テレビ東京を救った“スピード×検証力”。
「新規投資=●億円」という業界慣習に風穴を開ける、技術集団アンドゲートの魅力
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FastGrow読者であるならば、アンドゲートには映像領域で成果を上げている印象が強いかもしれない。過去にも、テレビ局による動画配信プロジェクトの事例を紹介した。だが、彼らが専門とするのは事業プロジェクトの立ち上げ、推進、実行に関わるマネジメント。特定の業種や技術領域にこだわることなく、成果を積み重ねている。
しかし、今回もまた映像領域での事例を紹介する。なぜか? 「専門家集団ではなくとも、ここまでダンドルことが可能な集団」だということが、なによりわかりやすいケースだからだ。いったい「テレビについては素人」な田村たちが、今度はどんなデカいことをやらかしたのかを見ていこう。
- TEXT BY NAOKI MORIKAWA
「アーカイブのクラウド化」が頓挫する!?そこで泣きついた先がアンドゲート
テレビ関係者たちが言う場合の「アーカイブ」とはつまり放送済み映像素材のこと。華やかな印象しかないテレビ局界隈が、実は恐ろしくアナログな世界だということは、ある程度知られ始めているだろうが、つい数年前まで彼らにとって「アーカイブ」はイコール「ビデオテープ」だったというのだから驚く。
北村それでも、特にこの3〜4年で「このままじゃいけない」という機運が高まって、アーカイブ素材のデジタル化を進めて、なおかつその管理をクラウド上でやろうという声が上がるようになったんです。
そう語るのは、テレビ東京の北村嘉邦氏。約20年にわたり一貫して映像技術の世界を生きてきた人物だ。地上デジタル放送への完全切換やオリンピック番組の現地対応など、局が迎える大きな変化や挑戦には、必ず何かしらの形で携わってきた。そんな北村氏が近年格闘し続けているテーマが、このアーカイブのファイル化とクラウド活用。
北村映像のデジタル化については、世界的にも放送局のデファクトになりつつあるMXFファイル(Material eXchange Format)という大容量の映像・音声ファイルを扱うコンテナフォーマットで進められてきたんですが、とにかく1つひとつのファイルが巨大ですから、これをクラウドにすべて上げて、しかも必要に応じて迅速に利用する仕組みなんて、日本では聞いたこともありませんでした。
「さあ、どうしよう。いったい誰に相談すればいいんだ」という、手も足も出ない状況がさっそくやってきたんです。
データ放送やデジタル編集など、この世界の先進部分には明るいほうである北村氏。自身も学生時代から技術の領域にどっぷりハマってきたというのだが、このときばかりは途方に暮れた。
「データをクラウド保存していく予算は通ったが、そのデータを管理するシステムの予算が先送られるという事態に陥ったのです。クラウド化全体の計画先送りも頭をよぎりましたが、大量データのファイル化とクラウド投入はそれだけでも時間がかかることがわかっていたため、少しでも前に進むために、大きな予算もない中、とにかく技術検証を進めてくれる良い相談相手はいないか」と各所に掛け合ったところ、アンドゲートという会社の存在を知らされたという。
田村前に(FastGrowに)取材していただいた動画配信サービスのプロジェクトで関わった方たちからのご縁で、北村さんを紹介していただきました。こうやってご縁がつながっていくのは、ベンチャーの我々にとっては非常に大きいです。
2018年の取材時に、動画配信サービスの立ち上げプロジェクトについて語ってくれた田村氏らの仕事ぶりをよく知り、評価している人物が、アンドゲートの存在を北村氏に紹介したというわけだ。田村氏をはじめ、アンドゲートの創業メンバーがAWS領域で成果を上げてきたことも知っていたからだろう。
「うちがやらなかったら、どの会社もやってくれませんよ(笑)」
北村ただ、正直申し上げますと、名前をきいた当初はアンドゲートさんのことを何も知らなかったんです。
そこで当社の動画配信系の担当者に話をしたら、「以前プロジェクトで田村さんという人と一緒に仕事をしたことがある」、「AWSには相当詳しい」というわけです。すぐに連絡させていただきました。あの時は時間も予算も全然なくて困り果てていたんですから。
田村はい、お話をきいて「やりましょう」と即答しました。採算度外視でとにかく進めさせていただくことにしました(笑)。
少なくとも大容量ファイルをクラウドに上げる技術自体はさほど難解なものではないとわかったので、スピード重視でとにかく結果を見てもらおうと考えたんです。
