事業開発スキルは「オーバーラップ」できる企業でこそ磨かれる──ビットキーのエース2名が語る「価値」にこだわる仕事の真髄
「事業開発(BizDev)」というポジションへの注目が高まっている。だが、その使われ方はさまざまで、定まったものがほとんどない。特に、20代の求職者と、経営者の間では、その認識に大きなギャップがあるようだ。FastGrowのある取材において経営者が「学生が『BizDevをやりたい』と希望を言うが、できるわけがない」と愚痴をこぼす場面もある。
結局のところ、事業開発とはどういった仕事のことを指すと考えるべきなのだろうか。今回はそのヒントになる事例として、ある企業を取り上げたい。『テクノロジーの力であらゆるものを安全で便利に気持ちよく「つなげる」』をミッションに掲げるビットキーだ。以前の記事でも、創業3年で多角的な成長を続けられる秘訣として「セールスはもはや事業開発である」といった内容を取り上げた。
だが、そもそもビットキーでの業務は、職種を問わず“事業開発的"であるとすらいえるのだという。果たして、それは一体どういうことなのか。その真相を探るべく、同社で活躍するカスタマーサクセス(以下、CS)の島崎 哲也氏と、カスタマーエクスペリエンス(以下、CX)の星山 由佳氏に、それぞれが歩んできた道のりやビットキーで得られた経験についてうかがった。
- TEXT BY WAKANA UOKA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
ポジションなんて関係ない。
価値提供にこだわるのみ
今回お話をうかがった島崎氏と星山氏は、ともに「事業開発部」のような組織に属しているわけではない。しかし、二人は口を揃えて「ビットキーの業務は、すべてが事業開発的だ」と言う。果たして、どういった点を指して“事業開発的”だというのだろうか。
島崎氏が語った事例は、CSでありながら、多くの読者が想像するCSとはかなり異なる特徴を持っているようだ。
島崎具体的な話をしますと、今の私はCSがメインのポジションであり、確かに事業開発部ではありません。ただ、CSの中でやろうとしていることは、極めて“事業開発的”なんです。

株式会社ビットキー Home事業 CX / Project & CS Team Manager 島崎 哲也氏
島崎というのも、今まではCSが提供するサービスに対していわゆる製品サポート的なサービスを提供するに留まっていたのですが、今まさにこれをさらに一歩前に進めて、より付加価値のあるサービスとしてメニュー設計、価格付けしていくことを準備しているんです。
自社のサービスラインナップにCSとしてのサービスも組み込み、「製品活用をさらに進めるために、このような付加価値サービスがあります」とお客様に提示できるような体制をつくるのは、正に“事業の未来を開発すること”だと考えています。ビットキーではどの部門においても「自ら考えて事業の未来をつくっていい」といったカルチャーがあるんです。
そう、単なるアップセルやクロスセルではなく、無料で提供していたCSのサービス自体を、「対価を払ってでも求められるサービス」の仕事として、新商材を開発しようとしているのだ。これを事業開発と言わず、何と言おうか。
もう一人の星山氏は、CX-A(Customer Experience Assurance)という、“顧客体験の保証”をミッションとするチームでCXとして活躍してきた。主な役割としては、顧客体験を良くするために、プロダクト導入・改善についてのすべてを検討する。この仕事が“事業開発的”というのは、どういうことになるのだろうか。
星山私は入社前から「ビットキーはプロダクトマーケットフィット(PMF)を大切にしている」と聞いていました。サービスをつくったとしても世の中の人が使ってくれないとダメですし、広まらないと価値のないものになってしまうわけですね。
ですから私たちCXチームでは、お客様から、現在はまだ実装していない機能のリクエストをもらったときに、まず自分たち一人ひとりの頭で、機能の要・不要を考えます。「すぐプロダクト側に相談する」とか「経営陣の考えを知りたい」ということにはなりません。CXという役割として「本当にユーザーにとって必要かどうか?」という熟慮を経ます。

