連載GLOBAL INSIGHT

「男性」か「女性」の二択は時代遅れ、性別の流動化
「ジェンダー・フルイディティー」の台頭

細谷 元
  • Livit ライター 

シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。

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「ジェンダー・フルイディティー」「ジェンダー・レス」「ノンバイナリー」といった言葉を聞いたことがあるだろうか。

性別に関して「男性」か「女性」という選択をしない、つまりどちらにも属さない、または意識しないことを指す言葉だ。

今、欧米を中心にミレニアル・Z世代の間で増えており、メディアや大企業が注目する層となっている。

ソーシャルメディア大手フェイスブックでは、この性別への価値観変化に対応して、性別に関する選択肢で男性と女性の他に「カスタム」項目を加え、この項目でユーザーは自由に性別を記入できるようになった。

フェイスブック側でもカスタム内の選択肢に「71」の性別を用意している。

今回は、欧米を中心に拡大するジェンダー・フルイッド層とはどのような人々なのか、そして先進的企業はどのような取り組みを実施しているのかを紹介したい。

  • TEXT BY GEN HOSOYA

フェイスブックのカスタム性別

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「ジェンダー・フルイディティー」が注目される背景

なぜジェンダー・フルイディティーが注目されるようになったのか。理由の1つとして、いくつかの調査レポートがミレニアル・Z世代の性別に対する価値観変化が起こっていることを明らかにし、そのデータを基に広告やアパレルなどのグローバル企業が施策を実施していることが挙げられる。

米国の調査会社Intelligence Groupは2013年に14〜34歳を対象に実施した調査で、これらの世代では「性別」がアイデンティティを決定づける要因として弱くなっていることを突き止めた。

また、2015年に調査会社Canadeanが実施した調査でも、ミレニアル世代では、性別に関する固定観念が薄れていることが明らかになっている。この調査レポートは、世界的な広告企業オグルヴィー・アンド・メイザーが同社ウェブサイトで引用し、広告の未来は「ジェンダー・フルイッド」になるであろうと予想している。

ジェンダー・フルイディティーにフォーカスしたメディアも登場し、この層の認知を広げる役割を果たしている。

出版大手コンデナストが運営する『THEM

『VOGUE』『GQ』『GLAMOUR』などの有名ファッション雑誌を発行する出版大手コンデナストがこのほどローンチした『THEM』はジェンダー・フルイディティーを意識したメディアだ。自らをHe(男性)やShe(女性)とカテゴライズしない層を総称する表現として使われる「Them」という言葉がメディア名であることからも、その意図が読み取れるだろう。

WPP傘下の広告代理店ジェイ・ウォルター・トンプソンが13〜20歳(Z世代)を対象に実施した調査では、56%が知り合いの中に「He」や「She」ではなく「They」や「Them」を使っている人物がいると回答している。ミレニアル世代では43%だった。

ジェンダー・フルイッドな人物としてメディアがよく取り上げるのが、有名映画俳優ウィル・スミスさんの息子ジェイデン・スミスさんだ。

ジェイデン・スミスさん(インスタグラムより)

ジェイデンさんは自ら女性用ドレスやスカートを着た写真をソーシャルメディアで公開しており、同世代からはジェンダー・フルイディティーの象徴的な存在として認知されている。

ジェイデンさんが女性用ドレスやスカートを着るのは、ジェンダー・ステレオタイプ(ジェンダーに関した固定観念・偏見)を払拭するためでもある。

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グローバル企業の「ジェンダー・フルイッド」層へのアプローチ

オグルヴィー・アンド・メイザーが広告の未来は「ジェンダー・フルイッド」になるであろうと予想しているように、企業は「ジェンダー・フルイッド」を意識した取り組みを加速させている。特に、2020年までに消費者全体の40%を占めると見込まれているZ世代へのアプローチは重要視されているようだ。

ルイヴィトンは2016年の春夏レディース・コレクションのキャンペーンでジェイデン・スミスさんを起用し、ジェンダー・フルイッド層へのアプローチを実施している。また、米化粧ブランドのメイベリンとカバーガールがそれぞれ初となる男性アンバサダーを起用し話題となった。

コカ・コーラが実施した「Dude or Diva」キャンペーンもジェンダー・フルイディティーを意識したものだ。同キャンペーンを担当したのは、WPP傘下の広告代理店Wunderman。既存のマーケティングでは分析を簡単にするために性別を「男性」と「女性」に分けているが、ジェンダー・フルイディティーが進む現在では、その枠組が機能しなくなっているとし、新たな試みとして実施された。

バービー人形で有名な玩具大手マテルも新たなマーケティングの試みを実施している。バービー人形シリーズ「Moschino Barbie」のキャンペーンで動画で、同社キャンペーン初となる男の子を出演させたのだ。動画では女の子と男の子が一緒にバービー人形で遊んでいる姿が映し出されており、ジェンダー・フルイッドなイメージを演出している。

こうしたジェンダー・フルイディティーを意識した企業の取り組みは枚挙にいとまがない。

前出のCanadeanは、ジェンダーに対する既存の考えに異を唱え、新しい価値観を基にした取り組みは今後も増えていくだろうと予想している。2025年頃には、メインストリームになっている可能性もあるという。

今回紹介してきた企業の取り組みを見ていると、子どもの頃に性別に対する幅広い考えに触れる機会が増えていくと、それが「普通」になっていくのも想像に難くないだろう。

こちらの記事は2018年01月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

細谷 元

シンガポール在住ライター。主にアジア、中東地域のテック動向をウォッチ。仮想通貨、ドローン、金融工学、機械学習など実践を通じて知識・スキルを吸収中。

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