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創業7ヶ月でメタップスが買収。
幕末の志士の如くチャレンジを続ける23歳 VSbias留田

インタビュイー
留田 紫雲
  • 株式会社Dot Homes 代表取締役 

1994年生まれ。6歳からサッカーを始め、15歳で世界大会に出場。通信機器の営業、広告代理店でのコンテンツ制作、人工知能で小売店舗のマーケティングを支援する会社にてメディア責任者、不動産ディベロッパーにて外国人向け賃貸集客事業の責任者を経て、独立。2015年11月に不動産×ITを軸とした株式会社VSbiasを創業。2016年7年株式会社メタップスに事業売却し、同社最年少子会社社長に就任。メタップスグループの新規事業子会社として事業拡大中。

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起業から7ヶ月で株式会社メタップスにバイアウト、その後も経営を任されているVSbias 代表取締役社長・留田紫雲。彼はどういった経緯で学生起業に至ったのだろうか。話を聞くと23歳ながら起業が必然とも思える豊富な事業経験を持っていた。

  • TEXT BY FastGrow Editorial
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世界大会に出場するも、プロサッカー選手の道を断念

18歳からビジネスを始められたとお聞きしました。

留田そうですね。実は幼い頃からずっとサッカーをやっていて、それで生きていこうと考えていました。小学生の時はある大会の日本代表に全米大会に出場したり、その後ガンバ大阪ジュニアユースに入団し、15歳の時には世界大会にも出場しています。

そういった流れでプロになることを目指していたんですが、ある時たとえプロになれたとしても、プロの中で超一流の選手にはなれないだろうと考え始めたんです。このままプロになっても自分の望む人生にはならない。そう思い18歳でサッカーを辞めました。

そのときは何をして生きていこうか悩みましたね。今までサッカーしかやって来なかったので。そんな時ふと考えたのが、将来大学を卒業して働くとして、定年まであと40年。この長い期間生きるためだけに仕事をするのは嫌だなと思いました。

自分の働き方をみつけたい。そんな気持ちが最初のビジネスをはじめたきっかけです。

どんなことから始めたのですか?

留田最初はiPhoneケースを作っていました。その頃iPhone4が発売されたのですが、ケースって単色が多くて個性がないと思っていたんです。それでケースを自分でデザインして友達に売り始めました。

そしたら口コミで広がって、毎日3、4時間iPhoneケースを作っている生活。小遣い稼ぎにはなったんですが、ビジネスとして大きくできたわけではありません。でもそれが商売に触れたきっかけだったので、すごく記憶に残っていますね。

それから本格的にモノ・サービスを作るビジネスがしたいと思い、(元ライブドア)堀江さんなどの影響でプログラミング言語のRubyを本で学び始めました。でもすぐエラーが出て勉強が進まないんですよね。自分の周りにもエンジニアは全くいない。これは会社に入って学ぶしかないと思い、長期インターンを探しました。

ちょうどインターンをしていた先輩がいて、話を聞いてもらうと「うち来いよ」と言われて。そして入ったみたら、その会社は営業の部署しかなかったんです(笑)。

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インターンでありながら新しい部署を創設

エンジニアとして働けない環境でもすぐに辞めなかったんですか?

留田それがやってみると面白かったんです。営業ってやったことがなくて。その頃は大学1年生だったのでもちろん授業も多く、平日の午前中は授業と課題をやっていました。そして平日の午後と週末はフルタイム営業。すごく忙しかったんですが充実していました。

ちょうどサイバーエージェントディー・エヌ・エーなどのIT企業が注目されていたんです。だから僕も何かITに関連したことに関われないかと考え始めました。

実はその会社で課題に思っていたこともあって。僕が最初に入った時は50人くらいの人数でした。

でも1年で人数が2倍になるほど成長していた会社だったので、当然ながらその中であまり営業成果があげられていない層が出来てくる。すると離職も増えていくんですよね。

そんな状況をどうにかしたいと考えていた時、ITを活用できそうだと思い付きました。

営業を管理し、推進するためにITを使いましょうと社長に自分なりに提案しました。そしたら「やってみろ」ということになり、新しく営業管理のような部署を作ることになったんです。

