連載米航空会社「JetBlue」の投資ファンドが描くデジタル航空戦略

飛行機を降りても終わらない──顧客体験の延長を大切にする「JetBlue」

「JetBlue」の顧客体験は、機内サービスでは終わらない。空港を出た後の体験も充実させ、顧客満足度の向上を図ろうとしている。目的地到着後の体験も最大限サポートする仕組み作りに躍起になっている。

なかでも陸上輸送手段との連携や、適切な滞在場所を探すネットワーク事業への投資を強めている。空港へ降り立ったあと、真っ先に顧客が抱える課題が交通手段である。この点をシームレスに連携させようと努めているわけだ。また、ビジネスマンに特化した形で、スポットで滞在できる場所を確保させるサービスとの連携も強める。

前編と中編では、従来の航空会社が扱ってきたサービスや製品をアップデートするための投資案件を説明してきた。後編では、「顧客体験の延長」という点がテーマとなる。航空市場のみならず、サービス業に携わる人にとっては非常に重要な要素となるだろう。

本記事では3社の投資先を簡単に紹介した上で、「JetBlue」の全12の投資からみえてくる長期戦略を語って締めたいと思う。

  • TEXT BY TAKASHI FUKE
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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到着地体験

忙しいビジネスマンに30分だけホテルの部屋を貸す ── 「Recharge」

Recharge(リチャージ)

Recharge(リチャージ)」は30分-1時間単位でホテルの部屋をスポットで借りることができるサービスを展開。2015年に創業され、累計230万ドルの資金調達を行った。

たとえば「JetBlue」を利用した日帰り出張のビジネスマンがいるとしよう。急なスカイプ会議や、一日中歩き回って汗だくのなか、帰る前に少しだけシャワーを浴びたいとき時、近くに適切な場所がない。こうした課題を解決するのが「Recharge」だ。

アプリを開いて最寄りのホテルを選択。滞在時間を入力してそのままチェックインすれば静かな環境で時間を過ごすことができる。Wifi設備の整った環境もあり、もちろん入浴設備も完備されている。

「Recharge」は四つ星以上の高評価ホテルとしてか提携していない。『TechCrunch』の記事によると、2017年4月時点で15のホテル事業者と提携し、2.5万人の利用客を獲得したという。1分当たり66セントの価格で、つかの間のリラックスなホテル体験ができるサービスは、ビジネスマンには人気のようだ。

陸上輸送へのシームレスな連携を行う ──「Betterez」、「Mozio」

Betterez(ベテレズ)

目的地の空港へ降り立った後、シャトルバスや電車のチケットを別々に購入するのはわずらわしい。なかでも海外からやってきて大荷物を抱えた顧客にとっては大きな課題である。

Betterez(ベテレズ)」や「Mozio(モジオ)」はともに2011年に創業された。両社とも世界中の空港と各種交通機関と連携させ、一貫したチケット販売プラットフォームを開発。

しばしば旅行代理店では、航空券と一緒にタクシーやバスチケットを合わせ売りしているのを見かけるが、こうした飛行機と陸上輸送機関のチケット販売・管理を一貫してできる。

この2件の投資案件については、AIのような新たなテクノロジーを開発していないため、ブロックチェーンやエアータクシーのような未来への投資ではない。すでに世界中の空港と提携してサービス展開を行っていることから、事業連携を通じて陸上交通機関との連携システムのデジタル化を迅速に図る戦略的投資とみて良いだろう。

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「JetBlue」の全12の投資からみえてくる長期戦略

ここまで3つのカテゴリーに沿って、合計12社の投資先をみてきたが、いかがであっただろうか?

従来の航空会社は、顧客体験について、航空券を購入した段階と、機内サービスの2点に絞って考えてきた。一方、「JetBlue」は、顧客が航空券を選ぶ段階から、空港を降り立った後までの長いスパンで顧客体験を捉えている。

顧客体験の考えをこれまでより延長させ、全ての顧客とのタッチポイントにAIやソフトウェア管理ツール、アプリを導入した巧みなデジタル化を図っているのだ。そして、顧客体験の向上と圧倒的なオペレーション効率化の両方を達成しようとしている。

輸送インフラ面では、IoTやエアータクシーのような中小距離移動時代を見据えた、次世代テクノロジーへの投資を惜しげも無く行い、10年ほどの戦略スパンで動く航空市場で主導権を握ることを目指す。

スタートアップへの積極投資を通じて、JetBlue」は冒頭で説明した3つのポイント - 長期戦略、顧客満足度、飛行機の運用方法 - の全てにおいて強力な市場優位性と旧来の航空会社のモデルを脱しようとしている。

ミレニアルズの趣向に沿ったデジタルコミュニケーション戦略から、機体の運用手法まで、あらゆる面で時代を先取りしているのが「JetBlue」であり、こうした早い意思決定を持って投資を大規模に行う姿勢は、価格競争に飲み込まれたLCC企業や、旧来型の経営戦略から抜け出せない航空会社にとって、お手本となる優良企業になるのは必至だ。

今回は航空会社という少し特異な事例ではあるが、業種を問わず、次世代の動向を知るヒントが、必ずや12社の中にあるはずなので、ぜひ参考にしていただきたい。

写真:Flickr ©Tomás Del Coro

こちらの記事は2018年07月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

福家 隆

1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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