HR Techスタートアップの
Mewcketが目指す、“次世代の職業マッチング”
HR Tech(Human Resources technology)領域は、現在世界的に成長を遂げており、年々注目度が高まっている。
事実、アメリカではHR Tech領域で複数のユニコーン企業(時価総額10億ドル以上と評価されている未上場企業)が生まれている。
その背景には働き方の多様化や、雇用の流動性が高まったことなどが挙げられるが、国内では特に人材不足が顕著で、その解決の担い手としての期待も強い。
そんな環境でビジネスを展開する株式会社Mewcketは、現在エンジニアの転職アプリを開発、運営している。
2017年8月にベータ版をリリース、10月にはエンジェルラウンドで数千万円の資金調達を実施。
「人材エージェントのリプレイスを狙っていく」という同社は、どのような未来を見据えているのだろうか。
- TEXT BY MISA HARADA
- PHOTO BY YUKI IKEDA
職業マッチングの最適化は世界を大きく前進させる
代表の小林は、堀江貴文氏が注目を浴びるようになった2000年代初頭の起業ブームの頃、大学在学中にシステム開発の会社を興した。その事業を売却した後、流通業の会社に役員としてジョインし、事業再生を担当する。そして、30歳のときにリクルート住まいカンパニーに転職し、新規事業開発室でプロジェクトリーダーを務めた。
小林は、そんなかつての自分を「小手先でビジネスをしていた」と振り返る。
リクルート住まいカンパニーに入社した当初は、「世の中の“不”を解消する」というカルチャーに戸惑い、どこか綺麗事に感じていた。
しかし、同社で働きそのカルチャーを体現する同志と関わる中で、ビジネスを通じて社会が抱える課題を解決するという思考が徐々に身につき、「自らが設定した課題とその解決に、全力で向き合いたい」と考え、32歳で株式会社Mewcket(当時は株式会社ハチキュー)の起業に至る。
一方、小林と共に中高6年間の寮生活を過ごした関係でもある五十嵐は、新卒で日本オラクルに入社して、プリセールスエンジニアとして約3年間働いた。
その後はデロイトトーマツコンサルティングでのITコンサルティング業務を経て、セールスフォース・ドットコムに入社。
営業として前年比180%の営業成績を残したが、「ゼロイチフェーズを経験してみたい」という思いが高まっているところに、起業した小林から声がかかった。
最高技術責任者の太田知孝は、小林のリクルート時代の後輩だ。新卒としてリクルートホールディングスに入社していた太田だが、大学在学中には個人事業主としてシステム開発の受託などを行っていた。
その経験から「自らビジネスを動かす、世の中に影響を与えるような仕事をしていきたい。それをサラリーマンとしてではなく、起業家、経営者として実現していきたい」と考えるようになっていた。
出向先のリクルート住まいカンパニーでプロジェクトリーダーをしていた小林と出会い、彼のもとで開発をしていた太田であったが、先に小林が起業。
Mewcketの自由な働き方や事業の方針に共感した太田は、同社へのジョインを決意した。
小林がHR Techの分野で企業を決意した裏には、身近な人間が労働問題で苦しむ姿を目の当たりにし、それを仕組みとして解決したい、という原体験がある。
身近な友人の鬱や自殺などを通じて、そういった不条理をなくす仕組みを創っていきたいと考えたのだ。
小林今の転職市場の仕組みは、色々と歪みが多い。既存のしがらみやビジネスモデルにとらわれることなく、僕らがより良い職業マッチングを生み出せる仕組みを創れば、企業の生産性は上がるし、働く人も幸せになる。
僕らは、良い職業マッチングの創出を通じて、企業の成長を支え、世の中の進化に貢献する企業でありたいと考えています。
両親や祖父母が自営業だったこともあり、小林は仕事というもの対してもともとはポジティブなイメージを持っていた。しかし、身近な友人が労働問題で苦しんでいた姿は、彼の心を強烈に揺さぶった。
転職活動の「新しい当たり前」を創りたい
そんな思いのもとに生まれた「Mewcket」は、エンジニアの転職活動をサポートするスマホアプリだ。アプリ上では、プロダクトに関するインタビューや、スキルやキャリアに関する様々な記事が並ぶ。いわゆる通常の転職サービスとは大きく異なる印象を受けるサービスだ。
Mewcketでは、各ユーザーの趣味嗜好を分析して最適なコンテンツをレコメンドする。そして、ユーザーが各コンテンツに対してどのようなアクションを起こしたかを分析することで、スキルレベルや転職意向を自動で判断。
最適な人に、最適なタイミングで、最適な仕事情報を提供することを目指している。
企業が「Mewcket」に求人情報を掲載する際のメリットは、“ユーザーが書類選考を通過した時点で課金”するというビジネスモデルにある。
多くの求人媒体では、“成功報酬型”か“掲載型”のどちらかのビジネスモデルを採用されている。成功報酬型の場合、転職希望者が転職先に入社した時点で採用フィーを支払うことになる。
そのため、掲載する際の初期費用がかからない点は長所だが、採用時コストは、転職者の年収の30~60%と高額になりがちだ。スタートアップやベンチャー企業の利用ハードルは決して低くない。
一方、掲載型の場合は、求人掲載費用を月々支払うことになる。そのため採用活動は先行投資の側面を帯び、そのコストや採用できない場合のリスクを許容しきれない企業も多い。
資金力の乏しいスタートアップでも利用できる低負担のビジネスモデルを構築できないか?そう模索してたどり着いたモデルが、“書類選考通過型”だ。企業は「掲載したものの反響がない」というリスクを回避できる上に、企業の採用力次第で、ごくわずかなコストで人材を採用することができる。
スタートアップから大企業まで参画できるこのモデルであれば、掲載企業を無理なく増やすことが可能で、それは結果ユーザーのメリットにもつながる。
加えて、サービスやブランドの名前は認知されていても、運営会社の名前が認知されていないため、採用力が上がらないという企業は意外と多い。
そういった企業にとっても、プロダクト情報やニュース情報を、興味があるユーザーに的確に届けられるMewcketはありがたい存在だと言える。
とはいえ、人材×テクノロジーの領域に参入する企業は多く、競争の激しい分野だ。Mewcketという企業の強みはどこにあるのか?
