連載0→1創世記

大手企業も注目するママ目線のクリエイティブ
「ママである前に、一流のクリエイターチームでありたい」

インタビュイー
佐藤 にの
  • マムズラボ株式会社 代表取締役社長 

2003年よりフリーランスとして音楽イベント・音楽専門情報誌の発行・企画運営チームの立ち上げの他、フリーの編集ライターとして女性誌やママ向けWebサイトなどで執筆活動・キャスティング業などを手がける。

2014年、全国フリーランスママの制作コミュニティを立ち上げ、2016年よりSBヒューマンキャピタルと共同で「マムズラボ」として事業化。2017年7月より法人化し代表取締役に就任。

一般社団法人JAPAN FAMILY PROJECT代表理事/一般社団法人Stand for mothers理事

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在宅型のマーケティング・クリエイティブチームであるマムズラボには、デザインやライティング、PRを中心に約170名のフリーランスの子持ちの女性が所属している。

クリエイティブ業界で“フリー”、そして“母親”となると、どうしても「安く使える人材」と見なされることが多い中、大手企業から多くのプロジェクト依頼が集まるマムズラボの強みとは?

  • TEXT BY MISA HARADA
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
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子どもがいると人材価値が上がらない?

佐藤子どもを授かり、喜びを感じる反面『私は仕事して生きていきたいのに、働けなくなってしまった』と一瞬でも考えてしまった。働けなくなってしまってごめんなさいって感じてしまう自分が嫌でした。妊娠したことで働き続けられなくなる環境があるなら、少しでも変えたいと思ったんです。

音楽、とくにブラックミュージックを愛する佐藤は、アパレル会社勤務から海外留学を経て、音楽専門会社に入社。イベンターやプロモーターとして業界にどっぷり浸かっている中、妊娠が判明した。

制作業界の裏方というのは時期により稼働量に大きな差があり、深夜帯業務が特に多い風土だったこともあり、育児との両立が難しい。子どもを抱えていると、会社に迷惑をかけるかもしれない、迷惑をかける自分でいたくない──。妊娠がわかった佐藤は苦しんだ。

正社員になる以前はフリーランスで活動していたため、2人目妊娠のタイミングで佐藤は再びフリーに戻る。それからはママ雑誌のエディター兼ライターとして稼働するようになったが、今度は新たな壁に突き当たった。

佐藤もう少し仕事に上流から関わりたくても、『フリーランスだから』や『お子さんいらっしゃるんですよね』っていう言葉で意欲を削がれることが多かったんです。音楽業界とファミリー業界、ママ業界とジャンルは違えども、フリーランス1人では、できることに限界がありました。

そこで佐藤は、フリーランスの仲間で集まり、任意団体を立ち上げる。その結果、“仕事の上流”に多少近づくことはできたが、それでも任意団体は任意団体なりの仕事しかできない。

また、育児のバックアップ体制は用意していたものの、やはり法人でないと受けられる仕事、頼まれる案件にも限界があった。

そんなとき、当時ソフトバンクグループの子会社で人材ビジネスを手がけるSBヒューマンキャピタルに所属していた現・マムズラボ代表取締役副社長の武田に「ママの働き方を変えていく新規事業を起こしたい」と声をかけられた。

その縁がきっかけとなり昨年16年4月、「経営目線があって、人間関係に対して誠実な人」と評する武田と共に、佐藤はSBヒューマンキャピタルの1事業としてマムズラボを正式に立ち上げた。

今年17年7月にはSBヒューマンキャピタルの子会社として法人化。法人格を持ったこととソフトバンクグループのバックアップ体制のおかげで、案件やクライアントの幅も一気に広がった。

武田いわく、佐藤と新規事業をすることに決めたのは、「世界を広げていこうとしていたから」。多くのママコミュニティのリーダーと会う中で、佐藤の、積極的に新しい何かを仕掛けようとする姿勢は魅力的に映った。

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ママである前に、一流のクリエイターチームであれ

佐藤は、「『ママを活用するための仕事』ではなく、プロとして質の高いアウトプットを実現して、『これ、実はママが作ってるんです』という世界を実現したい」と語る。

まずクオリティの高い成果があった上で、その次にママという属性が来るというのだ。だからこそ創業時は、社名に“ママ”を冠するべきか否かで議論が持ち上がった。

議論を経てマムズラボという社名に決定したのは、“ママが組織の脇役ではなく主役としていられる”という点を明確にしたかったからだ。

クリエイティブ業界において“子持ちのフリーランス女性”というのは、「時間に融通を利かせる代わりに、安く仕事を請け負ってくれる人材」とみなされてしまうことが多い。

しかし、“ママである前にまず、一流のクリエイターチームである”というマムズラボの姿勢が評価され、これまでJR東日本の子育て支援施設100か所達成記念イベントのクリエイティブ制作や企画運営などの大きな仕事も担当することができた。

