連載事業成長を生むShaperたち

「数字は出た。だが、誰も笑っていない」──数々の成長企業で“勝ちパターン”を築き上げたNEXERA Solution・山田氏が、今こそ断言する「ロジック至上主義」の限界

インタビュイー
山田 大貴
  • 株式会社NEXERA Solution 代表取締役CEO 

キーエンス、エムスリー、エスエムエスを経て2022年にタイミーに入社。全社横断のイネーブルメント責任者を務めた後、ホテル事業責任者として、立ち上げを行い、短期間でハイグロースを実現。現在は、株式会社NEXERA Solutionを創業し、「事業グロースを起点としたマネジメント変革プログラム」を提供。上場企業やスタートアップを中心に支援を行っている。

創造性を発揮し、新しい価値を形づくろうとする人たちを“Shaper”と呼ぶ(詳しくはスローガン創業者・伊藤豊の著書『Shapers 新産業をつくる思考法』にて)。

Shaperはイノベーターやアントレプレナーに限らず、誰もがなり得る存在だ。一人ひとりがShaperとして創造性を発揮し活躍すれば、新事業や新産業が次々と生まれ、日本経済の活性化を促す原動力となるだろう。

連載企画「事業成長を生むShaperたち」では、現在スタートアップで躍動するShaperたちにスポットライトを当て、その実像に迫っていく。今回紹介するのは、株式会社NEXERA Solution代表取締役CEOの山田氏だ。

キーエンスで5年、1日150件の架電と「トップ商談」へのこだわりで営業の型を叩き込まれた。エムスリーでは東大・マッキンゼー出身の上司のもと、戦略思考を鍛え上げた。エスエムエスで初めて組織マネジメントを経験し、タイミーではホテル事業の責任者として商談数を全社平均の約2.5倍に引き上げ短期間でハイグロースを実現した──。

しかし山田氏は、事業を伸ばす「仕組み」を入れても組織が動かない壁にぶつかる。正しいロジックを伝えても、メンバーが「やらされ」になってしまう。この課題を解決するため、2025年に起業を決意。

「事業のフレームワークだけでは、人は動かない」。4社で培った同氏の実践知に迫る。

  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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プロダクトと人間性。トップ商談を得るべく見出したセールスの型

山田氏のキャリア年表

期間 会社 主な経験
2012-2017(5年) キーエンス トップセールス・あるべき会社の仕組みを体得
2018-2019(1年半) エムスリー 戦略思考・構造化思考・PMを習得
2019-2022(2年半) エス・エム・エス 初の営業組織マネジメント
2022-2025(3年半) タイミー ホテル事業責任者、商談数2.5倍、ハイグロース
2025- NEXERA Solution 起業、上場企業・スタートアップ支援

1日150件──。

キーエンス時代の山田氏の架電数だ。当時の社内でも常にトップ3に入る水準。しかし、彼がこだわっていたのは「量」だけではなかった。

山田営業の世界では「量をこなせ」とよく言われますが、闇雲に動いても成果は出ません。私が意識していたのは、行動量に加え、決裁者をどう攻略するかという“ターゲティングの精度”。この2つを徹底的に追求していました。

2012年に新卒入社したキーエンス。営業力の強さで知られる同社で、山田氏は5年間、プレイヤーとして徹底的に鍛え上げられることになる。

山田私の場合は特に「社長アポ率」にこだわっていました。トップ商談を取れるかどうかで、受注確度はまったく変わってくる。だからこそ、いかにトップに食い込めるかを常に考えていたんです。

では、どうやってトップ商談を増やしたのか。山田氏が実践していたのは、「紹介をもらう」という地道なアプローチだった。担当エリアで受注した顧客に対して、導入後のフォローを丁寧に行う。そして成果が出たタイミングで「同じような課題を持っている経営者の方、いらっしゃいませんか」と声をかける。

山田前提として、悪い商品にも関わらず、自身の親しい方に対して紹介しようと思う人はいません。まずは商品の価値を実感し、良いものだと思ってもらうこと。そして「この人なら紹介しても大丈夫だ」と信頼を得ること。プロダクトと人間性、この両面で勝負していました。

