「経験や年次は関係ない」──事業家輩出企業のUPSIDER×ノバセルに訊く、リーダー・意思決定者を育むスタートアップの共通項

登壇者
水野 智規

ABeam Consultingに新卒で入社。金融機関の業務システムフルリプレースの案件に従事。その後、初期メンバーとして株式会社ユーザベースに入社し、NewsPicksの立ち上げや、グループ全体のマーケティング部門を牽引した後、独立。起業当時の課題意識や原体験をもとに、代表取締役CEOの宮城と2018年に株式会社UPSIDERを共同創業。

伊藤 一汰

大学1年生よりIoTプラットフォームを開発・提供するスタートアップにインターンとして参画。デジタルサイネージ広告配信システム、属性解析カメラ、POSデータを活用した、新しい小売販促についての事業検証、大手企業との実証実験を実施した後、2023年2月にUPSIDERにジョイン。杉山と共に支払い.com事業のグロースを担当。

田部 正樹

2004年に中央大学文学部を卒業。テイクアンドギヴ・ニーズの戦略室長、マーケティング戦略部長などを経て、2014年にラクスルに参画。テレビCMを中心に累計50億を超えるマーケティング投資を行い、5年で売り上げを25倍に。CPAを1/4に低減し、ハイグロースとROI改善を実現。現在はCMO 兼 ノバセル事業本部長として、クライアント企業に対し、効果のでるテレビCM戦略の企画提案を行う。

楠 勇真
  • ノバセル株式会社 ビジネスプランニング部 部長 

東京大学経済学部卒業後、2020年4月にラクスル 株式会社に新卒で入社。広告領域の新規事業「ノバセル」に配属され、入社当初からストラテジックプランナーとして約40社のお客様のテレビCMを通じたマーケティング戦略をサポート。並行して、メディア業務や効果分析業務も行い、ワンストップでお客様の事業成長をサポートする。その後、効果分析SaaSの導入支援や分析レポーティングなどを担当し、現在はラクスル 史上最年少マネージャーとして、ビジネスプランニング部で営業部長として各企業様の案件を統括。

「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」をミッションに、法人カード『UPSIDER』および請求書カード払いサービス『支払い.com』を提供する株式会社UPSIDER。

「マーケティングの民主化」というミッションのもと、テレビCM広告のプラットフォーム 『ノバセル』の運営をしているノバセル株式会社。

2024年2月のFastGrow Conferenceでは、この2つの「事業家輩出企業」の経営陣・事業家ペアを招き、事業家が育つスタートアップの共通項を紐解いた。自走できる組織を作るためのヒントが盛りだくさんの対談内容をお届けする。

  • TEXT BY TOMOE IWAO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA

──まずは自己紹介と事業内容についてのご説明をお願いいたします。

株式会社UPSIDER 代表取締役 水野氏

水野UPSIDERで共同代表を務めています水野と申します。キャリアとしては、新卒でアビームコンサルティングというITコンサル企業に入り、その後社員14名のフェーズのユーザベースに入社しました。そこでニュースアプリ『NewsPicks』を立ち上げ、グループ全体のマーケティング責任者を務め、上場を経験しました。

その後、2018年に共同代表の宮城と共にUPSIDERを創業し、現在に至ります。皆さん本日はよろしくお願いします。

株式会社UPSIDER 伊藤氏

伊藤UPSIDERで『支払い.com』の事業責任者をしております、伊藤です。2023年の2月、大学3年生の時に学生インターンとしてUPSIDERにジョインしました。

UPSIDERは、「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」というミッションを掲げています。

このミッションの背景には、企業が挑戦する時に必ず直面する「お金の問題」を解決したいという想いがあります。スタートアップや中小企業は会社の信用が少なく、お金に悩まされることが多い。そのような企業の困りごとを解決し、挑戦を加速できるような社会づくりを目指しているのが我々です。

弊社は法人カード『UPSIDER』事業のイメージが強いと思うのですが、これは2つある事業の柱のうちの1つで、今後は〝AI化された総合金融機関”に進化すべく日々挑戦をしています。

