「効率化」だけの姿勢では「DX=パラダイムチェンジ」など起こせない──
日経・学研という巨大コンテンツ事業のDXをリードしてきた山内氏に訊く、レガシー産業の企業価値を向上させる事業創造術

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インタビュイー
山内 秀樹
  • 株式会社Gakken LEAP 取締役CTO 

1977年生まれ。大学卒業後、2000年に日本経済新聞社に入社。2010年の「日経電子版」創刊と、日経電子版の会員基盤である「日経ID」の企画・開発に携わるとともに、顧客IDやデータの事業活用と組織への浸透を担当。2021年1月に学研ホールディングスに入社し、学研IDの活用やサービス開発の内製化を柱としたDX戦略を担当。2022年10月に学研ホールディングスデジタル戦略室長。2021年12月にはGakken LEAPの設立に参画し、取締役CTOに就任した。

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日本では2018年、経済産業省のDXレポートを皮切りに、あらゆるビジネスシーンで一斉にDX推進が叫ばれはじめ、今や聞かない日はないほどDXというワードは世の中に広く浸透した。ところが、DXを掲げているのに、事業が伸び悩んでいるという企業が後を絶たない。

その理由として、「DXを提供する側も、導入する側も、互いにDXの本質を取り違えているからです」と語る人物がいる。

その人物とは、学研グループに属するDX推進組織、Gakken LEAPでCTOを担う山内 秀樹氏だ。前職では日本経済新聞社(以下、日経)に21年間在籍。FastGrowの読者も目にすることが多いであろう『日経電子版』の創刊に参画し、同時に顧客IDサービス『日経ID』の企画・開発、そしてデータを活用した全社のDX推進をリードしてきた。そんな生粋のデジタル人材である山内氏は次のように話す。

「『ツールを導入してDXしました』と得意げに語っている人や会社は多いですが、それは単に既存事業で一部の課題解決をデジタル化しただけですよね?」と。

では、山内氏が語る本来のDXとは何か。本記事では、その答えを同氏の前職、日経での取り組みや、現在の学研グループにおける事例と共に解説していく。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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「パラダイムチェンジ」なきデジタル施策は、DXに非ず

山内私にとってテクノロジーとは、21世紀において一番チャーミングであり、変革を起こす力そのものだと思っています。世界を変えていく、社会を変えていく、そのための最大の手段で、実際、振り返ってみても、私たちの生活を大きく変えてきたのがテクノロジーです。

世界的に見ても、テクノロジーに精通し、それを使いこなす人が社会のリーダーとして注目されていますし、事実、そうした方々がGAFAをはじめ世界を変えてきたゲームチェンジャーとなっているのではないでしょうか。

幼少期からテクノロジーに魅了されてきた山内氏。小学生時代に愛読していた学研の『科学』で未来予想図を目にし、いつか人間が空を飛び、クリック1つで料理が出てくる。そんなテクノロジードリブンな未来を夢見てきた。

「今、ChatGPTが世間を賑わせていますが、新しいテクノロジーで社会はどう変わるんだろうとワクワクしますね」と少年のように目を輝かす。

FastGrowにおいても、山内氏が述べたような世界観の実現に邁進する急成長企業を取り上げる機会が多く、その数は年々増えていると感じている。しかし、ここで山内氏から目を見張るコメントが発せられた。

山内昨今、多くのテクノロジー関連の企業が、「DX」ソリューションを謳っているかと思います。しかし、その殆どが提供するのは「デジタルツールの導入による効率化」なんですよね。本気のDXに挑戦していて、真の意味での「テックカンパニーたる企業」は、日本に1%も存在しないのではないでしょうか。

取材陣は思わず一瞬息を呑み、その真意を尋ねる。すると、山内氏は本来あるべきDXについて、下記のように説明してくれた。

山内DXに至るまでには、3つの段階があるかと思います。まず第一段階は、「デジタイゼーション」。主に、企業における、ある特定の作業効率の向上のためにデジタルツールを導入することです。

