連載TIGALA正田が迫る “エグジットした起業家の思考法”
6記事「エグジットする起業家ほどお金なんて気にしない」
TIGALA正田とジャパンインフォ原口が明かす“売却経験者の心境”とは?
「投資銀行業界のGame Changer になる」ことをミッションに掲げるTIGALA代表の正田氏が、企業売却を経験した起業家にその選択をした真相に迫る連載企画。
第四弾のお相手は、日本最大級の訪日旅行者向けメディア「Japan Info」を運営する株式会社ジャパンインフォ代表取締役社長の原口悠哉氏。
売却のメリット・デメリットからエグジットを選ぶ起業家の心境までを語り合った。
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
協業や提携を模索していた中で選択肢にあがった「子会社化」
原口さんは起業するまでどんなキャリアを歩まれてきたんですか?
原口大学3年生の12月に急成長中のベンチャー企業から内定をいただいたため、翌年3月から内定者アルバイトとして半年間勤務し、各種新規事業の立ち上げに関わりました。そちらでの事業立ち上げ経験がものすごく面白くて、当時計画していた世界一周旅行を取りやめ、自分でサイトを構築してビジネスを始めてみたんです。
それもすごく面白くて起業を強く意識するようになりました。そして内定をもらったベンチャー企業への入社から1年で退社したとほぼ同時にIncubate Campで優勝を果たし、その後Grood社を設立しました。

株式会社ジャパンインフォ 代表取締役 原口 悠哉氏
正田創業前にIncubate Campで優勝しているんですね。私が最初に起業した15年前は、上場したてのサイバーエージェントがベンチャーと呼ばれているような時代だったので、インキュベーションプログラムもなければエンジェル投資家もいなかったんです。本当にここ数年で一気に若者が起業しやすい環境になりました。

TIGALA株式会社 CEO 正田 圭氏
原口私が起業した5年前と比較しても相当市況は変わっています。
それこそバリュエーションで見ても、シードフェーズだと当時は評価額3,000万円で10%の300万円をご出資いただく、というスキームが多かったんですが、最近はプロダクトが完成していなくても「評価額1億円」というケースが増えています。
当時は現在のように数十億円調達する、なんてこともほぼありませんでしたから、日本のスタートアップ界隈も大きく変化してきているんだと思います。
正田最初に手掛けた事業はどんなものだったんですか?
原口当時ソーシャルゲームのリッチ化や動画ビジネスが流行していたこともあり、声優の方をオンライン上で集めて音声を提供する「Voip!」というサービスを提供していました。このサービスは2015年5月にPanda Graphicsさま(現ココンさま)に事業譲渡しています。
正田Japan Infoのバイアウトの前に事業譲渡も経験しているんですか。
原口さんは私と年齢が同じ(31歳)と聞いてびっくりしていましたが、シリアルアントレプレナーである点も同じなんですね。同世代で似たような経験をしている起業家が多くないので新鮮です。
その次に始めた事業がJapan Infoですか?
原口いえ、実は旅行のプランニングをクラウドソーシングするサービスである「tabikul」が2つ目に立ち上げたビジネスです。売上も出ていたんですが組織に問題が発生したこともあり継続できませんでした。
しかし、tabikulを運営する中でインバウンド観光需要の盛り上がりを感じ、訪日旅行者の方向けのメディアであるJapan Infoを開始したのが約3年前です。
1番のメリットは信用力
FMHグループに入って良かったことはどんなことですか?
原口ミッションの達成が近づいたことに他なりません。人と、お金両面を補強できましたし、独立性を保って経営させていただけていることもありがたく感じています。
また、Japan Infoでは地方自治体の方や大手企業さまの方とお取り組みをいただくことが多いんですが、フジサンケイグループであることを活かして、お打ち合わせの際により大きな裁量権を持つ方に会えることが多くなりました。
正田著名な事業会社に買収してもらうことによって信用が得られるのはスタートアップにとって大きいです。

正田それこそ15年前は帝国データバンクの与信情報を見て信用できるか判断していましたが、今では株主に誰が入っているかとか、どんな経営チームかといった情報で信用力を評価することが増えています。
私自身これまでのキャリアで何社も経営してきていますが、信用力を得るための情報発信をあまりしてこなかったので、過去に買収を提案した企業にフラれてしまうこともありました。スタートアップや未上場ベンチャーが買収するときにも、有名であるか?信用力があるか?というのは重要な指標になってきていると感じています。
売却を経験すると買収も上手くなる
一方で、企業売却に関して「もう手放してしまうの?」といった印象を抱く人も日本には少なくないと思います。
原口たしかに創業した会社を自分の子どものように捉える方もいると思いますが、仮にそうだとしても20歳くらいになれば子離れしますよね。
”会社を売る”ということはその会社を大事にしていないということではなく、大事に思うからこそより大きな成長を目指すために採り得る選択肢であると考えています。
正田私は何度も会社や事業を売り買いしていますが、私に言わせるとフリマアプリで自分の持ち物を売るほうが抵抗を感じます。
モノは100%自分で所有するために買っていますが、株式会社は株主のものであって、そもそも1人で所有することに適している概念ではないんです。いつもお話しているとおり、会社には「売るか・潰れるか」のどちらかの道しかありません。
原口あとは、バイアウトした経験はこれからの起業家人生にとって非常にプラスだと思っています。

