“愛され力”が、いい投資案件を惹きつける──シード特化型VCで活躍する3人が語る「これからの時代に求められるキャピタリスト」とは

登壇者
長野 泰和
  • 株式会社ANOBAKA 代表取締役社長/パートナー 

KLab株式会社入社後、BtoBソリューション営業を経て、社長室にて新規事業開発のグループリーダーに就任。その後、2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月に同社の代表取締役社長に就任。17社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月にKVPを設立、同社代表取締役社長に就任。KVPでは5年間で80社以上のスタートアップへ投資。2020年12月ANOBAKAを設立。

葛西 飛鳥
  • 株式会社ANOBAKA キャピタリスト 

KLab株式会社でソーシャルゲームの運用を担当し、その後サイバーエージェントで新規案件の立ち上げやプロダクトマネージャーを経験。その後、独立しTipStockを共同創業。2C向けのビジネスナレッジサービスをローンチ。2020年3月よりANOBAKAに参画。キャピタリストとしてソーシング 、投資実行、投資先のハンズオンサポートに従事。

小田 紘生
  • 株式会社ANOBAKA アソシエイト 

広島県出身。神戸大学経営学部卒業。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、既存事業・新規事業の営業企画を担当。2019年にHRtechSaaSのスタートアップである株式会社リフカムに入社。同社にてカスタマーサクセス部門のマネージャー、ビジネスサイドを統括する執行役員を務める。2023年にANOBAKAに入社。投資担当として、新規投資先候補の開拓や既存投資先の支援業務に従事。

冨田 阿里

神戸大学海事科学部を卒業後、インテリジェンス入社。スタートアップの採用支援と新規事業開発を行う。2016年にセールスフォース・ドットコム入社、インサイドセールスを経て、スタートアップ戦略部を立上げ。2019年に『スタートアップが可能性を最大限に発揮できる世界をつくる』をミッションに掲げるスマートラウンドへCOOとして入社。2023年6月より取締役チーフエバンジェリストに就任。

ChatGPTを始めとしたGenerative AIが盛り上がりを見せている昨今。そんな生成AIに特化した創業支援ファンドを日本で初めて立ち上げたのが、シード特化型VCのANOBAKAだ。

そんな同社から、代表の長野泰和氏、キャピタリストの葛西飛鳥氏、アソシエイトの小田紘生氏が登壇。スマートラウンド取締役 チーフエバンジェリストの冨田阿里氏がモデレーターを務め、これからの時代に求められるキャピタリスト像について、2023年8月のFastGrow Conference 2023 Summerの1セッションで熱く語り合った。本稿ではその様子をお届けする。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
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シード期に特化し、月に1、2社に投資を実行

──スマートラウンドのCOOから、最近取締役チーフエバンジェリストになりました冨田です。本セッションのモデレーターを務めさせていただきます。まずは私から簡単に自己紹介をさせていただきます。

私は神戸大学の海事科学部という船乗りになる学部を卒業後、人材の営業、スタートアップ支援をし、自分でもスタートアップをやりたい、SalesforceのようなSaaS企業をつくりたいと思い、セールスフォース・ドットコム(現セールスフォース・ジャパン)に入社しました。その後、スマートラウンドにCOOとして入社し、今に至ります。

そんな弊社が手掛けている事業を一言でいうと「スタートアップのバックオフィスが楽になるツール」です。例えば株主総会や、見えにくくて地味な、でもどんなスタートアップも共通でやらなければいけないバックオフィス業務をサポートするサービスをSaaSで提供しています。

一方、プロダクトの提供だけでは我々が目指すビジョンの実現は難しいということで、300人規模のカンファレンスを9月に準備していたり、起業する人、起業した人が投資家とお会いして壁打ちできるイベントなども定期的に開催したりしています。実はANOBAKAさんにもこうしたイベントに日頃からご協力いただいています。

では、ここからは登壇者にも自己紹介をお願いしたいと思います。まずは小田さんからお願いいたします。

小田私も富田さんと同じ神戸大学の出身です。経営学部を卒業したのちリクルートジョブズに入社し、タウンワーク事業の既存事業、新規事業の営業企画を担当。その後2019年にHRtechSaaSスタートアップであるリフカムに入社しました。

リフカムでは1年はCSのメンバー、1年はCSのマネージャ―、最後の2年半はビジネスサイドを統括する執行役員を担当しました。その後、2023年4月にANOBAKAにアソシエイトとして入社しています。