第二段階が、「デジタライゼーション」。自社内だけでなく、外部環境やビジネス戦略も含めた、プロセス全体をデジタル化することです。

そして最後、第三段階が「パラダイムチェンジ」。デジタル技術で企業のビジネスモデルや企業のあり方そのものを変革することで、これこそが「DX」なのだと捉えています。

例えると、フィルムカメラからデジタルカメラになって利便性は高くなりましたが、それだけでは社会は変わりませんよね。ところが、スマートフォンという身近なデバイス上でカメラ機能とインターネットが組み合わさって、例えばInstagramのように、そこで今までになかった新しい価値がたくさん生まれました。

つまり、テクノロジー「だけ」でいきなり変化するわけではなく、そこに様々なアイディアや機能といった要素が組み合わさることで、新たな付加価値が生まれる。まさに「Reborn(生まれ変わり)」ですよね。これこそがDXの本質ではないでしょうか。

そう考えると、世の中の多くの企業は、「最先端のツールを導入しました(キリッ)」という具合で、デジタルで何かやれば「DX」したように思ってしまいますが、企業のサービスそのものだったり、ユーザーや従業員の意識・体験価値だったりが大きく変わっていないのであれば「DXと言うには事足りていないんじゃないかな…」と思うわけです。

2008年にiPhoneが日本に登場し、今や多くの国民がスマートフォンを手にして情報を得る。人の行動や生活スタイルすら一変させたこのような変革をこそ、DXと呼ぶべきというわけなのだ。「単なるデジタル化はDXではない」と述べる山内氏の発言に共感する読者は多いはずだ。とはいっても、その通りに行動し続け、事業で実践できているかと問われればどうだろう?

そこで、巨大コンテンツ事業のパラダイムチェンジを渦中で経験してきた山内氏の実践知を、ここから深く聞いていこう。

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「その予算、フェラーリ何台分?」。
苦心した最初のDX

なぜ山内氏は人一倍、DXを主としたテクノロジーのビジネス活用に明るいのか。

その理由は、彼の前職である日経での経験にある。読者の中にもユーザーが多く存在していると思うが、新聞社としてかなり早い段階で立ち上げた会員制の有料Webメディア『日経電子版』の創刊に携わり、同時に顧客IDサービス『日経ID』の企画・開発を推進してきた。

山内氏は、古くからある「新聞」というサービスがデジタル化し、スマートフォンの台頭で情報行動が大きく変わる中で、日々の情報収集がパラダイムシフトする変化を体現してきたのである。しかし、このパラダイムシフトを起こすまでに、DXに紐づく取り組みを始めてから10年以上の時間を要した。決して、時代の波に乗じてすんなりと変革を起こしてきたわけではないのだ。

とりわけ、大組織において変革を起こす際の難所となる、「社内理解」の点で山内氏は苦心した。それもそのはず、今や日本を代表する多くの大手企業がDXに動き出しているものの、2000年代から2010年代前半と言えばまだまだデジタルへの理解や意識は今ほど高くなかった。

山内当時はDXという言葉なんかなかった時代です。かつてはデジタル投資の予算を上げるたびに、「今年はフェラーリ何台分のお金を取ったんだ?」と冗談とも本気ともつかないことも言われました。私は「5台ぐらいですかね……!」と明るく答えて、翌年さらに予算が増えると「お陰様で今回は7台分になりまして、ありがとうございます」と返していました(笑)。

まだまだデジタル以外の事業で会社が成り立っていて、デジタル投資がすぐに成果を産む段階でもなかったので、面と向かって「山内よ、デジタルなんて本業にはむしろマイナスだし、やってる意味あるのかね」と言われてしまうことも当時はありました。

