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事業撤退、ピボットを経験した20代役員が描く
社外エンジニアを巻き込んだEdtech革命への道

インタビュイー
山根 淳平

1989年生まれ。2012年中央大学商学部卒。株式会社ギブリーに新卒として入社し、HRTech事業の立ち上げに参画。ハッカソンやアイデアソン、プログラミングコンテストなど、エンジニアが集まる場づくりを、年間100社以上のIT・通信・メーカー企業等に提供し、採用や育成を支援する。2017年執行役員就任。現在は、エンジニア評価を支援するためのプログラミングスキルチェックツール「track」のプロダクトオーナーを務める。登壇歴としてSF JAPAN Night2013、Infinity Ventures Summit 2016 Kyoto(LaunchPad)など。

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米リサーチ会社のガートナーの調査によると、日本のIT人材は2020年までに30万人以上、その10年後の2030年までに80万人が不足すると予測されている。

特に、AIやIoT、ビッグデータなど高度先端技術を活用するエンジニアにおいては2018年の現代においても各社で獲得競争が起こっている。

その中で、エンジニア不足によって起こる様々な機会損失をユニークなアプローチで解決していることで注目を集めているのが、プログラミングスキルチェックツールの「track(トラック)」を提供する株式会社ギブリーである。

そして、学生時代から立ち上げに参画し、現在、同社執行役員を務めるのが山根淳平氏だ。

  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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転機となった南米留学、教育系スタートアップのインターン

学生時代から、今のご自身のキャリア形成に影響を与える経験があったのですか?

山根高校生の時に、1年ほどブラジルに留学をしました。どうしてブラジルだったかというと、当時、日本からもっとも遠い場所に行きたいと思っていたので、地球の反対側を選んだんです。そこで、貧富の格差みたいなものを目の当たりにしました。

ブラジルでは、ファベーラという隔離された貧困エリアがあって、そこでは生い立ちに紐づいてキャリアが決まってしまう。貧しかったら教育も受けられないし、仕事の機会も制限されてしまう。それって、おかしな話だなと。多感な高校生時代をブラジルで過ごした僕は、日本の生活ではあまり考えてこなかった、社会課題というものを自分の身を持って認識するようになりました。これは貧困という課題で捉えると大きすぎて何から着手すればいいかわかりづらいかもしれませんが、もし解決しようとするならば、その原因となっていること、例えば教育だったり、雇用だったりに目を向ける必要があります。この頃から、なんとなく、社会に対してのマイナスを変えたい、と思うようになったのかもしれません。

大学に入学してからも、NPOの立ち上げに関わり、インドやアフリカのボランティア運営に従事しました。しかし、僕らが現地に行って、物理的にサポートしたところで、なんら根底にある社会課題は解決できていないなと、やってみて気づいたこともあります。

結局、貧困やマイノリティを支援するには、単なるボランティアではなく、ビジネスを創出しなくてはいけない。そう考えるようになったのは、親しい経営者が展開している、障害者の雇用支援ビジネスの話を元に事業アドバイスをもらったのがきっかけでした。

その事業家が事業をつくった当時は、障害をお持ちの方はもちろん、その親御さんも外出はせずに、“周囲の人に知られたくない”と感じているような時代でした。そういった状況下で、その経営者の方は障害をお持ちの方やその親が集まる定期イベントを開催していました。

山根そこをきっかけにして、参加者向けのビジネスアイデアを持っている方や、広告を出稿したい方などが集まります。さらにそこに競合が出てきて、サービスの質の向上や価格競争で各社が差別化をはかるようになっていく。

それが市場になって、本来やりたかったことである、障害者が社会に出てこれる社会づくりをしていくことができたそうで。それを聞いたときに、本気で向き合おうと思ったら、ビジネスで市場を創造すべきだと直感的に思いましたね。

大学3年になってNPOを辞めて、自分のビジネス観の原点にもなった、“どこで生まれたとしても這い上がれるような教育”ってなんだろうか、それをどうやってビジネス化しようと考えたときに、僕の中ではIT教育、プログラミング教育が1つの入り口になるのではないかと思い至りました。

