19時退社でも新規事業が生まれ続ける企業イタンジはいかにして誕生したか?

角 高広

1989年生まれ。株式会社Speeeにて法人営業で会社のギネス記録を塗り替え、2年目で不動産流通サービス「イエウール」を立ち上げる。事業責任者として、1年で黒字化、2年で上場企業相当の売上利益創出、3年で業界NO.1まで成長させる。MVP等受賞多数。前職に在籍中、イタンジと半年間のコンサルティング契約を締結。その期間を経て2017年4月、イタンジにジョイン。イタンジでは経営管理を中心に、nomad事業責任者、人事、広報、総務、経理業務を兼務。(2017年8月22日時点)

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先日、大きな反響をいただいた働き方革命に挑むベンチャー企業12社。

その12社の中でFastGrowが独自取材を行った企業にフォーカスを当てていく。

2社目となる今回は、ITで不動産領域の変革を狙う株式会社イタンジの角氏に取材を行った。

  • TEXT BY FastGrow Editorial
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ルールではなく行動指針を社内に徹底

「テクノロジーで不動産の在り方を変える」

イタンジは、無店舗型のインターネット不動産仲介サービス『nomad』をはじめとし、AIシステムを提供し、不動産×ITのReTech(リアルエステートテック)分野で躍進するベンチャー企業だ。

賃貸物件がすべて仲介手数料格安。お部屋探しなら『nomad』。

「Be the First PENGUIN」「CRAZY Enough?」

オフィスの壁紙には、社名の通り“異端児”としての価値観を表すフレーズが並ぶ。企業として社員に求める行動指針を明示するためだ。「ただし、行動基準を示し、メンバーが理解するだけでは不十分。その上でメンバーのアクションを喚起する制度も整備することが重要」(イタンジ事業開発部 角氏。以下同じ)

そのためイタンジでは、『七つの働き方改革』(記事末尾に掲載)なる制度を取り入れている。

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19時退社でも新規事業はすべて採用

その中でもとりわけ目を惹くのは、新規事業の起案は、社長・役員含め誰も反対できないという点だ。希望者が手を挙げて事業を作る環境を全社的に推進している。

ニーズがあるかどうかのリサーチや議論を重ねたり、稟議を通すための事業計画を作成したりすることよりも、最小単位でサービス開発し、マーケットやユーザーから答えをもらう方が早く正確にニーズの有無を判断できる。

というのが基本的な考え方だ。

ただし、立ち上げる障壁を低めに設定している分、撤退判断も迅速に行われる。

開始後3ヶ月の累計売上が100万円に達した場合のみ事業化が決定。

その判断の次の3〜6ヶ月目でも、売上の月次成長率10%以上を継続できなければ撤退といった厳格な基準が設けられている。

イタンジはまだ社員30名前後のスタートアップだ。既存事業にも人的リソースを割き、成長させなければならない中、なぜ新規事業をここまで推進するのか。カルチャーの発端は、2014年に遡る。

当時イタンジは、不動産業者間で物件情報を交換できるサービスをトップダウンで作ったものの大失敗。このままでは1年で倒産するという危機に直面した。

その状況が全社に共有された結果、起死回生の策として新規事業を立ち上げるチームが発足。仲介会社からの物件確認の電話に自動で応答するシステム、『ぶっかくん』を立ち上げる。

「ニッチな領域にリソースを使うべきではない」、「もっと大きなマーケットで勝負しよう」なとといった否定的な意見が社内でも多く寄せられた中、蓋を開けてみると『ぶっかくん』は大成功。会社の危機を救うと共に、今や売上の4割を生み出す中核事業となっている。

その出来事を契機として「イノベーションを起こす事業は形にしてユーザーに提供してみるまで説明できない」という考え方が浸透し、現場からのボトムアップ型で事業を生み出すカルチャーが根付いた。

社員30名の急成長スタートアップながら、だれでも新規事業にチャレンジできる。さぞかしハードワークなのではないか──。

そんな予想に反し、イタンジのほとんどの社員が19時退社を実現している。「投入する労働量を増やすのではなく仕組みそのものを見直し、改善ではなくイノベーションを起こすことに集中すべき」

エンジニアを始めとしたメンバーが学習したり、メンバー全員が社外の人と交流し新しいインサイトを獲得する時間を作ったりすることで、効率的かつイノベーティブな方法を常に模索するのがイタンジらしさだ。

Speee、イタンジと全く違う企業文化で新規事業の立ち上がりを目にしてきましたが、どのような働き方がフィットするかは事業モデルにある程度依存します。

営業すればするほど事業が伸びるモデルであれば、多くの時間働いた方がやはり業績もあがる。

一方で、イタンジのように、サービスやプロダクト自体に事業をグロースさせる仕掛けを組み込んでいる企業であれば、長時間労働するよりも、のびのびと自由に働き、インプットの時間を多めに取りひらめきが起こりやすい環境を作り出すほうが生産性は高まります。

もちろん、業務面でも工夫を重ねている。社内での不必要な報告メール、会議資料の作成などの“内向きの仕事”は極力排除。ほとんどすべてのやり取りは、メールと比べ情報の管理が容易かつ短文でコミュニケーションが完了するクラウド型ビジネス向けチャットツールで行われる。

