上場経験があるAI起業家が挑む、金融業界の大変革。
なぜシンプレクスとタッグを組んだのか?

インタビュイー
金子 英樹

1987年 一橋大学法学部 卒業、同年アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)に入社。外資系ベンチャーを経て、1991年 ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)に入社。1997年 ソロモン・ブラザーズ時代のチームメンバーとともに独立し、シンプレクスの前身であるシンプレクス・リスク・マネジメントを創業。2016年 単独株式移転により、シンプレクスの持株会社としてシンプレクス・ホールディングスを設立。

上村 崇
  • Deep Percept株式会社 取締役社長 

早稲田大学卒業。在学時よりベンチャー企業に参画し、データ分析およびソフトウェア開発に携わった。卒業後はアクセンチュアに入社し、戦略グループにてコンサルティングに従事。2005年、ALBERT(アルベルト)を創業し、データサイエンスをコアとする事業を展開。2015年には東証マザーズ上場。ビッグデータ解析等を通じて勃興期のAI市場を牽引、100名以上のデータサイエンティストおよびAIエンジニアを擁する組織にまで成長させた。2019年、任期満了をもって退任すると科学技術振興をミッションとする新会社epiST(エピスト)を設立。シンプレクスとエピストの共同出資という形で、3月にDeep Percept(ディープパーセプト)を設立。金融×AIによるイノベーションを目指している。

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「金融×IT」で日本の金融界にイノベーションを起こし、フロント領域で国内No.1をひた走るシンプレクスが、いよいよ新たな領域に本腰を入れてきた。今度の照準は「金融×AI」によるイノベーション。「小手先のFinTechベンチャーとは次元の違う変革を起こす」と金子CEOがいつもの金子節を口にすれば、「シンプレクスであれば金融領域で真のイノベーションを起こすことができる。だから手を結び、新会社を立ち上げた」とDeep Percept社長の上村氏も言い切る。

はたして2人の自信は何に裏付けられているのか? そして金融のメインストリームにAI革命が起きた時、どんな変化がやってくるのだろうか?

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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リアルFinTechのリーダーと上場を経験したAI界の起業家の出会い。Deep Percept誕生までの経緯とは

AI関連ビジネスの最前線を知る者ならば、上村氏の名を知らぬ者はまずいないだろう。ビッグデータ解析や人工知能の可能性が、今のようにビジネスの最前線で話題になる以前にALBERTを設立。その後、この領域は注目され急拡大するわけだが、常にそのムーブメントのど真ん中にいた人物が上村氏である。ALBERTは上場を果たし、100名超の一線級データサイエンティストやAIエンジニアを擁してなおも成長中だが、そのトップの座を辞してまでDeep Perceptの創業に乗り出した上村氏。その理由とは何だったのか?

上村端的に言えば「誰もできなかった」ことを始める千載一遇のチャンスだったからです。長年AIの可能性を追いかけ続けてきた私にとって、金融業界はどこよりもAI関連技術がインパクトを出せる領域だという認識でいたんです。ところが、この業界はどこよりも参入障壁の高い領域でもあり、セキュリティや技術の精度も極めて高水準で問われます。一介のデジタル系ベンチャー、あるいは受託開発依存のSI企業では到底入り込めない世界です。

そんな中で1社だけチャンスを握っている集団があった。それがシンプレクスです。イノベーティブなITテクノロジーで、すでに金融業界でメガバンクやメガ証券といった企業に変革のクサビを次々打ち込んでいました。シンプレクスであれば金融のインナーサークルの中から、AIによる変革を牽引することができると確信していました。

Deep Percept株式会社 取締役社長 上村崇氏

では金子氏のほうはどのような思いを持っていたのだろうか? 幅広い産業界で急拡大するデジタル化に対する認識や、上村氏と出会う経緯も含めて尋ねてみた。

金子AIをはじめとするデジタル関連の技術は、私自身すでに何年も前から注視していたし、シンプレクスとの親和性も高いと感じていました。また、我々のお客様であるメガバンクやメガ証券の経営陣からも、「シンプレクスはいつからAIに本格チャレンジをするんだ?」という質問を受けていました。上村たちAI側のリーダーたちと同様に、金融界もまたAIが破格のインパクトを起こせることには気づいていた。だから私に「おまえたちはいつ本気で動きだすのか?」と問いかけていたのだと思います。

