福利厚生のカギは「可視化」と「コミュニケーション」──ベルフェイスはなぜ“健康経営”で組織活性化できたのか?

夜遅くまでしゃかりきに働く──そんなスタートアップは最早古いのかもしれない。

採用市場は年々厳しくなっている。単純に“好き”だけで選んでもらう難易度は上がってきた。

同時に、労働環境や条件、勤務時間など…「スタートアップだから仕方ない」と思われていた要素も、シビアに見られるようになっている。スタートアップであっても、社員の働きやすさやエンゲージメントへの注力が求められているとも言えるだろう。

ここに寄与する手段のひとつに「健康経営」がある。その定義は、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することだといわれる。社員のエンゲージメントと生産性を向上させるアプローチとして、2015年からは経済産業省も表彰制度を設けた。

健康経営の領域で黎明期から事業を展開するのが、置き菓子ならぬ“置き野菜”サービスの『オフィスでやさい』と、健康的な冷凍食品を常備するサービス『オフィスでごはん』を提供する株式会社KOMPEITOだ。2014年のサービス開始から健康経営の変遷を見てきた同社は、このトレンドをどのように捉えるのか。

今回は、KOMPEITO代表取締役社長の川岸亮造氏と、同社のサービスを2019年より導入している、ベルフェイス株式会社コーポレート事業部 総務管理チームの田口初希氏に話を伺った。

  • TEXT BY KAZUYUKI KOYAMA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA

インタビュイー

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健康経営は、差別化要因へ

川岸氏によれば、変化の兆しは「2015年頃にあった」と振り返る。

株式会社KOMPEITO 代表取締役社長 川岸亮造氏

川岸2015年6月に『日経ビジネス』が“時代は「健康経営」”という第一特集を出したあたりから、当社にも「健康経営」や「社員の健康のために」というお問い合わせが増えていきました。この変化は企業規模を問わず、スタートアップからも相談をいただく機会もありましたね。

また、変化の兆しを経てトレンドとなった現在では、新たな動き生まれてきてもいるという。

川岸ここ数年では、より本質的な「価値」を追求される企業が増えています。たとえば、食事に力を入れることによる社員のエンゲージメント向上や採用観点での導入です。当社もスタートアップですから、採用の難しさは身をもって理解しています。時には、現職よりも低い給与でオファーせぜるを得ないこともある。そのときに、「働きやすさ」や「職場環境の充実」は差別化要因になり得ます。

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自社流通網と加工環境によって、新鮮な野菜を週2回提供

“置き野菜”のオフィスでやさいは、2014年のサービス開始以降、その規模を拡大し続けてきた。当初は商品を買う従業員側が全額負担するモデルでスタートしたが、顧客の声を受け、企業側が一定費用を負担して従業員に利用してもらうモデルへとシフト。徐々に体制を築き上げてきた。

川岸我々の事業は、一定規模の流通量があるからこそ実現できるものが数多くあります。たとえば、野菜の加工や流通です。当社では、自社で流通網と加工環境を構築し、カットフルーツやサラダなども最大で週2回補充できます。

これはサービス開始当初の規模では難しかったでしょう。現在の流通量があるからこそ、野菜からフルーツ、サラダ、野菜ジュース、サラダチキンといった多様な食材を100円などで提供できるのです。

ベルフェイス社内に設置されたOFFICE DE YASAI

2018年からは、完全無添加のものなど、栄養価にこだわった冷凍食品を提供する「オフィスでごはん」も開始。一品ごと100円などで選べ、健康を第一に考えた月替りのメニューを揃える。より広義に健康へアプローチできる体制を構築した。

川岸比較的小規模な導入企業にお話を伺うと、健康を意識する上で食事に課題があることが見えてきたんです。「そもそもお昼ごはんを食べにいける場所がない」「時間がとれず、手軽なコンビニの食事を選んでしまう」といった声がありました。そこで、軽食の野菜だけでなく、食事そのものを提供できないかと考えたのが『オフィスでごはん』です。

この考えが受け、OFFICE DE YASAIの導入企業をはじめ、かなりの速度で並行導入が進んでいるという。今年2月には導入先が1000拠点を突破。オフィスでごはんは、数字こそ非公開なものの、この半年で導入企業数が5倍になるほどの伸びを見せているそうだ。

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社内外のステークホルダーに価値ある福利厚生

営業に特化したWeb会議システムを提供するベルフェイスも、2019年より導入を決めた。 2018年8月に5億円の調達を発表した後、交通広告TVCMの展開、WeWorkへのオフィス移転など、話題に事欠かない同社だが、2018年下期から社内の様々な仕組みに力を入れはじめたタイミングの後だった。

