【独自解剖】「わからない」ではなく「今はまだわからない」と言えるか?─22期連続増収の怪物ベンチャー“エス・エム・エス”流「BizDev OS」の全貌【連載:BizDev OS】
「22期連続増収」。この実績から、エス・エム・エスを「完成された大企業」と想像するかもしれない。
しかし、その実態は今もカオスな面があり、社会課題のど真ん中で新規事業を量産し続ける「事業開発(BizDev)の精鋭集団」だ。感度の高いビジネスパーソンや投資家の間では、「次々とトップクラスのBizDev人材を輩出する、知られざる“事業家育成企業”」と密かに囁かれている。
複雑極まる「高齢社会×情報インフラ」という領域で、なぜ彼らはこれほど再現性高く事業を立ち上げ、スケールさせられるのか?
FastGrowの新連載『BizDev OS』第一回では、同社の経営トップから現場の最前線で戦うエースまで計4名への独占取材を敢行。人口動態を見据えた長期的視点から、全社員にインストールされた経営プロセス、現場の徹底した一次情報取得まで、その「勝てる構造」の深層を徹底解剖する。
「いつか自らの手で事業を創りたい」。そう渇望するビジネスパーソン必読のバイブルをご覧いただこう。
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
3分でわかる!エス・エム・エスの「勝てるBizDev OS」必読ポイント5選
読了まで少し時間のかかる本記事。時間のない読者のために、そして「なぜエス・エム・エスから優秀な事業家が輩出され続けるのか」をいち早く知りたい読者のために、彼らが持つ強力な「事業開発のOS(思考の型)」を5つに凝縮してお届けする。
- 予測ではなく「100年先の必然への投資」。人口動態から逆算する超長期の課題設定
「当たればデカい」というギャンブル思考は持たない。20〜30年先まで確定している「人口動態」から逆算し、社会課題の連鎖を“面”で捉える。「社会課題の解決と利益はトレードオフではない」という哲学のもと、本質的な課題解決を追求することが確実な事業成長へと繋がっている。 - 感情的なサンクコストを排す。失敗を“組織の血肉”に変えるポートフォリオ経営
感情やサンクコストを排した明確な事業撤退基準でリスクを管理しつつ、 「致命傷にならない失敗」のバッターボックスを若手に大量提供し、そこで得た暗黙知を個人の責任にせず、組織のケイパビリティ(能力)へと昇華させる。 - 「答え」ではなく「問い」を揃える。全員を当事者に変える経営プロセス
「この課題は高齢社会でより必要とされるか?」という本質的な問いを全社で共有。「戦略・人材・オペレーション」の視点を全社員にインストールし、自己成長と社会貢献を高次元で両立させる、属人性を排除した組織的な事業創出を実現する。 - 与えられたKPIすら疑う。顧客の“真の成功”に執着し、自ら課題を再定義する
SaaSの定石やマクロなデータに依存せず、現場のN1の声にこだわる。自社の商材を売ることではなく「顧客の事業を成功に導くこと」に執着し、機能や組織の壁を越えて一次情報を取りに行き、自ら事業の手綱を握り直す - トップへの「今はまだ分かりません」が許される。見栄やプライド不要の「経営者集団」
不確実な事業開発において、事業責任者がすべてを見通せることはあり得ない。“分かったふり”によるプライドを捨て、経営陣に対して「今はまだ分かりません」と直言できる、フラットで知的な信頼関係。
22期連続増収を支える、エス・エム・エスの「3つのBizDev OS」
「なぜエス・エム・エスでは、これほどまでに事業家人材が育つのか?」
FastGrowは今回、経営陣と現場のエースへの徹底取材を通じ、同社の強さの根底に流れる思考体系──すなわち「BizDev OS」を解剖した。結論から言えば、同社の凄みは以下の3つのポイントに集約される。
「3つのBizDev OS」
100年後も課題が
大きな場所を選定
個人の失敗を
組織の学習へ
経営プロセス
を回す
まずは経営陣の二人の言葉から、「経営と組織の思想」について紐解いていく。
「コンサルだからいけるでしょ?」──綺麗事ゼロ、現場主義を貫く経営トップの原体験