しかし私は人一倍「一緒にチャレンジしてくれる人」の選択にこだわりを持っている人間。「AIの時代が来たね。じゃあ急いでどこかと手を組んで……」などという軽い気持ちでは始めたくなかったし、「どうしても、こいつとじゃなければやりたくない」と思わせてくれる人物を探していた。そんな中、初めて「こいつだ!」となったのが上村だったんです。

シンプレクス株式会社 代表取締役社長 金子英樹氏

上村そもそもの出会いは今から10年ほど前。共通の知人を介し、金子さんに初めてお会いしましたが、私にとっては「起業と経営の大先輩」ですから、食事に連れて行ってもらいながら、経営に関わる教訓をいろいろありがたく聞いていたんです。それに、アクセンチュアの大先輩でもあり、大変尊敬していました。

金子実際、私と上村は世代も違うので、アクセンチュアではすれ違いです。ともに働いた経験はなかったのですが、知人がとにかく彼を高く評価していたし、上村崇という男がAI関連のビジネスで頭角を現し、実績を上げている、という情報は方々から聞こえてきてもいたので、私としてもいつか一緒に仕事をしたいと思っていました。

何度も話す中で感心したのは、彼のコミュニケーション力。シンプレクスにはITや金融工学の申し子みたいな人材がいるわけですが、人柄としては一癖も二癖もある尖ったヤツが多い(笑)。あえて才能のある尖った人材を積極的に採用育成しているのは、イノベーションの創出を目指しているからこそですが、そうしたエッジの立った者たちをリーダーや経営者が一つにまとめ、巻き込んでいく力を発揮しなければ会社というチームが成果を生み出すことは難しい。

私も常々そう思い、自らに言い聞かせているのですが、おそらくデータサイエンティストやAIエンジニアを束ねてきた上村も、同様のことが求められてきたはず。容易ではなかったはずだが、話していてわかったんです。コミュニケーションにこれほどの説得力があるから、彼らは成功したんだろな、と。

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既に受注実績もあれど、「本領発揮はこれから」

まだまだ組織面などについても聞きたいことはあるが、その前に誰もが気になるはずの事柄を先に聞いておこう。両氏が語る「金融業界がAIを本格導入した場合、とてつもないインパクトが生まれる」ことについてだ。いったい大手金融機関がAIを本格的に活用したら、どんなインパクトが生まれるのか。

上村金融ビジネスや関連業務のあらゆる局面にAIの活用チャンスが存在しています。1つひとつ拾い上げていくとキリがないほど、「金融×AI」には可能性があるのですが、この5月に正式発表したばかりのDMM.com証券のeKYCソリューション導入は、早くもその事例となりました。

「KYC (Know Your Customer)」とは、犯罪収益移転防止法(犯収法)で定められている本人確認義務のこと。金融機関や送金事業者は、この犯収法に則った厳正なKYC手続きを実践した上で、ユーザーの口座開設を行っている。そして「eKYC」とはこの一連のプロセスをオンライン上で実現する仕組み。2018年11月に犯収法が改正されたのをきっかけに、eKYCの取り組み強化に出た金融機関ばかりでなく、初めてeKYCに着手することを決めた金融機関も少なくないとのこと。このニーズに応えるべくDeep Perceptでは、ディープラーニング等のAI技術を用いた身分証明書の真贋チェックや顔認証による本人確認を実現しているのだという。

上村 AI-OCR(Optical Character Recognition:光学的文字認識)による確認書類情報の読み取り、および顧客エントリー情報との照合システム、ディープラーニングによる画像認識を加えて「Deep Percept for eKYC」を独自に開発したんです。これをDMM.com証券さんが導入してくださった理由としては、もちろんシステムそのものの機能や精度が評価されたから、という点もありますがそれだけではありません。

シンプレクスがこれまで同社に対しFXディーリングシステムなどのシステム構築において実績を築き、信頼を獲得してきたこと。また、これらのシステムとの連携も実現できる点が高く評価された結果なんです。