山内氏が日経に入社したのは2000年。日本ではドコモの『iモード』の登場(1999年)や、史上最年少で上場を果たしたサイバーエージェントの藤田 晋氏が“時代の寵児”として注目を集めていた頃だ。世の中では少しずつITの普及の兆しが見え始めていたが、まだまだデジタルを用いたビジネスモデルはメインストリームとは言えなかった。

しかし、2000年代後半に差し掛かるにつれ、Webサービスは急速な進化を遂げ、インターネット上にはWebコンテンツが爆発的に増加した。Amazonや楽天などのEC市場が誕生し、YouTube(2007年)やTwitter(2008年)、Facebook(2008年)が日本でサービスを開始したのもこの時期だ。

山内氏は、日経電子版の前身となる『NIKKEI NET』に関連したWebサービスを次々に立ち上げ、入社3〜4年目からPM(プロジェクトマネージャー)としてWebサービスの企画開発に携わった。

そして、入社10年目で転機となったのが、日経にとって大きな決断となる『日経電子版』の立ち上げである。そして、この『日経電子版』の立ち上げに並行する形で、顧客IDサービス『日経ID』の企画、推進を担当。さらにデータを活用したDXの推進役として抜擢されることとなったのだ。

山内2000年代後半、これまでの事業がまだまだ元気だった時期で、デジタルに関する事業は少数の人間で細々とやっていました。

「将来、デジタルの波が来る」と誰もが頭の片隅では分かっていましたが、これまで築いてきた紙媒体のビジネスモデルが変化することへの恐れや、目の前の差し迫った仕事やマネタイズを考えれば、どうしても既存事業を優先させてしまう。これはどこの企業でもそうだと思います。

そうした中、社員の理解や協力を得ながら、将来に向けてデジタルを取り入れていくためにはどうすればいいか、試行錯誤の日々でしたね。

これまでの業務に対するこだわりや愛着が強ければ強い人ほど、「デジタル化によって自分の仕事が無くなってしまうのではないか」「今まで積み上げてきたスキルや経験が通じなくなるのではないか」と、新しいビジネスモデルに対して心理的な抵抗を感じてしまいやすいもの。

特に、デジタル・テクノロジーが世の中に普及する前から活躍してきたビジネスパーソンにとっては、容易に受け入れられるものではない。その中で、山内氏はどのようにDXを推進していったのだろうか。

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意識を変え、行動を変え、事業価値が変わる。
その間、苦節十数年

兎にも角にも、やり方を変えなければいけない。突破口として、まず取り組んだのが、『日経ID』を柱としたデータ活用だった。

社員には「デジタルは面倒、難しい」という一種の拒否反応もある。今までの仕事の延長で、より身近にメリットを感じて、さらにユーザーを理解できるようにすれば、日々の仕事を変えられるのではないかと考え、誰もが『日経電子版』のユーザー動向をキャッチできるように、Adobe Analyticsなどのアクセス解析ツールはもちろんのこと、その他のデータ分析やBIツールを導入してみた。

山内デジタル化以前の編集のあり方は、新聞で長年蓄積してきた知見や経験がものをいう世界でした。昨今のWebサービスでは当たり前となっている、ユーザーの反応からフィードバックサイクルをまわすなんてことは意識されていなかったんです。

そこで、ユーザーの行動履歴や『日経ID』のデータを一元管理して分析できるデータ基盤を構築して、いつ、誰が、何を読んだのか「リアルタイム」で把握できるようになったんです。これによって、経験則に頼らずにユーザーの反応を見ながら記事を打ち出すことができるようになりました。

例えば、『日経電子版』に公開した記事が1分後にどれくらいアクセスされているのか可視化できるため、ユーザーの閲覧反応に合わせて記事の見出しやアイキャッチ写真を入れ替えたり、サイト内をより長く回遊してもらうべく関連する記事リンクを付けたりと、ユーザーに対して新たなアプローチが行えるようになったんです。

