでした。

 

問題を認識するやいなや、中尾は次の事業を考える。サービスの提供開始から1年超が経っていた。ある程度軌道に乗ってきた事業に固執しそうなものだが、その潔さと切り替えの速さには目を見張る。

その裏で焦燥感もあった。

中尾このまま進めば単なる受託開発企業になってしまう。新規事業をやるにはこのタイミングだと思った」

 

そこで取り組んだのが、現在の主力事業の「SmartBeat」の開発だ。

クラッシュ解析ツール。一見関連がなさそうだが、経験の長いモバイルでの技術力が活かせる分野、かつDeNA時代に培われたサービスの品質に対するこだわりを活かせる領域という視点で目を付けた領域だ。画面デザインに依存しないASPサービスとして提供できる点も意思決定を後押しした。

開発者が「使いたい!」と決めた瞬間に導入できるサービスを。クーポンサービスの経験を経て生まれた「SmartBeat」の開発に当たっては、“導入のしやすさ”にとことんこだわった。

中尾自分のアプリの中にSDKというブラックボックスを入れることになるので、アプリ開発者は、ソフトの仕組み、サイズ、メモリをどのくらい使うかなどすごく気にされます。なのでとにかくシンプルさを追求しました。サイズもメモリも小さいし導入は簡単。SDKを対象のアプリに追加して、コードを一行追加するだけで導入できるんです。機能拡張や新機能の追加を続けている現在でも、この導入のし易さにはこだわりを持っていますよ。

そう説明する声のトーンが一つ上がるところから察するに、やはり中尾は生粋のエンジニアである。

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探し求めていた男の登場。そしてグロース

「SmartBeat」の開発と時を同じくして、これまでの仕事に疑問を感じていた男がいた。後にFROSKのCMO兼事業推進部部長となる吉井文学だ。

吉井のキャリアは新卒で入社したサイバーエージェントから始まる。当時は、同社の抜擢人事制度が注目を集めた時期。吉井も「若くして大きなチャンスが転がっている環境」に惹かれて入社を決めた。

入社後、子会社の立上げに関わり、スマホ事業のディレクターからプロデューサーまでをこなしていく。就活生向けニュースアプリやゲームユーザー向けSNS、ゲームアプリ向けの広告事業など関わったプロダクトは多岐にわたった。

しかし、異なるプロダクトを複数生み出すも、ふとしたタイミングで業務にマンネリを感じるようになり、ほどなくして事業再生のコンサルタントに転職した。

「もっと人の役に立ちたい」と思っての転職だったが、待っていたのは「クライアントにとっては役立っているけど、その先にいるエンドユーザーにとっては本当に役に立っているのか?」という疑問だった。自分の経験を活かせ、納得感を持って価値提供できる仕事を探していた。

 

そんなとき出会ったのがFROSKだった。アプリ開発者向けツールのマーケティングという仕事は自分の経験とかなりマッチしていると感じた。エンジニアにとって手間となる部分をツールやASPの提供を通じて解消するという思想も気に入った。

吉井アプリのプロデューサー時代にSmartBeatがあったらすげーよかっただろうな、って率直に思ったんですよね」

SmartBeatの有用性に心が踊り、「自分が活躍することでさらに会社が大きくなると思うとワクワクした」との事。

中尾も「経歴を見たら、アプリのこともマーケティングのことも理解している人なんだ、ということがひと目でわかった」と続ける。吉井のFROSKジョインに時間はそうかからなかった。

 

目論見通り、吉井のジョインは事業規模をさらに拡大させた。また当時、クラッシュ解析ツールというニッチ領域に特化してサービスを扱っていた企業は国内でFROSKだけだったことも、事業が大きく伸びた要因だ。

吉井当時はBtoDの領域ではさまざまな機能を統合したツールが増えていましたが、FROSKはあくまでアプリの品質改善に貢献するサービスとしてSmartBeatの強みを伸ばすことで国内で大きなシェアを持つ地位を確立するまでに至りました。

中尾包括的なアプリ解析ツールを扱う他社がクラッシュ解析の分野に参入してきたこともありましたが、結局は撤退したようで、現在は再びFROSKのみが国内でクラッシュ解析分野に特化したサービスを扱う企業になっています。

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目指すはデベロッパーの理想郷

SmartBeatリリースから早3年。更なる企業拡大を見据える、次なるサービスの模索も必要だ。

そこで現在では、中尾自身が担っていたSmartBeatに関する業務をすべて他のメンバーに任せ、新たなサービス立ち上げに向けて準備を進めている。いわば原点回帰の時期にある状態だ。

中尾新しいサービスを作るときは机上で考えても出てこないということは経験上わかっているので、自分で手を動かしながら開発を進めています。

また声のトーンが上がる。やはり中尾はエンジニアだ。サービス開発がとにかく好きなのだ。「大好きな仲間たちといいものを作れる環境を作ること」にも関心が高い。

中尾いいサービスが生まれる場所にいたいし、そのサービスをいかにして多くの人に使ってもらえるかも追求したい。技術的なハードルもクリアしないといけないし、世の中に受け入れられることも大切。足りない部分はみんなに補ってもらいながら、手も動かすし企画も出すし、全部できる状態にしておきたいんです。

「メンバーがプロフェッショナルとして質の高いアウトプットを出せる環境」を追求した結果、現在ではリモートワークするメンバーも増えた。

中尾最近では週1とかでリモートワークを許可している会社も多いけど、うちは具体的な制限は設けてない。週4でリモートワークする人もいるくらい。あくまでも手段でしかないですけど。

個々人がベストパフォーマンスを出せる環境であるなら、それが会社ではなく、家でもカフェでもいい、という考えなのだ。

 

全員が働きやすい環境が整えば、おのずとアイデアも生まれやすくなる。例えば、SmartBeatは現状クラッシュ解析ツールとして認知されているが、クラッシュ解析を起点に展開できる領域は幅広い。

中尾SmartBeatは毎月使ってもらっているので、デベロッパーの声が膨大なログとなってどんどん入ってきます。不具合を検知するパターンのデータが溜まっていけば、エラーが発生しやすいケースも導き出せるので、自動でデベロッパーにエラー予測のアラートを出すことができるかもしれません。更にいうと、そこまでデータが蓄積されれば、エラーになり得る可能性のあるコードを特定して自動的に修正してしまうことも究極的には可能ですよね。そんな世の中が実現されたらと思うとワクワクしませんか?

FROSKが目指すところは、アプリ開発者やサービス提供者が本当に良いものを作ることだけにとことん集中できる世界の実現だ。これを中尾は、「BtoD=Business to Developers」と表現する。

サービス開発者を支え続ける意思の現れである。FROSKの躍進によって、デベロッパーの理想郷ができあがる未来はもうそこまで来ているかもしれない。

こちらの記事は2017年12月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

写真

池田 有輝

編集

早矢仕 玄

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