その部署でやったことは営業で成約を取ってきている営業マンがなぜ売れているのかを科学し、結果が出ない営業マンにそのエッセンスを学ばせ、会社としてボトムアップを図ること。まず営業マンのアポイントメント管理をITでシステム化しました。

そして成約した商談と成約しなかった商談で、どういった違いがあったのか。例えば時間帯の違いやコミュニケーションの違いといった様々な要素の分析を行いました。

その後、大学2年生に入る頃、ネットを活用したマーケティングにもチャレンジさせてもらって。想定していた仕事ができない環境で始めたインターンですが、最終的にはやりたい仕事をやっていましたね。だから大学の学部の制度上留学しなければいけない時期までずっとインターンを続けました。

最終的に自分でやりたい仕事を作ってしまったと。その他にもインターンを経験されたんですか?

留田はい。留学先のマカオでも大手IT企業が保有するとあるメディアのコンテンツ作成を経験し、帰国後には上京し、別の企業でもインターンをやらせていただきました。特にその企業で働かせて頂いた3ヶ月間は印象深かった

最初にインターンした営業会社は営業で成果を残したら別に他のことは気にしない、という空気感でした。でもその企業は全く違っていて、仕事に取り組む姿勢や社会人としての基本動作をすごく大切にしている。

礼儀から始まり、しゃべり方、資料の作り方、ホッチキスを止める位置まで、プロフェッショナルさを求められました。質問1つでも考えてから質問しろと怒られることがあり、すごく厳しかった(笑)。今でもいい経験だったと心から思えるほど仕事の基礎を学んだインターンです。

その後、大学3年生になると大学の単位もほとんど取り終わり時間的に自由が増えたんですけど、このままインターンとしての立場で働いても物足りないだろうと考えていたところに、運よく新規の楽器情報メディアを任せてもいいという人に出会って、初めて個人事業主という立場で事業立ち上げを経験しました。

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大学生ながら2度の新規事業の立ち上げを経験

その楽曲情報メディアうまくいきましたか?

留田結果的にはうまくいきませんでしたね。コピーバンド向けにアーティストの使用している細かい楽器情報を提供するメディアでした。

例えば、有名アーティストの楽曲を精密にコピーして演奏したいけど、どのエフェクターがどの部分で使われているかわからない。そういったニーズに対して情報をまとめたサイトです。

4ヶ月くらい経過したところで、ある程度メディアとしては流入が取れ始めていたんです。ツイッターアカウント作って1か月くらいで1ツイートが平均12リツイートされたり、100いいねされたり、ユーザー流入は拡大しましたが、全然売上に繋がらなかった。

音楽機材のアフェリエイトをビジネスモデルにしたメディアだったので、コンテンツを見てくれても商品をネットで購入してくれなければ売上にならない。マネタイズが思ったようにはうまくいかず撤退ですね。

ただその後、この経験のおかげで、次に取り組む新しい事業をまた任せてもらうことができました。

どんな事業を新しく始めたのですか?

留田不動産業者向けのWEBコンサルティング事業です。それが不動産に関わった最初のきっかけで、今のVSbiasの仕事にもつながっています。

最初は不動産がやりたかったわけではなく、単純に個人事業主としてWEBサイトの運用経験をもっていたのと、その部分が弱い不動産業界でたまたま自分がお手伝いできる仕事があっただけでした。

やったことは不動産開発業者の自社メディア立ち上げや広告の運用、SEOやコンテンツ作成のコンサルティングです。ただそういった業務に携わりながら、「外国人向けの賃貸ポータルサイトはチャンスがあるのではないか?」と思うようになったんです。

当時私はたまたま外国人寮に住んでいて、よく留学生の友人から、いかに日本で外国人が物件を借りづらいかについて聞いていました。

調べてみると、在留外国人は全国で200万人くらいもいるのに、外国人向けの賃貸保証会社はWEBでは2社ほどしか見つからない。さらに契約時などでの言語の壁もある。しかし、ご存知のように空き家はたくさんあります。

