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アダストリアがスタートアップを取り込み破壊的イノベーションをもたらす

顧客のニーズが多様化するいま、既存のファッションビジネスモデルが大きく変革をむかえようとしている。グローバルワークやニコアンドなど、2...
顧客のニーズが多様化するいま、既存のファッションビジネスモデルが大きく変革をむかえようとしている。グローバルワークやニコアンドなど、20以上のブランド約1500店舗を展開するカジュアル衣料大手のアダストリアは、新たな事業モデルとして今年9月にアダストリア・イノベーションラボを立ち上げた。同プロジェクトが掲げるスタートアップとの提携・協業=イノベーションが、ファッションの未来にどのような変化球をもたらすのか、発起人の高橋朗氏とファイナンス戦略の日野太樹氏に話を聞いた。
斜陽するファッション業界。そりゃあそうだ、だって人の感性と直結する水商売なのだから。ファッションテックで成功例が出ないのもその難しさの裏返しだ。今日黒がトレンドだと思ったら明日は白になる。それがファッションだ。それでもそのジェットコースターに多くの野心家が乗り込む。ものづくり、セールス、ブランディング、全てが一級でないと乗りこなせないのも知らずに。ファッションはビジネスの粋なのだ。さあ華麗なる欲望の世界へ。
  • TEXT BY MEGUMI OTAKE
  • PHOTO BY YUKI IKEDA
17-12-07-Thu
高橋 朗 (たかはし・あきら)
株式会社アダストリア アダストリア・イノベーションラボ長
日野 太樹 (ひの・たいき)
株式会社アダストリア アダストリア・イノベーションラボ

顧客のニーズが多様化するいま、既存のファッションビジネスモデルが大きく変革をむかえようとしている。グローバルワークやニコアンドなど、20以上のブランド約1500店舗を展開するカジュアル衣料大手のアダストリアは、新たな事業モデルとして今年9月にアダストリア・イノベーションラボを立ち上げた。同プロジェクトが掲げるスタートアップとの提携・協業=イノベーションが、ファッションの未来にどのような変化球をもたらすのか、発起人の高橋朗氏とファイナンス戦略の日野太樹氏に話を聞いた。

スタートアップに学ぶ

まず、アダストリア・イノベーションラボの概要と設立に至った経緯を教えてください。

高橋この事業が具体化したのは、私が一度弊社を退職し、別のマーケティング事業に携わっていた期間にに弊社役員と会話したことがきっかけでした。

このまま、弊社として既存の事業をストレッチしていくことも当然必要なのですが、スタートアップも含め、バーティカルなサービスを提案する人が世に増えてくると、我々がいまやっている本業もいずれ脅かされるのではないかと。

私もマーケティングの経験を積んできたので、消費者の思考自体がパラダイムシフトし、それが1、2年のスピードで変化していると感じていたので、共感せざるを得ませんでした。

高橋 朗氏

どうせ壊されるんだったら、自分たちで壊すようなモデルを先につくった方が本来の姿なんじゃないかと意見が一致し、新事業の話が持ち上がりました。具現化するにあたり、弊社の事業内容を理解した責任者が必要とのことで新たに声をかけて頂き、今年7に再入社。9月にイノベーションラボを発起しました。

準備期間は約2ヶ月です。いまのところ、投資担当の日野と2人でスタートアップの目利きや、市場のエンドユーザーの動向を分析するなどし、新プロジェクトを検討しています。

日野イノベーションラボ自体が、CVCの機能を持っているので、パートナーのスタートアップに対して投資も行います。私はどちらかというと、事業モデルを検討するパートを主としており、既存事業との仕分けや、弊社でできないような事業モデルをつくる役割を担当しています。

日野 太樹氏

これから連携・協業したい企業、また投資したい事業は具体的に決まっているのでしょうか?

高橋まだ詳しいことがリリースできない状況なのですが、冒頭で申し上げた通り消費者の嗜好はさまざまで、売り方や買い方が急速に変化しています。そういった点を踏まえ、スタートアップと連携をしていくことが第一義と考えています。

ただ、ファイナンスのリターンは早い段階では求めておらず、弊社単体でできないことを、外部の力を使いながら一緒にシナジーしていくことが優先です。年内には第1号案件を公表予定です。

組みたい企業は探さないと出てこないものと思っていましたが、弊社でピッチイベントも行っているので、スタートアップ側から声をかけて頂く機会は多いです。日野がもともとスタートアップのCFOなので、その界隈のリレーションが豊富で、情報は比較的集まっています。

いまは、メンバーが2人しかいないので拾い切れていない部分もありますが、事業がある程度アウトプットしてきた段階で海外も視野に入れるつもりです。

日野我々がスタートアップと組むのは、彼らがテクノロジーの活用の仕方がうまいということも理由にあります。ひとつずつ単体でとると、既にみなさんがご存知の技術でも、スタートアップが様々に組み合わせて新しく提案し、そして一気に成長させられる可能性が高いです。

そこにいち早く我々も関わっていきたい。単体でテクノロジーの活用は表現しづらいので、組み合わせ能力を外に求めることが有効だと思っています。

高橋スタートアップからは学ぶことも多いです。彼らは何よりもまずユーザーを見ています。それは小さい領域かもしれないのですが、そこに対しての全力投球っぷりがすごいんです。

我々が本来忘れていたもの、それこそ弊社は1店舗の紳士服屋から創業したのに、1500店舗になったらなぜそれができないのか、疑問符を自身に投じるきっかけにもなります。スタートアップは、ユーザーに対してどんな世の中を作りたいか、というのが前提にあるビジネスなので、その根源がイノベーションの種になるはずです。

スタートアップとの取り組みで重要視されているテクノロジーの活用ですが、ファッションにおいてどのような価値や役割があるのでしょうか?