原口当時は知り合いの投資家やバイアウト経験者の方に色々とお話を伺ったのですが、会社や事業を売り買いするために必要な情報って世の中にほとんど出回っていないんです。今回のバイアウトを経て得た経験は現在の事業運営にも役立っていると感じますし、将来においても起業家としてプラスのスキルになりますよね。
正田(会社や事業を)売る経験をすると買うのも上手くなるというメリットもあるんです。会社経営を長期間やっていると自社が買い手に回ることもあるはずですが、そのときに売り手側の気持ちがわかるのは交渉時にものすごく有利ですし、売り手側も安心するはずです。
上場した後は積極的にM&Aを仕掛けていくのが1つの成長戦略ですが、その際に経営者に売却経験があることは企業にとって確実に有利に働きます。
エグジットとは「将来の収益を時間に変えること」
売却は創業者や経営陣が個人資産を増やしたいから行うのではないか?という意見についてはどうでしょうか。
正田売却した創業者を“守銭奴”のように言う人達もいますが、逆に売却を選ぶ起業家こそお金に執着していない人達だと私は思っています。
企業売却という行為自体が「将来の収益性を今手に入れる」という、未来の時間を大切にするからこそ行う活動です。「お金よりもこれからの時間が大切だから売却した」という経営者も多いんですよ。
原口バイアウトという行為について評価すべき点は、その後にもその事業の拡大を果たせているか否かだと思っています。
経験者の中でも、売却で得た資産やその経験をうまく活用して、もっと社会にインパクトを与えるためにチャレンジし続ける起業家、例えばイーロン・マスクやメルカリの山田さんを非難する人っていないじゃないですか。
そもそも、仮に99%の人達に「原口は守銭奴だ」って言われても全く気になりません。
神奈川県でトップの公立高校の退学を決意したときに「せっかく受験もがんばったのにもったいなさすぎる」と言われましたが、その後慶應(義塾)大学に入学してからは「面白い経歴だね」と言われるようになりました。
「高校を退学した」という事実は変わっていないのに、その後何をしたか、どこにいるか、によって周りの評価なんて変わってしまうんだな、と気づいて、外部からの評価が気にならなくなりました。
エグジット経験者として、これから起業する、もしくは既に起業している人達に伝えたいことはありますか?
原口起業家の方は上場or売却で迷うこともあるかと思いますが、それらはトレードオフではなく、バイアウトを経験した上で次の起業で上場、というストーリーも良い選択肢だと思うんですよね。 若くして起業した方ほど、起業家としての経験値を高めるために売却を検討しても良いのではないでしょうか。
正田売却も可能性として残しておくなら、バリュエーション(企業価値)を上げすぎないことも重要ですね。事業会社がつける価格(企業価値)とVCがつける価格は結構乖離があります。

原口知り合いの起業家からも、「高いバリュエーションで調達しすぎたから上場も売却もしづらくなって身動きが取れない」といった話はよく聞きます。
正田そういった際に会社分割を活用して、特定の事業だけ実質譲渡して株主にキャッシュで還元して、残った事業にもう一度注力投資していく、といった手段をアドバイスすることもありますね。
原口資金調達やバイアウトに関わる様々なオプションは、やはり一部のプロフェッショナルにしか知られていないのが現実です。そういった情報が起業家に広まっていくことで、起業家と資金提供者が対等に話せる関係が増えていくことも日本のスタートアップ界隈にとって重要だと思います。
あくまで目標は「ミッション達成」
最後に、原口さんの今後の目標を教えてください。
原口ジャパンインフォという企業のミッション達成に向けてさらにアクセルを踏んでいきます。

原口正直、バイアウト前後で人生がものすごい変わった、ということはなく相変わらず一生懸命働いています。創業期から資金調達もしていたので常に自分が100%株主であったなわけでもありませんでしたし、バイアウト自体も事業や会社を大きくしていくための手段として選んだだけなので。
ジャパンインフォを離れてまたゼロから起業したり何かを始めたりしたらがらっと生活も変わるかもしれませんが、今はこの事業を大きくしていくこと以外考えていません。


こちらの記事は2018年01月20日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。
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