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「企業売却は芸術家が作品を売るのと同じ」EXIT経験者が語る“会社売却”の真相

「投資銀行業界のGame Changer になる」ことをミッションに掲げるTIGALA代表の正田氏が、企業売却を経験した起業家にその選...
「投資銀行業界のGame Changer になる」ことをミッションに掲げるTIGALA代表の正田氏が、企業売却を経験した起業家にその選択をした真相に迫る連載企画。第一弾のお相手はVSbias代表の留田氏。創業から7ヶ月でメタップスに自社を売却しグループ入りした理由を、「その方が事業成長が早そうだったから」と話す。
  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
17-12-26-Tue
正田 圭 (まさだ・けい)
TIGALA株式会社 CEO
留田 紫雲 (とめだ・しゅん)
株式会社VSbias 代表取締役

「投資銀行業界のGame Changer になる」ことをミッションに掲げるTIGALA代表の正田氏が、企業売却を経験した起業家にその選択をした真相に迫る連載企画。第一弾のお相手はVSbias代表の留田氏。創業から7ヶ月でメタップスに自社を売却しグループ入りした理由を、「その方が事業成長が早そうだったから」と話す。

最初の仕事は「自分がオーナーであること」が重要

お2人とも若いときに起業されています。子どものころからビジネスに興味があったのですか?

『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)に至っては、実践しろと言われただけじゃなく、実践の進捗状況までチェックされていたほどです。

留田今思い返すと父親の教育の影響は大きかったかもしれません。父親自身は経営者ではなく官僚だったんですが、中学生の頃から、『金持ち父さん 貧乏父さん』や『道は開ける』(デール・カーネギー)を読んだ方がいいと言われて、感想文まで書かせられるというスパルタ教育を受けていました(笑)。

正田良いお父さんですね。『金持ち父さん 貧乏父さん』には私も思い入れがあります。

中三の春休みにハワイ旅行した際、同じ機内のファーストクラスにたまたま中学の同級生一家が座っていたんです。私の学校は名古屋の名門で、自分以外はほとんど医者か社長の子という状況だったんですが、うちは貧乏だから座席はエコノミーだし、家族全員で行く金銭的余裕がなくてそのときも父と2人でした。

そんなときに同級生一家と遭遇し、その同級生の父親が読んでいたのがこの本だったんです。「この本のタイトルはまさにうちの父親と彼の家の父親のことじゃないか!」と衝撃が走り、金持ち父さんに教えを請おうと「君のお父さんに話を聞かせてくれ」と直訴したのを覚えています。

留田面白いエピソードですね。起業は怖い、という想いはなかったんですか?

正田全くもって怖いなんて感情はなかったですね。怖いことがあるなんて『金持ち父さん 貧乏父さん』には書いてありませんでしたし(笑)。

留田たしかに中高生くらいであれば、何も知らないからこそ自分でビジネスを起こすことも怖くないかもしれません。

正田むしろあの本には、何もしないことこそが怖いことだと書いていました。なので旅行から戻ってきたらすぐ、銀行に不動産投資するためのお金を借りに行ったんです。でも貸してもらえなくて。どうしようと悩んだ挙句、TVCMで有名だった消費者金融に駆け込みました(笑)。そこでも門前払いだったため、不動産投資は断念しましたね。

そこで再度本を読み返したら、不動産投資じゃなくても、会社を作るのでも「金持ち父さん」なれるんだだとわかり、友人の経営者の法人口座を借りて15歳でアフィリエイトビジネスを始めたのが最初の起業までの経緯です。

留田私の初めてのビジネスはインターネットと全く無縁のものでした。自作iPhoneケースを販売していたんです。私が18歳当時ってそこまで販売されているケースが多くなくて、仮に販売されていたとしても、単色のものや個性がないものばかりで面白くないなと感じていました。

どうしたらいいんだろうとネットで調べていたら、iPhoneケースの作り方が書かれたページを見つけたんですよ。それを見ながら自分のためのスマホケースを作ったところ、それを見た友達から「俺の分も作ってよ」と連鎖的に広まっていったのが私の最初のビジネス経験です。

正田思えば私も中学生の時、似たようなことをやっていました(笑)。まだガラケーの時代だったので、高級ブランドの名前が入ったリボンをうまく加工して自作のブランドストラップを作り、数千円で販売していたんです。

留田私も最初のスマホケースは1,000円で売っていました。自分がほしいものを作ったら周囲が欲しいといってくれて、少しだけど利益も出る。相手にも感謝されてお小遣いにもなるビジネスの仕組みって面白いなと、このとき初めて思ったんです。

正田留田さんは最初に経験した仕事が自作スマホケースの販売ですよね?私は最近、起業家を増やすためには「最初に就いた仕事が自分がオーナーであること」が重要なんじゃないかと思っていて。最初の仕事がアルバイトや社会人だと「時間を切り売りする」こと、いわゆる雇われ癖がついてしまうんじゃないかと思うんです。

留田それはあると思います。私も大学生になってホテルでバイトしていたとき、「終了時間の夜8時まであと何時間で、どうやって過ごすか」をよく考えてしまっていました。こういう思考は明らかに起業家的発想ではないですよね。

事業成長を加速させるべく売却を決意

その後留田さんは起業家として21歳で創業した株式会社VSbiasを、約7ヶ月後にメタップスに売却しています。そのきっかけはなんだったのでしょうか?