株式会社ビットキー Workspace事業 Enterprise Project 兼 Recruiting Unit Leader 星山 由佳氏
星山そのため、「開発要望があったら、とりあえず開発部門に共有」ということはしていません。「これは本当に、サービスビジョンの実現のために必要だね」と、CXチームで検討した上で、開発部門に相談をし、実装の是非や優先度を決めていくんです。これもまた、プロダクト開発、ないしは事業開発だなと思っています。
私もこれまでいくつかの新規事業に関わってきましたが、そのときと同じくらいの温度感で、真剣にユーザーに向き合い、新たな価値を生み出していっている感覚が、常にあるんですよね。
ビットキーはプロダクトアウトの思想を色濃く持つ企業ではあるが、CXという顧客に向き合う星山氏たちは、マーケットインの思考法でも新規事業開発を担っているようにも見える。「プロダクトマーケットフィット(PMF)」の体現のため、プロダクトと顧客やマーケットとの間に立ち、プロダクトマネジャーのように動いていると考えることもできそうだ。
何をもって事業開発と言うべきか、ここまでだけではとてもまとめられない。それでもただ一つ言えそうなのは、「掲げているビジョンが壮大だからこそ、ポジションにとらわれることなく、顧客に新たな価値を提供するためにできることを考えている」という意識が、ビットキーにはあるということだろうか。
「価値」に向き合うために、必要なことは「なんでもやる」
最近の象徴的な動きには早速驚かされたが、おそらく入社直後からこうしたことを担ってきたわけではないだろう。そこであらためて、二人がビットキーに入社してから経験してきた仕事内容について聞いてみたい。
まずは島崎氏だ。島崎氏は当初カスタマーサクセス(CS)として採用が決まったものの、入社3カ月はセールスとして働いていたのだという。
島崎入社直後に「新しい事業が立ち上がったから、その提案活動、セールスから仕事を始めてくれないか?」と言われ、「なんでもやってやろう!」といった心意気のままセールスとして仕事を始めました。
しばらく営業活動をした後、当初の予定通りCSに異動。私自身、CSは未経験でしたし、会社としてもまだCSの立ち上げ時期でもあったため、メンバー全員が手探りでビットキーのCSをつくりあげていった感覚です。
いざCSとしてお客様先に行ってみると、驚いたことがあります。それは、お客様から「ビットキーの製品は確かに買ったけど、どうすれば最も良い形で使えるの?」という話からスタートするんです。せっかく購入していただいたのにまだまだプロダクトを使いこなせていないケースが見受けられる。これはCSとして、真っ先に取り組んでいかなければならない重要な課題だと、チーム全員で気を引き締めました。
ただ一方で、新たに立ち上がるCSだけで対応しても、本質的な課題解決にはなりません。先輩やマネジャーとそういう話をしていると、いつの間にか組織を超えて、セールスや経営陣も関わってくれるようになっていたんですね。ビットキーでは事業開発的に他者を巻き込んでいくべきである。そんなカルチャーを感じました。
結果として、お客様1社ごとに丁寧に課題を解決していくことができ、継続利用、追加契約も積み重ねていける仕組みになってきています。
そんな島崎氏は、CSとしての成果を認められ、社内表彰を受けたことがある。そしてその評価を手繰り寄せた同氏の事例は、ビットキーのCSとして最初のベストプラクティスといっても過言ではなかった。そんな当時の仕事内容を、島崎氏は次のように振り返る。
島崎これはビットキー立ち上げ間もない時期からサービスをご導入いただいている、ある不動産会社様とのエピソードです。
もともとプロダクトの価値というよりも、ビットキーという会社自体の将来性や可能性に期待して大口の取引を始めてくださっている、Home事業における重要なお客様の一つでした。それゆえ、というわけではありませんが、サービスを正しく理解し、使い倒していただくまでには及んでおらず、もっとしっかりと利用をサポートしていくことが必要な状況でした。私がこのお客様を担当するようになったとき、契約しているスマートロックの総数のうち、毎日しっかり稼働していた台数は限定的な状態だったんです。