ただ、ジャーナリズムの視点だと、アクセス数が少なくても大事なニュースはあります。単に数字を追うこと自体に抵抗感もあって、なかなか使ってもらえませんでした。

最初にそこから得られる情報に価値を感じてくれた人は、社内でもマーケティングやセールス担当など、数字に関わる業務を担うごく一部の面々だった。どんなにテクノロジーが優れていても、ツールだけじゃ変わらない。すべての人が納得して、容易にデジタルを使いこなせる状況にしなければ、テックやデータが牽引する組織や事業などつくれない。

そこで、山内氏は「意識」から変えていくことを決意した。

山内あらためて、社内に向けて「我々がユーザーに対して提供できる価値とは何か。我々に何を期待しているのか。我々のコアな価値に対してテクノロジーでどのような変化が起こせる(=DXを実現できる)のか。それにより、どんな化学反応が起こるのか」ということをデータを通して説き続けました。

社員の意識からReborn(生まれ変わり)を図っていく必要があったんです。それはもう一朝一夕でどうにかなる話ではなく、長い月日と労力をかけての勝負でしたよね。

古くからある組織の中で、従来のやり方で仕事をしてきた人たちを前に、対話や説得をくり返しながら、ゼロ→イチでテクノロジードリブンな組織へと変革していく。そこには我々の想像を遥かに超える苦労があったはずだ。

そんな山内氏の地道な努力の結果、社内では少しずつ理解を示す人たちが増え始める。時代も進み、ユーザーの行動もスマートフォン中心の時代になりつつあった。

デジタルを使いこなすビジネスパーソンの変化を、積み上げたデータを通して肌で感じることができたことで、コンテンツづくりも明らかに変化してきたのだ。

山内紙の新聞は印刷が必要なので、当然「締め切り時間」があるんです。例えば、翌日の朝刊に間に合わせるために、記者たちは前日の日中に取材をして夜中に原稿を書き、深夜にチェックも含めつくり終える。『日経電子版』に取り組み始めてからもまだ新聞中心でしたので、夜中に記事コンテンツをつくり、朝に公開するという流れが主でした。

一方で、ユーザーが新聞を読む時間帯は、朝の出勤途中だったり、お昼の休憩時間だったり、帰宅途中だったりと様々ですね。特に『日経電子版』の場合、そういった時間帯を狙って、そのタイミングに合ったコンテンツを公開しなければ、ユーザーの流入数も満足度も上がらず、デジタルメディアとして成長できません。

そのため、こちらもデータでユーザーのエンゲージメントを見える化し、「『日経電子版』との接点はどれくらいあるか」「十分に記事が読まれているか」といったデータを積み上げることで、ユーザーが利用する時間帯に合わせて記事コンテンツを提供するやり方に変わっていきました。

自社しかつかんでいない特ダネ(スクープ)なんかは、自社の新聞に独占的に載せるためにすぐに流さないのが普通でしたが、一番注目を集めるタイミングで出すようにもなりました。Webメディアが当たり前となった今では「そんなの当たり前でしょう」と感じるでしょうが、最初はこんな状況だったんですよ(笑)。

ここに至るまで、「単にアクセス数だけでニュースの重要性を評価することはできない」と考える人がほとんどでしたし、そもそも「面倒なので見たくもない」という人も多くいました。ですが、日々の編集業務の中にも入って伴走しながら、例えば、長年読んでいるコアユーザーがどれくらい深く読んでいるかを簡単に分かるようにして、質の改善に取り組みやすくするといった、泥臭い改良を続けることで、使ってみようとする人が少しずつ増えたという感じです。

ツールを入れるだけで変革できるなら簡単ですよね。でも、こういう小さい変化を積み上げて、徐々に納得感を増やしていって、少しずつ変わっていったというのが現実です。ツールなどのテクノロジー導入だけじゃ何も変わらなかったと思います。

何十年と、その手に染み込んだ経験をもとに事業を推進している人たちの意識を変え、行動を変え、果ては世の中を変えていく。DXとは、あらためて一朝一夕では成し得ない「変革」であるということがよくわかるエピソードだ。