留田自分たちがやりたいことを実現するためにリソースも人もお金も足りない中、自分たちだけでそれを成し遂げるには何年かかるんだろう?という思いがあったことがきっかけです。今でこそVSbiasでは「Baberu」という民泊物件の収益化を支援するクラウドシステムを販売できていますが、最初は同じような仕事を、まさに数人で労働集約的に行っていました。

Baberu - おもてなしを民泊で

でも私のビジョンとしては、「民泊という成長市場をテクノロジーを活用して席巻したい」というものだった。果たしてそのビジョンは今のままで達成できるのかな、と考えていたとき、仕事の関係で偶然メタップス代表の佐藤に出会ったんです。

佐藤にこの話をしたところ、「おもしろいから一緒にビジョンを達成しよう」と言っていただき、そのまま会社ごと買っていただく(買収してもらう)ことになりました。

正田他の手段は考えなかったんですか?他の企業への売却とか、資金調達とか。

留田もちろん考えました。数千万円の資金調達の目処も立っていたんですが、私としては資金だけでなく、事業を伸ばすために優秀なエンジニアや社会的な信用が欲しかった。数千万円の事業資金だけ入ってきても、そこから採用や信用構築に時間がかかってします。メタップスグループに入れてもらえば、その時間も買うことができ、より事業に集中できる。

実際に買収後はグループ内からエンジニア数名を融通していただき、資金面だけでなく一気に事業がスケールに向けてスピードアップしましたね。

なぜ売却先が他の企業ではなくメタップスだったかというと、佐藤の考え方や思考に圧倒されたからです。この人と一緒にビジネスがしたいと思いました。

正田カリスマ性のある経営者は、売り手側にそう思ってもらえるから良いですよね。CAMPFIREがバンダースナッチのSTARtedを事業譲渡してもらったときも、(CAMPFIRE創業者の)家入さんと一緒にやれるから面白そう、ということで選んでもらえたと聞いています。

会社売却を経験したお二人に「あがり」の感覚はないのでしょうか?会社を売却すれば億単位のお金が個人口座に振り込まれるはずです。

留田(売却が)決まった瞬間は嬉しかったですけど、世界中の起業家と比較したらそこまで大きな額ではないですし、2週間くらいしたら忘れてしまいましたね。

会社を売るという決断をした人達のほとんどは、金銭的なものだけで満足できる訳ではありません。私の場合も今は、社会にインパクトを与えられる「事業家」として一度しっかり成功したいという気持ちが強いです。

正田私も会社売却が決まる前後の1ヶ月くらいは相当アドレナリンが出る気がしますが、留田さんと同じく大体2、3週間で消えてしまいますね。趣味が総合格闘技で選手のセコンドについて海外の試合にも同行するんですが、プロの格闘家もKOを決めた試合の後、2、3週間くらいずっとアドレナリンが出っぱなしのようなんです。売却時の興奮は、そういうプロアスリートの興奮状態と似ていますよね。

留田プロボクサーが階級をまたいでチャンピオンを狙いにいくように、一度経験すると、「もっと上」を目指してしまうのもまた似ているポイントですね(笑)。

正田おっしゃる通りです。私がかつて買収した会社の60代の社長にも、「これでゆっくり休めるわ!」なんて言いながらも、売却した翌月に新しい事業を立ち上げていた人もいます。

留田すごいバイタリティですね。

正田やっぱり起業する人って、そういう事業を生み出すことが楽しくてしょうがないんだと思うんです。

企業売却はアーティストが作品を売るのと同じ

「会社を売る」ことに対してマイナスのイメージを抱いている人も世の中にはいると思います。

正田根本的に、私はそれはおかしいと思っています。みんな会社が「潰れる」の反対は「成長」だと思っていると思いますが、私に言わせればそれは違う。会社には「売る」か「潰れる」かしかないんです。

どんなカリスマ社長が経営していても、その人が亡くなってしまったら、誰かが継ぐか、潰れる前に売るのか、という二択ですよね。

それに、なんで芸術家が作品を数億円で売るのは喜ばしいことなのに、会社を売ることには罪悪感を抱かなければならないんでしょう?例えばピカソが、自分が描いた絵を誰にも売りたくないからといって、亡くなるまでずっと家に飾っていたらおかしいですよね。

会社もそれと同じ。誰かが数億円、数兆円を払ってでも買いたいと言ってくれる企業を作れた人が、売却によって個人資産を築くことも、もっと喜ばしいことであるべきです。

留田私もそのうちの1人ですが、最近では売却してある程度の資産を手にした後も、自分が創業した会社の代表としてコミットし続ける経営者も増えていますよね。

私自身、今すぐ会社を出ていこうと思ったら出ていける状態ですが、私が一番やりたいことは事業を大きくすること。

いまの事業を伸ばすためには、自社だけでやるよりメタップスグループとしてのリソースを活用したほうが早い。そう思っているので売却してからも自分が社長ですし、会社を離れようと思ったことは一度もありません。

