INTERVIEW
正田 圭 金 靖征
18-01-12-Fri
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「今の延長線上で上場したら世界一の可能性がむしろ低減する」
Candle金氏が上場よりも企業売却を選んだワケ

TEXT BY REIKO MATSUMOTO
PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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連載 TIGALA正田が迫る “エグジットした起業家の思考法”
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「投資銀行業界のGame Changer になる」ことをミッションに掲げるTIGALA代表の正田氏が、
企業売却を経験した起業家にその選択をした真相に迫る連載企画。

第三弾のお相手は、東京大学在学中の20歳のときに起業し、
22歳という若さで売却を経験した株式会社Candle代表取締役の金靖征氏。

クルーズ社に12.5億円で自社を売却した金氏は、
売却を決めた理由を「上場して中途半端な規模で停滞するのが怖かったから」と話した。

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頭の使い方で会社の規模が決まる時代

金さんは東大在学中に起業されています。もともと起業に興味があったのですか?

親が経営者なので小さいころから興味があったのですが、起業するなら優秀な人と一緒にやったほうがいいと思ったんです。そこで「日本で1番の大学にいけば優秀な仲間が見つかるに違いない」と考え、起業仲間を探すために東大に入学しました。

でも当時は実際、「東大に行ってゴールドマン・サックスで3年間くらい経験積んだ後、米国にMBA取りに行くのが王道」みたいに考えていたんです。

ところが、優秀な仲間を見つけるために入っていた“東大起業サークルTNK”で色んな起業家の話をきいていると、「起業と経営はそもそも違うものだ」ということがわかってきた。

しかも、尊敬していた(ソフトバンクの)孫さんとか(サイバーエージェントの)藤田さんとかもみんな20歳前後で起業していることにも気が付きました。それで、このままだと自分も出遅れちゃうと思って、大学3年生でCandleを起業しました。

株式会社Candle 代表取締役 金 靖征

正田私も実は最近まで、学歴と起業って関係ないと思っていたんです。だけど最近、東大早慶を中心とした学生起業家が活躍する人も増えていたり、大学発テクノロジーベンチャーの躍進もすごいから、やっぱり学歴だったりがんばって勉強したりすることって大事なんだなと思うようになりました。

学歴と起業の成功率には一定の相関があると思います。「既にあるモノを売る」ような起業スタイルが多かった時代には、頭脳の明晰さよりも、営業やそれらを組織化できる能力の重要比率が現在と比べて高かったと思います。

でも最近のスタートアップでは、新たなプロダクトを作ることの重要度が上がっている分、あらゆるデータから新しい洞察を得たり、業界構造の負を見つけて是正したりというように、頭を使ってロジカルに考える仕事の比重が大きくなっています。

もちろん正田さんもそうですが、「そもそも大学に行くことに興味がなかった優秀な起業家や社会人」も少なくないので、学歴だけで全てが決まる、と言いたいわけではありません。

正田ただ私も今になって大学行っておけば良かったな、と思うことも増えています。例えばファイナンスに精通しようと思ったら対数くらいわかっていないといけないし、人工知能や仮想通貨関連の事業をやろうと思ったら微分積分もわかっていないといけない。

TIGALA株式会社 CEO 正田 圭

正田高校や大学の先生たちが「今日の授業は人工知能つくるときに必要です」みたいに、授業内容が社会人になったときのどんな場面で役に立つかを教えてくれれば、学生ももっと授業に熱心になると思うんですけどね(笑)。

インプットした情報をどう精査するかによって、アウトプットの質が大きく数百倍かわって、結果的に会社の規模も大きく変わる時代になってきていますよね。確率論で考えると、スカイランドベンチャーズの木下さんが「東大生が起業するなら全員に投資する」といっているのにもうなずけます。

そのような時代において、金さんが意思決定の際に重視していることはなんでしょうか?

