金融業界で経営層を目指す20代へ。
「ハゲタカ」の著者が描く、金融のダイナミズムを綴った経済小説

インタビュイー
森 暁彦
  • 企業財務プロフェッショナル/経営科学研究者 

公認会計士を経てゴールドマン・サックスに入社。その後、スタートアップの経営職に転身し、これまでレノバ、エネチェンジ、シナモンAIにてCFOや取締役を歴任。

2022年4月より、リクルートホールディングスにてファイナンス本部担当執行役員、リクルートにて取締役、京都大学経営管理大学院博士後期課程に在籍。

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再生可能エネルギーの分野で急成長を遂げている株式会社レノバにて、CFOを務める森暁彦。

公認会計士の資格を保有した元米系インベストメントバンカーである彼が「主人公のキャリアが自分と似ていて、とても共感します」と話す1冊の経済小説『マグマ』には、どのようなことが綴られているのであろうか?

  • TEXT BY FastGrow Editorial
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「再生可能エネルギー × 金融 × 企業経営」の3軸を持つ魅力的な女性主人公

私は現在、株式会社レノバにてCFOを務めています。弊社レノバは大規模太陽光・バイオマス・風力・地熱などの再生可能エネルギー発電所の開発・発電事業を行う企業です。

まず、私のこれまでのキャリアをお話しさせて頂きます。

いわゆる就職氷河期世代に当たる私は、邦銀の不良債権問題や米国同時多発テロが騒がれる2000年前後に都内の私立大学にて学生時代を過ごしました。

当時の暗い世情を反映していたのだと思います、私は「まず手に職を」の精神で、会計士試験に挑みます。そんなこんなで、国際会計事務所KPMGの公認会計士(補)としてキャリアをスタートしました。

その後、グローバル金融市場が絶好調の折に―――今振り返ると日に世界金融危機(リーマンショック)を引き起こす世界的なクレジット・バブルだったのですが―――、国内に拠点を構える外資系金融機関が積極的に事業拡大を図っていました。外資は採用にも積極的で、多くの野心家会計士がバンカーに転身しました。

ミーハーな私も流行りに乗ってゴールドマン・サックス(GS)の採用プロセスを受け、運良く大量採用の網に掛かります。2015年にレノバに転身するまで、GSの投資銀行部門には10年近く在籍し、昼夜を分かたず真剣に働きました。

日米でテクノロジー企業から金融機関といった幅広い業界の案件に携わり、M&Aアドバイザリーや企業投資、レバレッジド・ファイナンスといった専門性を磨きました。そして何より、リーダーシップのあり方を学びました。

話が前後しますが、バンカーとして脂が乗り始めた頃、とあるエネルギー上流企業の大型案件を担当しました。それがきっかけでエネルギー産業について勉強し始めたのです。

その時、息抜きがてらに手にした本が『マグマ』(真山 仁、角川書店)。という経済小説でした。著者の真山さんはNHKドラマでも放映された『ハゲタカ』(真山 仁、講談社)の著者として有名な方です。

『マグマ』では、六本木ヒルズにオフィスを構える世界的投資銀行、ゴールドバーグ・コールズ系投資ファンドで活躍中の野上妙子が主人公。妙子はヴァイス・プレジデントに昇進したばかりのスマートで素敵なアラサー女子です。

物語は、当ファンドが経営破綻してしまった九州の地熱発電企業を買収し、そこに経営者として妙子が派遣されるところから始まります。

地熱発電業界に全くの素人の彼女が、国家のエネルギー政策、当局の開発規制、様々な利権が絡む人間模様など、当インダストリーならではの複雑性や困難性と戦いながら、革新的な技術を持った地熱発電企業を再建していく―――こんなストーリーです。

実は、妙子のキャラ設定が、当時の私に似ているというか、とても共感するものだったのです。当時の私は丁度30歳になったくらい、彼女と似たゴールドなんちゃらという名前の投資銀行に籍を置き、同じ年代の者でした。

この小説を読みながら、自分と重なる主人公の悲喜こもごもに、意図せずとも没入してしまったことを今でも覚えています。とにかく面白い経済小説でした。

この小説を読み終わってから数年が経ち、今の私は、この本の題材である「再生可能エネルギー × 金融 × 企業経営」という、3つの軸で仕事をしています。

3年前にCFOを探していたレノバ社長の木南と初めて会ったときに、「再生可能エネルギーが御社の成長事業ですね。小説マグマで読みました」というようなことを言った覚えがあります。好きな小説の主人公に重なるキャリアを歩んでいくとは不思議なものです。

『マグマ』(真山 仁、角川書店)

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東日本大震災後及び福島第一原発事故後に急拡大した再生可能エネルギーという産業

2000年代を舞台とする小説『マグマ』において―――地熱発電業界とは、国家のエネルギー政策や各種規制・制約によって長らく押さえつけられてきたという設定です。

実際に、日本では各地域で独占的に発送売電を行う電力会社があり、政府は化石燃料と原子力を電力政策の中心に据えていました。再生可能エネルギーはあくまで脇役の電源であり、様々な規制の対象という位置づけでした。