小林月並みに聞こえるかもしれませんが、僕らは“ユーザーファースト”の姿勢を徹底して貫いています。どの企業もユーザーファーストを掲げてはいると思いますが、それが形骸化していたり建前であったり、重要な意思決定の場合はクライアント(企業)を優先させるケースが散見されます。
その点、エンジニア転職の領域は、圧倒的に売り手市場なので、経済合理的にユーザーファーストが最適解であると考えています。そのため、僕たちはあらゆる意思決定の判断軸を「ユーザーが喜ぶかどうか」に置くことができるんです。
クライアントが喜ぶ機能と、ユーザーが喜ぶ機能が競合した場合には迷わず後者を選択します。
「Mewcket」では、転職エージェントが担っている業務をAIで実現、さらに高度化する世界を目指している。
転職希望者の志や意思など、従来のテクノロジーではもちろん、エージェントでも汲み取るのが難しい部分を、どのように汲み取り、転職活動に活用していくか。そのように考えながら、1歩ずつ開発を進めている。
太田エンジニアが転職の際重視するのは、「成長環境」「事業モデルやビジョン」「年収」です。
転職エージェントだと、報酬が僕の年収の何%という設定になっているので、とにかく年収が高く出そうな企業を紹介しようというインセンティブが働きます。それ自体が悪いことだとは言いませんが、結局自分がやりたいことでもないし、技術的にもマッチしないなど、ミスマッチの要因にもなっています。
そういったズレを解消するAIを開発するため、ひたすらデータを集めて、やっとある程度たまってきたという段階です。これからレコメンド精度もどんどん向上させます。
長時間労働は、現場に高い知的生産性を求めていない証拠
太田は、Mewcketについて「スタートアップなのに、みんなが定時で帰ることに驚いた」と語る。むやみに長時間労働を是としないカルチャーは、小林の過去の経験から醸成された「生産性高く快適に働こう」という考えが反映されている。
小林アウトプットを労働量で解決するのは、経営者が頭を使っていない証拠。長時間労働をさせているということは、現場に高い知的生産性を求めていない姿勢の現れです。
労働時間の上限を設定し、一方でしっかりと成果物を追っていくことで、高い生産性が実現でき、仕事以外の時間を充実させやすい環境にしていきたいと考えました。
社会で当たり前に許容されてしまっている社会問題に疑問を投げかけ、真正面から取り組む小林はリーダーとして、一体どんな人物なのか?
中学生のときから小林を知る五十嵐はこのように語る。
五十嵐私は良く言えば慎重、悪く言えばネガティブに考えがちなタイプなのですが、小林は私と正反対のタイプ。とにかく動いて物事を推進するのが得意というか。
太田確かに、「この人なら、なんとかしてくれそう」感があるんですよね。しかも、「俺が全部やっといたからいいよ」という姿勢ではなくて、一緒に解決策を模索してどうにかしてくれる。アニキっぽいんです。
小林率いるMewcketは、今まさにゼロからイチを生み出そうとしている段階。ゼロイチフェーズを経験できるというフェーズの面白さはもちろんのこと、機械学習・ディープラーニングなどの最新テクノロジーを扱える環境でもあるため、エンジニアにとっても刺激的な環境だ。
太田は、「今の日本で“最新”と言われている技術は一通り入れている」と自信をのぞかせる。また、営業責任者である五十嵐は、「顧客へのアプローチや、カスタマーサポートの方法などを体系立てていく、営業活動におけるゼロイチも体験できる」と魅力を語ってくれた。
社会で労働問題が声高に叫ばれつつも、なかなか事態が好転しない現代。小林は、「事業としてはまだまだ、最初の一歩さえ踏み出せてないくらいのレベル」と謙遜するが、社会が見て見ぬふりを続けている課題の解決に乗り出したことの意味は大きい。
「1秒でも早く……」、切実な願いを抱いて、Mewcketは走り続ける。
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