シンプルですがデータを見ながら意思決定することです。自分たちの意思決定に必要なデータを集める努力をすることと、そのデータから仮説構築できる地頭を持つことは前提条件になりますね。

今では数百億円の時価総額になったとある大ヒットアプリを生み出した起業家は、プロダクトローンチ直後の売上がほとんどない状態のとき、Facebook広告に月間4~5千万円くらい出稿しているんです。

傍からみると「そんなにお金使って大丈夫?」と思ってしまうんですが、なぜそんなことを躊躇なくできたかというと、外からは見えない自社で把握しているデータがあったから。

「このCPI*を維持できれば、LTV**から見ると確実に回収できる」ということが自分たちにはわかっていたんです。そういうデータに基づいた意思決定ができないと、起業家も勝てない時代になってきています。

*CPI:Cost Per Install。スマホアプリ1ダウンロードに必要な広告費用
**LTV:Life Time Value。顧客生涯価値

正田東大入試でも頻出ですが、数学の問題で特定要素を固定して場合分けする問題ってありますよね。あれはまさにビジネスの世界でも通用する考え方。

ビジネスには色んな変数が絡んできますが、やっていることをシンプルに表現すると、色んな要素を固定して場合分けして、「自社が持つリソースで売上を最大化させる」方程式を解くということです。

金さんのように、ビジネスの構造をいち早く見抜いて、どこにリソースを割くべきかを決めるような頭の使い方ができるかどうかは、起業家にとってものすごく重要な素質。賛否両論あるでしょうけど、「朝6時に出社してトイレ掃除していたら儲かる」といった根性論が通用する時代はもう終わっていることの証明です。

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Candle売却理由は「上場して中途半端になるのがイヤだから」

順調に売上も拡大していたCandle社ですが、売却を意識したきっかけはなんだったのでしょうか?

上場も少し意識してきたタイミングで、クルーズの役員の方に声をかけられたことがきっかけです。クルーズ社はちょうど、SHOPLISTとシナジーが見込める事業をM&Aしていく方針を決めた時期でした。

それがCandleにとっても事業を大きくしていく上で、創業メンバーである20代の経営陣にはない「大人力」や「信用力」を使って提携したり、他社と連携したりということが必要になるタイミングと重なったんです。

あと数年がんばれば上場できるような売上と利益水準にはあり、かなり優秀だと確信できるメンバーが集まっていましたが、メディア事業だけで上場できたとしても、その延長線上のCandleの成長に限界があるなとなんとなく思っていたタイミングでもありました。

もっと大きな勝負を別の領域でしかけるためにも一度エグジットしておくのもありだな、と思ったことが売却の決め手です。

正田私も15歳で創業した会社を売った理由は同じく「事業をリセットするため」でした。SEO対策事業をメインにしているのに大枠しか把握できていなくて、自分で手を動かして何かを作れるわけでもない。

事業が大きくなるに連れて自分ではわからないことばかり増えていって、別事業を始めたほうが良さそうだなと思ったタイミングで大手企業への売却を決めました。

会社も事業も中途半端な状態で停滞してしまって、起業家にとってやりたいことができなくなるのが1番良くないですよね。

上場しているIT系の会社で時価総額200~300億円で停滞しちゃう会社って多いですけど、この状況は内部の人に問題があるわけじゃなくて、上場という構造自体に問題があるケースが結構多いのではと私は思っているんです。

なぜかというと、時価総額300億円で複数事業を運営している場合、その事業を維持し続けるのにお金も時間も人材も相当なリソースを割かなければならない。新規事業に投資できる金額も数億円はあるでしょうけど、上場しているため確実に利益が見込める新規事業にしか投資しづらい。

だから他事業とのシナジーを生みやすい隣接領域での事業展開しかできなくて、結果的に年率数十%の成長しかできなくなってしまう。

本気でCandleを日本一、世界一の会社にしようと考えたとき、このような上場のジレンマにはまってしまって、これから来るビッグウェーブに乗れなくなるのは怖いな、と思っていたところに、「買収後も自由に経営してほしい」と声をかけてくれたのがクルーズでした。