高度な“システム”を語る前に、まずは彼らの「原点」に触れておきたい。なぜなら、22期連続増収という美しい実績だけを見れば、エス・エム・エスはさぞかし「スマートで、緻密に計算された大企業」だと思うかもしれないからだ。しかし、その実態は驚くほど泥臭く、社会課題解決への熱量と、現場の試行錯誤に満ちている。
2026年1月、エス・エム・エスの3代目代表取締役社長に就任した髙畑正樹氏。前職は戦略コンサルティングファーム出身という華々しい経歴を持つ彼だが、同社でのキャリアのスタートは決してスマートなものではなかった。
髙畑 正樹氏
髙畑エス・エム・エスへ入社してすぐ、当時のCFOから「あなたは現場を知らなすぎる。仕訳を起点に、オペレーションを回す現場からはじめた方がいい」と言われまして。最初は戸惑いの思いもありましたが、現場を知ることは非常に大切なことであることと、やるなら早い方がよいと思い、当時は社員1,000人規模の会社でしたが、そこで経理担当2人のうちの1人として当社でのキャリアをスタートしました。
入社後すぐ、現場の肌感覚を徹底的に叩き込まれた髙畑氏。その後、さらなるカオスが彼を待ち受けていた。全社のERP(基幹業務)システムの入れ替えプロジェクトである。
髙畑前職がコンサルだったからといって、システムコンサルじゃないのに「コンサル経験あるしいけるでしょ」みたいな雑な振りで任されまして(笑)。よくわからないけれど、面白そうなんでやってみますと言って引き受けました。
こうした「無茶振り」の洗礼を受けたのは髙畑氏だけではない。人事部門責任者の藤田和大氏も同様だ。
藤田 和大氏
藤田うちは結構無茶ぶりする会社で(笑)。私は広告業界の営業とコンサルの経験しかないのに、入社2年目で労務・法務の責任者、3年目で経営企画・IRに異動しその後髙畑にデリゲーション(引き継ぎ)しました。その後は事業側に異動し、老人ホームとユーザーさんのマッチング事業の責任者をやったり、『カイポケ』周辺の金融事業、購買支援事業の責任者を担当したりしてきました。
一見するとバラバラに見える藤田氏の経験と実績に対し、「なぜそんなに様々な領域で成果をあげられるんですか?」と問うと、「それがエス・エム・エスが求めるマネジメントだからですかね。優秀かつ専門性ある人材を巻き込んでどう価値を最大化するか、を常に求められている」からだと語る。
修羅場が創る「当事者」の胆力
「参謀」
戦略や資料を作る人
「当事者」
高い目標を自ら立て
周囲を活かし正解を作る人
<FastGrowの視点>
「コンサルだからいけるでしょ?」「経験ないけれど労務・法務の責任者ね」。 一見すると無謀とも言えるこの抜擢人事だが、実は明確な意図がある。エス・エム・エスが求めるのは、美しい分析資料を作れる「参謀」ではなく、自ら決めて動かす「当事者」だ。
完璧に整った環境を、実績ある人材に渡すのではなく、意志ある未経験人材でも不確実でカオスな環境に放り込み、泥臭くオペレーションを回し切る胆力を問う。この熱を帯びた「逃げられない、なんとかせねばならない修羅場」が、強靭なBizDev人材を育てる発火点となっている。
賭けではなく「必然への投資」。
人口動態と情報の非対称性を起点にした“会社の設計図”
こうして泥臭い現場の洗礼を受け、「当事者」として鍛え上げられたBizDevが集うエス・エム・エス。そんな彼らが向き合う領域として選ぶのが、「高齢社会×情報インフラ」という超巨大かつ複雑なマーケットだ。ここで彼らは、ポイントの1つ目である『超長期の課題設定力』を発揮する。次に進むべきマーケットをどう選定しているのか。そこには、ベンチャー特有の「一発当たればデカい」というギャンブル思考は一切存在しない。
髙畑我々のアプローチは『予測が外れるリスク』が限りなく低いと考えてます。景気変動や技術革新と違い、日本の人口動態は10〜20年単位では覆らない確定的な変化です。確実に訪れる未来から逆算して今動く。これは『賭け』ではなく、『必然への投資』なのです。
彼らはこの人口動態の逆算から、「医療・介護の需給ギャップ」「現役世代の負担増大」「情報格差」という構造的な負を定義した。他社が「介護の求人サービス」といった縦割りで参入する中、エス・エム・エスが「高齢社会×情報インフラ」と横断的にドメインを定義するのも、従事者不足が経営悪化を生み、それがサービス品質の低下を生むという「長い時間軸とともに大きくなる課題の連鎖」を一本の軸で捉えているのだ。