まさに冒頭で上村氏が示した通り、法律や規制などによってテクノロジーに求められる厳格さが他業界の比ではない金融業界。しかも、シンプレクスが専門としているフロント領域は収益に直接影響を与える領域のため、何よりも信頼や実績がものを言う。上村氏が持ち込んだAIにおける技術的な確かさと新しさ、そこにシンプレクスが築いてきた信頼とITシステムにおける技術力の高さとが融合して、Deep Perceptは早くも成果を出したのだ。だが、上村氏は淡々とした語調で続ける。「今回はたまたま法改正があって、タイミング良くニーズにお応えしたというだけです」と。要するに「Deep Perceptにできること、としてはまだ序の口ですよ」というわけだ。

上村例えばシンプレクスの真骨頂ともいえるトレーディングなどで用いられているシステムにおいても、あるいは金融機関で働く皆さんが携わっている業務上のシステムにおいても、AIを活用することでさらに高い付加価値を生むことができます。その証拠に、シンプレクスの様々な分野の担当者から「ここにAIを用いることで、こういう事ができるんじゃないかと思うんだけど、どうだろう」という熱心な声が上がって来ています。

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PoC(実証実験)ならスタートアップでも出来る。実力は「ビジネスレベルで実用化できるかどうか」が決める

Deep Percept設立の背景にあるのは、シンプレクスが獲得している金融界での信頼や実績ばかりではないようだ。金子氏は多くのデジタル系スタートアップが、「話題性のある実証実験」には顔を出すものの「リアルなビジネス」段階にまで到達出来ていない実情を挙げて以下のように語る。

金子シンプレクスが金融領域のフロントシステムに金融工学上の数理モデルを持ち込んだ時と、非常によく似た現象がこれからのAI導入においても引き起こされていくだろうと、私は思っています。

何か新しいチャレンジをする時、テクノロジーの世界では必ずPoCと呼ばれる実証実験が行われ、実際のビジネスに適用できるか否か、あるいはどの程度の効果が上がりそうかを確かめていくのですが、今やAI絡みのPoCが業界を問わずあちこちで行われています。こうした動きについては大いに期待していますし、昨今のデジタル界隈の盛り上がりをポジティブに眺めてもいます。

ところが、たいていのPoCは実験段階から実装・実用段階へと進まないまま終わっていく。チャレンジングなことをしているのですから、うまくいかないことが多いのも当然ですが、本当のところを言えば「実験が実験で終わってしまう理由」の大部分は別にある。

上村PoCと実用化は明らかに別物ですよね。AIの世界でも、小規模なベンチャーはPoCを任せてもらえても、いざ実装してビジネスに適用していこうという段階で、対応しきれなかったりします。実験向けのサイズならば対応できても、実装となれば、人的リソースや技術レベルなど様々な面が問われますから。特に金融業界はその要求レベルが極めて高い。

金子最終的に実ビジネスのサイクルに採り入れられて、改善点を指摘されながらも、それに対応をしながら再び挑戦をして、リアルなPDCAを何度も回したところにしか収益は生まれない。かつてスタートアップだったシンプレクスは、金融工学や、ITの最新技術の活用という部分で、そのサイクルにしがみつき、なんとか価値を出していくことで支持を得て、生き抜いてきた。でも今のFinTechベンチャーやデジタルベンチャーでそこまでしぶとく食い下がれているところは、ほんのわずかしかいない。

上村そうなんです。とりわけ金融業界のメインストリームに食い込む、となると、PoCを試しにやらせてもらうだけで終わってしまうケースがほとんど。だからこそ、シンプレクスのAI会社である、という事実は強みになるんです。金融業務を深く知っていて、フロントシステムの最前線を理解し、金融機関のシステムに求められる水準の高さもわかっている。そういう集団がチームワークで成果を出している。AIという武器を得て、PoC止まりでは終わらない実ビジネスでのイノベーションを起こします。

金子単に大手金融機関にシステムを納めて信用を得ているから、という理由だけではなく、PDCAサイクルを回す中で直面する数々の難しさも知っているし、そういうものと戦うのが仕事だと思っている集団だからやり抜いていける。これまでシンプレクスが採用し、育ててきたのは、クールヘッド(冴えた頭脳)とウォームハート(熱い心)の両方を備えた者たち。小賢しい人間が理論だけを絵に描いているような集団ではなく、“いばらの道”とわかりながらもなんとか乗り越えてやり切っていける集団だと自負しています。