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「Reborn」。
好きだったものにテックをのせて、新たな価値へ

日経に入社して20年が経った。彼の中では「一通りのことはやった」というある種、達成感のようなものがあった。そんな山内氏のもとに、データ活用を推進したい他のメディア企業や金融、メーカーなど異業種からもオファーが届いたが、次の挑戦先として選んだのが学研だ。「なぜ、老舗の教育会社に?」と思う読者も多いだろう。その理由を尋ねた。

山内自分の原点に立ち戻ると、もともと母が“学研のおばちゃん”として働いており、私は子どもの頃、学研の『科学』と『学習』が大好きだったんです。私にとって学研は、とても身近な存在でした。

ところが、2010年に『科学』と『学習』が休刊するというニュースを見て寂しい気持ちになりました。好きで慣れ親しんでいたものが、なくなってしまうのかと…。今の時代の教育サービスを見渡すと、受験や教科学習向けのサービスが中心で、「子どもがワクワクしながら学べるものが少なくなったな」という想いがあったんです。

そんな中、縁あって学研から声をかけてもらったんですよ。「子どもの頃にワクワクしていたもの、好きだったものを今のデジタル時代に適応させて、学研の価値を守れたら」──。そんな想いを抱き、2021年1月に学研にジョインしました。

入社後、まずはユーザーと学研を結ぶ顧客IDサービス『Gakken ID』を手がけることから始めた。「ユーザーを深く理解するためにはユーザーとの接点を強くして、データも蓄積される仕組みが重要だ」と、これまで経験した学びをここで発揮する。

山内ビジネスにおけるデータ活用が普及する以前は、どの業界においても「完璧な商品をつくって販売する」といったスタイルが一般的でした。今ほど市場や顧客のニーズを正確にリサーチする簡単な手段もないですし、デジタルサービスみたいに製品化した後に直すのは容易ではない状況だったと思います。

一方、昨今のWebサービスでは、アジャイルでまずはサービスのプロトタイプを市場に届け、ユーザーフィードバックを得ながらPMF(プロダクトとマーケットの機体が一致している状態)を目指してアップデートしていくスタイルが王道です。

そこで、我々も『Gakken ID』や、学研教室をはじめとする学研グループが持っているリアルな「場」から、ユーザーからコンテンツの使い勝手や要望などのフィードバックを直接得ることで、ニーズや嗜好に合わせたデジタルコンテンツをつくっていけるようにしたいと思っています。つまり、ユーザーと対話しながら共に商品・サービスをつくっていくんです。

現在、学研グループでは、塾や学研教室、出版、物販、サービス付き高齢者向け住宅など、子どもから高齢者までを対象とした事業を幅広く展開している。しかし、今までは学研グループの会社ごとにサービスが分かれていたため、例えば小学生で学研教室に入っていた子どもが、学研グループの塾や学研のサービスを利用した場合でも、つながりが分からなかった。グループ間でユーザーの情報が連携できていなかったからだ。

だが、『Gakken ID』を中心にユーザーとデジタルでつながるサービスが増えることで、グループ間の連携ができれば、ユーザーの過去の行動履歴や嗜好が分かり、ユーザーにとってよりベストなサービスが提供できるようになる。こうした取り組みをテクノロジードリブンで実現し、生涯に渡ってユーザーをトータルでサポートできることが、単一事業を展開するスタートアップとの大きな違いであり、学研グループが持つ強みなのだ。(複数事業を展開する学研グループの強みに関しては先の取材でGakken LEAP CEOの細谷氏も詳しく語っているのでそちらも見ていただきたい)

しかし、DXを実現するには「これだけではまだ足りない」と山内氏は言う。どのような方法でDXと呼べるような新しい価値を生み出そうとしているのか。カギはやはり「人」だ。