小説で取り上げられている地熱発電を例に取ると、地熱資源が国立公園に集中しているにも関わらず、国立・国定公園内における地熱発電施設は全国数ヶ所に限定されていました。

このような事業環境が再生可能エネルギー普及の障害となっていました。ですが、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所における事故を経て、政府は国内における再生可能エネルギーの導入拡大に舵を切ります。

2011年に再生可能エネルギー法が成立。これにより、2012年から固定価格買取制度が始まりました。この制度では再生可能エネルギーで生産した全ての電気を一定期間、各地域の大手電力会社が固定価格で買い取る事を義務づけています。

こういった国の後押しで、5年前から再生可能エネルギー市場は一気に拡大基調となります。日本の再生可能エネルギー業界は、まだまだ始まったばかりの業界です。

一方、世界を見てみると国家として意思を持って再生可能エネルギーの普及を目指している国があります。例えばデンマークは、必要な電力の約50%を再生可能エネルギーで補っています。

その他、スペイン、イタリア、ドイツなどの欧州組は3割から4割、中国も既に2割を超える電力を再生可能エネルギーで生み出しています。

日本は2030年に再生可能エネルギー電源を必要電力の22~24%に引き上げようという目標を立てていますが、欧州勢と比較すると出遅れています。これほど世界の再生可能エネルギー先進国と差が開いてしまった理由には、日本の既存の電力産業が地域独占にてとても強かったことや、政策転換が遅れたためと言えるでしょう。

今、その遅れを取り戻すべく再生可能エネルギー開発が急ピッチに進んでいます。

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再生可能エネルギー事業の実現は「人との繋がり」が全て

『マグマ』では旧態依然とした電力業界を、主人公である妙子が大きく変革していく様子が描かれています。特に、複雑な人間模様の中でゴールに到達するために、力のある大資本企業や、何かと妙子を助けてくれる周りのオジサマたち(笑)をうまく巻き込んでいきつつ、状況を打破していきます。

論理的な正しさだけでは解決できない問題に対峙しながらも、めくるめく人間模様の大海をもがきながら泳いでいく小説内の描写が、実際のビジネスの有様をものすごくリアルに捉えています。

ちなみに、私ども株式会社レノバでは、社長の木南や開発のフロントに立つチームメンバーが、開発の現場に足しげく通い、現地の方々と日々コミュニケーションを取りながら、一緒に力を合わせて事業開発に取り組んでいます。

そのような「現場での人と対話」は、開発の方針を決め、大きな事業を遂行していく上で何よりも重要です。特に日本においては地域の状況やニーズなどについて現地の方々と直接お話ししないと見えてこないことも多くあります。

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未来のインフラ作りをファイナンスの力で後押し

インフラである再生可能エネルギー発電所の開発事業というものは、案件を開拓するソーシングの部分と、技術で問題を解決していくエンジニアリングの部分、そして資金調達をする金融(ファイナンス)の部分が三位一体となって初めて行える事業です。

その点、『マグマ』では人とのつながりや交渉によって道を切り拓いていく部分はもちろん、投資ファンドの立場から地熱発電企業に送られる妙子が、ファイナンスの力を上手く活用しながら経営再建していく姿がうまく描かれています。

私が現在レノバのCFOとして主導しているのも、主にこのファイナンスの領域です。エネルギー開発事業でファイナンスが力を発揮するのは資金調達のフェーズです。

発電所を作る際には、数百億円の事業資金を調達します。その必要資金を、金融機関からのプロジェクトファイナンスでの新規調達や、株主からお預かりした自己資金で賄います。

金融機関からのプロジェクトファイナンスの組成には、稼げる事業を作り上げるだけでなく、数十年間に亘る発電所の財務モデルを策定しつつ、ファイナンス・スキームを立案し、プロジェクトに関連する電話帳くらいの分厚さになるファイナンス諸契約を締結しなくてはなりません。

また、弊社は上場企業ですので、株主・投資家へのリターンの確保について重大な責任を負っています。様々なプロフェッショナル達の叡智を結集し、真剣な経営を行うことで、弊社への信頼と資金を獲得できるのです。

私どもレノバは、まだまだ100名程度のチームですが、これまで累計1000億円近いファイナンスを組成し、国家のインフラとなる再生可能エネルギー施設を構築してきました。

これから更に、バイオマス発電や洋上風力発電事業といった国内事例がほとんどない大型案件に対して、累計数千億円の投資を行っていきます。そして、再生可能エネルギーに専念する上場企業は弊社以外にありません。

すなわち、弊社がリーダーシップを発揮し、本邦再生可能エネルギー業界のスタンダードを作っていかなければなりません。これは妙子に負けないくらいのチャレンジングな取り組みで、興奮する毎日になるのだと思います。

金融のダイナミズムを活用した経営や、インフラ・再生可能エネルギー事業に興味を抱いているのであれば、『マグマ』のご一読をお勧めします。

こちらの記事は2017年10月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

FastGrow編集部

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