成果を出した顧客との関係を、次の案件につなげていく。この流れを「型」として持っておく。山田氏はキーエンス時代から、再現性のある営業スタイルを意識していた。

とはいえ、順風満帆だったわけではない。異動で高単価商材の営業に変わった際、最初の数ヶ月はまったく結果が出なかった。前の部署での成功体験が通用しない。しかし、行動量を落とさず、1件1件仮説検証を繰り返した。やがて勝ちパターンが見え、再びトップクラスの成績を残すようになる。

そして5年目、山田氏は起業を決意する。しかし結果は、失敗だった。

山田何をやってもうまくいきませんでした。アイデアはあるのに、構造化して形にできない。言語化もできない。営業はできても、事業を作る力がまったく足りていなかったんです。

「修行し直さなければ」──。この挫折が、彼を次のステージへと向かわせることになる。

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思考停止は「罪」である。エムスリーで浴びた24時間の思考ノック

起業に失敗した山田氏が次に選んだのは、エムスリーだった。医療従事者向けプラットフォームを運営する同社は、戦略思考に長けた人材が集まることで知られる。

配属された部署の上司は、東大卒・マッキンゼー出身。山田氏はここで、「頭を使う」ということの本当の意味を知ることになる。

山田正直、最初は上司が話していることを理解することすらままならなかったです(笑)。「それ、構造化できてないよね」「あるべき姿から逆算できてる?」「比較対象は何?」──毎日そんなフィードバックの連続で、四六時中頭が痛かった記憶があります。

提供:株式会社NEXERA Solution

叩き込まれたのは、思考の「型」だった。まず「あるべき姿」を定義する。次に、そこから逆算して打ち手を洗い出す。複数の選択肢を比較検討し、意思決定する。この4ステップを、あらゆる業務で徹底的に求められた。

山田「この施策をやりたい」と提案しても、「なぜそれがベストなの?」「他の選択肢と比べた?」「そもそも目指すべきゴールは何?」と問われる。感覚や経験則だけでは絶対に通らない。ロジックで説明できなければ、何も進まない環境でした。

この経験は、山田氏の仕事の進め方を根本から変えた。それまでは営業の現場感覚で動くタイプだった。しかしエムスリーでは、「なぜうまくいくのか」を言語化し、再現可能な形に落とし込むことを求められた。書いて、整理して、伝える。この習慣が、ここで初めて身についた。

約1年半の在籍だったが、密度は濃かった。キーエンスで培った「営業の型」に、「思考の型」が加わる。

しかし、山田氏のキャリアにはまだ足りないピースがあった。「組織をマネジメントする」という経験だ。個人として成果を出すことと、チームで成果を出すことは、まったく別の能力が求められる。その壁を越えるため、次に選んだのはエス・エム・エスだった。

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成果の裏で「心を亡くす」組織。 仕組みの極致で見えた“形骸化”の恐怖

キャリアの中で最も大きな学びは何だったか──。その問いに、山田氏は迷いなく答える。

「正しいロジックを押しつけても、人は動かない、ということです」

エス・エム・エスで初めて営業組織のマネジメントを任された山田氏。キーエンスで営業の型を学び、エムスリーで戦略思考を身につけた。次は「組織を動かす」番だ。しかし、ここでも最初は苦労が絶えなかった。

山田自分が成果を出してきたやり方を、そのままメンバーに伝えようとしたんです。「こうすれば成果が出る」「このやり方が正しい」と。でも、思うように組織は動きませんでした。

カルチャーも違えば、メンバーのバックグラウンドも違う。同じやり方が、そのまま通用するわけではない。頭ではわかっていたつもりでしたが、実際にマネジメントをやってみて初めて痛感しました。

提供:株式会社NEXERA Solution

この経験から、山田氏はアプローチを変えた。まずメンバーの話を聞く。なぜこのやり方に抵抗があるのか。どんな不安を抱えているのか。その上で、一緒に「どうすればいいか」を考える。一方的に伝えるのではなく、納得を得るプロセスを踏むようになった。