今日一緒に参加している葛西と長野はかなり長くVCとしてキャリアを重ねてきた人間ですが、私はまだ半年も経っていないということで、フレッシュな視点からお話できればと思っています。

葛西私はKLabでソーシャルゲームの運用を担当後、サイバーエージェントに転職し、新規事業の立ち上げやPMを経験してきました。その後、自分自身で会社を起業し、C向けサービスをローンチして2年弱くらい経営に携わったあと、2020年3月にANOBAKAに入りました。メガベンチャーのような企業からVCにきた人間という立場でお話しできればと思います。

長野ANOBAKA代表取締役社長の長野です。

いきなりですが、「ANOBAKA」という少し変わった社名のVCってどんな人間がやっているんだろうと思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、私は元々ベンチャー業界で生きてきた人間です。KLabというベンチャー企業が未上場の時期に新卒入社し、同社が上場後にCVCを立ち上げ、そのCVCをMBOしたものがANOBAKAになります。ずっとベンチャー畑にいるキャリアの人間として、本日はお話しできればと思います。

──それでは、長野さん、ANOBAKAの簡単なご紹介もお願いできますでしょうか?

長野ありがとうございます。弊社の投資の特徴は、立ち上げ期にフォーカスしていることで、半分ぐらいがまだサービスやプロダクトがない段階での投資となっています。投資社数は累計150社ほどありますが、そのすべてがシード期のスタートアップです。

VCということでフィービジネスではなくエクイティビジネスのため、ビジネスモデルを一言で言えば“ALL or NOTHING”、つまり投資先の企業が失敗したらゼロリターン、上場までいったら何百倍にもなる。そのため、少しでも打率を上げるべく、事業戦略のディスカッションから顧客の紹介、マーケティング、組織のディスカッションなど、やれることはすべてやるというプレースタイルです。

その他の特徴といえば、初めて会ってから投資実行までに要する期間は最短で1ヵ月と、スピーディーな意思決定を心掛けています。月に会うスタートアップの数は大体50〜60社。その中から1〜2社に投資決定を行うといった具合になっております。

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自分で事業を立ち上げるより、VCの方がレバレッジが効くと思った

──今回は4つのテーマを用意しております。まず1つ目は、お三方がVCに転職した経緯です。まず、長野さんから、長野さんは転職ではないと思いますので、VCを始めた経緯を教えていただきたいです。

長野元々、20代のときに当時盛り上がりを見せたインターネット技術を使った新規事業の企画やPMをやっており、正直ずっとその仕事をやりたいなと思っていたんです。ITビジネスの企画が楽しくて仕方がなかったんですよ。

でも、自分でサービスを立ち上げるとなると準備からローンチまで早くても1、2年ぐらいかかってしまいますよね。それに比べ、VCは月に1件投資できるので、自分の活動に対するレバレッジが非常に効くなという感覚があったんです。

というのも、アメリカは上場企業の時価総額ランキングトップ30がほぼ新興スタートアップで占められていますが、日本ではランキング上位にいる新興企業はソフトバンクぐらいしかいないはずで、新陳代謝していかなければいけないという思いがあったんです。自分が一つの事業に専念して大きくするより、VCという立場からレバレッジの効く事業をした方がいいかなと思い、VCを始めたというのが経緯です。

──長野さんがVCを始めた10年ほど前は、日本ではまだVCという言葉もあまり知られていなかった時期でしたよね。

お次は葛西さんからVCに転職した経緯を聞いていきたいと思います。

葛西私は将来的に起業家として事業を成功させたいという思いから、まずはキャリアのスタートとしてKLabやサイバーエージェントでPMをやっていました。その後、起業をして自分がやりたかったドメインに対して2年弱ほど事業をやってみたものの、うまくPMFしなかったんですね。その後、再度起業するのか、また就職するのかなど、いろいろな選択肢がある中で、正直VCはあまり考えていませんでした。

TipStockという会社を起業したときも基本的には銀行からの融資のみで事業をやっていたので、あまりVCとは接点がなく興味もありませんでした。そんな中、ある日同期であり友人でもあるANOBAKAのパートナーの萩谷から「起業経験があれば、VC側に回ると活躍できるんじゃないか」と声をかけてもらいまして、そこからVCを知っていく中で、自分も苦しい思いをたくさんしたシード期に特化したVCであれば、自分も活躍できる領域なのではと思い転職に至りました。

