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凡人でも勝てる事業領域の見つけ方。
ブロックチェーンで物流を変革する起業家Zenport加世田からのアドバイス

インタビュイー
加世田 敏宏
  • 株式会社Zenport 代表取締役CEO 

株式会社Zenport(旧Sendee)代表取締役CEO。2015年に同社設立。現在は貿易業務のクラウドソフトZenportを提供中。東京大学工学部機械工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻修了。在学注に清華大学への留学経験あり。著書として「スマートコントラクト本格入門―FinTechとブロックチェーンが作り出す近未来がわかる」。

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貿易業務の効率化クラウドソフトを開発した、株式会社Zenport代表取締役CEOの加世田敏宏。

27歳で起業した彼は、「これまで20回以上はピボットした」と話す。

現在取り組む貿易領域にはいつから興味をもったのか?

また、なぜその領域の変革に取り組もうと決意したのか?

  • TEXT BY REIKO MATSUMOTO
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中国留学がきっかけで起業を決意

まず気になるのが、学生時代から貿易業務に興味があったのかという点です。

加世田正直言うと、ありませんでした。高校時代に最も関心が高かったのはエネルギー問題。電力会社や原子力系の企業、自動車メーカーなどのエンジニアになり、燃費のいい製品を作ってエネルギー問題に貢献できたらと思っていたので、大学では機械工学を専攻しました。

その後大学院ではエネルギー工学を専攻したんですが、そこでわかったのは、この分野は1つの成果を出すのに数十年もかかるということ。人生の長さを考えると、生涯で出せる成果は2,3個が限度。さらに、すごく歴史がある分野であり、優秀かつ権威のある研究者の方が多く、業界の体系も確立されているので、20代、30代のうちに自分の意見が通る立場まで到達することは難しいと思ってしまったんです。

そこでエネルギー工学から離れると同時に、世界に大きなインパクトを与えることができて、かつ短いスパンで成果が出やすい分野に進もうと決意しました。そのほうが若くしてリーダーシップを取り、リスクを取っていきたいという自分の考えを体現できると思ったんです。

大学・大学院時代の経験で今に活きてることはありますか?

加世田大学院在学中に1年間中国に留学していたんですけど、その間に起きた2つの意識変化は今の自分にも影響を与えています。

1つは、「レールから外れちゃいけない」という意識がなくなったこと。優秀な大学に入学したエリート学生ってみんなある程度そうだと思うんですけど、私も御多分に漏れず、「東大に入ったからには大企業に進まきゃいけない」って無意識に思い込んでいたんです。あと、人と違う道に行くことはやはり怖かった。

加世田でも、中国に行って卒業が1年遅れたことで、既にレールから外れていると思うようになって。別に周りと同じ道を進まなくてもいいか、と肩の力が抜けましたね。やりたいことを自由にやるのもいいんじゃないか?という気持ちが湧いてきました。

2つ目は、「日本の大企業に入って決められた仕事をしても、自分個人としては世界にインパクトを与えられないかも」と危機感を覚えたこと。海の向こうで自分と同世代の若者が活躍しながら、世界に大きなインパクトを与えている様子を目の当たりにしたとき、20代の若いうちに自分の力を発揮できて、自分で決断できる立場にいたほうが、自分のためにも社会のためにもいいんじゃないかと思った。そう一度思ってしまったら、どんどんベンチャー思考、起業家思考に切り替わっていきました。

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ブロックチェーンは、世界の物流の流れを変える肝になる

帰国後はすぐ起業されたんですか?

加世田いえ、すぐにはしませんでした。大学院卒業と同時に起業するつもりでプロダクト作りを開始し、VCの方とも話を重ねていたのですが、今すぐそのプロダクトで成果を出すのは難しいという結論に至り、一旦新卒でベンチャー企業に就職しました。

しかし、仕事を始めたらビジネスの仕組みや事業拡大のためのキーファクターが朧気ながら見えてきました。会社としてもそんな中途半端な状態の私に長く居られても困るだろうと思って新卒入社後3か月で退職。Zenportの前身となるSendeeという会社を立ち上げました。それが2015年7月のことです。

Sendee創業当初は、どんな事業を行っていたのですか?

加世田最初はブロックチェーンを用いた真贋証明サービスなどの開発をしていました。しかし、なかなかスケールする事業プランが描けず、何度かピボットせざるを得なかったんです。

結果的に20以上の事業モデルでスケーラビリティを検証しました。その中で「これならいけるかも」と思えたのが、いまZenportが取り組んでいる国際貿易の変革を目指すビジネスです。

IT化が進んでいないこの領域を、ブロックチェーンを活用して効率化できれば、世界の物流の仕組みを塗り替え、世界中のビジネス効率化にインパクトを与えることができるかもしれない。そう思いついたとき、この領域に挑みたいという気持ちが固まりましたね。

国際貿易という普通の人があまり思いつかないようなマーケットに着眼できたのは、中国留学が影響しています。当時はちょうど日本と中国のGDPが逆転した時期だったので、「この国はどういう構造でそこまで経済成長しているのか」を留学して確かめたかった。

それで気づいたことは「この10億人以上を抱える大国の急成長を支えるのは、世界中から集まるものすごい量の物資なんだな」ということでした。留学に行ったおかげで、貿易マーケットの大きさを肌で感じることができたんです。

貿易・物流の構造を変えるためには何が必要でしょうか?