金子氏は、これまでのインタビューで明かしてきたように、「地頭の良い尖った人材さえいれば企業は成功する」などと思ってはいない。重要なのはそうした人材で形成されたチームが、いかに困難を乗り越えて現実を泥臭くブレークスルーしていけるか。新卒採用と若手人材の育成に早い時期から注力をしてきたシンプレクスには、実験を実験だけで終わらせない地力というものが備わっている、というわけだ。

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シンプレクスと連携しつつも、独自のカルチャーを醸成する

これほど息の合った関係が金子氏と上村氏の間に生まれているのならば、あえて別会社を設立せず、シンプレクス内部の取り組みとしてスタートしても良かったのではないか。その疑問に金子氏は即答で返してくれた。

金子1つには、上村ほどの男を招いておいて、私の会社の一部門の長で満足してもらおうなどとは思っていなかったということですよ。また、「ALBERTという会社を立ち上げ、時間をかけてしっかり成果を積み重ねた上で、その会社の上場も実現した上村という男が、新しいチャレンジのために会社を設立してトップに立った」という形でスタートを切った方が、レピュテーションという意味でも効果がある、という考えも働きました。

そしてもう1つの理由は、私がトップを張っているシンプレクスでは、シンプレクスとしての多様性を追求している。けれども、AIによる付加価値創造というDeep Perceptのミッションは、シンプレクスの既存の枠を大きく超えられると考えています。そこで多様性を追求する役目は、上村に担って欲しいと思ったからです。シンプレクスの多様性を大きくはみ出すような広がりを、自由に追いかけて欲しかった。だから、あえて別会社にしたんです。

上村私もまたピュアにビジネスでの成功を考えれば、別会社にすべきだと思っていました。私自身の肩書きがどうこうというよりも、「シンプレクスに新しい部門ができてAIを手がけています」ではなく「Deep Perceptという新会社が金融×AIに挑みます。バックには金融×ITのシンプレクスがいます」と発信するほうがずっと明快ですし、理解を得られやすいと考えました。

「AI」や「ビッグデータ」というキーワードが金融機関内で話題にあがったときに第一想起を取れるようなブランドを、Deep Perceptでは作っていきたいと思っています。さらにベタなことも言えば、別会社のほうが自由に暴れられますから(笑)。

外見も語り口もまったく別タイプにしか見えない2人の経営者だが、やはり妙に通じ合っているところがある。では、金融×AIの取り組みを進めるDeep Perceptのメンバーはどうなっているのだろう。上村氏が前職や幅広い人脈から、データサイエンティストやAIエンジニアを引っ張ってきたのかと考えていたが、実はそうではないとのこと。

上村もちろん今後、AI領域の人材を中心に採用に注力をしていこうと考えてはいますが、現状のDeep Perceptのメンバーは、私以外すべてシンプレクスからの出向社員で構成されています。

Deep Perceptの構想が現実化する中でシンプレクスのメンバーと会う機会が増えていくと、「外に人材を求めなくても、ハイポテンシャルな逸材が十分いる」ことに気づいたんです。要はどこのAIベンチャーでも欲しがる人材がシンプレクスには何人もいたんです。

具体的には「機械学習など数理における高度な知識、ITシステムに関わる知見、ビジネス上の知識や経験」の3つを兼ね備えた人材。ITとビジネスに精通している人材でさえ、なかなか見つからない中、数理的な知識も備えているとなると、日本で見つけるのは非常に困難なのだと上村氏。すると金子氏も頷きながらこう語る。

金子金融×ITをビジネスの世界に提供するのがシンプレクスだから、当然うちには上村がずっと探してきたような人間がいる。でも、かつてのシンプレクスも苦労をしてきたんです。この国では数理に長けた人間の多くは研究職を志していてビジネス領域に出てこなかったり、いたとしても金融機関でクオンツやアクチュアリーのような特殊な役割を担っていたりする。採用は容易ではなかったですよ。