小田私は大学生時代からスタートアップで働いていまして、愚直に事業を伸ばすためにスタートアップで働くのはすごく楽しいなという思いがありました。新卒ではリクルートに入りましたが、ゆくゆくはスタートアップ業界に戻ってこようという思いがありましたね。そこからリフカムに転職し、最後の2年半ぐらいは代表と二人三脚で事業が苦しいときも伸びているときも喧々諤々とやってきました。

リフカムを退職しようかなというタイミングでいろいろと悩んだんですが、HR畑、SaaSスタートアップ畑にいたので、VCに行けるとは正直全然知らなかったんですね。そうした中で、たまたま葛西さんから声をかけていただいて興味を持つようになったのがきっかけでした。

長くスタートアップに携わってきた中で、いろいろな起業家に伴走できる仕事自体に魅力を感じていたのと、20代最後のタイミングで未経験の領域で挑戦してみたいという思いがあって、転職したという経緯です。

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新産業には、新人キャピタリストがバリューを発揮できる余地がある

──2つ目のテーマは、今、話題の新産業であるGenerative AIを投資家目線で見る楽しさ、面白さについてです。早速小田さんからお話いただけますか。

小田Generative AIの歴史やスタートアップの洞察みたいな点は長野と葛西が話してくれるのかなと思うので、私は新人ならではの目線をお話できればと思います。

Web3もそうかもしれませんが、新しい産業が出てきて伸びていくときの最大の面白さは、みんな“スタートが横並び”ということです。

ANOBAKAとしてGenerative AIに注力するということをきっかけに興味を持ち始め、新人投資家ながらいろいろ調べたり発信したりしているんですが、その中で自分よりも2、3年長くVCをやってらっしゃる方よりも、この分野では時に詳しくなっていると感じる瞬間があるんですよね。

これはGenerative AIに限った話ではなく、新産業が生まれるときはスタートがみんな横並び。これはつまり、新人でも自分の努力次第では大きなバリューを発揮できる可能性が高いということです。

──投資家だからこそ入ってくるGenerative AIの情報やソース、「この人をフォローしていたら面白い」みたいな情報ってありますか?

小田個人的には、CrunchBaseなどは、新しいGenerative AI投資ニュースを追う過程で見ていまして、海外事例についてキャッチアップしたりしています。また、やはりWiLの久保田さんといった先輩VCの方々は情報発信を積極的にされているので、欠かさずチェックしていますね。

──葛西さん、長野さんはGenerative AIを投資家目線で見る楽しさ、面白さについていかがでしょうか?

葛西ユーザー体験が大きく変わっているのがGenerative AI周りのスタートアップであり、本当に面白いところかなと思っています。

というのも、これまで既存産業が発展する形でSaaSビジネスモデルやいろいろな事業体が出てきたと思います。一方Generative AI周りの体験はto Bもto Cもかなり異なったものになっています。そんな状況において、投資家側として事業検討やドメイン検討をしていくのは、スマホのソーシャルゲームが出てきたときの体験と結構似ているかなと思っていまして、かなり衝撃を受けたのが1つ目の楽しさでした。

2つ目は、いち早くこの領域に注目して事業を立ち上げ、プロダクトをつくってきた起業家の方々とディスカッションすること。これは本当に楽しいです。

Generative AIのような、これまでの成功体験や事業戦略のハウツーが一部通用しない領域になったときに、どういった事業戦略で顧客を獲得していくのか、プロダクトをつくっていくのか、もしくはマーケティングをして伸ばしていくのかについて、シード期、創業期のタイミングで起業家と会話できるのは何にも代えがたい楽しさかなと思いますね。難しい反面もありますが、本当に楽しいです。

長野そうですね、めちゃくちゃ楽しい、本当に(笑)。

というのも、今年41歳になる私のような、ややおじさんになりかけているインターネット大好き人間からすると、やはり過去を振り返ると“産業勃興期”と言えるタイミングというものがいくつかあったなと思っていまして。

インターネットが誕生したときには、楽天やソフトバンクなどが出てきました。次のタイミングはおそらくiモードで、そのプラットフォームに乗ることができたプレイヤーが成長を遂げてきた。KLabもその内の1社だと思います。iモードがあったからこそ新しい産業が出たという流れですね。

その次はスマホ。AWSもほぼ同じタイミングだと思いますが、このタイミングで一気にいろいろなスタートアップが伸びた。そのときの代表プレイヤーが今なお成長を続けているSmartNewsメルカリで、スマホがあったからこそどんどん新しい領域ができたと思います。