島崎先方としては、ビットキーを応援できれば良いという気持ちもあったみたいで、稼働数はあまり気にしていませんでした。でも、さすがに健全な価値提供ができているとは言えない。そう思って積極的にお客様へ活用案内のコミュニケーションを取っていった結果、私がアサインされてから約1年でアクティブな稼働台数が1,000台を超える大型ユーザーにまでなっていただくことができたのです。
なるほど確かに、CSとしては申し分ない働きと言えるだろう。契約していながら活用されていない状態は、チャーンだけでなく長期的な信用失墜にもつながるなど、さまざまなリスクがある。
だがもちろん、島崎氏の貢献はそうしたリスク回避にとどまらない。顧客企業の事業成長にまでつなげたのだ。これぞ、この記事のテーマである“事業開発"と言えるのではないだろうか。
島崎その表彰に繋がったのは、単に非アクティブだった利用状況をアクティブに変えたからではないと思っています。
この不動産会社様は我々のプロダクトを活用することによって、既存事業の成長を加速させることができたんです。だから、結果として我々の新商品を追加導入までしてくださいました。お客様が、心からビットキーと、そのプロダクトの価値を認めてくれた、これがポイントだったのだと感じています。
一方の星山氏も、入社してすぐに破天荒な経験をしている。なんと、自社プロダクトについて理解を深める前に、工事現場のイロハから学び始めたというのだ。
星山入社当日に、「Workspace(現W&E)事業部において重要なプロジェクトがあるから、支援してくれないか?」と言われ、二つ返事で受けてしまったんです。
その案件は、『workhub』というプロダクトのかたちが、ある程度できあがるきっかけとなった重要案件でした。しかも、顧客企業の本社オフィス移転と、新規ビル建設と、ビル全体へのプロダクト導入がセットで動くかたちです。

星山タブレット一つを壁につけるにも、ゼネコンや内装会社、デザイン会社、配線会社といったさまざまなステークホルダーと連携し、慎重に工事してもらわないといけない状況。プロダクト駆動の要となる配線がきちんと整備されていないと、カードリーダー1つすら動かないわけです。
そこで、自主的に配線図の見方や電気工事士の勉強をして、知識を付けることにしました。座学だけじゃないですよ、ヘルメットをかぶって脚立を抱え、毎日現場に通うんです。時には工事現場の人に「工事用語や現場での立ち振舞」なんかも教えてもらいながら仲良くなったりと(笑)。
興味深い話ではあるが、これが“事業開発”にどのようにつながるのか、この時点で分かる読者は少ないだろう。それをここからきちんと解説してもらう。
星山これは特異な例だと思いますが、プロダクトについて知る前に、プロダクトが動く裏の仕組みを学べたことは大きかったです。工事の現場について詳しくなりましたが、そこから「ここにプロダクトを設置したらお客さまにとってどうなるか?」といった顧客体験について解像度高く考えられるようになった感覚が強くあります。ソフトウェアだけを提供するスタートアップではまず得られない機会ですよね。
この経験があったからこそ、自分が社会に広めているプロダクトが、社会とお客様に対してどれだけ具体的な価値を提供できているのか、よく理解できています。どんな業務を進めるにあたっても、「自分が関わることで、新たに提供すべき価値はなにか」という点を突き詰めて考えられるようになりました。これは私にとって大きな成長に繋がったと思っています。
そんな私は現在、2022年1月から採用チームに関わっています。1~2月まではプロジェクトチームと兼務し、3月からは採用に専念。事業開発人材の採用を加速させるためにも、これまでの経験はかなり活きてくると思いますね。
入社前にイメージしていた仕事内容とはまったく異なる業務に就くことになった島崎氏と星山氏。人によってはこうした変化に対し、「話が違う」と不満を抱くこともあるように感じる。そんななか二人はその体験をポジティブに捉え、成長の糧にしていることが明るい語り口からうかがえるが、実際のところ違和感は覚えなかったのだろうか。
島崎セールスへのアサインを打診されたこと自体には何も違和感は感じませんでした。私の場合は前職の教育の賜物なのか、「〜を任せたい」と言われたら「ぜひ!やります!」というマインドなんですよね(笑)。