人口動態が「なぜこの領域に賭けるか」の大義(WHY)だとすれば、「情報の非対称性」は「その領域のどこに事業機会があるか」を特定する解析ツール(WHERE)として機能しているということである。
「小さく速く回す、が通用しない」──複雑極まる巨大市場で求められるアンラーニングの嵐
このような緻密な設計図を持つ一方で、この複雑な領域で事業を形にするには強烈な「アンラーニング」が求められる。特に、他社のベンチャーやスタートアップで実績を残してきた優秀な20〜30代の層ほど、この壁に激突する。
髙畑ベンチャーやスタートアップ出身の方が最初に驚くのは、我々の事業の複雑さと、それに伴う意思決定の厚みです。スタートアップでは『小さく速く回す』ことが正義とされがちですが、医療・介護領域は法制度や多様なステークホルダーが絡む構造的な複雑さを持ちます。ベンチャーで鍛えた行動力や仮説検証の速さはもちろん武器になりますが、スピードより先に、まずは『なぜこの業界でこのビジネスモデルが機能するのか』という構造を正確に読む解像度を上げないと、規制や業界慣行の壁に繰り返しぶつかってしまうのです。
「前職ではこれでうまくいった」という成功パターンをそのまま持ち込もうとしても、エス・エム・エスではミッションも顧客構造も全く異なる。複雑な規制とステークホルダーが絡み合うこの領域で勝つためには、「自分の成功体験」を一度手放し、「高齢社会×情報」という軸で一から問いを立て直す泥臭さと覚悟が、アンラーニングの第一歩目となる。
大企業で10年かかる「意思決定の経験」を3年で積む。失敗を許容し事業家を育てる“ポートフォリオ経営”
もちろん、自己の成功パターンを捨て去る覚悟を持つBizDev人材であったとしても、活動していく中で失敗はつきもの。エス・エム・エスはその『失敗』すらも事業家育成のシステムとして組み込んでいる。22期連続増収という驚異的な実績を裏で支えているのが、2つ目のポイントである「ポートフォリオ経営」だ。
藤田意外かもしれませんが、失敗を恐れず共有し、そこから学び続けて蓄積していく、いわば『学習する組織』のような文化があります。過去の失敗の蓄積が『組織ケイパビリティ』となって、新しいビジネスを作る力が増えているんです。
しかし、同社は単純に多くの失敗を許容しているわけではない。将来の企業成長のタネになるか?を感情やサンクコストを排した「事業の継続・撤退基準」を設けて管理している。その起点は 「この課題は、10年後の高齢社会でより必要とされるか?」というシンプルな問いだ。この「フィルター」を通し、人口動態を起点にした「将来の課題の大きさ」と整合性が保たれている限りは長期投資を行う。逆に、走り続けているのに「なぜうまくいかないかが長らく分からない(≒学習サイクルが回っていない)」状態になれば、素早く撤退する。
このような明瞭な基準でリスクをコントロールしているからこそ、同社は現在30〜40もの事業を抱えながら、全社の増収を22期も維持できている。そして、この「全社に致命傷を与えない多数の小さな事業群」の存在こそが、若手にフルスイングでの挑戦(と失敗)の機会を大量に与え、事業家へと引き上げる独自の育成装置として機能しているのだ。
髙畑入社3年程度で小規模事業の収支(P/L)責任を担うキャリアパスは、失敗しても組織が致命傷を負わない範囲で最大限挑戦させる設計です。ベンチャーなど比較的スピードが速いとされている組織でも10年程度はかかるであろう『意思決定の筋肉』を、この仕組みによって3年程度で形成できる。一人の天才を採用したり育てたりするのではなく、誰もが事業家に近づける仕組みを作ること。それが私たちの再現性の正体です。
<FastGrowの視点>
「若手に挑戦させよ」「失敗から学べ」と口で言うのは簡単だ。しかし、エス・エム・エスはそれを精神論ではなく、“システム”として組み込んでいる。 人口動態という確実な未来に投資しているからこそ、経営陣は安心して「事業家未経験の人材でもフルスイングできるバッターボックス」を大量に用意できる。そこでの失敗という暗黙知を、組織の共有知へと還元する。事業のポートフォリオと人材育成のポートフォリオを連動させるこの巨大な実験と学習のループこそが、彼らが高い打率で新規事業を当て続ける「勝てる構造」の正体であった。
属人性を排除し、全社員を「小さな経営者」へ変える。
「解答用紙」ではなく「問いの質」を揃える強固な経営OS