他にも自治体からの地方創生プロジェクトや、ママ向けの商品を展開する「Hello Angel」での新商品開発プロジェクト、ミズノやLIXIL住宅研究所(アイフルホーム)など大手企業のプロモーションなども手掛けている。

子持ち女性のネットワークを持っていることを強みにしている会社は多いが、その中でもマムズラボが武器にしているのが、子持ち女性たちが“チーム”として仕事の上流工程からコミットメントしていける点である。

クライアントからよく聞くのが、「ママの意見の取り上げ方がわからない」という声だ。メイン消費者は30、40代の女性なのに、彼女たちがどんなものを求めるのかわからない。

そんなふうに悩む企業にとって、優秀なクリエイターであり、当事者として30、40代の女性目線も持ち合わせるマムズラボのクリエイターたちのアイデアやクリエイティブは、大きな助けになっている。

「これをやってほしい」ではなく「こういうことをしたいのだけど、どうしたらいいだろう?」という上流の構想段階からクライアントに関わっていけること、そして、そのような上流からクライアントの課題を解決できる経験者のみが集まっているという2点は、類似のクラウドソーシング・サービスとの違いでもある。

クライアントのモヤモヤを言語化して、解決までの筋道を示した上で、実行に移していく。マムズラボの仕事は、例えるならば「ママ向けに商品・サービスを展開したい企業のハッカソンをずっとやっている感じ」だという。

佐藤ママは安価で便利な人材と見なされがちな風潮は現在でも根強くありますが、マムズラボが、決してロープライスでないにも関わらず仕事をいただいているのは、制作物や仕事に対するプロとしての姿勢やこだわりを評価してもらっていることに加え、ママにしか持ちえない消費者としての目線を持ち合わせているからだと思います。

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クリエイターたちのスキルアップも支援する社内制度

在宅型フリーランスであってもチーム体制を強固なものとするために、Skypeなどを駆使して情報共有はこまめに行っている。

フリーランスとして仕事をしていると、直接の担当者以外とは人間関係が発生しないため孤独感が募っていく場合もあるとはよく聞く話だが、マムズラボに所属している限りは無用の心配だ。

マムズラボは、メンバー登録の条件を「3年以上の実務経験があること」と定めている。確かなスキルがあるクリエイターにだけジョインしてもらうための条件だが、一方で、“スキルアップの支援”も大きなキーワードにしている。

フリーランスかつ子持ちとなると、勉強する時間はかなり限られてしまう。だからこそマムズラボでは、メンバー同士でこれまでのノウハウを惜しみなく共有する。

「本当はデザイナーになりたかった編集経験者が、マムズラボの仕事を経て、デザイナーとして独り立ちできた」というエピソードもあるという。

佐藤今まで自分の積んできたキャリアが出産によって中断されて消沈するママたちにとっては、評価されることがすごくモチベーションになります。

“家で働く”という環境さえ整えられれば、彼女たちは、愛を持って仕事に臨むことのできる息の長い人材となり得ます。そもそも働き盛りの30、40代の女性を起用していかないのは、社会的損失も人材的損失も大きい話ですよね。

すごく優秀な方でも在宅でできる仕事がないから働けないという現実がある中で、私たちは『どんな雇用形態でも働き方でも、仕事ができますよ』とお伝えする役割を負っているのかもしれません。

マムズラボは今後、企業や一般消費者から「マムズラボの名前がクレジットされているなら安心だ」と思ってもらえる、いわば“目利き”として信頼される存在になることを目指していく。

そのための施策の1つが、同社が一般社団法人JAPAN FAMILY PROJECTとともに開催する首都圏最大級のファミリーイベント「かぞくみらいフェス」だ。

それに加えて、(17年)11月1日、転職エージェント「フレックスワーク」をスタートさせた。こちらはママや在宅フリーランスに加えて、時短や副業、シニアとさらに多様な働き方を支援する。

佐藤は、「ママに限らず、家庭の事情や個人の事情で働きたくても働けない人を0にしたい」と最後に語った。

佐藤自分の子どもたちが大人になったときのためにも、多様な働き方や生き方の中から自分に合ったものを選べる時代を作っていきたいという気持ちがあります。

私含めマムズラボのクリエイターたちは、我が子に、自分の生き方を背中で伝えることが働く喜びのひとつ。『こういう生き方もあるし、どんな就労の形でも未来は拓けるよ』ということを伝えていきたいと思っています。

こちらの記事は2017年12月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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池田 有輝

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