「ここには業界の負があるし、絶対需要もある」。そう思ってサービスを立ち上げました。

そこまで明確な課題があれば、うまくいきそうです。

留田そうですね。立ち上げて3ヶ月ほど経ち、月間で問い合わせが100件も来るほど上り調子でした。

ただすぐうまくいった分、外国人向けの仲介ビジネスの現実に疑問を持ってしまったんです。やっぱり外国人に紹介するってなると、仲介業者の方も不人気な物件を紹介したがるんですよ。

日本人に需要がある物件なら日本人に紹介して、借りられなさそうな物件だけ外国人に紹介する。そういったことが不動産業者に蔓延していて、これって正しいのかなってすごく疑問に思いました。

このまま個人事業主で終わるのは嫌だな、ということにも悩んでいましたね。

そんな時、これまでのインターンで知り合った経営者に相談したら、「だったら会社作ればいいじゃん」て言われて(笑)。

たしかに作らない理由もないなと思ったのがいまの起業している理由です。

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佐藤氏の想像力に圧倒されメタップスへの売却を決断

それが現在経営されている株式会社VSbiasですか?

留田そうです。ただ最初から今の事業をやっていたわけではありません。いったんは元々やっていた不動産のウェブコンサルティングを収益源として自分1人でやっていました。

でもせっかく起業したからには新しい事業をやりたいと考え、思い至ったのが物件の空間価値を上げる事業です。

不人気な物件も、不人気なまま貸すのではなく、それをちょっとアレンジするだけでいい物件に変えることができる。そういったことをやりたいと思って空間コンサルティングを始めました。

最初に取り組んだのが、様々な理由がありずっと借りられていない不人気な物件価値改善です。管理会社も借り手に困っていて値段を下げているような物件です。

これに目を付け、おしゃれな内装にリニューアルして外国人向けに民泊や短期賃貸物件として安く貸し出せばいいのではないかと思ったんです。特に日本人ではなく外国人にとっては、長く借りられていない物件であるとかそういった事実は気にしない人が多いので、日本旅行中や転勤の間などに、安くおしゃれな部屋を借りられると好評でした。

そんなことを4ヶ月くらい続けた後、メンバーを採用できるくらいに資金の余裕が出てきて、元々一緒に働いたことがある友達とか、物件のデザイナー経験者とかを採用して、物件空間の価値をどうやって上げていこうかと議論していました。

そしたら「どういった物件が人気なのか、感覚じゃなくデータで評価したものってまだないよね」という話があがった。会社を立ち上げて半年した頃です。弊社のミッションである「テクノロジーによる空間価値の最大化」もこの時に生まれました。

そこで、データを大量に蓄積するために民泊運営社向けの物件管理ツール、Baberu(当時 all in bnb)を立ち上げました。Baberuはこの民泊を運営する上で必須の予約管理や宿泊者からの問い合わせ、清掃手配などを、複数のポータルサイトをまたいで一括して管理できるサービスです。

なぜ民泊かというと、予約のほぼ100%がWeb上で行われることや、宿泊者からのレビュー評価だけでなく、コミュニケーションまで取得できるなど、空間を評価する上で変数となるデータの質が高かったからです。

アメリカの大手IT企業からもオファーが来ていた高校の同級生に手伝ってもらい開発したんですけど、現在では3,500室ほどがそのツールで管理されていて、日本国内のAirbnbに登録されてる部屋の10%弱が網羅されていることになります。

Baberuを通じて民泊やホテルといった宿泊施設に関するビッグデータを蓄積していき解析することで、ユーザーにどういった空間が求められているか、どのようなレイアウト・デザインにすればより借りられる部屋にできるか、どんなコミュニケーションをとると満足度が高いのか、といったことをしっかりと数字でもって貸主に説明できる。それがこの事業で目指している姿です。

2016年8月にVSbias は株式会社メタップスの完全子会社になっていますね。売却に至ったきっかけはありますか?