しかし、である。どれだけ優れた市場を選び、失敗を許容するポートフォリオを築いても、現場の実行力が伴わなければ絵に描いた餅に過ぎない。ここで登場するのが、エス・エム・エスの実行力と再現性を担保する3つ目のポイント、全社員にインストールされた「経営プロセス」というOSだ。
髙畑氏曰く、「全社員に『戦略・人材・オペレーション』という3つの視点で物事を考え行動する経営プロセスの概念が共有されている」。驚くべきは、経営陣だけでなく、現場メンバーやバックオフィスの担当者、ひいては「入社したての学生インターン生」に至るまで「小さな経営者」として事業成長に関わることを求めている。
この強烈なカルチャーを身をもって体感したのが、何を隠そう、3代目代表取締役社長に抜擢された髙畑氏自身だ。
髙畑入社してすぐ、『経理の戦略を作って』と言われたんです。最初は『事業戦略は分かるけど、経理の戦略って何?』『そもそも、戦略って何をどう提示したらいいんだ?』とよく意味が分かりませんでした。アウトプットとして何を出せばいいのかも分からない中で、横の部署の戦略を見様見真似でやっていくうちに、『戦略とは何か?』という自分なりの思考の型が身についていきました。
「型」を作ろうとして失敗する企業の多くは、「このシートを埋めて」「次の会議までにこのスライドを作ってきて」と「答えのフォーマット」を揃えようとする。しかし、エス・エム・エスの再現性の核心はそこにはない。彼らが徹底して揃えているのは「問い」なのだ。 「この課題は高齢社会が進むほど深刻になるか?」「この事業は10年後により必要とされるか?」。この共通の問いに対して、全社員が「小さな経営者」として自ら思考を巡らせるからこそ、属人的なセンスに依存しない組織的な事業創出が進み続けるのである。
「答え」ではなく「問い」を揃える
フォーマット
枠を埋めさせる
本質的な問い
自ら思考させる
「正解を探すな、正解を作れ」──与えられたKPIすら疑い、事業の“レバー”を探し抜く。“参謀”から“当事者”への変容プロセス
この強固な経営プロセス(思考の型)が全社員に浸透しているからこそ、エス・エム・エスでは現場で「目標未達」という壁にぶつかった時の捉え方が根本から他社と異なる。
藤田目標やKGIが達成しない時は、実行力の問題ではなく『設定したKPI自体が間違っているのでは』と疑います。当社のメンバーは実行スキルが非常に強いため、間違ったKPIを設定してしまってもその目標値を達成してしまう。そのため、『KPIは達成しそうなのに、利益や売上が目標未達になりそう』と各自が判断した瞬間に、自らKPIを変えていこうとするのです。
特に賢い優秀層ほど、初めは「分析や過去傾向から正解を導き出そう」とする罠に陥りがちだ。しかし、規制も多く、変化も激しい複雑な事業開発において「一時点を切り取った美しい分析」は機能しない。「まだデータが足りない」という思考を捨て、今持っている情報で最善の意思決定をし、走りながら修正する──つまり「正解を探す」から「正解を作る」へのシフトが求められるのだ。
数字を「管理するもの」ではなく「自分が動かすもの」として捉える。誰かに分析して提案する“参謀”ではなく、失敗した時に自ら矢面に立つ“当事者”への変容。これこそが、与えられたKPIを疑い、泥臭く事業を伸ばす“レバー”を探し続ける「エス・エム・エス流BizDev」の執念の源泉だ。
経営陣への「分かりません」が許される。知的な誠実さが生む共創関係
では、徹底的に考え抜き、誰もが経営者視点で実行するというハイレベルな要求がなされる環境において、現場の事業責任者は、実績ある経営陣に対して常に完璧な答えを持っていなければならないのだろうか?あるいは「分かりません」と率直に言うことができるのだろうか? FastGrowのこの問いに対し、髙畑氏は身を乗り出すようにして答えた。
髙畑分からないことは『分からない』ときちんと言ってほしい。事業責任者やBizDevの人が全てを見通せていて、マーケットを完璧に把握できていることなんてあり得ません。分かっていないのに分かったふりをするのが一番困ります。ただ、『分からないから何もしない』のではなく、『ここは分からないので、こっちに転んだらこのシナリオ、あっちならこのシナリオ』と仮説を立ててやっていきます、と言ってほしいですね。