むしろ、そこで期待される成果を上げる前にCSへ異動してしまったので、このままだと会社にとっても自分自身にとっても良くないんじゃないかなとは思っていましたが。
星山私もアサインの内容について何か不満を感じることはなかったですね。手段にこだわるのではなく、あくまでお客さまへの価値提供にこだわっているので。なので、どんな仕事であれお客さまに対して価値を提供できていないという状況こそが“違和感”となりますね。
とはいえ、いきなり工事現場に出て四苦八苦するとは予想だにしていなかったですけどね(笑)。正直、自身の力量不足で悔し涙を流したこともありました。
「現場を見ることで、プロダクトの裏の仕組みを知ることができた」。言葉にしてしまえばシンプルではあるが、実態はそう容易いものではない。工事がどのような関係者たちによって、どのようなルールのもと執り行われているのかを理解する間も無く飛び込んだ星山氏は、当初現場の工事業者たちから数々の指摘を受けたそうだ。
そのなかで必死にもがきながら、工事の仕組みや工事業者たちとの連携のコツを学んできた。結果、今では大手ゼネコンも賞賛する、同氏が作成した“依頼工事図面”なる設計書が社内のテンプレートとして各案件に用いられている。島崎氏の貢献しかり、ここまでやるから、価値となる。ここまでやってこそ、事業開発人材足り得る。そんな印象を抱かせるエピソードだ。
キーワードは「オーバーラップ」。
そのカルチャーが「事業開発」の才能を開花させる
会社から次々に求められる変化に対して、とにかく前のめりに価値提供に向き合ってきた両氏。そもそも、どういった経緯でビットキーへの入社を決めたのだろうか。それぞれの経歴も含め話をうかがってみた。
星山私がビットキーに入社することになったきっかけは、前職でやりたいことをやり切り、次のステップに進みたいと思うようになったことからです。入社は2020年7月ですね。それまでのキャリアを振り返ると、大学卒業後、SIerでプリセールスを経験した後、知人の紹介でビズリーチ(現ビジョナル)に入りました。
そこでは新規開拓セールスからB2Bマーケティング、インサイドセールスの立ち上げをやりつつ、地方創生事業などにも携わっていました。その後は外資スポーツブランドのCSリーダーやロジスティクス、サプライチェーン周り、広報など多くの仕事を経験。そして更なるチャレンジに踏み出したいと思い転職活動を始めたことが、入社までの経緯です。
島崎私の場合は自らWebで見つけて応募しました。もともと前職は通信系企業でセールス、新卒採用、店舗の運営責任者を経験し、最後は社長室長として新たな事業をつくっていく仕事をしていました。主力事業は海外渡航時用のWi-Fiルーターの提供なのですが、新規事業は主力事業とはまったく毛色の異なる事業領域での立ち上げでした。個人的にはその領域で事業を立ち上げることにはなかなかワクワクを感じづらかったんです。
また、会社組織が成長するに伴い、入社時のベンチャー気質から変化していったことも、転職を検討し始めた理由です。新卒で入ってから10年以上経っていますし、会社が成長していくなかで仕方のないことではありますが、組織体制の面でワクワクを感じられなくなってしまって。具体的にいうと、在籍年数で役職こそ上がってはいくものの、果たして自分が本当に“仕事ができているのかどうか”がわからなくなったんです。
「世の中で活躍している35歳頃のビジネスパーソンって、こんな感じじゃないよな?もっとやれることやってるよな?」という不安もありましたし、「このまま年数だけ重ねて偉くなっていくだけの自分は幸せなのか?」という疑問もありました。そんな想いから、全くのゼロからの領域に自ら飛び込む決心をしたんです。そこで、純粋な実力だけで評価されるベンチャー企業を転職先として探し始め、ビットキーと出会いました。
そこから実際にビットキーと面談を重ねるにつれ、二人は徐々に同社の想いや人について惹かれていった。

星山面談を通じて、ビットキーは価値提供に対して誇りを持って働かれているなと感じるようになりましたね。特に私にとって1番刺さったのは、今も兼務しているCX-Aという部署名の由来です。“顧客体験を保証する”(Customer Experience Assurance)という名の下に、お客さまに対して徹底的に価値提供するという強い意志を持って付けたという話が心に残ったんです。
