森 暁彦
公認会計士を経てゴールドマン・サックスに入社。その後、スタートアップの経営職に転身し、これまでレノバ、エネチェンジ、シナモンAIにてCFOや取締役を歴任。
2022年4月より、リクルートホールディングスにてファイナンス本部担当執行役員、リクルートにて取締役、京都大学経営管理大学院博士後期課程に在籍。
外資系のプロフェッショナルキャリアのパスとして、PEファンドもベンチャーCxOと同じく「経営」に関わるパスの1つかとおもいます。どんな人にはベンチャーのCxOをおすすめしますか?
PEファンドの投資プロフェッショナルもベンチャーのCXO業もどちらも素晴らしい仕事です。ただ、両者は本質的な役割が全く異なります。
PEファンドの本質は金融業であり投資業です。PEファンドの真のクライアントは、彼らに資金を預けている投資家(LP)です。あくまでも「金融業の中では事業サイドに寄っている職種」といえるのがPEファンドの立ち位置かと思っています。
その中でTier 1のPEファンドでは、最高の経営者をアサインし、彼らに仕事を委任して事業を成長させてもらいます。そして経営者の指名や報酬設計、監査・監督といったガバナンスの要諦を押さえて、必要に応じて限定的に企業経営に関与していくことが、本来的な投資プロフェッショナルの役割です。実際に現場にまで出てハンズオンするのはジュニアスタッフを多く雇用する必要がありますし、時間と労力を要しますから、金融業・投資家業としては見方によっては非本流と言えます。
一方で、自らの手で事業を伸ばすことにコミットしたい、という思いがある方であれば、ベンチャー企業に飛び込んでCXOなどを務めるのはとても良いと思います。ベンチャーのCXOは経営者として、権限と責任を持って企業成長を実現させる役割を担っています。ベンチャーでは「まだP/LやB/Sに現れていない変数を自らの手で作り出す」「新規事業をゼロから生み出していく」という産みの苦しみを経験するでしょう。このとき、ビジネスの商流を俯瞰し、経営におけるキーポイントを見つけるという、外資系コンサルティングファームや投資銀行で培えるスキルは、ベンチャー経営においても転用が可能です。
マインドセットなどのソフトスキルやCEOとの相性はよく確認されることをお勧めします。ベンチャーの総大将は創業者でありCEOです。彼らのビジネスパートナーとして長い道のりをともに歩んでいけるかをきちんと見極める必要があります。
森 暁彦氏の回答
前職レノバにて会長を務めている千本さんは「レジェンド」のような存在だと思っているのですが、何か変わったエピソードや印象に残っている出来事はありましたか?
皆さんもご存知の通り、千本さんは日本を代表する大経営者です。KDDI(旧第二電電)やイー・アクセス、イー・モバイルなど日本の通信セクター史に残る代表的企業を次々を創業して、それぞれ数千億円・数兆円の企業価値に育て上げた方です。その方のもとで5年間お仕えできたことは、間違いなく私のプロフェッショナル人生において大きな影響がありました。育てていただき心から感謝しています。
正直にお伝えすると、私が思うように仕事での成果を出せなかった時期は、ここでは書けないくらい叱責されたこともありました。それも含め、数えきれないほどエピソードはあるのですが、千本流経営哲学を学ばせていただいた中で印象的なものをいくつかご紹介いたします。
「世の中の0.5歩先をいけ」
事業は参入タイミングがとても大事です。常に大きな流れを読むことを意識し、他人より半歩先に取り組むこと。そのために、「世界を見ること」「良い感性を持ちあらゆる領域の方との出会い(セレンディピティ)」を非常に大事にされていました。
「経営規模の桁を、2桁上げろ」
私がCFOとして入社したときにはアセットサイズが数十億円の会社でした。その時点で短期間で数千億円の事業を作るべしと、CEOをはじめとする経営チームにビジョンを示していました。もちろん、数年後には目標は兆円級に引き上がるわけですけれど(笑)。
ただ闇雲に高いゴールを掲げれば良いのではなく、具体的な事業計画に落とし込み、達成するために必要な経営資源を因数分解し、今何をしなければいけないかを考えることが重要です。これは何度も発言されていました。
「第一級の経営チームを作る」
他社を圧倒して伸びていくためには、「人材のフォーメーションをいかに創り上げるか」が最も大切です。特にトップマネジメントと言われるCXOが重要です。
「コーポレートガバナンスの重要性」
コーポレートガバナンスの重要性はいつもおっしゃっています。いずれ権力は腐敗していくものであり、牽制機能があるからこそCEOやオフィサーもさらに成長していけると。実際に、米国企業やレノバでは社外取締役(より正確には非業務執行の独立取締役)が取締役会の過半数を占めており、究極的にはCEOを退任させられる仕組みを整えています。
森 暁彦氏の回答
起業家として最低限おさえておくべき会計・財務知識は何でしょうか?