それと似たような感覚がこのGenerative AIにはあります。生成AIプラットフォームはChatGPT以外にもいろいろなものがあるので、それらを使うことで既存の仕事をAIに置き換えるという新しい領域がどんどん出てくる。この時代の変わり目、入口のところでたくさん事業を構築できる仕事ができることに対し、この上ない楽しさがあるという感じですね。

──ちょうどGenerative AIに特化したファンドを日本で初めてANOBAKAがつくったというニュースも話題になっていまして、ぜひ興味のある方はリリースを読んでいただければと思います。

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オールジャンルに投資できる。
だからこその面白さ、領域が広いからこその難しさ

──では、3つ目のテーマです。シードVCとしてオールジャンルに投資している楽しさと難しさみたいなところをお伺いしたいと思います。

葛西ANOBAKAの投資スタイルはオールジャンル。つまりITセクターすべてに投資をしていくので、先ほど出たGenerative AIのように、自分の知らない産業を手掛ける方とディスカッションしたり戦略を考えたりしていくのはすごく楽しいです。

その一方で、もちろん領域が広いからこその難しさはあります。フィンテック系、エンタメ系、ライブ配信系、はたまた1次産業の重たい課題に挑む経営者など、一線級の起業家ばかりとお話しすることになるので、自分の事業仮説、投資仮説をしっかり確立していく必要があります。

──葛西さんが、3年間VCをやってきたからこそ、難しいと感じる新しいものはありますか?

葛西自分の投資力が上がってきているのか?という観点ですと、実はこの業界に深く入れば入るほど、まだまだ投資家としての未熟さを痛感することが多いです。

代表の長野やパートナーの萩谷、他のVCパートナー陣の方々など、先輩キャピタリストとしての凄みを感じます。具体的には、カバレッジする範囲の広さやあらゆる局面での知識の深さなど、実力の違いを突き付けられたといいますか(笑)。やはり、やればやるほど難しさを感じる業界だと思います。

──フレッシュな小田さんはいかがでしょうか。

小田私も葛西が言ったような難しさを今まさにひしひしと感じているところです。私のバックグラウンドはHRとSaaSなので、BtoBのビジネスはそれとなく知った上でANOBAKAに入ってきた自負があったのですが......投資先にはD2Cもあれば宇宙領域なんかもあるわけなんですよね。

そのため、どんな業界の経営者であっても、周辺を取り巻くマーケット環境についての知識と、自分なりの投資仮説をしっかり持って面談に臨むという点については、新米キャピタリストとして人一倍時間をかけている部分になりますし、非常に難しいと感じています。

特定のテーマ特化型のVCでは、求められる専門知識の深みがあるので、別の難しさに直面するとは思いますが、やはりオールジャンルだからこその難しさは今申し上げたことになります。

ただし、私は「知らないことを知るプロセス」自体が楽しいと感じますね。というのも、私の“紘生”という名前は「広い世界を生きてほしい」という願いから名付けたそうなのですが、まさに自分自身で幼い頃から「知るプロセス」の楽しさを理解していたので、そんな私にとってオールジャンルはぴったりだと思っています。

──若いときから広く色々な世界を見ることは、将来的に経験の複利が効いたり、どんどん新たな繋がりや発展が想像できたりしますよね。では、ベテランの長野さんはいかがでしょうか。

長野さっき、VC立ち上げの経緯のところで「レバレッジが効く」という話をしましたが、実はそれ、どちらかといえば建前的な話でして(笑)。

本音は、やはりいろいろなビジネスを見られる、関われる、それってものすごくシンプルに楽しいんですよね。私は学校の勉強はあまり得意ではなかったんですが、とにかく本が好きで知的好奇心は高い方だったので、それこそフィンテックからD2Cや宇宙まで、本当にいろいろな産業に関われるのは非常に楽しいです。

特に葛西なんかは私よりも知的好奇心がありすぎるので、スタートアップの経営者との面談中に「この企業にはおそらく今のフェーズでは投資できない可能性が高い」と私が感じた時でも、本人が納得するまでずっと質問し続けたりするんですよ(笑)。そういう好奇心をベースに仕事ができる人は、オールジャンルのVCは楽しくて仕方がないのかなと。

その裏返しではありますが、知的好奇心がそこまで高いわけではない方にとっては、1つ1つの業界のデューデリジェンスに時間を要する案件では、結構しんどいと感じるかもしれないですね。

やはり、VCビジネスと一般ビジネスは違う性質を持っていますので、一つの事業ドメインをやっていると、その領域と職種だけしっかりキャッチアップすれば、ある程度の成果は出せるわけですが、VCはそういう仕事ではない。あらゆるジャンルに対して解像度高く入り込み、支援できなければ難しいかなと思います。

葛西パートナー視点では、どんな難しさがありますか?