藤田『わからない』ではなく、『今はまだわからない』と言ってほしい。『わからない』なら、『わかるようにして』というのが当社のBizDevに求めたいスタンスですからね。
不確実性に挑む「スマートな誠実さ」
その場しのぎをし
課題の本質にたどり着けない
周囲を巻き込みながら
「わかる」状態をたぐり寄せる
<FastGrowの視点>
「まだ分かっていない」とトップに直言できるカルチャー。これは風通しが良い、で済まされるものではない。事業開発・BizDevという不確実性の高い業務において、見栄やプライド(=分かったふり)は成果を阻む最大の要因になるという、経営陣のリスク管理の表れだ。 「戦略・人材・オペレーション」という強固な経営OSを全社員にインストールし、P/L責任も負ってもらう。その一方で、分からないことは分からないと認める「スマートな誠実さ」を極限まで求める。 この「高度な仕組み」と「誠実さ」の掛け合わせこそが、エス・エム・エスが「まぐれ当たりではない本物の事業家」を連続的かつ大量に生み出し続けられる最大の理由だ。
「SaaSの定石」を疑い、顧客の真の成功に向き合う。『カイポケ』の驚異的成長を支える川合氏の“執念”
ここまで、経営陣によって敷かれた「戦略・人材・オペレーション」という強固なOSの全体像を見てきた。しかし、それが単なる机上の空論にならず、22期連続増収という圧倒的な実績に結びついているのは、現場で事業を牽引するBizDevたちが、そのOSの上で「与えられたKPIや定石」すらも疑い、顧客の本質的な価値貢献にこだわっているからに他ならない。
介護事業者向けSaaS『カイポケ』の事業責任者を務める川合氏と、新規事業である『ウェルミージョブ』のプロダクトマーケティングマネージャー(以下PMM)を務める伊庭氏のリアルなストーリーから実態を垣間見よう。
川合氏は、大学院での難民研究からビジネスの世界へ飛び込んだ。現場のBizDevに求められる「常識を疑う力」を象徴するような、事業課題に真摯に向き合う姿勢を示す、象徴的なエピソードを持っている。
かつて『カイポケ』の開業支援チームを牽引していた際、「支援した事業所の約7割が開業1年後に赤字だった」という事実に直面した。「開業してもらうだけでなく、顧客の事業を成功に導いてこそ真の価値提供だ」と痛感した彼は、顧客の事業継続を阻む「資金調達(借金=悪という業界慣習)」という真の課題を見抜き、事業計画コンサルティングという新たなサービスをゼロから立ち上げたのだ。
その後カスタマーサクセス(CS)部門へ異動することになるが、「顧客の事業成功こそが、自社の事業成功である」という信念が揺らぐことはなかった。
その当時のCSチームが追っていたKPIは「退会率を減らすためにクロスセルを増やす」こと。SaaSの定石からすれば、ごく一般的な目標設定に見える。しかし、顧客の成功を第一に考える川合氏は配属当初からこの目標に違和感を抱き、社内の既存データを分析し直した。その結果導き出したのは、「クロスセルをしたから退会率が低いのではなく、サービスに満足している顧客が結果として様々な商品を買ってくれているだけ(因果関係が逆)」という本質的な課題の存在だった。
普通なら「与えられた目標だから」と盲目的に従ってしまうところを、彼は自らデータを引いて因果関係を整理し、なんとそのKPIを追うことを100人のチームと共に見直す決断を下したのだ。
そして、彼が代わりに向き合ったのが、カイポケが提供している「業務効率化」という本来の価値だった。「現場に行ったとき、顧客が自社システムを開きながら、隣のモニターでエクセルを開いている姿に申し訳なさを覚えた」という川合氏は、どのような機能がどのように使われれば業務効率化と言えるのかを一から地道に捉え直し、顧客の認識や、プロダクトに対する「期待値」のズレを埋めることへと戦略の舵を大きく切ったのである。
さらに、川合氏のデータと一次情報に対する“執念”はこれに留まらない。 事業が数十億規模にスケールしてくると、組織はどうしても「機能別」に細分化され、自部門のデータしか見なくなる成長痛に陥る。この壁に直面した川合氏が取った行動は、事業全体を顧客価値を起点に再度俯瞰するための、さらに泥臭い行動だった。
川合 裕士氏