なぜこの点が私にとって重要かというと、仕事を通じた「価値提供」によって、世の中をより良くできると身を持って体験したからです。これはビズリーチ(現ビジョナル)時代の話ですが、人をひとり採用することで事業や会社が大きく変化することを目の当たりにしたんです。
この経験から、より良い価値を世の中に提供できる会社に入りたいという想いが徐々に強くなり、ある時、ビズリーチ(現ビジョナル)においては私がやれることはやり切ったなと思う瞬間があったんです。同社は比較的、事業の土壌ができあがっており、それを広めるという意味ではやりがいを持って働くことができました。あのときに経験した景色みたいに、今度は自分自身の力で事業をつくって世の中に価値を提供したいと感じるようになり、その点でビットキーこそ最適な場所だと判断したんです。
島崎私はビットキーから4回も面談の機会をいただいたのですが、会う人、会う人が、みんな優秀だなという印象でした。最後に代表の江尻と話す機会をもらったのですが、独自の世界観を広く持っていて、これから面白い世の中をつくっていくんだなという熱い想いに衝撃を受けました。
また、サッカーに例えたビットキーの組織としての在り方も、共感したポイントです。江尻は、「ポジション関係なくどんな役割においても活躍して動き回れるチームを目指している」と。メインとなるポジションを持ちつつも、時にはその場を離れて果敢に攻め込むオーバーラップも辞さない。そしてもちろん、守りにも積極的に参加するといった具合です。

島崎偶然、私にもサッカー経験があったものですから、その話が特にイメージしやすかったんですよね。代表がそうした考えでいるのなら、ポジションにとらわれず発信したいことを発信できる環境があるでしょうし、それをメンバー個々に求めているんだろうなと。
そうしたカルチャーにもマッチしそうだと思えましたし、この人がつくっている会社で働いてみたいなと素直に思いました。
それぞれが想いや期待を持ってビットキーに入社を決めたことがうかがえるエピソードだ。そこからいざ入社後に感じたギャップも、すべてをポジティブに捉えられたと振り返る。
星山ポジティブなギャップとしては、開発側がCXの想いをよく汲んでくれているんだなという点です。顧客体験を考え尽くしたプロダクト構築が大前提にあるので、私たちCXの意見にしっかりと耳を傾け、当然のように重視してくれるんです。そして時には、お客様先に開発メンバーが足を運んでくれることもあるんです。
ある時、プロダクトに重大な課題が生じてしまい、技術的な見地での現場検証がどうしても必要だと。そんな時、開発メンバーの方々が嫌な顔ひとつせず現場に同行してくれ、お客様と共に数時間に渡る検証に協力してくれたんです。これは私の勝手な思い込みでもありますが、もともと開発側の人って現場には出ないイメージがあったので、とても頼もしかったことを覚えています。
島崎入社前から課題として聞いてはいたものの、とにかく組織体制に伸び代があります(笑)。良くも悪くもルールに余白があるなと。入社直後は業務上の質問について誰に何を聞いていいのかもわからず、慣れるまでは苦労しました。とはいえ、今でこそ当時よりは体制やルールづくりも整ってきましたが、私が求めたベンチャー気質は、社員数が220名を越えた今でも根強く残っています。それを楽しんでいますね。
「あなたの仕事はなに?」と問われて、答えること
ベンチャー気質を持ち、ポジションに縛られず、一人の人間が幅広く仕事にチャレンジできるビットキー。あらためて、今二人が感じる同社の良さを尋ねてみた。
星山世のベンチャー/スタートアップが打ち出すプロダクトは、1つの課題に対して、1つの解決手段を提供することが多いと思っています。それに対し、ビットキーが見ているのは特定の課題ではないんです。
世の中を良くしていくことにフォーカスしていて、「ビットキーという1つのプラットフォームの中で暮らし(Home)、働く(Work)、非日常(Experience)のすべてが繋がったらいいよね」と考えているところが特徴であり、魅力だなと感じます。プロダクトの機能的に、便宜上は『homehub』や『workhub』『experiencehub』などと分けてはいるものの、それらが1つになっていくといいますか、すべては生活の中にあるものなので、おのずと繋がっていくのかなと。
