連載スタートアップ的メディア論考

もっと真剣にウェブメディアの広告ビジネス戦略を考えようよ
メディアミートアップVol.3レポート

先の記事で、高広伯彦氏が考えるウェブメディア成功の秘訣を紹介したが、同テーマによるミートアップが10月5日、渋谷のスマートニュース社で行われた。

イベントタイトルは、「メディアを維持するためには広告収入を増やしていくしかないんだから、もっと真剣に広告ビジネス戦略を考えようよ」。

高広氏の他に登壇したのはアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦氏、スマートニュースの菅原健一氏。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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まずは極端な値付け

前半はインタビュー記事に則り、デジタル広告を解説。後半は具体的にどう売るかディスカッションが行われた。

徳力 高広さんのインタビューは今日の参加者の課題として提示させていただいたんで、僕を含めみんなが目を通してここに集まっています。

記事の中で、「足を使って売りに行け」と仰っていましたが、ウェブメディアの人って売り込みが不得手な人が多いと思うんです。というよりそもそも、自分たちのメディアがどういう価値を持っていて、その価値をどうマネタイズすればいいかわからない人が多い気がします。お2人は、足を使って売りに行くときの最初の一歩はどうやって踏み出せばいいと思いますか?

菅原 僕は極端なほうがいいと思っています。たとえばPV単価が1円だとして、それを2円にする方法ってわかんないじゃないですか。だったらはじめから2円で売りに行って、売れなかったらその理由を考えるほうがいい。なんでダメなのかを訊いて、そこを埋めたらいいんですよ。

僕は以前、トレーディングデスクというのをしていて100万円のDSPを売りに行ったことがあるんですけど、全然売れなくて1000万円にしてもだめでした。でも1億円にしたら売れたことがあります。それで次は10億にしたらそれでも売れたということがあります。

つまり、会いに行く先を価格で変えたことで、提案が合理的に通った。その経験を元に、足りないものを埋めたほうがいいと思ってるんです。

徳力 確かに、日本人って「このままがんばっていたらいつか報われる」っていう“おしん”的なサイクルにはまりがちなところがありますよね。でもそうじゃなくて、最初から足りないものを埋めに行くほうが賢い、と。

菅原 そうですそうです。それからたとえば、うちの母は数年前料亭から独立して小料理屋を始めたんですけど、カウンターしかない小さな店でエプロン姿じゃなくて着物で接客しているんです。それを見て僕は「エプロンのほうが親しみがあっていいじゃないか」って言ったんですけど、そしたら「あんたバカね。これが3000円と5000円の差でしょ」と返されました。

確かにそうで、エプロンのおばちゃんに5000円の料理出してほしくないし、そういうことが値段につながるんだなって諭されました。

高広 お母さんの話聴いていたらテーマがなんだったか忘れかけちゃったけど(笑)、僕は、自分たちのメディアがどういう価値があって、客がどういうものを求めているか想定できないっていうのがまず理解できない。

広告枠っていうのは基本的にまずは「OTS(=opportunity to see)」っていう考え方をすべきであって、広告主に対して(メディアにとっての)読者に対して広告を見せる権利を売っているんですね。つまり、メディアを運営する側が、自分たちが誰と誰をつないでいるのかを想定できないなんてまずあり得ない。自分たちがコンテンツを読者に送り届けているのと、同じ読者に広告を送り届けるのは本来同じことなんですよ。

徳力 ある意味、アドネットワークに飼いなされてしまっている面があるのかもしれませんね。

高広 そうかも。自動的に広告があちらからやってくる仕組みであるアドネットワークを広告枠にいれたらメディア側の人たちは広告主と直接やりとりしないから、広告主が何考えているかわかんない。そうすると自分たちが広告主に買ってもらえるような媒体になる方法がわからないままなんですよ。

徳力 ネットメディアの広告って営業活動せずにテクノロジーが全部解決してくれるから、メディアはコンテンツ作ることに集中していればいいと思いがちなんでしょうね。

高広 最近興味深いのは、日本国内でも、媒体社側のコンサルみたいのが増えているわけですよ。でも残念ながら、提供されているサービスはアドネットワークの収益をあげるためのチューニングと、せいぜいプログラマティック広告のチューニング。

その方々に話を聞いても、媒体としての全体的な広告営業戦略とか、例えば純広どう取るとかをも含めてアドバイスすることはすることはないそうです。

菅原 ハックの仕方は伝授するけど価値づくりには関与しないってことですね。

徳力 ではここで参加者からの質問を受け付けたいと思います。

「足を使って売りに行く」のは営業を雇うべきですか?それとも媒体を運営している編集者やライター自ら行くのがいいですか?

高広 どっちでもいいと思いますよ。どっちもメリットがあるから。

セールス経験者は経験に基づいた売り方から考えてやればいいし、編集者やライターにとっては、自分たちの媒体の外から見たときの価値を知る機会になる。あとは何を売るかにもよりますね。編集者が売るなら記事広告もありだろうし、でも広告枠売るなら実際誰が売ってもいい。

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ブランドはカルチャーだ

メディアを運営する上ではコミュニティのことも考えたほうがいいと思いますが、広告を意識してコミュニティを作ったほうがいいですか?