ちょうど学生時代のインターンで関わっていた中高生向けのプログラミング教育事業の立ち上げ時に関わらせていただくことがありました。その中で、インターネット上で独学で勉強した中学生がアプリを作って見せてきたり、ワークショプでプログラミングを学んだ高校生がその後独学してアプリをリリースして、それによってお金を稼いだり、というように、社会で必要とされる人材に短期間で育つ、そんな現実を目の当たりにしました。そして、プログラミングは、これから必要となる教育だと直感的に思いました。

結果的に、点で色々と活動をしていた自分でしたが、教育・雇用のインフラを作りたいという想いを抱いた留学経験とプログラミングという社会的にニーズの高い教育に出会ったインターン時代の2つの経験が契機となり、この領域で事業・サービスを作りたいと思うようになっていたんです。

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エンジニア市場における人口不足の機会損失をHRから解決する

その後、学生時代から、現在在籍されているギブリーのエンジニアHR事業に関わってきたんですよね。

山根そうですね。大学3年生のインターン時代からこの会社に参加して、現在、僕が関わっている事業の根幹となるプロトタイプを作りました。

その時にはじめたのが、オンラインで誰もが学べるプログラミングの学習サービスで、現在も約50,000人以上のユーザーを保有しています。

リリースした当初は、アメリカで最大のプログラミング学習サービスであるcodecademyが数百万人のユーザーを集めた記事が話題になっていましたが、日本ではまだ競合もほとんど出てきていないという時期で注目を集めました。

アメリカ・サンフランシスコの投資家向けのピッチイベントに入賞したり、自然に学校からお問い合わせをいただき、授業での利用が進むなど、話題になることが多くありました。投資家と話す機会などもあり、出資したいという話もあったことから、個人的に、「これは行けるぞ」と自信だけはありましたね。

しかし、反面、マネタイズという観点では苦戦をしていました。このとき、海外でもマネタイズをしているわけではなく、投資を受けながらユーザーを伸ばしているというサービスが多かった時期だったので、日本のマーケットだけでオンラインプログラミング学習という市場が立ち上がるか、正直チームでも不安がありました。

施策ごとにターゲット層を変えてコンテンツを作ったり、コンテンツ課金からサブスクリプション、広告まであらゆるマネタイズ方法の中から検討して実行してみたり、とトライアンドエラーを繰り返しながらも、ToC向けのブレイクスルーが見えない期間が長くありました。

そんな中で市場をつくる兆しとなったのは、プログラミング学習サービスのために、自社で開発していたオンラインエディターと実行環境の仕組みを活用してリリースしていた、ToB向けのプログラミングスキルチェックツールでした。

別でエンジニアの人材マッチングビジネスでもマネタイズの軸をつくっていた弊社にとって、企業が入社選考時に人事や現場エンジニアが、求職者のエンジニアのスキルを正しく理解して選考の合否を決めるのはビジネス職以上に難しい、入社後のミスマッチは教育コストも想定外にかかり、相当な機会損失になることを理解していました。また、個々のエンジニアのスキルを正しく評価できていないために、入社時の一律の評価・一律の研修、一律の報酬体系しか提供できておらず、大変大きな課題が実は潜んでおり、入ってからのエンジニアの評価に悩む顧客も大変多くあり、相談を受けることも多かったのです。

そこで、開発したのがオンラインで展開されているプログラミング問題(アルゴリズム、Webアプリケーション実装、インフラ、セキュリティ、ネットワーク、プロジェクトマネジメントなど)を企業が自社の選考や社内の評価時に、自由に組み合わせて試験として配信、受験、自動採点をして企業の評価の支援をするSaasプロダクトです。

2016年に開催された、Infinity Venture SummitのLaunchPadの登壇が皮切りとなり、多くの企業からお問い合わせをいただき、セールスを本格的に開始してから現在までで国内で70社以上の企業に導入いただいており、明確な数字はここでは伏せますが、累計で数万人の受験データを保有するまでになりました。

もともと、「Edtech」、プログラミング学習という観点から、エンジニアの数を増やすことで、日本のエンジニア不足、及びそれによって起こる機会損失を解決することを目指していた弊社でしたが、顧客の声を元に、「HRtech」、プログラミングスキル評価という観点で、若手のエンジニアのスキルを正しく理解でき、組織内で活躍するまでのオンボーディングを支援する、という市場に対するプロダクトに方向転換したことで、初年度だけでも億単位の取引をあげるまで成長させることができたんです。

