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「ITの力で儲かる農家を増やす」
農業変革を推進するDeNA出身女性起業家ビビッドガーデン秋元

インタビュイー
秋元 里奈

神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部を卒業した後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月にvivid gardenを創業。

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テクノロジーの進化にともない、デジタル技術とは縁遠いと思われていた産業が、近年、続々とITと手を結んでいる。

そのうちのひとつが農業だ。

ITを駆使すれば、物流や販売経路の改良はもちろんのこと、各生産者が手塩にかけて育てた米や野菜の魅力を余すところなく消費者に伝え、ファンになってもらえるのも大きなメリットであろう。

その潤滑油を担うのが、オーガニック農作物の直送サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデンだ。

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
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農地をはじめとした資産運用法を学びたくて、大学では金融工学を専攻

秋元さんは学生時代から農業に興味があったのですか?

秋元実家が農家なので、小さいころから収穫の手伝いをする機会は多かったんです。ただ学生時代は農業そのものというより、農地などの資産運用に興味を抱いていました。

なので、大学では経済学を学ぼうと思っていたんですけど、経済学部が文系って知らなくて…(笑)経済学は数字を扱うから理系、と思い込んでいたので、高校で理系を選択してしまっていたんです。

受験直前にようやく文系であることに気付き、なんとかならないかと金融工学を学べる理系学部のある大学を探していたら、慶應義塾大学の理工学部に金融工学の研究室があることがわかり、慶應の管理工学科に進みました。

しかし、その後すぐに農業の道を進んだわけではなく、卒業後は株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)に入社してサービス企画やアプリのマーケティングなどに携わり、3年半勤務しています。

私が就職活動していた当時は、DeNAやサイバーエージェントグリーといった企業が提供するソーシャルゲームが伸びていた時代でした。ビジネスの力をいち早く身につけるために「最も伸びている業界で最速で成長しよう」と考えて、この業界を志望したんです。

実際、入社後はソーシャルゲームに限らず、営業や新規事業の立ち上げなど合計4つの事業に幅広く関わらせていただき、起業する上での下地となる経験ができたのでよかったと思っています。

Mobageやチラシルなどの新規事業に関わった他、アクションRPG「キン肉マン マッスルショット」にも宣伝プロデューサーとして携わっていました。

しかし3年が過ぎたころ、自分が本当にやりたい領域は農業だと気づき、生涯を通じて農業に関わる事業をするために自分で会社を立ち上げる決意をしました。

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人生をかけてやれる仕事を模索した結果、農業に辿り着いた

農業を仕事にしたいと気づいたきっかけは何だったのでしょうか?

秋元わたしは入社時から、「なんとしても、生涯を通じてこれをやりたい!」と思える領域が分からないのがコンプレックスだったんです。DeNAではどの部署に所属していても、常にその分野に情熱を持って楽しく仕事できていたのですが、逆に複数部署を経験しているために自分が何を一番やりたいのかが分からなかった。

その悶々とした気持ちが大きくなったあるとき、「仕事場と家以外の第3の場所として、自分が本当にやりたいことをやれる場所を見付けよう」というコンセプトのもと活動している「WORKLE(ワークル)」という組織の集まりに参加しました。

そこで出会った方になにげなく、実家にはわたしの名義で農地もあるけど今は遊休農地になっているという話をしたところ、「もったいない。せっかく土地があるなら何かやってみればいいのに」と言われ、その時にハッとしました。「農業」というワードがあまりに身近すぎて、これまで一度もビジネスとして考えたことがなかったのです。

その頃はまだ自分の中に「農業=ふるくさくて儲からない」というイメージがあったんですが、調べてみたら、そういう部分も多分にありつつも、ベンチャー企業が参入しはじめるなどの新しい動きも増えてきていたので、自分もその中に入りたいという思いが膨らみ始めていったんです。

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価値ある野菜を正当な値段で売りたい

そこからすぐ、起業に向けての行動を開始したんですか?