山内プロダクトやコンテンツを変革していくためには、ユーザーの変化を見ながらスピード感を持って「内製」できることが重要になります。Gakken LEAPには設立から1年にもかかわらず、20人を超える新しいメンバーが入ってくれました。

エンジニア、コンサル、事業企画、コンテンツ編集者など、様々な経験や能力を持った精鋭チームができたことで、これまでにないやり方で商品・サービスをつくっていけます。グループの様々な商品・サービスにもこの精鋭メンバーが入りこみ、足元から変化を起こしていきたいです。

Gakken LEAPでは、一部の例外はあるかもしれませんが、基本的に学研の教育コンテンツを単にデジタル化(デジタイゼーション)することはありません。

デジタルファーストで「新しい価値」をつくっていく、これを至上命題としています。その価値がどんなものになるのかはまだ追求し始めたばかりなので未知数ですが、当然ながら「既存の教育コンテンツ」×「テクノロジー」によるDXによって、学研や教育業界全体に変革をもたらすような価値を生み出したいと思っています。

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「学び」に注目が集まる中、77年分のコンテンツをテックに載せて届けたい

「山内氏は、日経で起きた変化を、再び学研でも起こそうと考えているのだろう」。そのような印象を抱く読者も多いはず。と同時に、「教育業界と言えば◯◯といったビッグネームも存在するが、そうしたライバル企業に勝る強みはあるのだろうか」と疑問を感じる者もいるだろう。

そんな問いに対し、山内氏は、「学研がこれまで使ってきた言葉。“教育”というよりも、“学習"、そして“学び"。ここに込める想いこそが、これからの時代において強みを発揮するんです」と話す。

山内皆さんも「教育」と聞けば、幼児教育や受験をイメージする人が多いと思います。どちらかといえば受動的なイメージも持たれるかもしれません。「やらなきゃいけないもの」「興味はないけど、インプットしなきゃいけないもの」というような感覚でしょうか。

一方で、「学習」や「学び」というと、能動的で、子ども〜大人を問わず、「自らの興味から知識を深める」「体験を通じて気づきを得る」といったイメージがありませんか?

学研はもともと「学習研究社」という社名でしたが、まさに「学習」、そして「学び」に軸足を置き、77年にわたりコンテンツをつくってきました。こうした学びの豊富なコンテンツやサービスのバラエティーが強みになると思います。

山内人生100年時代といわれる現代においては、「子どもだけでなく、大人も学び続けることが大切だ」という意識が高まり、リカレントやリスキリングなど様々な学びのテーマが重要視されるようになりました。これは、学研にとってチャンスでしかありません。

この機会を勝機と捉え、学研が持つコンテンツ資産をテクノロジーと組み合わせ、これまでにないまったく新しい学研の価値を打ち出していきたいと思っています。

これまでFastGrowでもEdTechやリスキリングなどにまつわる特集記事を組んできたように、確かに昨今の教育産業は盛り上がりを見せている。

しかし、そこには大きな壁も立ちはだかり、先のGakken LEAP CEOの細谷氏の取材では、「複雑多様化する顧客ニーズに対し、ワンプロダクトかつ単なる既存の学習コンテンツのデジタル化だけでは価値は届けられない」といった難度の高さも示された。

山内学研は、本の出版だけでなく物販や塾の運営も行っており、チャネルとして出版、塾、学校、幼稚園、保育園と様々な繋がりを持っています。これらのあらゆる顧客からのニーズに対し、今後開発していく様々なデジタルサービスやプロダクトを通じてコミュニケーションを図り、顧客と共にコンテンツを共創していきます。

Gakken LEAPではこの春、大人が学べる新サービス『Shikaku Pass』をローンチしました。まずはオンラインでの資格取得にフォーカスしつつ、今後は社会人が身につけるべき金融知識や英語などの語学学習にも力を入れていく予定です。

受験や学校教育というテーマ以外にも、教育業界のフィールドはまだまだ広い。学びの豊富なコンテンツやサービスなど学研の強みを活かせる部分、伸びしろはまだまだ多くありますよ。