長野パートナー視点だとまったく違いますね。パートナーは投資家から預かったお金に対してちゃんとリターンを出さなければいけないというスキーム上、やらなければいけない仕事が全然変わってくるので。

葛西余談になりますが、アソシエイト→キャピタリスト→パートナーで連続したスキルセットというよりは、キャピタリスト⇄パートナーの間に全く違うスキルセットがあるのかなと思うんですが。

長野それは明確にありますね。やはりファンドの営業、LPとの対話はまったく違ったスキルセットになるので。私自身、営業が好きな人間なので、LPの皆様とお話しさせていただく過程で信頼を獲得し、ファンドに出資してもらうというプロセスは非常に楽しいです。

──十数年ほど前に一度VCが減ったタイミングでもファンドを存続させられたかの差は、まさにLPからお金を集められるかというパートナーの手腕次第だったのかなと思うんですが、どういう性質の人がパートナーに向いているんでしょうか?

長野そうですね。日本のVC産業が一度凹んだのは、ネットバブルの崩壊の痛手から、当時存在していたファンドのパフォーマンスが軒並み悪くなり、廃業が増えてしまったからです。ただし、これはVCだけではなく*オルタナティブのファンドをやっているPEやバイオプラントなども全て共通で、「パフォーマンスが悪ければ廃業せざるを得ないし、良かったら継続性が出る」というシンプルな世界なんですね。

ただ、その中でも良きパートナーになりうる人物の特徴として、集約すると3つあると思っています。1つは前提としてパフォーマンスを継続して出せること。どのファンドでも最低でもちゃんと2X、3X出せるという継続性ですね。2つ目は、投資家、あるいは事業会社の経営企画担当者に適切に営業でき、ファンドへの出資までクローズできるという営業力。3つ目が組織力、組織構築力です。この3つを兼ね備えて初めて長くファンドを運営できるパートナーになれると思います。

*オルタナティブ投資:上場株式や債券といった伝統的資産と呼ばれるもの以外の新しい投資対象や投資手法。例えば、農産物・鉱物、不動産などの商品、ベンチャー投資に代表される未公開株や、金融技術が駆使された先物、オプション、スワップなどの取引などが該当する。

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悲喜こもごもの人間ドラマに立ち会えるのがVCの魅力

──最後のテーマは、VCの魅力と活躍できる人材についてです。小田さんはいろいろな選択肢があったというところも含めて、どういう魅力を感じているのでしょうか。

小田やはり、先ほどのテーマでもあったように、いろいろなジャンルの事業を知れて、そこに携わることができるというところは単純に面白さだと思います。

また、恥ずかしながら“エモい”ことをいうと、自分が「この方、いいな」と思える起業家とディスカッションしたり、事業を支援したりする中で、その起業家も成長し、社会に「素晴らしい起業家」として認知をされていく過程を見られる時期がきたとき、「あのときにやってよかったな」と仕事の意義を感じられるんじゃないかなと。私にも7、8年後ぐらいにそういう未来がくるかもしれないと想像すると、すごくわくわくします。

──入る前には気付かなかった、働いてみたことで感じる魅力はありますか?

小田想像していたよりも、人脈、ネットワークが重要だと知りましたね。投資検討されている起業家の方や、既に投資を実行した起業家が困っている経営課題について、時には自分より詳しい別のVCをご紹介することで解決する展開も多くあります。その際にはやはり、個人のネットワーク力が仕事を進めていく上で必要不可欠になるかなと。

私もそうでしたが、大手企業にいると、比較的社内の人間とだけ関わることが多いと思います。ですが、初めて外の人たちとの交流会や飲み会に出るようになると、新しい発見や面白さが増える。さまざまな人々との繋がりで、自分の世界が拡がる感覚。それは、入る前には想像もしていなかった楽しさですね。

──逆に、入る前には知らなかった大変さについてはいかがでしょうか。

小田やっぱりリターンにはシビアな世界だなとは思いますね。長野が話した通り、ファンド全体としても当然パフォーマンスが出でないとダメ。どれだけ起業家の力になれても、最後にリターンという形で成果が出せないとダメというのは絶対ついて回る話です。