高橋テクノロジーの部分でいうと、ふたつの役割があると思っています。

ひとつめはITのインフラと言われるプラットフォームビジネスです。ラインやメルカリはそのプラットフォームがあって情報がやりとりされる。そのようなプラットフォームとしてのITの考え方と、その上にあるアプリケーションのこなし方、要はキュレーションする部分とのふたつに分かれていると思っています。

モノの売り方、買い方でいうと、どちらかといえばアプリケーション寄りになってきますが、その次のステップとして、その下を支えるプラットフォームのインフラ部分が必要かなと。その2点が、いま考えているITの思考です。

御社のブランドラインアップは若い世代がターゲットですが、テクノロジーを駆使したイノベーションはデジタルネイティブ以外の世代にも適用できそうですか?

高橋いまの60代と5年前の60代とでは、圧倒的に価値観が違います。そこに関してはそんなにハードルはないと感じます。現在は付加価値のあるサービスがないがゆえに、広がっていないだけだと思っている。また、我々の強みである1500店舗以上というリアルなチャネルは、デジタルネイティブにとっても上の世代にとっても、体感の場として必要不可欠なものです。

日野デジタル完結となると、すべての世代にというのは難しいですが、革新的な組み合わせによって今後、実店舗でもテクノロジーに触れる機会が増えてくることを予想しています。

メルカリを超える破壊

今後アパレル業界には根本的にどのような変革が必要なのでしょうか?

高橋いま、ブランドも商品も、ものすごい量があり、弊社だけでも一日に販売している商品数が全ブランドで1万2000アイテムほどあります。そんな数、1ユーザーからしたら探せないし、本当にそれでいいのか?ということも含め、情報量を整理していくことが最優先です。

情報量の整理を有意義にすることで、消費者の売り方、買い方は今後どのように変化していくと思いますか?

高橋いままさに変化している途中だと思います。昨今だとゾゾユーズドがあり、ひと昔前だと古着と言われていたものが、また違う価値を持って2次流通しはじめていたりします。CtoCもそうですし、新品も中古も含めてお客さまとお客さまがつながって、そこに商いが成立する。

いままではブランド側がボールを持って、消費者に価値を提供していたものが、それが薄れてきているように感じます。エンドユーザーのお客さま自身で、そのボールのやりとりをしているというのが大きな変化ですね。私としてはそこが一番引っかかっている部分なので、お客さまの嗜好性にあわせて事業を変えていきたいと思っています。

“服を作って流通する時代は終わっている”と思いますが、それに対する回答として、ファーストリテイリングとスタートトゥデイといった2大巨頭も情報を活用した新しい仕組みを進めています。そのような中御社では、その一線を越えたイノベーティブな事業を検討しているということですか?

日野 我々は持続的イノベーションではなく、破壊的イノベーションを求めています。そのためのCVC機能でもあります。

マーケットが小さくなっていくなかで、可処分所得をどこに使うかというときに、服ではなくそれ以外のものに流れており、そこを取りにいきたいという思いがあります。

単純にアパレルブランドだと、社内で考えるとだいたい同じような答えが出て、あとは実行するかどうかの判断だけになります。外部であることの意味は、破壊的イノベーションということにつながります。オープンイノベーションによって、従来では考えられなかった事業を担っています。

イノベーションラボ発の、これまでにない創造的アプリが誕生することも?

日野 ありえますね。 例えばメルカリって、数年前は誰も想定していなかったですよね。どうせやるなら、それを超えるものを目指したいと思っていますが、いま、想像を超える技術などをつくることは我々だけではできない。スタートアップの起業家と取り組むことで、現実にしていきたいです。

グーグルで人工知能開発の指揮を執るレイ・カーツワイルが、洋服は近い将来3Dプリンターにソフトを入れて、好きな服を手軽にプリントアウトするようになると発言しています。行きつく未来としてあり得るのでしょうか?

高橋その問いに関しては難しいと思っています。

ファッションはもともと模倣の連鎖なので、パリやミラノなどのコレクションベースのものがシャワー効果として一般に落ちていき、トレンドになりますよね。

そのラグジュアリーを頂点とした感度のヒエラルキーが覆るような豊かさとしてデジタルが駆使されたら、民主化されたファッションが生まれるかもしれない。

ファッション界において破壊的イノベーションを御社が提案したら、ラグジュアリーのヒエラルキーが覆る可能性も?

高橋それができれば、真の豊かさを象徴するファッションのあり方になると思います。

ラグジュアリーを頂点としたヒエラルキーなどのビジネスモデルは未だ健在していますが、実は人が本来幸福と思うこととは違うのではないでしょうか。実際、産業革命以降、欧米人の幸福度はさほど上がっていないというリサーチ結果が出ています。

イノベーションを重ね、そのヒエラルキーがいつか覆るときこそ、ファッションの新しい価値が生み出せるのかもしれません。最終的には、そこに至るまで見届けたいですね!

ファッションが最強のビジネスである

斜陽するファッション業界。そりゃあそうだ、だって人の感性と直結する水商売なのだから。ファッションテックで成功例が出ないのもその難しさの裏返しだ。今日黒がトレンドだと思ったら明日は白になる。それがファッションだ。それでもそのジェットコースターに多くの野心家が乗り込む。ものづくり、セールス、ブランディング、全てが一級でないと乗りこなせないのも知らずに。ファッションはビジネスの粋なのだ。さあ華麗なる欲望の世界へ。