留田元々メタップスと関わり始めたのは新しい収益源を確保するためでした。最初は開発マネジメントの業務委託として、メタップス子会社に週2日ほど常駐していたんです。その際にメタップス代表の佐藤と出会いました。「本業では民泊をしています」という話をしたらすごく興味を持ってくれて、そこから売却の話に繋がったんです。

実は当時、VCから出資を受けるという選択肢もありました。その中でメタップスに売却を決めた理由は、佐藤さんのとびぬけた想像力のスケールに圧倒されたこと。

僕が事業を運営する時は3ヶ月先を考えることで精一杯だったんですが、佐藤は何十年という先まで考えていた。その中で今自分たちがどういう場所にいるのか、どういう時代の変化が起きるのか、そういった世界規模の未来を考えていて圧倒されました。

物事って自分が想像している以上には進まないじゃないですか。事業もそうですけど、僕が作ってる分、僕が想像できる現実が成長の限界です。

だから僕のミッションは自分の想像力をどれだけ高められるか。そういった意味で佐藤と一緒に働くことで自分の限界を越えられるんじゃないかと思ったんです。それが売却の決め手ですね。

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いまの原動力は強烈な危機感から生まれた

現在も引き続きVSbias を経営されていますが、いま何を目指していますか?

留田ホテルなど宿泊施設の無人化を目論んでいます。

例えば今の時代、技術的には部屋の割りふりや清掃手配といった業務、スマートロックを使って鍵の管理の自動化も可能です。

現金を使わない決算方法に限定することで現地決済も発生しない。また、AIを活用することで宿泊価格の最適化や、ゲストとのコミュニケーション、その人にあったオススメなツアーの紹介といったことも、人がいなくても可能になります。

そういった事でホテルを無人化していこうと考えています。

実はホテルの受付やドアマンに使われる人件費だけで、ホテル運営全体のコストの30〜40%を占めているんです。その費用を削減するだけでも革新的なことですが、現在の日本社会において不要な労働力を削減するのは直近の課題ですよね。

いまホテルなど宿泊施設は外国人観光客の増加やオリンピック開催の影響で増加しています。そしてホテル業界に必要な労働力も増加傾向なのですが、働ける人がいない。そして採用しても労働環境などが原因でまた離職してしまう。これって人材の質がサービスの質に関わるホテル業界にとっては致命的なことなんです。

じゃあどうやってこの状況を打破するかというと、人の仕事を機械が代替すればいい、と。だから今そういったことを可能にするシステムを作ろうと考えています。

もちろん一流のホテルスタッフからサービスを受けたい人たちもたくさんいますが、完全に無人なホテルでも、立地が良く、部屋が綺麗かつ快適で、価格が安ければ満足な人達が多いと思います。そういった人達のためのビジネスホテルやカプセルホテルがいま流行していますし、ニーズはあると思っています。

最後になるのですが、これまでの挑戦を支えてきたモチベーションの源泉って何でしょう?

留田危機感ですね。昔はサッカーをやめて、やっぱり「自分が人生で何を成し遂げられるだろう」ってすごく不安だったんですよ。元々サッカーで生きていくつもりだったので、辞めた時に今まで自分の土台だったものが全てなくなってしまったと感じました。

自分の生きていく意味、アイデンティティを作らなきゃいけない。そんな危機感が18歳にして芽生えたんです。だから生き急ぐように、朝の9時から23時まで働いて、その中でも学校に行って、学校の単位も2年で取り終えた。

その後もインターンや新規事業に取り組む上でも常にチャレンジし続けられたのは、「このままではダメだ」という危機感を持ち続けられたからですかね。

危機感って人間が向上していく上で本当に大切なものだと思うんです。

例えば僕が大好きな日本の幕末では、高杉晋作や吉田松陰、坂本龍馬など、20代や30代の人たちが国のためを考え、強烈な危機感を持って歴史を動かしていったじゃないですか。

彼らの様に危機感を持って生き、歴史を動かすような事を成し遂げる人生ってすごく面白いと思うんです。

だから僕もそういった気持ちを持って歴史を動かす1人になりたい。そんなことを意識しながら生きています。

こちらの記事は2017年10月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

FastGrow編集部

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兼久 隆行
  • TFHD digital株式会社 取締役執行役員 
  • 東急不動産ホールディングス株式会社 グループDX推進部統括部長 
  • 東急不動産株式会社 DX推進部統括部長 
公開日2024/03/29

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