島崎世の中に貢献できる仕事やプロダクトってたくさんあると思うんですけど、ビットキーはその影響範囲が特に広いなと感じています。我々の事業ドメインを象徴するキーワードでもある“鍵”って、物理的な鍵の他、Web上で何かにログインする際に用いられるIDも合わせると世の中の至るところにありますよね。
そしてその“鍵”とは、デジタル・アナログを問わず、ある空間とある空間を行き来するための手段とも言える。それを我々のプロダクトで1つに繋げていく。その“鍵”で生活、仕事、非日常のあらゆる世界へと広がりを持たせることができる点に、この事業の面白さと可能性を感じています。

ビットキーの事業ならではの魅力や可能性について想いを述べる両氏。そのなかでどのようなスタイルで事業づくりに関われるのかは冒頭よりうかがってきた。ここから更に理解を深めるとすれば、読者にとって、同社で働くメリットをより明確にすることだろう。「事業が面白い」そんなことは分かっている。では、ビットキーで働くからこそ得られる経験やチャンスは、何なのだろうか。
星山ゼロイチをやり続けられることですね。常に新しい“もの”、“こと”、“価値”といった体験を提供し続けられることにやりがいを感じています。
私はいわゆる「1→10」が得意な人間だと思っていたんですが、ビットキーに入って本当に何もないところから自分で探してつくっていかなきゃいけないところ、つまり「0→1」に、楽しさを感じたんですよね。任せてもらったり、自ら担うようになったりする仕事に、同じ案件が1つとしてなく、常に新規事業を立ち上げ続けている感覚は、魅力だなと思います。
島崎僕もその点は星山と同感ですね。加えて楽しいなと思うことは、ものすごいスピード感で会社が拡大しているにも関わらず、チームワークがやたら良いということです。誰が良い、悪いの議論はせず、みんなでビジョンに向けて推進していく姿勢がある。職種とか部署で仕事範囲を切り分けないカルチャーがありますよね。そこに私はフィット感を感じているのかもしれません。
星山たしかに『homehub』の開発が立て込んでヘルプを求めているとき、『workhub』の開発メンバーが垣根を超えて手伝いに行くといったことがありました。また、開発側から「私たちのリソースをお客様の現地対応に使っていいよ」と言ってもらえたこともあります。そういった協力体制はありがたいですね。
チームで話すときにも、基本的に職種の話は出てこなくて、「プロダクトを通じて、お客様に何ができるか」という点から話すという文化があります。もともとあった良い文化が育ってきたことで、新しい人にもビットキーらしさが浸透しやすくなったのかもしれません。
なるほど。関わるプロジェクトのすべてが新規事業であり、常にオーバーラップしながら価値をつくれる環境が同社で働く魅力なのだ。しかし、些末な疑問ではあるが、このように部署を横断して仕事をしていると対外的に自分の役割を説明しづらくなるのではないだろうか。二人は、社外から担当職務を問われたときに、何と答えているのだろう。
島崎“お客様から期待されている価値を提供し、成功に導く役割”ですね。セールスがお客様に売るときに約束したものを、正確に整えていく。これは考え方としてはCSに近いのかなと思います。
星山私はビットキーの“サービスの要”になるのかなと思っています。お客様の声を聞いてプロダクトに活かす仕事をしているので、実際にサービスをつくっているわけではないけれど、プロダクトをつくっている一人みたいな捉え方をしていますね。
職種や担当役割をオーバーラップしながらビットキーで経験を積んできた二人。さまざまな経験を着実に積み重ねているようにみえるが、裏を返せば特定の専門スキルに特化しないキャリアの積み方とも言える。それは個人の市場価値という観点からみたとき、どのような影響があると感じているのだろうか。
島崎仮に次の転職があるとしたら、これまでの職種に紐づくスキル提供ではなく、事業の目的に沿った価値提供ができる人材になっているだろうなと感じます。実際、ビットキーでの仕事を通じて、最初は憧れだったことが少しずつできるようになっていき、自分のレベルが一段も二段も上がったなと感じています。もちろんそれなりの困難がつきものではありますが、プロジェクト毎に今まで見たことのない自分の成長に立ち会うことができるんです。