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業界全体でエンジニアを支援し合える環境づくり

山根現在、選考時に単発で受験して終わりというだけでなく、社内のエンジニアに定期的に受験する環境をつくり、個々人のスキルの定点観測をすることで、人材育成・適切配置に活用するユースケースも増えてきています。ビジネスの世界において技術は日進月歩であり、市場やデバイスの変化で、社内で活用される技術(言語やフレームワークなど)も事業やプロダクトによって大きく変化します。

つまり、企業に勤めているエンジニアも仕事で活用する技術だけでなく、常に自立自走で学び続けることが求められてきています。

弊社のサービスで、その環境づくりを支援していきたいんですよね。

また、そういった環境づくりのために力を入れていることとして、基礎から鮮度の高い先端技術までコンテンツが選べる環境を提供することを意識しています。

提供される問題は、東京大学の教授の方に監修いただいており、また問題作成には業界でも著名なエンジニアの方や世界的に有名なプログラミングコンテストのトップランカーの方に協力いただいて、オリジナリティが高く、常に新しい問題がある、という状態を作っています。現在では、基本情報処理やアルゴリズムから、AIプログラミング、画像処理、API実装など、幅広く問題が備わっており、企業がほしいと思ったときに、その領域の問題がある、という状態を作っています。

また、領域が足りていない問題は、企業とタイアップしてオリジナルで作成するなども現在力を入れています。最近だと、ある会社から、データサイエンティスト向けの問題を使いたいというお問い合わせがあったのですが、弊社のサービスになかったので「じゃあ一緒に作りますか」となり、現在リリースに向けて動いていたりします。企業が自社オリジナルで作ってインポートすることも可能です。

そして、最近弊社のプラットフォームで、自社で開発した問題を他の企業でも使えるように、弊社のサービスで公開してくれるという流れも一部起こっています。

これは、オープンソース的な思想からかもしれませんが、弊社としてはこのサービスを通じて、HRから業界全体、特に若手エンジニアのオンボーディングをしていきたいと考えており、その思想に賛同してくれる企業が、例えばそれが競合だったとしても他の会社にもコンテンツを公開してくれているのです。ある会社は、前年に活用した自社の選考課題となる問題を公開してくださり、他の企業も自社の評価や社内教育の際に活用するなどの事例も生まれています。

それはすごいお話ですね。従来の企業論理でいくと、自社の選考課題を他社と共有するなんてありえなかったと思うのですが。

山根公開を決めてくださったのも、社内のエンジニアの方だったりします。

ある意味、自分の会社のためとか、自分たちのスキルアップや利益のためというよりは、業界のため、エンジニア全体のためという思考が強いのかもしれません。だからこそ、社内のエンジニアの方々も僕たちが提供するツールを歓迎し、支援してくれるのだと思っています。

導入を決めてくれる企業は、社内のエンジニアが「こういうサービスがあるからうちも使ってみたら」という声を人事部にあげてくださる、というケースも多くあるんです。

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エンジニアの市場だからこそ、世界で通用するプロダクトを作れる可能性がある

現時点で、山根さんが見ている事業の将来像はどのようなものなのでしょうか。

山根僕たちがやっているのは、若手のエンジニアが正しく自分の実力をアピールできる、評価される環境づくりの支援だと思っています。

例えば、採用・就転職というマーケットにおいては、エンジニアが職歴や学歴、勤続した年数での評価だけでなく、実務スキルで評価をされることで就職・転職での最適なマッチングになると考えていますし、社内評価においても、研修や若手人材育成を一律で設計するのではなく、個々の実務力を正しく理解することで、最適な育成・配置に近づいていくと思います。

弊社のサービスが実務力のすべてを可視化できるというわけではありませんが、少しでもエンジニアが自分のスキルをこれまで以上に表現できるようになり、それが非エンジニアの経営者や人事でも理解できるようになっていけば、エンジニアの組織をより強くすることができます。

また、ここから、大学や専門学校などへの展開も視野に入れています。

これから日本においても2020年以降プログラミングが義務教育化されると政府が発表しており、小学校からプログラミング的思考を学び、高校や大学時点でこれまで以上にプログラミングを書ける人材は増えていくと予測できます。