現在はフィナンシャルエンジニアやクオンツといったメンバーを中心にシンプレクス内でAIに関わる勉強会などを開催。そこに積極的に参加するメンバーや、高いポテンシャルを見せた社員がDeep Perceptに出向をしているのだという。

金子「なぜ別会社にしたのか」という質問の答えにも絡んでくるんですが、今後シンプレクスの採用においては、Deep Percept(データサイエンティスト/AIエンジニア)というキャリアパスも意識した展開にしていこうと考えています。

今まで通り、新卒採用では地頭の良さや情熱、イノベーションに対する前向きな姿勢や、グローバルなビジネスに対する姿勢などを重視していきます。もちろん、ITであろうと数学であろうとかまわないのですが、何かに突出した能力を持っている人材も歓迎していく。つまり尖った人間を採用していくことに変わりはないのですが、我々の心持ちの中に「今までだったら尖り過ぎだと判断したような人物が現れても、Deep Perceptならばどうなんだ?」という視点を持つようにしたい。

これは上村も了承してくれている、むしろ彼も乗り気なので、明言してしまいますが、ある意味Deep Perceptを“実験の場”にしてもいいのではないかと考えているんです。

上村もちろんDeep Perceptとしての採用もしていきますが、先ほども申し上げた通り、私が欲しい人材とシンプレクスが採用してきた人材には、いくつもの共通点があります。今後、とりわけエッジの立った志望者がシンプレクスに採用され、その後Deep Perceptで仕事がしたい、という意向を示してくれるのであれば、もちろん大歓迎です。

実際、以前シンプレクスで活躍していたある社員が退職してロボティクスの会社にいたのですが、Deep Perceptの設立を目指す方向性を知ったことで“出戻り”してくれたという例もあります。Deep Perceptは、今まで以上に尖った人間を吸い寄せる装置になると、私も思っているんです。

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一般消費者にもインパクトを。金融機関が持つビッグデータを活用し、金融×AIで社会変革する

最後に改めて聞いてみることにした。シンプレクスと新会社Deep Perceptがシンクロしながら進めていくイノベーションは、いったい何をどう変えるのか。インパクトの大きさを強調する理由はどこにあるのか。

上村先ほどのeKYCのような具体事例が増えていけば、より明快な返答ができると思うのですが、間違いないのは金融ほどデータがダイレクトに価値を生んでいるインダストリーはないということです。そして価値あるデータが揃っていれば、AIは必ず強力な武器になります。繰り返しになってしまいますけれども、今後Deep Perceptは金融界のバリューチェーンの至る所にAIを活用するチャンスを見つけ、そこに新しい提案をしていきますし、PoCにとどまらず実ビジネスに実装して行くだけのリソースを整えてもいます。

金子例えば現状でも世の中には、家計簿ソフトを提供するFinTechベンチャーとメガバンクが連携することで、個人のお金の流れを把握し、その人にとって最適な情報や商品を伝えるようなサービスを展開しようという構想があったりします。しかしその場合、当人がスマホアプリ等でつけている家計簿のデータと、連携するメガバンクが保有するデータのかけ算から解析したものしか使えません。

しかし、人を取り囲むマネーの世界はもっとずっと多様で奥深いものになっています。もしもシンプレクスが日本の経済を動かす金融界のメインストリームから、今まで以上の信頼を勝ちとり、そこで扱われている宝物のようなビッグデータにAIソリューションを提供させてもらえるようになったなら、上村が率いるDeep Perceptは、従来のFinTechベンチャーでは手を伸ばすことさえ出来なかった領域に入り込んでいける。

例えば、いま流行りのロボアドバイザーによる投資サービスも、現状は人間が考案したいくつかのポートフォリオ・マネジメントルールに則って運用しているだけですが、ユーザーの属性データ、資産データ、日々の行動を把握できるようになれば、AIがユーザーの志向性に沿った最適なポートフォリオを提案することができます。

このように、これまでBtoBの事業で成長してきたシンプレクスもDeep Perceptを介してBtoBtoCという形で個人にも価値を提供できる可能性を秘めている。シンプレクスが取引している様々な金融機関のデータを連携することができれば、広がりは無限といえます。