あと、「これ、うちがやらなかったら北村さんはどうなってしまうんだろう」とも思いました(笑)。正直、テレビ局の案件ということで尻込みして工数を多く見積もる会社が多いだろうから、(北村さんから)提示されたこの金額と納期で「対応できます」って言う会社、うち以外にないだろうなって。
そろそろ注釈を書いておかなければいけない。たしかに田村氏をはじめ、アンドゲートにはAWSに精通した技術陣がいる。だが、話題に上っている動画配信領域や、大容量映像アーカイブのクラウド活用という今回のテーマなどに実績と知識とノウハウを備えた面々がいるのかといえば、決してそんなことはない。
そもそも、いずれも「日本のテレビ界では初」と呼んでも差し支えないような前人未踏のチャレンジ。経験者や有識者そのものが、ほぼ存在しないプロジェクトに、今回もアンドゲートは門を開いたということになる。果敢といえば果敢だが、無謀といえば無謀だ。
すでに日本のテレビ局は良くも悪くも大企業と化している。放送事業は総務省管轄の許認可事業でもあるから、何かミスがあれば、重大なリスクを背負う危険性だってある。
だが、田村氏はいつものように涼しく笑いながら言う。「だって、誰かが壁打ちの壁をやらなければ、どんな話も前に進まないじゃないですか」と。そこで北村氏に尋ねた。「こんなにチャレンジングきわまりない人たちに任せて良かったんですか?(笑)」と。
北村あの時はとにかく余裕がなくなっていて、誰か相談に乗って欲しかった、というのが正直な気持ち。
「壁打ち」と田村さんは言いましたが、本当に練習する相手さえいない中で、いきなり本番の試合に臨まなければいけないような状態でした。アンドゲートがベンチャーだからどうとか、そんなことは問題になりませんでした。
ただただ、当社の無茶な要求でも「やれます、やります」といってくれるパートナーが現れて救われた、という心境だったんです。
技術からビジネスモデル・事業計画まで。「町のクリニック」のような「万能さ」と「スピード対応」に特化する
そうは言ってもビジネスの世界である。「大テレビ局と小ベンチャーの美しき協働物語」ばかりとはいかない。
北村ひとまずのクラウド活用の道筋が付き、我々は大いに喜びました。その後アップしたMXFファイルの数が1万件を超えたあたりから、動作が急激に遅くなる技術的ピンチを迎えましたが、この時もアンドゲートが課題解決の突破口を開いてくれました。
民放他局と比較しても、当社はすでに、アーカイブ管理の先進性で胸を張れるレベルまで到達できていたんです。ただ、昨年あたりから社内のコンテンツにまつわる全体的なシステム改修に合わせ、改めてクラウド上のデータ管理の検討が再開されました。この時には、アンドゲートさんにはお声がけせず、大手システム企業さんを対象にコンペを実施しました。
「こういう案件については、大手システム企業さんを対象に」と赤裸々に語る北村氏に対して、田村氏はどう感じるのだろうか。そう疑問に思ったところ、当の本人はけろりとこう答えた。
田村それで正解だと思いますよ。
キー局にとってみれば、アーカイブ素材の扱いが原因で放送事故にでもなったら、大変なことになります。技術面の話だけでなく、様々なルールや規制、あるいは権利が絡んでくるのが放送局なので、そうした広範にわたるリスクマネジメントを考えれば、アンドゲートよりも得意としている企業はたくさん存在すると思っています。
我々には我々のできることがありますし、その中でテレビ東京さんと今後もつながっていけるなら、それで十分ありがたいんです。
技術のことで言えば、北村さんの決断のおかげで我々は「放送素材のデジタルアーカイブをクラウドに乗せて活用する」ためのノウハウ、日本のどこにもなかった知見を獲得することができたんです。技術以外の面でも、日本の放送界がどうなっていて、意思決定がどう行われているか等々を学ぶことができましたし。
こんな例えが適しているかどうかはわからないが、医療界を例にすればアンドゲートは「巨大な総合病院」ではない。小さな町の「クリニック」なのだ。
病人は時に、自分の抱えている症状を治せる医者がどこにいるのかわからなくなる。痛みを抑える処置を内科医に相談すればいいのか、外科なのかさえわからない。仕方なく総合病院に行ってはみるものの、ひたすら待たされる上、いろいろな科をたらい回しにされたりする。
ところがこのアンドゲートというクリニックは「よろず相談所」的に門を開いて受け付ける。「なんでもOKというけれど、本当に大丈夫なのか?」と患者は少し疑念を抱くが、とにかく手早く診断と処置を施してくれるから、藁をもすがる思いで受診する。その後「もっと根本的に、完全に治したい」と思った患者が総合病院を選ぼうとも、クリニックとしては「どうぞ、どうぞ。完治を目指すならそのほうがいいですね」というのである。