コーポレートファイナンスに関わる基礎的な知識と、簿記2級程度の財務会計の知識は、資本主義社会で勝負を挑まれる起業家の方々においても押さえておいた方が良い教養だと思います。
拙著「絶対に忘れない[財務指標]の覚え方」は、CFO退任直後に執筆した、IBDバンカーとインフラ上場企業CFOという私のキャリア前半戦の集大成のような本です。コーポレートファイナンスと多数のステークホルダーを有する企業における経営者の心構えを書いています。想定読者は起業家を含めた実務家です。少し宣伝みたいになってしまい恐縮ですが…。3時間ほどで読める分量なので、まずは本書で財務・会計の全体感を把握し、それからより理解を深めたい場合は専門書で学ぶという方法があると思います。
森 暁彦氏の回答
森さんのような方にCFOとして参画していただくにはどうすればいいでしょうか?起業しており、グロースフェーズに突入しているのですが、自分自身はそこまで金融に明るくなく、森さんのような一流のプロフェッショナルをどのように口説けばいいのかわかりません。
起業家から良いCFOを採用したいという相談を受けることがあります。そのときよくお話しするのは、「その方の成長曲線を想像して、これからCFOとして活躍できるポテンシャルのある方」を採用することです。
なぜなら、すでにCFOとして大成されている方を採用するのは非常に難易度が高いから。そもそも優秀なファイナンス人材は不足しています。「若くて(30代までで)、ファイナンスのプロフェッショナルで、事業とミッション・バリューへの理解があって、上場企業のCFOを経験していて…」などとWish項目を重ねていくと、該当する方は東京でも20−30人くらいしかいないのではないか?と思うのです。
例えば、今すごく活躍されていて、「CFOとしてのロールモデル」となっているマネーフォワードの金坂さんや、ラクスルの永見さんなども、入社当時はCFOとしての実績があったわけではありません。ですので、将来の金坂さん・永見さんになるであろう方を探すことに尽力することをお勧めします。そうすれば、ターゲットとなる人材の数も数十倍には広がるはずです。
また、彼らに選ばれる理由作りをしっかりと行うことも大切です。優秀なファイナンス人材は不足しているため、どなたも各社から引っ張りだこですので。CEO自らミッションやビジョンを語り、口説いていくことが採用のためには重要になってきます。
また、ミッションビジョンだけでなく、適切な報酬設定も大切でしょう。優秀なCFOの要件の一つに経済合理的な人物というものが入ります。だからこそ、しっかりと経済合理的な方を惹きつけるようなアップサイドを示せるようにしないと、優秀なCFO人材を獲得することは難しいです。
森 暁彦氏の回答
私も森さんのようにファイナンス領域に強みを持ちながら企業経営に携わっていきたいと思っています。もし森さんが今学生だったら、どのようにキャリアを歩みますか?参考にさせていただけると幸いです。
世の中の環境は絶えず変化していくという前提のもとで、キャリア形成上変わることのない普遍的で重要な視点を2つ意識されると良いのではないでしょうか。
1点目は、業界構造やビジネスモデルへの理解を深められるような業務を担当していくことです。CFOとして当然ファイナンスの知識は全てのベースとして必要ですが、その上でCFOは単なる機能軸の仕事をするだけでは足りません。企業のトップマネジメントの一人であり、企業の戦略立案そのものに関わっていくことが求められます。既に心に決めている業界や事業があるのなら、そちらの世界における商流の上流に位置する企業に飛び込むのは一つのアイディアです。テクノロジーのスタートアップを志す学生の方でしたら、ITプラットフォーマーも良いかもしれません。ヤフーやメルカリ、エムスリーなどでBizDevや経営企画などを担当すれば、業界構造の理解や、どのような経営変数がどのように経営にインパクトを与えるかに対するビジネスの理解が進むと思います。
もし業界を決めきれない場合は、業界横断で様々な事業を構造的に理解することが職種として求められる戦略コンサルティングや投資銀行のバンカーは、キャリアの序盤戦において引き続き良い選択肢の一つだと思います。
2点目は、優秀な方が揃っている職場にいくことです。私も含め、人間はそもそも怠惰なものですから、レベルの高い環境に飛び込み、勝手に視座が上がるような状況にするのは重要です。私の場合には、ゴールドマン・サックスにて優秀な方々と肩を並べて仕事をしたことや日本を代表する起業家に仕えるレノバでの経験があったからこそ、今があります。
森 暁彦氏の回答
スタートアップ・ベンチャー企業を成長させることのできるCFOの条件はありますか?
前提として、企業ごとに求められるCFO像は大きく異なります。その企業の業種・業態、フェーズ、さらにはCEOの人物像によっても適切なCFOの条件が変化するからです。
その上であえて挙げるならば、スタートアップ・ベンチャー企業のCFOの条件は3つあると思います。まずは「マインド」です。成果へのコミットメントはもちろんのこと、創業者やCEOのビジネスパートナーとして、困難なときも歩んでいく覚悟を持つことが大切です。それにCFOは財務報告の要ですから、高度な倫理観も必要です。
2点目は「スキル」です。ハードスキルである財務・会計の専門性を高めることは言うまでもないですが、加えて、お客様へ寄り添うことやチームをまとめるマネジメント力などのソフトスキルもとても重要です。
最後の条件は「スマートさ」です。ビジネスへの根本的な理解とも言えるでしょう。CFOという役割は資金調達担当者や経理担当者ではなく、財務面から経営の一翼を担う枢要な仕事です。企業価値や株式価値の向上のために最重要なドライバーが何かを見極め、そのために今何をすべきかを理解し、戦略を立てます。財務関連のプロジェクトであれば、ファイナンスチームを率いて実行していくことも必要です。また投資家に向けて、今の企業状況やエクイティーストーリーをしっかりと伝え、その上で投資家からの信任を得るという意味でのスマートさも重要です。
森 暁彦氏の回答
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