正田そのような「上場企業のジレンマ」を飛び越えようと思うと、金融の力を使うしかないですよね。ヤフーも楽天も昔のライブドアも、M&Aを駆使することによって時価総額200~300億円の壁を超えています。

基本的に今のIT系の事業って、何が当たるかわからないじゃないですか。新規事業でもM&Aでも、投資したキャッシュの10億円が1年で0円になるかもしれないし、3年で1,000億円になるかもしれない時代です。

だから上場企業がスタートアップに勝とうとするなら、10億円の投資を10回やって、「どれか1つが1,000億円になったらいいじゃん」という考え方ができないと勝てないはずなんですけど、今の日本の上場企業を取り巻く構造だとそんなこと簡単にできないですよね。

理想論で言うと、サイバーエージェントのamebloの時のように「短期的にどれだけ赤字でもこれに張ります」という話を株主に向けてすることが必要だと思うんです。短期的に株価は下がると思いますが、早い段階でそういう意思決定をしておかないと未来のユニコーン企業には勝てません。

正田今の世の中では投資家やVCも増えてきて、投資もスピード勝負なところもあるから、「なんとなくこの辺に投資しとこう」という大局観と感性に頼った意思決定も大事ですよね。

まさにテレビ番組の「オールスター感謝祭」のようなものですよ(笑)。どんな波がいつくるか、何がいつ当たるかわからないけど、みんなが正解を見つけたタイミングには、世界のどこかに既にスタートを切っている人がいる。

4択問題の選択肢を全部見て、何が正解か明確に分かる前に回答ボタン押しちゃうくらいフライングしたタイミングで張っていないと、世界で大きく勝てないと思うんです。

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壮大なビジョンを描くために“先人のキャリアをベンチマーク”

会社を売ることが確定する前後から、なんとなく自分ができることの範囲が広がったり、目線があがったりしている実感はありました。「売却したからこそ本当にやりたいことに注力できるようになった」というのはあると思います。

正田(RPGゲームの)クロノトリガーにある「強くてニューゲーム」じゃないですけど、エグジットを経験している起業家は、経営者としてのスキルがある状態でもう一度0から会社を作れるから、「やりたいけど力不足でやれない」みたいな苦悩から解放されますよね。

金さん自身、「上場はできそうだ」という景色を見れたからこそ、日本一や世界一という視点が持てるようになったんだと思いますし、狙っていない人にはその目標は絶対に達成できないですから。

おっしゃる通りです。やはり人間って、自分から明らかに遠すぎる未来を切望できないと思うんですよ。私は正直、世界を代表する企業を作ることはまだ現状のレベルではイメージできませんが、日本を代表する企業を作ることは心から切望できています。

これは、現状からの期待値から考えているからで、今から僕がサッカーの日本1のプレイヤーを本気で切望できないのと同じです。 なので、自分自身の期待値をもっと上げるためにも、さらにスピードを上げていかないといけないなと感じます。

正田目標とする未来をイメージするために、ベンチマークとなる先人のキャリアを辿ることは私もよくやります。

「孫さんは32歳でこんなことしていたのか、じゃあ自分は今31だから来年何かしかけないと」とか、「(スタートトゥデイの)前澤さんは41歳で一兆円企業にしたのか、じゃあ自分はあと10年のうちにこんなことをしないと」とか。

自分以外の誰かがやれているなら自分にも必ず実現できるはずなので、具体的にイメージできる事例を集めるようにしています。

私もまさに今、世界中の成功した起業家のキャリアを調べているところです。目指している姿から逆算して「何がどのくらい足りないのか?」を常に考えられるようにして、自分を焦らせ、モチベートさせています。

サクッと起業してサクッと売却する 就職でもなく自営業でもない新しい働き方|正田圭(著)

[文]松本 玲子
[撮影]藤田 慎一郎

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