ベルフェイス株式会社 コーポレート事業部 総務管理チーム 田口初希氏

田口社員の満足度向上と同時に、採用に向けた動きも強化しなければいけない時期でした。社内外から評価を得られるような制度の拡充が急務だったんです。

OFFICE DE YASAIとの出会いは、同社代表の中島一明氏がたまたま目にしたのがきっかけだった。彼は元キックボクサーという経歴もあり、健康に対する意識は人よりも高かった。経営側から社員の健康に働きかけるという意志を見せる意味もあったという。

田口現在の商材を扱う以上、私たちも基本的に自社サービスを使って、訪問をしない営業スタイル=インサイドセールスを実践しています。

その結果、外出する機会が少なく済んでいるのですが、食事の内容も簡便になりがちでした。そこを改善する上で、OFFICE DE YASAIの導入は社内向けにも良いアプローチになると考えました。

当社は平均年齢が34歳とスタートアップの割には高いこともあってか、“食事もままならなず、しゃかりきに働く”といった文化がありません。ただ、今後は新卒や若手を迎え入れていくことが必要です。彼らにとっても食をサポートする体制があるのは魅力的に見えるはずです。

社内の反響は想像以上だった。度々の売り切れが続く人気ぶりで、結果的に導入翌月には倍の常備量へ契約を変更したという。

田口「もっと来ないの?」「次回はいつですか?」と毎日聞かれるほどでした。安く、手軽で、健康に良いと、選ばない理由がないようで。健康志向な野菜スティックや無添加の揚げ物など人気のメニューは、量を増やしても売り切れてしまっています。

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この田口氏の言葉に、川岸氏は「良い意味で狙い通りですね」と言葉を続ける。

川岸従業員の方からすると、企業が一定額を負担しているので、他で買うよりも圧倒的に安いんです。すると、自然と健康な食事を選ぶ状態が生まれます。

人間は「健康のために食べなさい」「食生活を変えなさい」と言われると抵抗感があるものなんですが、自分から選択した行動は続きやすい。価格や手軽さという環境を整えることで、勝手に行動が変容し、健康に近づけるんです。

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「可視化」と「コミュニケーション」が福利厚生のキーワード

ベルフェイスは提供サービスの特性から「働き方改革」の文脈で導入されることも多いだけに、自社が改革の旗振りとなる意志も強いという。その一環としてフルリモート/フルフレックス制を採用し、基本的な出社義務はない。しかし、WeWorkへの移転やOFFICE DE YASAIの導入といった職場環境の構築を進めるにつれ、働き方改革に通じる「オフィスの再認識」もなされていった。

田口やはり対面で話す機会は重要ですし、来ることで共有できる空気感もある。だからこそ、「いかに来たくなるオフィスを作るか」は向き合い続けなければいけないテーマです。川岸さんもおっしゃるように、こちらから「来い」というのではなく、来たくなる環境作りこそが重要ですね。

そのために何が必要か。田口氏は「可視化」をキーワードに挙げた。

田口今回の導入を通し、効果が可視化される重要性を学びました。いわゆる福利厚生のサービスに加入しても、その費用対効果は計測が難しい。また、こちらから「使ってね」とも声をかけずらい。

でも、OFFICE DE YASAIは利用率もわかりますし、冷蔵庫を開けている姿から「誰かが使っている」状況が可視化されます。結果的に、他の人も使うという連鎖が生まれやすい。まさに「強制ではなく、自分から選んでいる」からこそ、利用されるんですね。経営側としても印象に残りやすく、追加導入などの意志決定もしやすい。可視化できることが、上から下まで全方位に効果的だったんです。

このキーワードに首を縦に振りつつ、川岸氏はコミュニケーションを生むツールであることも重要だと付け加えた。

川岸せっかくオフィスに集まっても、職種によっては会話せずとも仕事ができてしまいます。そこで「コミュニケーションを生むこと」も大切にしたいですね。以前にお話を伺った株式会社マルケトでは、社内のコミュニケーションツールとして、OFFICE DE YASAIを導入いただきました。出身地の野菜があれば、同じ出身地同士で会話が弾みますし、 新メニューが入れば、その評判が話題にもなる。こういったサービスが、コミュニケーションの軸になる可能性もあるんです。

ベルフェイスに限らず、今後は企業においてオフィスやコミュニケーションの在り方はさらに変化を重ねていく。その過程で健康経営との向き合い方は、また次のフェーズへと移り変わっていくはずだ。

この5年で健康経営は、単なる「目指す姿」ではなく「実践していくもの」へと変化してきたのかもしれない。その効果の一端が「従業員のエンゲージメント」や「採用」への貢献とも捉えられるだろう。OFFICE DE YASAIは引き続き、その一端を担うことになりそうだ。

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執筆

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2019年04月23日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。