あらゆる情報をクラウド上で管理することで、社員が業務に必要な情報を時間や場所、権限にとらわれずに入手でき、会議や相談をせずとも意思決定が出来るという。

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起業経験・事業責任者経験をもつ優秀な人材も参画

AI×不動産という、市場規模も大きく、かつイノベーションの余地も十分にある事業領域に加え、働き方の柔軟さ、新規事業にチャレンジするカルチャーが魅力的なイタンジには、電通やリクルートなどの有名企業で実績をあげた優秀なメンバーも数多く参画中だ。

『Nomad』の事業責任者のほか、新卒や中途採用を含む人事もこなす角氏もその1人である。

入社してすぐ、前職のSpeee同様、新卒採用に注力することで社内により活気がでるのではと考え、勝手に採用活動を開始しました。社長に確認した覚えはないですね(笑)。

そんな角氏は2012年、未上場企業ながら急成長を続けるITベンチャーSpeeeに新卒入社。2年目も終わりに近づいた2014年1月、マンション・家・土地といった不動産の一括査定サイト『イエウール』を立ち上げた。

同事業の立ち上げメンバー3人は全員、新規事業未経験。初年度には、事業計画で1年目に想定していた売上の10倍もの赤字を出したが、ローンチから18ヶ月目で黒字化。現在では1,500社の提携企業、年間20万件超の売却成立をサポートするサイトに成長した。

わずか数年で売上数十億円の主軸事業に成長した同事業の事業責任者を担当していたのが角氏だった。

20代で数十億円規模の事業の責任者を担い、順風満帆なキャリアを歩んでいた角氏はなぜイタンジにジョインしたのか──。

元々知り合いの紹介で、前職のころから平日夜や土日で手伝っていました。当時は転職することになるとは考えてもいなかったですね。

『イエウール』の立ち上げや事業責任者を担い、不動産一括査定の分野でトップシェアまで事業をグロースさせたが、同事業が狙う市場規模は100億円程度。そこから更に事業を成長させることを考えていたとき、「もっと大きな負が残る市場ドメインがあるのではないか」と自問自答した。

Speeeへの残留や起業することも含め、選択肢を並べた結果、イタンジが将来的に時価総額1,000億円を狙える会社になると確信し、「より大きな負を解決することができる」と思い、入社を決意したという。

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2020年に上場も目指し、不動産市場を変革し続ける

18年3月まで内に『ノマドクラウド』の導入を500店舗以上、『ぶっかくん』の導入を300店舗以上に拡大させていき、2020年までに株式上場を目指す。

”新規事業創出”、”不動産×ITの巨大市場”、”誰でも働きやすい環境”と、優秀な人材が集う条件は整った。

イタンジ、経産省IT導入支援に認定--3つのサービスに補助金 - CNET Japan

不動産市場の変革はもちろんこと、自らも既存の事業に固執せず、新規事業創造によって変革し続けるイタンジ。彼らの挑戦はまだ、始まったばかりだ。

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イタンジ 7つの働き方改革

その1.新規事業はすべて採用!

新規事業の起案は、社長・役員含め誰も反対できません。やりたい人が手を挙げて事業を作る環境を作っています。3ヶ月で累計売上100万円を達成すれば、正式に事業化。やるべきかどうかの議論を重ねたり、稟議を通すための資料を作成することで、スピード感を失うよりも、実行してみて市場から答えをもらう、という考えに基づいています。失敗許容の文化により、現在の基幹事業も誕生しました。

その2.全社員が経営陣に匿名で質問可能

社員全員が疑問や不満をそのままにすることなく、積極的に貢献し、アイデアや意見を自由に交換できる雰囲気を失わないように、全員が匿名で経営陣に対して、何でも気軽に質問できる会を行っています。

その3.社外発信のポイント制度化

社外に向けて価値ある行動を起こした社員を評価するシステムです。社内勉強会や、イベント登壇、ハッカソン、アイデアソン、会社ブログなどで、積極的に社外発信をしたことを評価し、特定の計算に基づきポイントを付与。社員は、たまったポイントをアマゾンギフト券に交換できます。

その4.リモートワーク可能な環境整備

全ての情報やデータをクラウド上で共有し、リモートワークが可能なインフラを整えています。ライフスタイルを大切にしながらも効率的に働くことが可能です。

その5.社内連絡はビジネスチャット

口頭コミュニケーションも必要ですが、記録に残らないと困る事もあるため、基本的な会話は、ビジネス向けチャットで行います。メールと比べ情報の管理が容易で、「お疲れ様です。」などが不要で短文で済み、ログも残るため大幅な時短が可能です。

その6.情報のバリアフリー化

各自の自律的行動の手助けを行うため、まとまった情報やコミュニケーション履歴は、暗黙知をつくらず、全てオープンに 情報共有サービスで共有されます。そのため、社内資料が不要になり、業務に必要な情報を、それぞれ担当者に確認せずに知ることができるので、時短に有効で、組織が自立化します。また、財務諸表も全社員がいつでも見られるように共有することで、信頼関係を築き、自発性を促します。

その7.マンパワーで解決せず、メソッドを変える

結果が改善されない場合に、長時間働いたり人員を増やすことで解決しません。方法そのものを見直し、より効率的なシステムを構築することにリソースを割きます。

こちらの記事は2017年06月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

FastGrow編集部

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