なぜか? 「万能さ」と「圧倒的なスピード対応」という強みフォーカスした診断を続けることこそが、患者からも総合病院からも「頼れる存在」としての信頼を醸成するからである。それがまた新たなビジネスにつながることを、クリニックは知っているからだ。
事実、現実に話を戻すと、テレビ東京からアンドゲートへの信頼は、絶大なものになろうとしている。その証拠に新たなチャレンジのパートナーとして既にアンドゲートが選抜されているのであった。
北村テレビ東京に限らず、ここ数年でテレビ局もオンラインでの動画配信に注力をしてきました。ですから今度はこの領域でのアーカイブの扱いも考えていかなければいけないんです。動画配信サービスでも放送済みアーカイブのクラウド化でも、実質的に最前線で結果を出してくれたのがアンドゲートですから、ここはもう文句なしでお願いをしているところです。
どうやら「お願い」の範囲は技術面ばかりではないようだ。例えばアーカイブのクラウド活用にどれほどのコストをかけて拡充すれば赤字化しないのかなどなど、北村氏はそうした相談事でも田村氏に期待しているのだというし、田村氏のほうも「事業や経営に関する相談だって、実際に少人数で事業を創ってきた私たちにとっては、それこそ望むところですよ」と微笑む。そう、ここからが本来のアンドゲートの腕のふるいどころと言えるのかもしれない。
ストライカーに最高のボールを供給する仕組みをつくる。「アンドゲートはビジネス界の“ブルーロック”になる」
前回は『左ききのエレン』を例え話として持ち出した田村氏だが、今回もまたマンガを例に挙げて、これからのアンドゲートを語り始めた。日本サッカーの革新的向上のため、傑出したストライカーを生み出すべく創設された「ブルーロック」という育成施設を舞台にストーリーが展開されるマンガが『ブルーロック』。それを田村氏は引き合いに出した。
田村要するに、どうやってチームビルディングをしていくのか、という点で『ブルーロック』は独特の面白さを持っているんですが、テレビ局の世界をサッカーに例えると、北村さんのような存在はストライカーではなく、そこにキラーパスを出すべきミッドフィルダーなのだと思うんです。
ストライカーは、制作のリーダーだったり、編成局の担当者だったり。彼らは例えば視聴率というゴールに向かってシュートを繰り出すわけなんですが、そのシュートを確実に得点にしていくためには、最高のパスが最高のタイミングで来なければいけない。
アーカイブという非常に扱いづらいボールをしっかりキープして、ここぞ!というタイミングでストライカーに渡すのが北村さんたちのチームの役目ですから、アンドゲートはこのミッドフィルダー集団がボールを扱えるような仕組みを用意していくんです。
北村田村さんの例え話に乗っかって話しますと、例えばある選手がすごい記録を出したとします。そのニュースを伝える時、それまでに蓄積されたアーカイブが活きてきます。その人の過去映像の中から最適なモノを検索して、即座にオンエアに使っていく。ここはチームプレイですし、そのプレイを想定して僕らはパス出しの準備を整える役目を担っています。
私はアーカイブを担当してから、こう思うようになったんです。「過去の資産を未来のために投じるのが自分たちの使命であり、とても重要な役割なのだ」と。
ともすれば「使用済み素材の管理係」というネガティブな印象を持たれかねないものの、そんなことはないのだと言い切る北村氏。事実、どんなにYouTubeやNetflixなど動画配信の担い手がプラットフォームとして、コンテンツ制作社として躍進しようとも、オリジナルコンテンツの制作力においてテレビ局は突出しており、その強みには配信事業者たちからの憧れと羨望が集まっている。その価値は使い方次第で「放映済みか否か」など関係なく維持向上されるのだ。とりわけアーカイブ動画の価値が再注目されたのがコロナショックでの非常事態だったという。
北村制作現場がストップしたんです。オーバーな表現ではなく「放映できるものがない」という事態を放送局は迎えました。そこで、どの局も過去の人気コンテンツの再放送・再編集を実行し、これが想定外の支持を視聴者から獲得しました。
テレビ局がオリジナルで制作したコンテンツには、十分に資産価値があるということを証明したわけですから、私としても改めてアーカイブの保存と貸出しに対し、機動性を上げていかなければいけないと再認識しました。