もちろん、マーケットの流れも早く、自分がこの先ずっと今の事業をやり続けたいと思うわけではないと思うので、このまま永久にメタップスグループでやり続ける、と決めているわけではありません。

正田売却した後に会社を辞めようとしたら辞められる状態であるにも関わらず、今の会社で頑張ると選択できているのは、メタップスにとってもすごく嬉しい話ですよね。

少し社会学的な話になりますが、売却のような「お金儲け」が嫌われやすいのは、人間が「共同体を作る」という特徴を持っていて、その中で「自分には価値がない」と受け取れるような現象が嫌いだからです。

今の社会では自分の時間を切り売りしていわば「時給で稼ぐ」サラリーマンが増えたため、時給換算すると自分たちが知っているスケールから外れてしまう「売却して資産を得る経営者」に対して嫌悪感を抱く人が多いんでしょうね。

留田それは面白い考え方ですね。たしかに、同じような経験をしてきた、またはしようとしている起業家仲間からは売却してすぐに「おめでとう!」という声をたくさんいただきました。

正田そもそも冷静に考えれば、自分で育てた会社を売ってお金をもらうというのは当たり前の行為です。自分の家の庭で育てたトマトを売るのに何か悩みますか?という話と同じだと思っていて。

資金調達したりして株主構成が複雑な場合にはそう簡単ではないかもしれませんが、会社だってある意味同じ「モノ」なんだから、もっと気楽に考えていいはずです。

これから書籍も出版して啓蒙していきたいなと思っていますが、「サクッと起業してサクッと売却する」というような文化がもっと日本にも定着してほしいと思っています。

サクッと起業してサクッと売却する 就職でもなく自営業でもない新しい働き方|正田圭(著)

留田たしかに、日本発の世界的ベンチャーを生む起業家も、売却経験者が1番近いところにいる気がします。

売却したことによって資金的にも時間的にもゆとりが生まれ、もっと大きなことにチャレンジする、いわゆるシリアルアントレプレナーと呼ばれる人達は日本でも増えていますよね。メルカリの山田さん、CAMPFIREの家入さん、AnyPay木村さんも売却やIPOによるエグジットでリターンを得た人達です。

私も将来彼らの仲間入りができるような起業家になっていきたいと思っています。

企業売却をうまく活用すれば、自分の得意を活かせる起業家が増える

売却を考えている方やこれから売却が選択肢に入ってくる方へメッセージはありますか?

留田自分が手がけている事業への熱を失ったら、間違いなくすぐに売ったほうがいいと思いますね。情熱をもてない事業に人生の一部を費やすのは起業家として一番もったいないことです。

正田私は売却のアドバイスをすることも仕事がら多いのですが、自分の成長速度が会社の成長速度を追い越したら売り時だと説明しています。経営者それぞれに、企業の成長カーブにおける得意なフェーズがあるはずですが、自分のほうが早く成長しているタイミングというのは、自分が得意な企業成長フェーズが過ぎ去った、ということだからです。

飲食店経営を例にすると、3店舗目くらいまでは順調に拡大できても、10店舗目まで増えたときに急に業績が悪くなることがあります。そうなったところで、管理部門を置いてエリアマネージャも採用して、システム投資もしてともがいていたら、また30店舗目くらいに急に業績がよくなって…。

そういう業績変化の波を繰り返していくのが長期的な経営というものですが、10店舗目からの低成長フェーズを経験する前に、3店舗目に到達したフェーズで会社を売る、という考え方がもっと広まってもいいのではないでしょうか。

起業家・経営者として得意なフェーズだけ自分が担当すると。

正田はい。若いうちから何度も事業を作ったり、事業再生して売却したりを繰返していると、「今の事業が成長曲線のどのフェーズにあるのか」がわかってきます。

「ここからしばらく自分が苦手な大変なフェーズだな」とわかったらもっとうまく切り抜けられる人に任せて、自分は0からまた新しい事業や会社を作るほうが、個人的にも資産を早く増やせるし、社会にとっても企業成長が早くなってプラスなはずです。

留田その通りですね。シリコンバレーのような地域では、0を1にするフェーズだけやってすぐ売却する“プロ起業家”のような人達も存在しています。

私はこれからの世の中では、「会社」という壁自体が薄くなっていくと思っているんです。少人数の会社や組織がプロジェクトベースで連携して、大企業並の価値が発揮できる社会に変わってきている。

「その会社にいるメンバーを目的にして買収する」というAcqui-hire(アキハイヤー)というワードが一時期流行りましたが、何かのプロジェクトを実現するために会社を買ってもらったほうがうまくいきそうであれば買ってもらえばよいし、その逆もしかり。

社会の流れに合わせると、正田さんの言うとおり、私たちの感覚も、会社を売る・買うということがもっと気軽に、日常的なものとして受け入れられるように変わっていくべきかもしれません。

自身も15歳で起業したシリアルアントレプレナー正田氏。中学生起業家を支援するクラウドファンディング実施中