個人のキャリア形成の文脈でも、例え自分がすごくいいなと思う起業家と伴走しても、最終的に花開かなければ、自分のキャピタリストとしての成績は残せません。投資がなされた時期から、結果が出るのがかなり後なので、目先でやっていることがどう未来に繋がっていくのかを推測しながら動くのがすごく難しいですね。

あと、やはり新規投資をするという1テーマに絞っても、ただ起業家との面談数を増やせばいいわけではない。行動量を増やせば成果が出るという世界でもないので、パフォーマンスを出すためにどういう行動を増やせばいいのか、どういう思考をしておけばいいのかを掴む必要があります。

正直、当初は入社して2、3ヵ月で掴めるなと思っていたんですが(笑)、まだ全然掴めていないところもかなりあります。

──確かに、VCで働いている私の同世代の友達からも、「せっかく投資家になったのに、1年間1件も投資ができなくて、私の仕事って何なんだろう」という話を聞いたことがあります。

葛西さんはいかがでしょうか。

葛西個人と社会みたいな2つに切り分けて話しますね。

まず個人の話で、言葉を選ばずにいうと、飽きないというか、常に動き続けられる産業だなと。サイバーエージェントでPMとして4年ほど事業を立ち上げる中で、ある程度は同じような業務や、過去の経験が活きる瞬間がありまして。

4、5年目にもなれば「社内で全くゼロから新しく始められることってあるんだっけ」と、やりたいことがなくなった感覚になり、起業したという経緯があったんです。もちろん、サイバーエージェントにもまだまだ新しいことにチャレンジできる環境はあったと思いますので、自分がそのチャンスに気づけていなかった部分はあると思います。

一方、VCの世界では、既存産業でも新しいビジネスモデルが生まれたり、はたまたGenerative AIのように新産業が出てきたり、そして時には、産業としてもう成長余地がないのではと言われている中で新たなマーケットが出てきたりする。3年目になる今も、まだまだ飽きる気配すらないなと思いますね。

二つ目の、社会という文脈です、シード期の投資は経営メンバーがまだ1〜3人という会社に投資をします。その後、企業が10人、20人、50人、100人規模の会社へと成長していく様子を見るのは感慨深いものがあります。

事業の成長とともに起業家の視野も広がり、それを間近で感じるのは特別な瞬間。スタートアップのエコシステムを実際に支える一端として関わることの魅力は、計り知れないです。

大変さについては、先ほどの話と繋がるんですが、実は、他のVCとの間で、起業家を取り合うような状況が時々生まれるんです。一部のスタートアップは資金調達に苦しむ一方、一部の優秀な経営者は資金をサクッと集める。そういった資金集めがうまくいっているスタートアップに投資オファーを出すも、なかなか受け入れてもらえないこともあります。そんな時、自分の人間力やファンドの投資方針で悔しい思いをすることはありますね。

──自分の人間力を感じることもあるんですか?

葛西もちろんです。資金のバリエーションやオファー金額だけではないところで選んでもらっているなという感覚があって。ANOBAKAの人間とディスカッションすること自体が楽しくて、葛西個人としてハンズオンのサポートが魅力的といった側面でVCを選んでいただくケースは実際にかなり多いのかなと感じますね。

長野そうはいっても、葛西はVCコンペで選ばれる率がめちゃくちゃ高いんですけどね(笑)。

葛西最近はアソシエイトからキャピタリストに昇格したので、そこを評価していただけているのかなと。今後も日々謙虚に頑張っていきたいと思っています。

──起業家から選ばれないと、そもそも投資したいと思える起業家に出会えない、すると当然投資もできない。そんな難しさがありそうですね。

葛西そうですね。おっしゃる通り、一番悔しいのは、投資したいと思える起業家に出会えたにも関わらず選んでもらえずに投資できないというケースです。出会えていないのなら、自分の思考方法やリサーチ方法を変えればいい話なので。

──投資したいと思える起業家に会える確立を高めるために、「これはやってよかったな」と感じることはありますか?

葛西業界で是々非々の議論があるかなとは思いますが、ANOBAKAは深くハンズオンしているなと感じています。既存投資先のハンズオンに本気で取り組めば取り組むほど、各業界の解像度が投資後にも上がっていって、その中での事業戦略や成功事例、失敗事例が、当事者意識を持って吸収できる。そこを新しい投資先や検討先へのディスカッションで抽象化して共有できるのは非常にやってよかったなと思います。

──最後に、長野さんはいかがでしょうか?