川合各機能がそれぞれのデータしか見ていない状態、KPIが部分最適になっている状態に危機感を覚え、自分が全部のデータを見に行ったんです。プロダクト、セールス、マーケ、CSのあらゆるデータを全部自分で持ってきて、1枚の巨大なシートに広げました。顧客がどういう経路でサービスを選び、どんな体験をして定着していくのかを、定量と定性の両面から『1つのストーリー』として統合し直したんです。
ビジネスを効率化するために組織やKPIを「分解」するのは簡単だ。しかし、分断された顧客の行動をもう一度自らの手で「統合」し直さなければ、事業の真の課題(レバー)は見えてこない。 では、なぜ彼ら現場のBizDevは、自部門の枠を超え、ここまで全体最適で動けるのだろうか。それは「組織として『解決したいのは組織の課題ではなく、事業の課題である』という文化が根付いているからだ」。
川合エス・エム・エスでは入社当初から自分で目標(KPI)を設定することが求められ、『どう達成するか』だけでなく『そもそもその目標設定は正しかったのか?』を問われ続けます。目標設定の際には、縦(上位の戦略)と横(他の組織)のリソースを意識することが求められます。機能組織のKPIを単に達成するのではなく、事業全体(機能の1つ上のレイヤー)の課題を解くことが役割だと明確に求められるのです。
「今でも毎月、課題が見つかるたびに必ず現場に足を運ぶ」と語る川合氏。分断された顧客の行動をもう一度、文字通り「自らの手」で統合し直さなければ、BizDevとして社会動向を理解しながら、事業の真の課題は捉えられない。自部門のKPIすら疑い、組織の壁を越えて現場の一次情報を統合し、事業成長ストーリーを日夜リビルドし続ける。この泥臭い執念こそが、エス・エム・エスのBizDevが事業家と呼ばれる所以である。
全員が自律的に目標を疑い、全体最適させ続ける
部分最適に陥り
事業成長が鈍化
自分で立て、常に疑う
現場の情報を集めて
破壊と創造を繰り返す
既存の成功モデルに安住せず、N1の一次情報から真の課題を探り当てる伊庭氏の挑戦
川合氏とは全く異なるアプローチで既存の枠組みをアップデートしようとしているBizDevが、新規事業『ウェルミージョブ』を牽引する新卒5年目のPMM、伊庭氏だ。
大学院時代、建築系の耐震構造を研究していた彼がビジネスの世界へ飛び込んだ転機は、被災地でのフィールドワークだった。地震の揺れそのものよりも「被災をきっかけに地域の高齢者コミュニティが離散してしまう」というソフト面の深刻な課題を目の当たりにし、「この社会課題をビジネスで直接解決したい」と強く決意した。
そんな情熱を持つ伊庭氏が現在直面しているのは、「既存の成功モデルの進化と再定義」という、最も難度の高いミッションだ。 現在彼がPMMを務める『ウェルミージョブ』の前身は、介護領域に特化した大手企業の顧客が中心の採用メディアであり、隣接の職業紹介事業とあわせて既に利益成長を続けていた。しかし彼らは、その成功モデルに安住しなかった。
伊庭 拓哉氏
伊庭現在のウェルミージョブは、介護に閉じず、医療・障がい福祉・保育といった、高齢社会における『社会保障の持続性』という課題を抱えるマーケットに広く臨む意思決定をしています。お使いいただく顧客も、大手企業様に限らない、市場に広く存在する皆様に向けた事業であろうとしています。
外部環境の変化に応じて見つめ直し、過去の成功から脱却して市場・社会から求められている価値を見つめなおし、再度成長を推し進めていくために、伊庭氏は現場のN1の声を徹底的に集め、一次情報を取りに行く。大きなストーリーを描きつつも、現場で日々行われているのは「小さな探索と仮説の立証、あるいは仮説の転換」という泥臭い帰納的なプロセスの連続だ。その泥臭い探索の中で、伊庭氏は「マクロなデータ」と「現場のリアル」の強烈なズレにハッと気づかされたという。
伊庭医療福祉業界は『有効求人倍率が高い圧倒的売り手市場』と言われます。しかし現場の求職者の声を聞くと、それぞれの生活基盤があるため『通勤範囲の限られた選択肢』から、しかも給与差がつきにくい中で職場を探すという『決め手にかける』という悩みを抱えていました。『選びたい放題の方々だから最適な職場が見つけやすい』という我々の思い込みは、顧客の本当の困りごとと全くズレていたのです。