田村今後、新型コロナウィルスの状態がどうなろうと、映像コンテンツの世界は進化していくと私も思います。テレビ局が放映するライブ映像にも、動画配信事業者が提供するコンテンツにも価値はある。どちらかが生き残って、どちらかが廃れるなどという未来ではなく、双方が良い意味で混ざり合い、競い合いながら発展していく。
そうなった時に、何をどうすれば収益が上がるのかを今から考えるべきですし、そういう「ビジネスモデル構築」、「事業創り」という部分でもアンドゲートがパートナーになれるのであれば、いくらでも壁打ちの相手をさせてもらいます。まさに、ミッドフィルダーにボールを出し続けます(笑)。
どのストライカーにどういうパスを出せばシュートが決まるのか、というような戦略立案だって、相談さえしてくれれば喜んで一緒に考えます。僕らはそのように「勝てるチームを組成し、事業を前に進めるサポート」がしたくて、アンドゲートを立ち上げたわけですし。
この後、北村氏と田村氏は、系列局の少ないテレビ東京特有の地方局への番組販売について、熱く語り合い始めた。テレビ東京は各地に積極的な番組販売を展開しているが、いまだ放送用メディアでの配送対応を行っているという、今年のコロナの影響を受け、「現物渡しよりもデータ送信の方が安全性が高いのでは?」といった意見もあり、オンライン化の検討も行われていたが、いまだコストの壁に阻まれ、既存手法が維持されているのだという。
それを受け、田村氏は「今現在のコストでデジタル活用のほうが高くついても、それが今後ずっとそのままだとは考えづらい」と答え、北村氏も大いに共感しうなずく。「スピードも利便性もコストも、間違いなく未来に近い技術のほうが向上していく。それならば、お金をできるだけかけずに、他社が試していない今のタイミングからチャレンジすべき」と持論を披露。「じゃあ、どうやってテレビ東京の上層部を納得させようか」をテーマに語り続けたのだ。
「いまある予算で、新しいチャレンジしたい」ときこそ、アンドゲートを思い出してほしい
ひとしきり北村氏と語り合った田村氏に最後に聞いた。「これがアンドゲートの目指している“顧客への刺さり方”なんですね?」と。
田村はい。とにかく、「試してみたいことがあるけれど、お金がない。投資委員会を通す時間もない」という状況のときに、「とりあえずアンドゲートに相談するか」と想起してもらえるベンチャーでありたいんです。
テレビ局をはじめ放送業界もそうですし、製造業、金融業も似た構造だと思いますが、「新しいチャレンジ=●億円の投資が必要」みたいな固定概念がまかり通っている業界ってまだまだ多いですよね。そういう業界の慣習を変えることで、やる気ある人たちの新しいチャレンジを応援したい。そういう旧態依然とした業界にいるチャレンジ精神旺盛な人たちに、「アンドゲートに頼めば、どこよりも早く・小さく頼める」ということを知ってもらえたら最高なんです。
今回のテレビ東京さんのアーカイブのケースもそうですが、我々は決して「何でも知っているし、何でもできる集団」ではありません。でも、特に先進性の高い、他社がまだ形にしていないようなチャレンジに関しては「先端技術も駆使して、なんとか形にする」自信がある。何かしらの手がかりを見つけて、そこからこじ開けていくだけのスピードと技術力。この力をアンドゲートは持っていると自負しています。
北村さんもそうでしたが、最初の突破口さえ開けてしまえば、そこから何度も華麗なキラーパスを繰り出せるだけのミッドフィルダー人材は、どこの企業にもいるはずで、「使えるボール」を供給し、「壁打ち」できる私たちのような企業の存在を、待ち望んでいてくれたりします。
何度も繰り返しますが、領域に対する高い専門性が必要なチャレンジであったり、絶対に失敗できない一度切りのチャレンジであったりするならば、大規模な専門家集団に任せるべきです。しかし、今の技術や事業を取り巻く環境下ですと「小さく試せないチャレンジ」のほうが少ないのではないでしょうか?「早く、小さく試す方法はないのか?」というお題がある際には、アンドゲートがどんどん首を突っ込んでいきたいと思っています。
「世の中に事例がないなら、試してみたらいい。万が一トラブルが起きても、即日で絶対に解消する」。創業以来、そういう考え方とスピード感で仕事をしてきて、実績も出してきたからこそ、北村さんのお力にもなれたはずです。「これちょっと試してみたいんだけれど、アンドゲートさん、できる?」って聞かれたら、大体のことであれば「喜んで!」と言えるはず。そんな自信がどんどん高まっています。
こちらの記事は2020年09月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
森川 直樹
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