デジタルを魔法に変える
「Single, Powerful Content for Multiple Channel」という考え方

登壇者
ナカヤマン。 
  • [scream louder] Inc. Los Angeles CEO 

京都のマーケティング・スペシャリスト兼アーティスト。1974年生まれ。神戸大学卒。ファッション領域に特化したデジタルエージェンシー『ドレスイング』代表を2007年の設立から十年に渡り務める。SNSを用いたコンテンツ形成を、ルイ・ヴィトン、グッチ、ディオールなど海外メゾンブランドからGUなどマスブランドまで幅広いパートナーと行う。2017年、海外での活動を開始。米国法人『スクリイム・ラウダア』を設立し、そのファーストシーズンで手掛けたホリデーキャンペーンがコーチ本国で採用された。

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「インスタ映え」が流行語大賞になるなど、すでにSNS戦略はあらゆる企業・ブランドにとってさけては通れないものとなった。

しかし、次々と流行が移り変わるSNSの世界で、効果的な戦略を描けているマーケターは少ないのではないだろうか。

そこで今回は、ルイ・ヴィトンやグッチなどのラグジュアリーブランドをはじめとする、ファッション業界のデジタル施策を手がけてきたマーケティング・スペシャリスト兼アーティスト・Naka_yamaN(ナカヤマン。)氏が1月15日に登壇したイベントの内容をもとに、彼が提唱する「Single, Powerful Content for Multiple Channel」の考え方を紐解いていく。

  • TEXT BY ASAMI SAISHO
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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デジタルは魔法ではない。しかし、魔法使いが使えば魔法になる

壇上のナカヤマン。氏は、以下の言葉でトークをはじめた。

ナカヤマン。それは魔法ではなく、ただのデジタルである

テクノロジーや市場の動きに疎い人ほど、デジタルを使えばすべての課題が解決されるのではないかという過度な期待を抱いてしまいがちだ。「AI」「ビッグデータ」「VR」といったバズワードが定期的に話題になるものの、深く理解しないままに取り入れてしまい、有効活用できていない例は枚挙にいとまがない。

しかし、デジタルはその本質を理解して使いこなせば、これまでのマスメディア頼りのアプローチとは比べ物にならないほどのパワーを発揮する。そういう状況をもし魔法と比喩するとしたら、とナカヤマン。氏は続ける。

ナカヤマン。ただのデジタルも、魔法使いが使えば魔法に見える

そうナカヤマン。氏が語るように、デジタルをうまく使いこなすことによって、周りからはあたかも魔法を使ったかのように見えることがあるのだ。魔法に見えることも、その施策を読み解けば考え抜かれた戦略によって成り立っている。

その本質と成り立ちが、現代の「魔法使い」の武器だ。特にSNS戦略を考える際は、目先のトレンドに流されがちで、次にどんなSNSが流行るかを予想する向きもある。

だが、そうした風潮をナカヤマン。氏は「特に戦略立案において、SNSのトレンドを追いかけることは仕事ではない」と一蹴する。戦略とはどの未来がきても対応可能な仕組みを持つことであり、そのためには魔法の成り立ちを理解することが必要不可欠なのだという。

では、彼の言う「魔法の成り立ち」とは、どのようなものなのだろうか。

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多様なチャネルにフィットさせるための「Single, Powerful Content for Multiple Channel」という考え方

ナカヤマン。氏は、今後のSNS戦略の考え方として、何度もこのフレーズを用いて説明していた。

「Single, Powerful Content for Multiple Channel」

これは端的に言えば、渾身のネタをひとつ作り込み、それをチャネルにあわせて少しずつカスタマイズさせるという考え方だ。

例えば、お笑い芸人がテレビ出演以外の方法でネタを視聴者に届けようと思ったら、YoutubeやSHOWROOM、Instagram、Twitterなど様々なチャネルがある。

しかし、それぞれ画面が横長だったり縦長だったり、数十秒が適切なものや5分ほど見てもらえるものなど、チャネルとしての特徴は異なっている。膨大な数のチャネルが存在する時代、それぞれにあわせてネタを作っていたら、すぐにリソースが足りなくなってしまう。

そこで、ベースとなるネタをひとつ作った上で、その一部を切り出して見せたり、画面の余白を活用したりと、細かい部分だけ微調整してフィットさせる。すると、圧倒的なパワーを持つネタづくりに注力しつつ、複数のチャネルを通して異なる層にアプローチすることができるのだ。

今、海外のECブランドが実店舗やリアルイベントに注力しているのは、リアルの場がこの「Single, Powerful Content」になりやすいからなのかもしれない。店舗という強力なコンテンツは、顧客自身がそれぞれのSNSというチャネルにあわせて情報拡散していく。

少し前に流行ったインスタパネルやプロップスのような「インスタ最適化」された取り組みではなく、どのチャネルでもつい投稿したくなる強力なコンテンツを作る必要があるのだ。講演では示されなかったが、例えばナカヤマン。氏も、フランスのラグジュアリーブランド、ルイ・ヴィトンとのバイラル・プロモーションで「場所を作ること」をコンテンツの軸に据えた代表作がある。

ただ写真映えする空間を作るだけではなく、ユーザーがカスマイズできる要素を盛り込むことで、自然にシェアしたくなる仕掛けを作り出した。

Louis Vuittonのイベントへ。 お洒落だよねー。 #louisvuitton

槙野智章 Tomoaki Makinoさん(@makino.5_official)がシェアした投稿 -

このように、「Single, Powerful Content for Multiple Channel」という考え方は、デジタルに限らずリアルの分野でも同じことが言えそうだ。

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どんなに大きな施策も、分解すればコンテンツにチャネルを足し合わせた入れ子構造になっている

さらにこの考え方は、単に複数チャネルを使うだけではなく、コンテンツとチャネルを足し合わせることでより規模の大きなコンテンツを作るという入れ子構造にも応用できる。

プレゼンテーション資料より抜粋

例えば、はじめにSNSに投稿されたコーディネートを集めたWebページという「Single, Powerful Content」を作る。次にそのコンテンツを雑誌というチャネルで流通させ、雑誌やモデルのSNSも活用してさらなる拡散を狙う。

そしてその雑誌のコンテンツをもとに、テレビというチャネルを使い、番組として作り込んだものをさらにInstagramやLINE LIVEでも流通させる。テレビや雑誌といったマスメディアとSNSは別の施策として切り離されたり、あくまでSNSはただのおまけとして捉えられがちだ。

しかし、それぞれの施策をコンテンツとチャネルに分解して俯瞰することで、複雑に見える施策もシンプルに理解することができるのだ。今後どんなSNSが台頭したとしても、人を驚かせたり、感動させるコンテンツこそがすべての戦略の柱となることは変わらないだろう。

ナカヤマン。コンテンツの “中身”は変わっても、 基本となる“建てつけ”は変わりません。

ナカヤマン。氏は、そう力強く語り、イベントを締めくくった。目まぐるしく変化するSNS市場を見ていると、各プラットフォーマーの動向や次に流行するサービスの情報につい振り回されそうになってしまう。

しかし、基本となる構造を学び、普遍的な人の心理を学ぶことで、どんな未来がきても対応できる力強い戦略を構築することができるのではないだろうか。

小手先のテクニックではなく、本質を理解した上で汎用性の高いフレームを提案できること。それこそが、これからのマーケターに求められる資質なのではないかと感じたトークイベントだった。

こちらの記事は2018年02月10日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

最所 あさみ

写真

池田 有輝

編集

海老原 光宏

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