長野さっき冨田さんが言っていた「入ったのに全然投資できない」というのは、確かによく聞く話ではあるのですが、ANOBAKAは投資できる人間が足りていないので、そこはご心配なくとお伝えしておきます(笑)。月に1〜3件投資しているので。

それは置いておいて、VCの魅力についてですが、私は「人間交差点」という漫画が好きなんですね。人生の中で重要な局面におけるシーンを漫画にした作品なんですが、VCをやっていると、本当にそうした人間ドラマに出会えるんですよ。

大の大人が会議室でわんわん泣いていたりとか、学生時代からの友人同士で起業したものの、裁判沙汰になるまで喧嘩しちゃったり、とんでもない裏切りがあったり、逆にすごくいいエピソードに出会えたりとか。普通に生きていたらなかなか出会えないようなドラマに出会えるんですよ。

また、よく「社長は孤独だ」と言われますが、実際そうなんですね。やっぱり本当につらいとき、社員には相談できないですよ。本当に重要な局面で相談できるディスカッションパートナーは、やっぱりVCだったりする。特にシード期から資本参加して、同じ船に乗っているVCに相談するのはよくある話なので、そうした人間ドラマに立ち会えるのは、時にストレスもありますが(笑)、非常に楽しいですね。

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“愛され力”がある人の元には、いい案件が寄ってくる

──最後のテーマ、活躍できる人材についてはいかがでしょうか。

小田このテーマについて私が答えるのはまだまだおこがましいなと思うんですが、見ていて素敵だなと思う人に共通するのは、総合力が高い人かなと。

営業力もそうですし、人間力もですし、知的好奇心もそうでしょう。分析して洞察を得る力、また発信力なんかも求められる業界だと思うので、求められるスキルセットは多岐に渡ります。すごく仕事ができる社内外の先輩方を見ていると、そうした総合力が軒並み高いと感じます。

葛西もちろんご自身の強みを活かしていろいろな方面から活躍されているキャピタリストは多いですが、私の経験に照らし合わせると、事業開発経験がある人はシード期に特に活躍できると思います。

実際私自身、メガベンチャーではありますが、予算を持って課題解決を試みていた経歴があります。その経験が、起業家の「この業界の課題をこんなプロダクトで解決したい」といった話に共感できるばかりか、実際に課題が解決できそうなのかを、ディスカッションできるんです。

やはり、シード期ではプロダクトも何もない状態で投資をしていくので、投資したお金をどこにどう投下していくのかという議論は日常茶飯事です。そんな中、事業の立ち上げ経験があれば、どの順番でどのようにプロダクトを作っていくのか、たとえそれが起業家のアイディアベースであってもジャッジができる。事業開発経験のある方がキャピタリストになると、これまでの経験を活かしたユニークな投資ができると思いますね。

長野小田くんが言っていた総合力に関しては、全部の力が全部強いというのはなかなか難しいことだと思っています。だから、何か特定の強みを軸にやっていくというスタイルでいいのではと個人的には思っています。その一例が、葛西がいったように、PMや新規立ち上げ事業をやっていた人間はシード期のベンチャーに結構向いているということ。

私の視点から、もう少し抽象的な話をすると、やっぱり“愛され力”みたいなものがすごく大事だなと思っていて。例えばですが、パートナーの萩谷が最初に入ってきたときには、失礼な話ですが彼が大成するとは思わなかったんですよね(笑)。

ただし、彼には“愛され力”という変え難い武器があった。VCにもLPの皆さんにも、投資先の皆さんにも、社内メンバーにもめちゃくちゃ愛されるんですよ。すると、自然に彼の元にいい案件がどんどん寄ってくる。結果的に、今のANOBAKAでは私より萩谷の方がファンド投資のパフォーマンスがいい。それは愛され力の違いかなと思っています(笑)。

──最後に視聴者の方々からいただいえる質問からぜひ2つ取り上げさせてください。

1つ目は、「VCを経験すると起業家に応用できるスキルや知識が得られると聞いたことがあるが、実際どうなのか、ご経験を踏まえて伺いたい」という質問です。

葛西投資家から起業家へというところで活きるものは、本当にファイナンスしかないかなと思っていまして。いろいろな産業をやってディスカッションしたから、それが起業に活きるというのは正直ほぼないと言えます。

起業は、生みの苦しみやお金が減っていくストレスの中、「事業も成立させないといけない」「メンバーも採用しなければいけない」「お金も引っ張ってこないといけない」といったように、ストレス環境が圧倒的に違うはずなんですね。

確かに、シード期やシリーズB〜Cのファイナンスのストラテジーを投資家として理解しているという観点では、起業家になったときにファイナンスのコミュニケーションが円滑であったり、筋が良かったりというのはメリットとして挙げられますが、基本的には全くの別物だという認識です。