マクロな市場構造を俯瞰することは重要だ。しかし、それ以上に「現場の声から顧客の実像を捉える手触り感」がなければ、真の課題解決には至らない。「自分たちが何に向き合うことで、顧客や社会でまだ満たされていない課題を解くことができるのか?」。このような「社会や現場に出ることでしかわからない真の課題」に自然と向き合い続ける文化が、組織全体に根付いているのだ。
伊庭集まった情報をどう解釈するかにおいて、限られた場と一部の人だけでそれを行うと“形だけの綺麗な戦略”になってしまい、実行が伴いません。1次情報からどのように顧客が真に求めている価値を見出すかのプロセスを、事業を動かしていく現場の人たちと一緒に歩むことが大切なんです。
そんな新卒入社の伊庭氏もまた、川合氏と同じく入社初年度から自ら目標を立て、事業課題に向き合うカルチャーの中で育ってきた一人だ。
伊庭売上などの分かりやすい成果だけでなく、自分の立場から社会全体を俯瞰し、事業全体の課題を横断的に設定して、それを解くことが初日から求められます。そして、自分の役割を他者に任せ、自身はさらに発展的な役割を担うことで、事業拡大に合わせて組織と共に自分も事業も成長していくという思想がエス・エム・エスには流れています。
<FastGrowの視点>
データを武器に「KPIの因果関係」を作っては壊し続ける川合氏。 泥臭い一次情報の解釈プロセスを現場と共有しながら事業成長を推し進める伊庭氏。 アプローチのベクトルは全く異なるが、根底に流れているのは同じ「BizDev OS」だ。与えられたKPIや、一度組み立てた綺麗な戦略に逃げず、自らの頭で真の課題(事業レバー)を再定義し、それを解くためなら機能の壁も既存の成功体験を手放してでも顧客課題解決につながる課題を再定義し、挑み続ける。このような「学習し続ける姿勢」と「破壊と創造」に向き合い続ける執念を持つ人材が羽ばたけるフィールドを用意していることこそが、エス・エム・エスという会社を事業家育成機関たらしめている何よりの証拠と言えるだろう。
「正しいKPIが特定できたら、あとは必ず形にできる」。見えない因果を紡ぐ「勝てるストーリー」の構築こそBizDevの真髄
データを武器に事業の真の課題は何かを問い続ける川合氏と、一次情報を頼りに解釈のプロセスを現場と共有する伊庭氏。彼らが日々の業務の中で最も難度が高く、かつ「面白い」と感じている瞬間はどこにあるのだろうか。
川合氏は、繰り返し「勝てるストーリーを描けたとき」と強調する。
川合戦略を立てる際、様々な要素を並べることは誰でもできます。しかし、時間軸、リソース、自社の立ち位置、競合といった要素を統合し、それを『ストーリー』として語れるかが重要なんです。数字を積み上げていく計算作業はもちろん大切ですし、正しいKPIさえ特定できれば、あとはエス・エム・エスの『やり切る力』で確実に達成していける。
でも、最終的なゴールに対して『なぜそうなるのか』『この仮説が正しいなら、どの指標(KPI)を、どのくらいの時間軸で追いかければいいのか』という、現時点ではまだ確認できない因果関係から戦略をストーリーとして構築し、自分の言葉で語り切れるかどうかに、一番のこだわりがあります。
事業開発において、与えられたKPIをどう高めるかという計算と実行は、優秀な頭脳と実行力があれば分解できる。しかし、不確実な未来に向かって「この順番で、この仮説を検証していけば勝てる」という見えない因果から戦略のストーリーを紡ぎ続けることは、決して一朝一夕にできるものではない。
川合一つひとつを切り出すとやっていることは正直、大したことないとも言えるんです。しかし、それらを全てのコンテキストの中で成り立たせるストーリーを描けた瞬間は本当に楽しい。それこそがBizDevとしての面白さだと思います。
一方、伊庭氏は、また違った角度からBizDevの魅力を語る。
伊庭『何を確かめるのか?』という問いを常に投げかけられることがBizDevの魅力です。どうなったらマーケットで成長できるのか、どうなったら顧客に選ばれ続けるのか。良い仮説を設定し、検証し続ける。1つの問いに対する自分たちの仮説の確からしさが見えた時のワクワク感こそが、大きなやりがいです。
データを統合し見えない因果を紐解き「戦略ストーリー」を紡ぎ出す川合氏と、常に良質な問いを立てて「仮説が立証される瞬間」に熱狂する伊庭氏。
複雑に絡み合う社会課題の糸を解きほぐし、自らの頭で仮説を構築し、泥臭く現場で検証しながら「勝てるストーリー」へと昇華させていくプロセスこそが、エス・エム・エスでBizDevを担う醍醐味ということだ。