ただし、現在未だカリキュラムは整備されておらず、教える側の教育者も多くいるわけではありません。結果的に、これまでのような授業形式になってしまい、一人一人がどのくらいのスキルを持っているかを理解せずに授業が進んでしまうということもあるかもしれません。

弊社のサービスであれば、プログラミング問題を演習として展開でき、個々人の現段階のスキルを把握し、そのスキルや学習度合いに合わせて指導することができると考えています。

山根さらに、この市場は世界にも通じます。すでに、日本人向けの採用だけでなく、海外人材向けにも活用してくれている企業が増えてきています。

現代では日本だけでなく、海外から直接採用をするという企業も増えていますが、国によっては履歴書や職歴書の信頼性が担保されておらず、入社後に予想していた以上にスキルがなかったという事例や優秀なエンジニアにも関わらず、会話の言語で意思疎通が難しく、落としてしまったという事例を聞くことも少なくありません。

お問い合わせも多かったことから、英語対応も進め、現在ではどこの国からのエントリーも同じ評価軸で平等に選考ができるようになっています。ベトナムや韓国などでのスキル評価に使うという事例も増えてきているんです。

エンジニアの採用やスキルチェック、教育市場は国内においてはその他の人材市場と比べてもまだまだ小さいと言われていますので、自分たちの視座を常にグローバルにおいておく必要があるんです。

技術やプログラミング言語は世界で共通して使われるので、エンジニアの市場だからこそ、世界で通用するプロダクトを作れる可能性がある市場だとも思っています。

そして、エンジニアの入り口となる、学校法人での導入と、選考や社内評価のシーンで企業での導入が進むことで、エンジニアの教育と雇用の領域を支援していくことを目指しています。

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ユーザーと向き合い続けたからこそ生まれた新マーケット

20代を振り返って、失敗経験はありましたか?またそこからどのようなことを学びましたか?

山根失敗経験でいうと、20代の中でも、相当多く経験していると思いますね(笑)

これまでも今もそうですが、一緒にプロダクトを作っているメンバーは、一緒にアメリカのサンフランシスコに行った者や、海外から直接採用しているエンジニアも多くいて、「プロダクトで勝つためには」というのは常にみんなで考えてやってきました。アメリカかぶれだった20代の前半は「いいプロダクトを作れば、結果(売上やユーザー)は後からついてくる」と勝手に思い込んでいました。

しかし、マネタイズが思うようにできずに一緒に開発していたエンジニアがごっそり辞めてしまった、という経験や、プロダクトのユーザーが伸びず、何度も先の見えないピボットを繰り返したことありました。今現在のSaasモデルにおいても、初期のフリーライドユーザーが満足しいてはいたものの、プライシングを何度も変えて、顧客が離れて行った時期も経験しています。

ある意味、理由のない自信だけでここまでやってきたというのはありますが、数年前からチームに、シニアのエンジニアや技術顧問がジョインしてくださりました。彼らと一緒にプロダクトを作るようになって、違う年代の成功者のアドバイスも取り入れることで、プロダクトフィットとマーケットフィットのバランスを考えて事業を作っていく必要があることを強く認識して、チームで取り組むようになりました。

弊社の組織の中で特徴的なのは、20代の若手メンバーの市場の本質的な課題と向き合う姿勢やそこに対する熱意を、その上の世代がうまく咀嚼しながら市場にフィットさせていく、というような組織になってきています。また、その上の世代の方の層が厚く、30~40代の、自ら起業した会社をExitさせて成功させた経験を持っている方であったり、70代の大学教授であったりと、そういった方々がベンチャーに飛び込んできてくれて、一緒にスタートアップを楽しんでくれています。

私自身、2012年からジョインしてから、挑戦させてもらった事業は数知れず、何度も事業をたたむ経験や仲間が抜けていく経験を繰り返したこともありました。何度も事業をピボットしました。しかし、自分たちが挑む事業領域やつくりたい未来だけは変えることをせず、「エンジニア」という市場に向かい続けてきました。この領域でやり続けた結果、現在展開をしている日本ではブルーオーシャンの事業領域にぶち当たり、周りの仲間も増えています。何よりも、続けることが重要だったと思っています。

こちらの記事は2018年07月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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池田 有輝

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