エスエムエスでの約2年半で、山田氏は「組織を動かす難しさ」を身をもって学んだ。そして2022年、この学びを実践する場を求めて、タイミーに移る。任されたのは、ホテル・旅館業界向けの事業責任者だ。

組織はゼロからの立ち上げ。Bizdev、採用、育成、オペレーション構築──すべてを自分で設計する必要があった。そう、過去の学びをすべて注ぎ込む機会が訪れたのだ。

山田まず、事業を「数式」で捉えることから始めました。売上を構成する要素を分解して、どこがボトルネックかを可視化する。商談数なのか、受注率なのか、単価なのか。「今、一番改善すべきはどこか」を特定した上で、チームの行動計画に落とし込んでいきました。

もちろん、構造を理解するだけでは足りない。その上で、「なぜこの行動が必要なのか」を一人ひとりに伝え、腹落ちしてもらう。指示を与えるだけでなく、本人の意見を引き出す。この両輪を回した結果、山田氏のチームは商談数を全社平均の約2.5倍に引き上げた。

山田商談数が2.5倍になったのは、「もっと動いて」と言ったからではありません。自分ごととして動いてもらえる状態を作った。仕組みと気持ち、両方が噛み合って初めて、数字は動くんです。

4社を経て見えてきたのは、「事業を伸ばせるマネージャー」に共通する条件だった。事業を「数式」で捉えられること──売上を分解し、どの指標を動かせば成果につながるかを構造で理解できること。そして、メンバーを「やらされ」にならないこと──正しいロジックを一方的に伝えるのではなく、一人ひとりが納得して動ける状態を作れること。

この両方を兼ね備えた人材は、決して多くない。だからこそ山田氏は、自らがその両方を伝えられる存在になろうと決めた。

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「当事者」として自らの足で立つ。理想の組織を追い求める新たな挑戦

山田自分で決められる状態、オーナーシップを100%持てる環境を作りたかったんです。

2025年、山田氏は株式会社NEXERA Solutionを設立した。提供するのは「事業グロースを起点としたマネジメント変革プログラム」。単なるコンサルティングでも、単なる研修でもない。事業を伸ばすための仕組みと考え方をインプットしながら、同時に組織・人を育成していくハイブリッド型のアプローチだ。

提供:株式会社NEXERA Solution

特徴的なのは、「事業」と「組織」という2つの軸でサービスを設計している点にある。事業戦略の立案や営業組織の仕組みづくりといった「事業軸」の支援と、マネージャー育成や組織開発といった「組織軸」の支援を、顧客の課題に応じて組み合わせていく。山田氏が4社で培ってきた「事業を数式で捉える力」と「人を動かす力」、その両方を体系化したプログラムと言える。

すでに上場企業からスタートアップまで幅広い企業への支援が始まっており、山田氏自身も複数のスタートアップにCxOとして参画。現場に入り込みながら、事業成長とマネジメント育成の両面を支援している。

山田マネジメントに悩んでいる人は多いと思います。「仕組みを入れたのに、なぜ組織が動かないんだろう」と。その原因は意外とシンプルで、メンバーが「やらされ」になっているからかもしれない。事業の構造を理解することと、人の気持ちに向き合うこと。この両方ができて、初めて組織は動く。それを伝えていきたいんです。

キーエンスで営業の型を叩き込まれ、エムスリーで戦略思考を鍛え、エス・エム・エスで組織を動かす難しさを知り、タイミーで事業責任者として実践し、実績を出した。4社を経て山田氏が辿り着いたのは、仕組みはもちろん重要だが、「仕組みだけでは人は動かない」というシンプルな本質だった。

事業を「数式」で捉える力と、メンバーの「内なる情熱」を引き出す力。この両輪を回せる人材を増やすことが、山田氏の次なる挑戦だ。

提供:株式会社NEXERA Solution

こちらの記事は2025年12月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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