高広 それはそうですよ。基本的にビジネスのスキームのないメディア運営はただの趣味じゃないですか。「パブリッシング」つまりコンテンツを出し続けるためには、収益も必要なんだから。

徳力 メディアを絶滅危惧種にしないためにも、マネタイズについてきちんと考えることは大切ですよね。

高広 そうそう。だから自分たちがやりたいことをやるためにはどんなビジネスのスキームがあり、それからどのくらいの収入があるか考えなくちゃいけない。そういう意味では、編集とかライターも、一回くらい広告を売る経験持っといたほうがいいんですよ。

菅原 記事書いている人は広告の人嫌いで、広告の人は記事書いている人嫌いっていうパターンありがちだと思うんですけど、僕はその2つはタイヤだと思っていて、バラバラに走ったらまっすぐ進まないから、ユーザーっていう軸を作ってあげないといけないと思うんです。そこに両輪のタイヤをはめて押すから両方がちゃんと前に進む状態になると思っていて。

意外とユーザーのことを気にしてないですよね。ただ単に広告をいっぱい入れたらいいと思っている。その広告がユーザーにとって魅力的かどうかは一切考えなくて。

批判者と推奨者が分かれる広告は載せるべきですか?

高広 そもそも100%支持される広告なんてないし、広告の場合は批判者、推奨者に加えて「無関心」がいるから、そこを加味して考えないといけないと思う。

さらに、批判的な人って広告に対して批判的なのかブランドに対して批判的なのかによっても分かれますよね? 単純に広告が推奨者・批判者を作るのではなく、ブランドもひとつのコミュニティを形成しているってこと。

今、経営科学における最先端の研究ってブランドでもマーケティングでもなくて「カルチャーストラテジー」。要は“文化をどういう風に作っていくか”というものがあって面白いんですよ。

例えばブランドとして長く続いているものって、「ブランド」として「はい、これがブランドです」って企業が一方通行で生み出して終わりなんじゃなくて、それを享受する構成員がいる。

“文化”であるということはそこに参加している人たちが、構成員として維持する行為が含まれている。いわば「文化化」しているという考え方なんです。つまり、さっきの質問に関していうと、カルチャーストラテジーを意識することでも答えが出る気がするんです。

弊社のメディアは昨年まで売り上げが厳しかったんですが、ある動画広告を載せたことで経済的に助かりました。しかし、その広告は私から見てもすごく邪魔。動画があることで直帰率があがるほど。だけどこの広告を外すとまた運営が厳しくなる。どうすればいいですか?

菅原 そのメディアでその場所に動画があることが広告だってユーザーは強烈に覚えるから、今後の損失になると思う。でも掲載を辞めたらやっていけないのだったら、邪魔じゃない場所やコンテンツと同じように置くとかなにかしら対策を取った方がいい。

固定電話しかなかった時代からスマホができたことで待ち合わせのルールが変わって、「先に店に入っとくね」なんて直前にだけ連絡するようになったでしょ。そのくらい“待てない人”にとっては、画面をスキップできないってストレスなんです。だから、スキップできる自由を与えるのもひとつの手かもしれない。

高広 動画広告の収益はメディアにとってめちゃくちゃおいしいから、収益をなくすのではなく、入れる広告を変えるという選択肢を考えたほうがいいと思う。

例えば、動画広告にもウザいと思われてしまう動画広告フォ―マットと、読者・ユーザーに受け入れられやすい動画広告フォーマットがあるし。もちろん載せ方についても配慮すべき。スキップできるかできないか、上から降りてきて画面を占領してしまわないか。

徳力 閉じようと思ったら違うサイトに飛ばされる広告なんかほんとイラッとしますよね。

高広 実際に広告効果があるのかということに関しては最近広告主も疑問を持ち始めている。現状の広告状態はあと半年から一年の命じゃないかと僕は思いますね。

じゃあユーザーが喜ぶような仕様にするにはどうしたらいいかというと、一つはアドブロックのことを真摯に考えることだと思うんですけど、今のところ一番革新的にアドブロックをやろうとしているのはアップル。ユーザーの世界をきれいにしましょうっていう考え方ですね。

アドブロックっていうのは、特定のJS(=Java Script)とかが発生したら読み込まない仕組みで、実際にアドブロックを稼働させると、表示したくないもの以外のJSも削られる可能性がある。そこで、「なぜアドブロックが稼働するのか」に立ち帰ると、自分にフィットしない広告が出るから。

これに対して広告を作る側は「ユーザーにフィットするものをつくらないといけない」っていうアドテクの課題を抱えているし、ブランド側は、ユーザーフレンドリーな広告に対してのみお金を出すという考えにならないといけない。人々にとってウザがれるような広告フォーマットにお金出さないようになるって話ね。

その考え方のもと、広告がユーザーにフィットするようになるのが先か、アドブロックでろくでもない広告がすべてはじかれるのが先か。今から2、3年はそのせめぎ合いでしょうね。

ネットメディアの変遷とともに広告も様々に形を変え続けている。ユーザーフレンドリーでマネタイズも上出来、そして自分たちが発信したいことをきちんと形にできている媒体であるためには、最先端かつ最善の知識を有しておくことは必須のようだ。

こちらの記事は2017年11月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

編集

海老原 光宏

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