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スタートアップは地方で学べ!
RCF藤沢烈「非市場戦略の重要性」

インタビュイー
藤沢 烈
  • 一般社団法人RCF 代表理事 

1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立し、NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、内閣官房防災ボランティア連携室勤務を経てRCF復興支援チーム(現・一般社団法人RCF)を設立。企業や省庁・地方自治体のディスカッションパートナーとしてひと・まち・産業の復興事業創造や事業推進に伴走してきた知見を活かし、近年は東北以外の地方創生や多様な社会課題にも取り組みを広げている。

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東日本大震災の復興のための調査や支援事業のコーディネートなどを行う団体として、2011年4月に発足した、一般社団法人RCF。

同団体は、震災復興の対象地域の住民や企業、そこへ関わる自治体やNPOと連携、協力しながら様々な社会課題の解決に取り組んでいる。

同団体の代表理事であり、社会事業コーディネーターとして活動する藤沢烈氏に、RCF設立の経緯とこれまでの歩み、そして今求められていること、更にスタートアップ企業が復興事業に携わることの可能性について聞いた。

  • TEXT BY KEI TAKAYANAGI
  • EDIT BY MITSUHIRO EBIHARA
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ローカルキャリアの確立

RCFの取り組みの内容を教えてください。

東日本大震災の直後、企業に対して社会貢献を求める社会の気運が高まり、それを受けて国内の複数の大手企業が、支援に乗り出しました。しかし、実際にどのようなアプローチで社会貢献をすれば良いのかイメージがつきにくいのが課題でした。

また、当初は金銭面での支援がほとんどであり、義援金の形で集約され、各地域や被災した住民に送った場合、その個人にとっては意味があっても、企業の社会貢献としての意義は薄れてしまう部分がありました。

RCFはそういった企業の被災地域に対する取り組みをサポートし、地域と企業をつなぐ「社会事業コーディネーター」としての役割を担ってきました。これまで、30以上の被災市町村に対して、20以上の団体・企業のつながりを支援しています。

震災から数年が経ち、企業側の社会貢献の姿勢は変化しているでしょうか。

震災から1年経った頃から、企業側では金銭などによる間接的な貢献よりも、人材支援やビジネスにおける直接的な貢献が増えてきたと感じます。

実際、都市部から復興に携わった人材によって震災復興は着実に進みました。しかしその反面、そういった人材の「その後」のキャリアは確立しきっていないのが現状です。

震災復興を継続させていくためにも、復興に携わった人々や、企業が貢献する意義をローカルキャリアとして確立、推進していくことを目指したいと考えています。

「社会のために働く」「ソーシャルセクターで働く」というと、一般的には「自己犠牲」「崇高な志が必要」などといった、いわゆる「意識が高い」人が多いイメージがあるようです。しかし「社会的キャリアを高める」という目的を持って、ソーシャルセクターに携わるという選択肢があっても良いのではないでしょうか。

また、「非市場戦略的」な考え方が生きる地方こそ、スタートアップ企業にとってビジネスチャンスがあるとも感じます。

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スタートアップは「非市場戦略」で参入

非市場戦略とはどのような考え方で、またスタートアップ企業が地域に参入していくためのポイントは何でしょうか。

都市部以外の地域におけるビジネスでは特に、非市場戦略の考え方が必要になると思います。都市部では、すでにマーケットができあがっている分野、業界で競争をしながらビジネスを進めることが通常です。一方で非市場戦略は、マーケットの中ではなく、法制度づくりから携わったり、行政や地元企業、業界団体に直接働きかけたりなど大きな視点に立ってビジネスを展開していくやり方です。

この非市場戦略を身につけるのに地方は最適と言えます。地方では行政や地域団体、NPOとの距離が近く、非ビジネスセクターとの仕事の進め方を自然と学ぶことができるためです。これからは企業側も、非市場戦略を理解するために、地方での仕事に関心をもつべきです。

RCFでは東北の被災地域において、行政や地元の団体と企業のコーディネートを担っています。具体的な事例には、株式会社リクルートキャリアの「Starting Over 三陸」や、日本ゼトック株式会社と岩手県岩泉町の岩泉乳業株式会社との連携事業、Airbnb Japan株式会社と岩手県釜石市の連携事業などが挙げられます。

「Starting Over 三陸」は採用から受入側企業の経営者、社員に対して、人材マネジメント研修を実施し、新入社員に育成支援を行うなど、就職した人が企業に定着、活躍するまで一貫してサポートするもの。

岩泉乳業はヨーグルトなどの製品が主軸でしたが、日本ゼトックと連携することで、地元の地底湖から湧き出す名水を使ったスキンケア商品の開発を成功させました。

また、Airbnbは釜石市において、日本国内の自治体と初めて連携を決めました。日本の民泊や観光事業に関わりたいAirbnbと、2019年に開催予定のラグビーワールドカップに向けて旅行者を呼び込みたい行政の目的がマッチしたものです。

これらの事例は、地元企業の協力や行政との調整がなければ難しいもので、そういったルールチェンジこそが、ベンチャー、スタートアップ企業の役割であり、やりがいを感じる点だと思います。

とはいえ、スタートアップ企業が地方に参入するのは簡単ではないのではないでしょうか?

その点が、多くの若い企業が知らない、もしくは勘違いしている点かもしれません。RCFとして行政と企業のコーディネートに携わる中で感じるのは、復興や地方創生のための予算をもつ行政側は、民間からの魅力的な提案を待っているということです。

行政による委託事業や補助制度は年間で数十兆円あり、行政サイト上でも告知されていますが、行政からはそれ以上プッシュしません。そのため公共事業に長けた大手ITベンダー、大手広告代理店、大手シンクタンク、ゼネコンばかりが仕事を受注しています。

公共事業で収益を得ることをゴールとせず、公共事業を通じて新しい市場確立を目指すようなあり方を、スタートアップには追求してほしいと考えています。いくつかのスタートアップ企業で手を組んで、新たな提案を行い、非市場戦略的視点で地方に参入していくのも良いでしょう。

最後に、震災復興を始め、地方でのビジネスを模索するスタートアップ企業に一言お願いします。

これまで震災復興に携わってきて感じることは、復興は地域の外から多くの人や事業が流入してきて促されていくということです。被災された地元の方々が立ち直るだけでは限界があるのです。成長機会として、東北復興や地域活性化に目を向けてみてほしいと思います。

社会事業コーディネーターとは、行政や企業、NPOというセクターを越えた協働を促進し、都市部や地方などの地域の間における社会課題を起点とした価値創造を目指す存在です。スタートアップ企業も同じく今までにない価値や、ルールを生み出すことを目的としていると思います。

ぜひ、独自の提案や試みを示していただき、私達もサポートする形で、一緒に地方での新たな動き、ビジネスを進めていきたいですね。

こちらの記事は2017年12月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

高柳 圭

編集

海老原 光宏

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