加世田まず必要なのはITの力です。国際物流というレガシーな領域では、まだまだIT化が進んでいない。ここを進展させられる人間といえば2パターンしかいません。1つは、物流の世界にいながらITにも知見がある人。もう1つは物流の世界に知見があるIT業界の人。このいずれかだと思うんです。

でも、国際物流とITという2つの業界って離れすぎているので、今までそのどちらのタイプも現れていない。もしくは、ITの知識はあっても、関係者やしがらみも多い業界内部からレガシーな領域を変えていこうという人はなかったのかもしれません。

そこで私はまず、外部参入者でも取り掛かりやすい、シッピング情報の管理やP/O管理(購買契約書管理)をITで自動化するところから事業化に着手しました。クラウドソフトのZenportは、フォワーダー(運送者・企業)と荷主の業務時間を削減することを目的としています。

Zenport

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凡人こそToBマーケットを狙え

知見がない領域でビジネスを行うのはデメリットではないでしょうか?

加世田そんなことはありません。むしろ、自分だけではなく、周囲の人たちも知見がない、専門性が求められる領域だからこそ、ピーター・ティールが言うところの「隠れた真実」が眠っている可能性が高い。そして皆に目を向けられていない領域こそ、市場構造を変革する意義も大きいと思うんです。

だから私は、起業したいけどどんな事業をすればいいかわからない、という人には「自分もよく知らないToB領域に注目した方がいい」とアドバイスしています。

国際物流に限らず、専門性が求められる特定領域にどんな仕組みやサービスが不足しているか、という情報は一般社会にはなかなか入ってきません。だからチャンスなんです。

とにかくその領域のプロや専門家に直接あって話を聞いて、何に困っているか、何がこの領域の課題なのか、を特定する。その行動力さえあれば、みんなが興味がない、わかっていない領域は起業家にとって「果実の多い」領域に変わります。

起業を考えている学生や20代の方ってほとんどの人がToCの、自分の身近にあるマーケットしか見てないと思ういます。でも私は正直、そこには「果実」はないと思ってます。みんなが知ってる領域における課題解決方法なんて、世界中で何百万人もの人が既に考えているはずだから。

もちろん、そんな中でも類まれなる洞察力を光らせて、SnapchatだとかUberだとか、数億人が利用するサービスを立ち上げる人もいます。けれどそれには、凡人には無いセンスが必要。そんなものを持ち合わせていない凡人が戦いやすいのは断然ToBのマーケット。

加えて、ToB領域でお金をいただくことになる法人のニーズは、「売上を上げたい」「コストを下げたい」といったようなロジカルに考えやすいもの。だからどうすれば目的を達成できるかを科学しやすい。

ToC向けのプロダクトのように感性やセンスが問われる量がそこまで多くないので、少々ロジックの組み立てに自信がある人であれば、法人向けビジネスを検討した方がいいと思います。

私は、大学、大学院と進む中で、どれだけ努力しても勝ち目がないほど頭がいい人が世の中にいることを知って以来、「自分みたいな凡人がマーケットで勝つためにはどうすればいいか?」ということを意識しながら、戦う市場やポジショニングを決めてきました。創業当初にリソースも評判もないベンチャーの世界においては、どういうポジションを取るか?という観点を意識することは非常に重要だと思います。

社会にとっての自身の存在意義を重要視されているように感じます。

加世田たしかに、自分が社会のために何をすべきなのか?を問い続けることは重要だと思っていますね。この記事を読んでいる多くの社会人や学生はいわゆるエリート層だろうと思いますが、私からみなさんと共に意識したいことは”noblesse oblige”(ノブリス・オブリージュ)、高貴な者には責任が伴うということ。

私は、現代におけるnoblesse obligeとは「リスクを負って社会を変革する」ことだと思っています。自分が土俵にあがって社会を外部から変えていく、ということです。

今の日本の問題点は企業や産業の新陳代謝がよくないこと。世界の変化のスピードがはやくなった今、既存の企業だけが頑張っても代謝をあげきれないので、とにかく新しい企業がどんどん生まれて社会全体の新陳代謝を活性化させなければいけない。

じゃあ「率先して社会を変える」ポジションに誰が立つかというと、税金をもらって高等教育を受けてきた人たちだと私は思うんです。教育を受けさせてもらってるんだから、その分社会に対して責任を負う必要がある。

もちろん多くの人は失敗するでしょう。その過程で多くのモノを失い、プライドを傷つけられることもあると思います。でも誰かがそれをやる必要があるなら、責任ある人間がやらなければいけない。私はそう考えています。

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見習いたいのは幕末の武士

自身の生き方のロールモデルにしている人はいますか?

加世田自分が起業家として、社会人として生きていく上で、模範となるのは幕末の武士です。

特に尊敬しているのは高杉晋作。彼が日本を欧米の侵略から守った逸話を知ったときには、私も人生をかけて彼のように壮大なことを成し遂げたいと思いました。彼が亡くなった年齢である27歳までに少なくともステージに上がろうと思い、27歳の誕生日に起業しました。

加世田それと、サッカーの本田圭佑選手私に影響を与えてくださった方の一人です。皆さん御存知の通り、彼は2014年のワールドカップで一次リーグ敗退が決まった際に、多くの人からバッシングを受けました。私はそんな安全地帯から非難する人たちに憤りを覚えました。しかしそんなことを思う私自身もステージに上っていない、安全地帯から出ていないと気づいてしまった。だからせめて、ステージに上がろうと思うようになりました。

多くのロールモデルに背中を押されて挑戦できた私なので、いつか私が誰かのロールモデルになれたら良いなと思います。

最後に、キャリアや進路に迷っている人には、自分が責任を負う環境で、何か新しいことを始めてみることをおすすめしたいです。何も勝手がわからなくて恥をたくさんかくことになったとしても、その活動経験を通して、自分が知らなかった得意分野や適性に気付くこともきっとあるはずです。その中で自分が生涯を賭けて取り組むべきテーマも見つかると思います。

こちらの記事は2017年09月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

松本 玲子

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