星山私も、ビットキーこそが最も成長機会を与えてくれた会社だなと思っています。
今の事業部に在籍して1年半、携わることができたプロジェクトは8つです。そのなかではリーダー、マネージャーとしてプロジェクトを推進する経験も積みました。どれも価値提供を軸に据えながら、役職や職種、さまざまなポジションをオーバーラップしながら事業づくりに関わってこれた。これは今後コーポレート部署にうつって採用業務に当たる上でも大きな武器になると思います。
なぜなら、今後ビットキーとして事業開発人材を多数採用していく際、私自身が事業開発の経験をするなかで感じた面白さや厳しさを候補者の方に伝えられることは、採用チームとしても大きな意味、役割を担えるのではないか、そんな風に考えています。
事業開発人材を採用するには事業開発の経験ある者が採用の場に立つ。シンプルだが実に説得力のある話だ。星山氏が異動したことを前職の仲間たちに話すと「すごくいい異動だね」と称賛や応援の声が聞こえてきた、とのことである。
「もっと暴れたい」人に、ぴったりの環境がここにある
ビットキーで活躍を続けるのか、はたまた外に飛び出すのか。今後について尋ねてみたところ、二人は「自分がどうなりたいか、正直あんまりないんですよね」と苦笑した。
島崎今のチームや役割は個人として合っているなと思っています。お客様に製品を提供し、提供したものをしっかり使っていただき、声を聞いて改善していく。その積み重ねがお客様の喜びや会社への利益に繋がると思っています。将来に関しても、今は「目の前のことに夢中になって、いまよりももっとうまくやりたい」というくらいなんですよね。今後も事業やお客様に対して良い影響を出せるようになっていきたいです。
星山世の中を少しでも良くしようとしている人たちと働いていたいですね。それは例えビットキーを離れたとしても、です。ただ、やめろと言われるまではビットキーにい続けようと思っているんですけど(笑)。

“自身の”未来になど目もくれず、目の前の事業、価値提供にフォーカスする二人からは、ストイックとはなんたるかを教わる。事業の未来さえブラさずそこに全力投球すれば、個人のキャリアはいくらでも紐づいてくるということなのだろう。いやはや、これほどまで頼もしい事業開発人材がいるだろうか。そんな両氏にはもはや愚問かもしれないが、最後に、あらためて、どんな人材がこれからのビットキーに向いているのかを聞いてみたい。
星山常にゼロイチをやっていたい人は、絶対にビットキーに来た方がいい。良くも悪くも飽きっぽい人といいますか、新しいことが好きな人ですね。ひとところに留まれない人は、楽しんで働けるのではないでしょうか。
島崎素直で謙虚だけれど、自由にやりたい人。そうしたタイプの人は普通の会社だと圧迫されてしまって閉じこもってしまうと思うんですが、そこをビットキーは解き放ってくれる会社だと思うんですよね。
自分で言うのもあれですが、私自身もそうした一人で(笑)、「自分の仕事って、本当にこのままでいいのかな……」と思っている人に、「ビットキーに来たらもっと暴れられるよ」と伝えたいですね。
“ビットキーに来たら、もっと暴れられる”──このメッセージはまさに同社のカルチャーや勢いを表す象徴的なひとこと。すべてのメンバーが“顧客への価値提供”というゴールに向け、時には職種毎の業務範囲など見向きもせず、事業に奔走する。まさにオーバーラップ、同社のフィールド上に立つ全メンバーが事業開発人材なのだ。
今回の二人の取材を通じ、「自分もそんなピッチに立ってみたい」「自分の意志で自由に、新たな世界を創っていきたい」と感じたならば、是非その扉を開けてみることを推奨しよう。そのためのカギは、ここ、ビットキーにある。
こちらの記事は2022年02月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
卯岡 若菜
写真
藤田 慎一郎
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
連載その仕事は、ハイスタンダードか? 「世界を変える」へ一直線、ビットキーの秘密
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