秋元はい、退職を決めてからはまず、知り合いづてに紹介してもらった複数の農家さんや投資家の方に話を聞くことで、事業案を深めていきました。その結果、最初は自分が持っている遊休農地に問題意識があったことから、空き農地をCtoCでシェアする事業を考えていたんですけど、農地法などの制約から描いている事業の実現が難しいとわかり、何度か方向転換を繰り返して、最終的に流通事業に取り組むことに決めました。

流通に着目したのは、まずは農業を儲かるものにしたかったから。現状、農業従事者って高齢者が多いんですけど、若者が少ない理由は最終的に「儲からないから」ということに帰着すると思っています。私の実家もそうだったのですが、息子や娘に継がせたくないという方も一定数いるんです。ヒアリングを続けていくうちに、良い作物が妥当な価格で売れるようになるためには、まず流通の構造を変える必要があると気づきました。小規模農家の生産する作物、例えば伝統野菜などのこだわり農作物など、JAや卸売市場の仕組みではカバーできていない部分が多々ある。ITを活用することで、流通改革を起こすことができるのでは、というのが最初のアイデアを思いついたきっかけです。

農作物の通販というと既にたくさんのサービスが存在していますが、多くのサービスが倉庫に野菜を集め、サービス名でブランディングして販売をしています。私はそうではなく、農家さんのファンを作り出したいと思っていました。そこで倉庫を介さず農家さんから直送する事業モデルを検討し始めます。このモデルを成立させることができれば、農家さんとより深く繋がれるだけでなく、より鮮度の高い状態で農作物を届けることができるようになり、購入者にも大きなメリットを提供できます。

野菜や果物を一般流通に乗せるためには、形や大きさに規格があります。規格に沿った野菜が作りやすいように作られた種を使えば、確かに効率よく生産ができます。一方で昔ながらの品種を代々受け継いで生産されている農家さんがいます。こういった作物はこだわって生産されているにも関わらず、販路の確保が難しいのが現状です。

また、有機栽培や自然栽培などのオーガニック作物も、販路に苦労することが多いです。こだわればこだわるほど、儲かりづらい。この矛盾を解消するためにも、まずは基準が明確である「オーガニック農作物」に限定して直販事業を開始することを決意します。

そして、今年8月に「食べチョク」をリリースしました。「食べチョク」はオーガニック農作物に特化したマーケットプレイスで、消費者はお気に入りのこだわり農家を選んで、直接農作物を取り寄せることができます。

そうした諸々のアイデアは、DeNA時代の経験あってこそ生まれたものなのでしょうか?

秋元そうですね。新規事業の企画やマーケティングに携わらせていただいた経験が生きていると感じています。農業はまだまだアナログな領域ですが、似たような業界に対する新規事業を検討していたこともあったため、比較的スムーズに事業を進められています。

今の時代はどんな業界であれ少なからずITの先駆者がいるので、そういう人に会って話を聞くこともとても重要です。わたし自身、立ち上げ前には農業×ITの分野でパイオニアの方にお話を伺ったんですが、その中で初めて見えてくることがたくさんありました。

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農家と消費者の距離を近づけたい

努力を重ねた結果、退職から1年足らずで「食べチョク」が誕生して、登録農家も利用者も着々と増え続けていますね。

秋元ありがたいことに、8月のリリースから購入者数は順調に増えています。

ただ、“販売”はわたしが実現したいサービスの一部でしかなく、今後はこれを足掛かりに、オンラインコミュニティを立ち上げたり、農業体験などと紐付けたりすることによって、農家と消費者の距離が近づく仕組みを作っていけたらと思っています。

また、扱う商品に関しては、オーガニックをメインで扱う姿勢は守りつつも、たとえば糖度の高さを追求した果物を取り扱うなど、こだわりを持って生産されたものを取りそろえていきたいです。

こだわって生産された農家さんにしっかりと還元される仕組みを作って、もっとその農作物が広めていきたいと思っています。

もちろん、消費者にも納得してもらえるよい商品を集めるためには実際に農地まで足を運ぶことも必要なので、「食べチョクに掲載したい」と連絡をもらった農家さんには引き続き可能な限り訪問するようにしたいです。

本を読んだり、ただ会議室で議論したりするだけでは、農業者にとって本当に良いサービスは生まれません。卓上の想像だけでは、農業者のニーズを想像することは不可能だと考えています。

できる限り生産の現場へ出向き、Face to Faceで農家さんと向き合うことで、本当に求められているサービスを作っていきたいです。

一方で、農作物の魅力をWEBで伝えることは、多くの農家さんが苦手としていますが、それこそ我々の得意分野です。そこでネット販売のコンサルタントとして相談にのることもあります。どんな商品、どんな売り方・セット商品だと売り上げが大きくなりそうかを分析して、結果を農家さんにフィードバックしていこうと考えています。

そしてゆくゆくはビビッドガーデンが提供するサービスが「農作物の販売ツール」として、なくてはならない存在になるよう、様々な観点からサービスを提供していきます。

こちらの記事は2017年10月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

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