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「能動的な学び」によって、教育業界にとどまらない発展を

最後に、山内氏が見据えている、教育業界の未来についてそのビジョンを語ってもらった。

山内私は、人が社会で生きていくために大事な要素は、「何に興味を持つか」「そこからどんな価値を生み出すか」、そして「生み出した価値を次へどう伝えていくか」だと思うんです。つまり、人が社会でよりよく生きていくために必要な能力を身につけることが「学び」だとすれば、「学び」は今よりもっと身近なものになっていくべきだと感じています。

ところが先ほどもお伝えしたように、これまでの教育はなんとなく受験や試験のためといったイメージで括られてしまうことが多くありました。でも、我々はもっと能動的な学びを追求したいんです。

例えば、本を読むことも学びの一つですが、自分が好きなテーマであれば「楽しいから」本を読むわけで、こうなると極めて能動的です。このように「自ら主体的に学ぶ」という行動を支える仕組みやコンテンツを提供し続ければ、教育サービスはより広範囲に染み出していくと思うんです。

一人ひとりにフォーカスして、人々の学びを支えていくことで、その発展形として、例えば、その人に合った仕事をマッチングしたり、趣味やアクティビティへの出会いをつくったりもできるでしょう。教育だけでない他の領域とも連携していきながら、人間が楽しく、そして心豊かに生きていくために必要な学びやそれを支えるサービスを提供できる会社にしていきたいと思っています。

人が心豊かに生きるために。変化の激しい今の時代に適応するために。Gakken LEAPでは、今の時代を生き抜くために必要なスキルとして「テクノロジー」「金融」「英語」の3つを掲げ、上述のとおり、まずは大人の学び『Shikaku Pass』をスタートさせた。

そして、先の取材でGakken LEAP CEOの細谷氏が「学校教育では得られない、個々のニーズに応じた最適な教育環境で、将来グローバルで活躍できる人材を1人でも多く輩出したい」と語っているように、Gakken LEAPでは今後、先進的なデジタルプロダクトを子どもの学びにも広げていく予定だ。テクノロジーの時代だからこそ、今の時代に合ったやり方で教育から社会の変革を目指していく。

今回、山内氏は取材の中で、何度も「Reborn(生まれ変わり)」という単語を口にした。それは、子供のころから親しんでいた紙の新聞、学研の学年誌など、自分の好きだったものや慣れ親しんでいたものをテクノロジーの力で蘇らせ、新たな価値を生み出し、次世代に繋いでいきたいという想いからだ。

それは教育業界全体に対しても同じなのだろう。今を生きる我々が、テクノロジーを活用した学びによって新たな価値観やスキルを身につけて、立ち止まらず、未来を歩んでいけるようにと、そう願っているのだ。

山内日経で紙の“新聞”から “電子版”への変化を経験して、この学研でも再現性を持って変化を主導できるか。それが私のチャレンジなんです。

教育業界は少子化の影響を大きく受けています。デジタルを活用して事業が生まれ変わるような挑戦を続けなければ、これまで培ってきたコンテンツやサービスをこれからの子どもたちに遺せないかもしれない。

負けられない戦いですが、昔から大好きなこの学研の未来がこのプロジェクトにかかっていると思うと、燃えないわけはないですよ。ワクワクします。しかも、時代背景的に今はみなテクノロジーの必要性を理解してくれていますからね。これから変わりますよ、学研は。

教育業界の変革という壮大なミッションを持つGakken LEAP。まだプロジェクトは走り出したばかりだが、長い歴史を持つ学研グループが、テクノロジードリブンでどのように変わっていくのか。そして、これから社会に対してどんな影響を与えていくのか。多くの子どもたちを夢中にさせてきた学研だ。必ずや、我々を驚かせてくれるような、そんな面白いことを仕掛けてくれるに違いない。

こちらの記事は2023年04月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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