小田私は、スタートアップのコミュニティに入れるという観点で、心理的なハードルが下がるのかなとは思います。VCに入ると起業家と一緒にいることが当たり前になりますが、普通に生きていたらなかなかそのコミュニティに入ることってないと思うんですよね。

命をかけて事業をつくるのが当たり前な人たちの中にいると、自分でもやってみようかなといった具合に、起業が当たり前になってくる価値観が形成されるかもしれません。ただし、やはりスキルセット文脈では葛西がいった通り、別物だと思います。

──ありがとうございます。それでは2つ目の質問、「勇気のある人が成功するという話があったが、実際に投資を決定する起業家の属性や、それをどう確認するのか?」です。みなさんいかがでしょうか。

長野勇気があるかどうか、それを明確に見極めるのはすごく難しいと思います。やはり経営ってメンタリティがかなり大事なんですよね。時価総額が何千億まで行く経営者と、到達できずに留まる経営者とでは、メンタリティに歴然の差があります。

例えば、私が所属していたKLabでは、当時iモードの受託開発、コンテンツ開発がメインで、当時の売上が20億円、利益が2億円ほどで、まだ上場もできるかどうかというフェーズでした。

ソーシャルゲームの波に乗る前に、社内でゲームのプロトタイプを作成。その結果、既存の事業を放棄して、ソーシャルゲームへの全力投球を決断。多くの人々がこの判断に反対しましたが、経営者の真田さんの決意は固かった。彼のメンタリティは、通常では考えられない意思決定を下す力を持っていました。

そんな中で、当時まだソーシャルゲームという言葉もないタイミングで、Facebook内のゲームアプリで成功している企業がいると聞ききつけ「ゲームをやってみてもいいんじゃない?」というアイディアが出たんです。

すぐさま社内でプロトタイプをつくったところ、反応も良かったので、すぐさま既存の事業を放棄して、ソーシャルゲームへの全力投球を決断。多くの人々が「まずは既存事業とソーシャルゲームのハイブリッドでやりましょう」と、この判断に反対しましたが、代表の経営者の真田さんの決意は固かった。彼のメンタリティは、通常では考えられない意思決定を下す力を持っていたということです。

そんな真田さんの姿を横で見ていた私も、「KlabのCVC」ではなく、あえて「MBOをやろう」という判断ができましたね。もちろんリスクは伴いますが。その判断があってこそ今のANOBAKAがあると思っています。

ただ、起業直後の段階では、その勇気の有無はおそらく完全に見分けられないです。なぜなら、「まだ、その局面がまだ訪れていない」から。だけど、将来的にユニコーン規模の経営者になれるかは、そういう勇気、メンタリティが求められる局面でリスクをとって前に進めるか。そんな、メンタリティの持ち主なのかどうかを見極めるのが、難しくも我々VCの仕事なのかなと思っています。

──非常に面白いお話です。やはり、投資する前に、そのメンタリティや勇気を見極めることは難しいんですね。そんな中、長野さんはどのように起業家を見ているんですか?

長野あえて、といった文脈ですと、その人の情熱を見ますね。やはり情熱がある人はなんだかんだで最終的には必要なメンタリティを構築できるのではと思っています。

「あ、この人は24時間365日ずっと事業の成功のことばかりを考えている」という人は、やはり我々の目からも感じ取れます。その情熱、熱量を図り取れる能力がキャピタリストに必要なわけです。

──まだまだ聞きたいことがありますが、お時間がきてしまいました。最後に、お三方からメッセージをお願いいたします。

小田私は事業会社でずっとキャリアを歩んできた中で、VCという選択肢はなかった人間でした。同じような方に、今日の話を聞いて興味を持っていただけたら嬉しいです。VCと繋がれる機会はいろいろあると思いますので、お気軽に声をかけていただけるといいなと思います。

葛西ANOBAKAはVC未経験者も積極的に採用しているので、VC業界、ひいてはANOBAKAに興味がある方は、ぜひご応募ください!私がカジュアル面談を担当させていただいておりますので、より具体的な話が聞きたい方はぜひ問い合わせていただければと思います。

長野VCは新産業をつくるという気概を持った仕事だと思っています。さらに、ANOBAKAはそれをシードから支える仕事をしていますので、そこに興味がある方はぜひまた直接お話させていただきたいと思っています。

こちらの記事は2023年10月13日に公開しており、
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