SMS流「BizDevの醍醐味」
ストーリーの構築
一見バラバラなデータを
1つの物語に繋ぐ楽しさ
仮説検証しながら
成果がでた瞬間の熱狂
組織全体で投げかけあい
泥臭く検証するワクワク
究極的に仕組み化できないもの。それは「誠実さと情熱」
「戦略・人材・オペレーション」という強固な経営プロセスを持ち、失敗を組織能力へと変え、見えない因果から 戦略をストーリーとして紡ぎ出す。これほどまでに仕組みが徹底された「BizDev OS」を持つ同社において、逆に、究極的に“仕組み化できないもの”は何なのだろう──。
川合『誠実さと情熱』です。市場を正しく見ること、課題を歪めずにビジネスに向き合い続けること。そして提供するサービスが顧客にとって本当に良いものかを常に問い続ける誠実さは、仕組み化できません。一番最初に事業を発火させるBizDevが持つべき『情熱』は、最終的には個人の内から発されるものなんです。
伊庭顧客の課題を解決していく、そのために事業を進めていく。そういった実行力の源泉になる社会課題への誠実な知的好奇心と、課題を解決していこうとする主体性。個人が持つこれらの源泉と、それを事業を創り推し進める意思決定のコアに据える仕組みとの双方が必要なんだと思います。
どれほど精緻なデータプラットフォームを構築しても、どれほど高度な戦略フレームワークを用いても、最後に事業の命運を分けるのは、事業家自身の「課題から逃げない誠実さ」と「どれだけ泥臭くとも事業を前に進める情熱」だという事実。 社会課題を小手先のハックで解こうとせず、真正面から向き合い続けるエス・エム・エスの川合氏、伊庭氏だからこそ、この言葉には重みがあった。
<FastGrowの視点・総括>
本物の事業家が育つ「BizDev OS」の正体
「なぜエス・エム・エスでは、これほどまでに事業家人材が育つのか?」 今回の徹底取材を通じて明らかになった、同社の「BizDev OS」の正体を改めて総括したい。
【エス・エム・エスのBizDevを紐解く3つのポイント(再掲)】
- 人口動態を起点とした超長期の「課題設定力」
20〜30年先の確実な未来から逆算し、「高齢社会×情報」という絶妙な抽象度で、非連続な事業展開を実現している。 - 失敗を組織能力へと昇華させる「ポートフォリオ経営」
数十の事業ポートフォリオを持ち、小さな「良い失敗」を許容。これを若手の育成の場とし、組織のケイパビリティとして蓄積している。 - 全員が小さな経営者として動く「経営プロセス」の徹底
「戦略・人材・オペレーション」の型を現場にインストール。与えられた目標を疑い、泥臭く“レバー”を探し続ける文化がある。
「3つのBizDev OS」
100年後も課題が
大きな場所を選定
個人の失敗を
組織の学習へ
経営プロセス
を回す
一見すると、非常にロジカルで冷徹なシステムに見えるかもしれない。 しかし、その実態はむしろ、驚くほど泥臭く、人間臭い。「コンサルだからいけるでしょ」という無茶振りから始まり、過去の成功体験を全否定されるアンラーニングの嵐を抜け、自部門のKPIすら疑ってデータを統合し直し、顧客の本質的価値に立ち返る徹底した執念。そして、経営トップに対して「まだ分かりません」と直言できるフラットな共創・信頼関係。
エス・エム・エスが日本最高峰の事業家輩出企業である真の理由は、社会課題を小手先のハックで解こうとせず、顧客の真の課題に向き合い続ける「BizDev OS」のもと、「社会貢献とビジネス成長の両立」が「全員が経営者視点」という確かな手触り感をもって絶え間なく実行され続けている点にあるのだろう。
「いつか自らの手で事業を創りたい」「本質的な社会課題をビジネスの力で解き明かしたい」
もしあなたがそう渇望するビジネスパーソンであるなら、これほどまでに自身のポテンシャルを解放し、本物の事業家へと鍛え上げられる環境は他にないのではないだろうか?
22期連続増収という圧倒的な実績の裏で、今なお熱狂的なカオスを生み出し続けるエス・エム・エス。彼らの挑戦は、これからも日本のBizDevの最高峰として、新たな基準を創り続けていくはずだ。
こちらの記事は2026年08月06日に公開しており、
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