世界経済は驚くべきスピードでデジタル変革を進行し、その動きは第4次産業革命などと言われている。かつての産業革命は蒸気、石油、鉄、電気、ITによってもたらされたが、第4次のデジタルによる産業革命における資源はデータだ。どれだけ価値の高いデータを手にできるか。それによってイノベーションの成否も、インパクトも決まってくる。

すでにITによるイノベーションで確かな信頼を得ているシンプレクスには、他社が触れられなかった金融界のデータをビッグデータ解析やAIソリューションに用いていける可能性が高い。銀行、証券、保険、仮想通貨など、あらゆる金融のフロントシステムやプラットフォームを手がけているシンプレクスは、すでにそうした宝物のようなデータと向き合う事業で成果を重ねている。そこにDeep PerceptがAIによる課題解決力を行使すれば、日本の金融界は大きな進化を遂げる可能性がある。

ちなみに、Deep Perceptはその事業領域として、以下のように幅広い可能性を提示している。

[経営企画・管理分野]
経営・財務分析、リスクマネジメント

[マーケティング・商品企画分野]
需要・売上予測、ホワイトスペース分析、顧客プロフィール推定

[営業分野]
商品レコメンド、ターゲット最適化、営業プロセス最適化

[資産運用分野]
相場予測、AIロボアドバイザー、決算・財務分析

[カスタマーサポート分野]
AIトークスクリプト、顧客・オペレータの感情分析、チャットボット、AI-FAQ

[セキュリティ分野]
不審者検出、機密情報流出検知、なりすまし検知、不正取引検知

[バックオフィス分野]
eKYC、AI-OCR、チェック・判定業務の自動化、検索高度化

インタビューの締めとして、Deep Perceptおよび上村氏に対する今後への期待を金子氏に語ってもらった。

金子以前FastGrowのイベントでも話しましたが、私は起業家ではなく事業家として生きてきたつもりですし、今後もそうありたいと思っています。そして、上村もまた同じような生き方をしてきた。時流に乗ってAIを手がけるプレイヤーが続出する以前から着手し、時流を起こす側の立場としてALBERTを設立。きちんと事業による収益を重ねて、時間をかけて上場するところまで会社を成長させていきました。

そういう姿勢も含めて、私は彼を信頼しているし、一定の成功を得た今、まったく新しい挑戦をゼロから始めようともしている。複数の会社を起業する人間のことを、世の中ではシリアルアントレプレナーと呼んでいるから、上村もまたそういう呼ばれ方をされるかもしれない。けれども、単に金儲けのためだけに会社を作っては売っているような存在と、今回の上村の場合とは全然違う。

今回も彼は起業家というより事業家としてチャレンジする覚悟で臨んでくれている。だから、一緒になって泥臭くDeep Perceptの事業を成功させたいと思っていますし、それがシンプレクスという会社や、支えてくれている皆にとって最良の刺激になることを期待しています。

上村ありがとうございます。最後に私も本音を言わせてもらうと(笑)、お会いした当初の金子さんには、「経営の大先輩」としての尊敬の念とともに「おっかない親分だなあ」という印象を持ってもいたんです。

でも、普通「泥臭く」とか「困難を乗り越える」なんて言い方をするトップのかたは、ただただ「熱い男」のイメージばかりがついてまわるのですが、金子さんの場合、当たり前のように冷静に世の中を見ていて、きちんとビジョナリーな戦略を持ち、それをロジカルに緻密に語れたりします。私なりに前職の頃から、かなりの数の経営者とお会いしましたが、こんな人はなかなかいません。

これからも金子さんに学び、シンプレクスが築いてきたものに最大限のレバレッジをきかせながらDeep Perceptを成長させ、絶対に金融×AIでNo.1になってやろうと心に誓っています。

おそらく今後、金融の世界のニュースにDeep Perceptの名を発見する機会は増えていくだろう。その時には思い出して欲しい。単に研ぎ澄まされたクールヘッドだけではなく、ウォームハートも携えた2人の事業家がそのニュースを生み出しているということを。

こちらの記事は2019年06月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

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金子 英樹
  • シンプレクス・ホールディングス株式会社 代表取締役社長(CEO) 
  • シンプレクス株式会社 代表取締役社長(CEO) 
公開日2023/03/08

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