他にも、新規事業としてたとえば現場と管理部門の業務課題をAIで解決する『UPSIDER Coworker』や、当社と株式会社みずほフィナンシャルグループの合弁事業である、株式会社UPSIDER Capitalを運営会社とした日本初のグロースステージスタートアップ向けデットファンド『UPSIDER BLUE DREAM Fund』等がございます。UPSIDERは法人カードだけでなく、様々な事業を通じて「挑戦者がお金の悩みから解放される世界」の実現に向け、挑戦を続けていきます。

冒頭で紹介した、2つめの柱である『支払い.com』は、請求書をカード決済に切り替えることで、支払いを最大60日間延ばせるサービスです。主に中小企業や個人事業主の方々に多くご利用いただいております。現状、法人カード『UPSIDER』の両事業と合わせて3万5,000社のユーザー数を誇り、『UPSIDER』の累計の決済金額も2,500億円を突破しています。

本日はとても緊張していますが、皆さんどうぞよろしくお願いいたします。

ノバセル株式会社 代表 田部氏

田部ノバセルの田部と申します。2014年からラクスルのCMOを務めており、現在はノバセル代表と兼務をしております。

スタートアップが資金調達を経てマーケティングに投資し、事業を伸ばしていくといったスタイルがちょうど2014年ころから始まって、メルカリやSanSan、ビズリーチ、SmartNewsといった企業と共に、ラクスルもこの手法を交えて大きく成長してきました。

そしてここで得たノウハウを、まさに今回ご一緒するUPSIDERさんのような挑戦する企業様に提供していこうと思い、『ノバセル』というサービス、会社を立ち上げたという経緯です。本日はよろしくお願いいたします。

ノバセル株式会社 営業責任者 楠氏

ノバセル株式会社のマーケティングDX事業で営業責任者をしております。楠と申します。2020年にラクスルグループに新卒入社しまして、印刷のラクスル事業にはほぼ関わらず、当時立ち上げ期で15人程度だったノバセルに配属となりました。

ノバセルはテレビCMを中心としたサービスを扱っており、企画やコミュニケーション戦略、メディアプランニングから効果測定、そして改善という具合に、ワンストップでソリューションを提供しております。当初はスタートアップを中心にご支援をしておりましたが、最近ではエンタープライズ向けにもサービスを進化させています。

本日は週末にわざわざお越しいただきありがとうございます。何かしら皆さんに持ち帰ってもらえるお話ができればと思っておりますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。

──ではまず、「事業家人材」を育む機会提供のあり方についてお話いただければと思います。そもそも、皆さんは「事業家人材」とはどのようなものだと思われますか。

伊藤UPSIDERでは「事業家」という言葉は使われておらず、近い考え方として「リーダーになっているか」ということが重要視されています。これは事業の成功やお客様の成功のために誰よりも考え続け、時には誰かに嫌われたとしても、創造や変革を厭わず行動する人を指しています。

日々、事業運営をしていると目を背けたくなることや辛いことが多々起きます。そのような状況下において、主語を自分に置いて「褒められて気持ちよくなりたい」とか「結果を出して認められたい」と考えていると、その辛い状況から逃げることが選択肢に出てきてしまいます。

一方で、主語を「お客様の成功」に置いて、他の人たちが逃げ出したくなるような状況でも、お客様の成功を願い真っ先に行動する人もいますよね。そのような人こそ、リーダーであり事業家であると考えていますし、自分が大切にしている考え方の一つです。

水野私は、事業家というのは「嫌なことを、誰よりも率先して取り組む人」だと思います。

たとえば、「目標が未達」という状況において、どこに原因があるのかを考え、責任を取る人ですね。それは、役職やポジションとは関係ありません。また、どれだけ修羅場をくぐって自分自身を追い込んでいけるのかも、事業家であるか否かの基準になると思います。

──ノバセルの楠さんと田部さんは、事業家人材についてどのようにお考えですか。

一般的には、時間軸とそこに対して引けるドライバー(事業を伸ばすための選択肢)の幅が事業家人材のレベルを決めると言われていますよね。

たとえばマーケティング担当の場合、「3カ月後の成果まで見据えています。引けるドライバーは広告費の大小です」みたいな人は多いのですが、事業家として考えるのであればそれでは足りません。

時間軸については、1年後なのか3年後なのか10年後なのかで、事業家としての力量にかなりの差が出ます。

また、引けるドライバーはマーケティングに限定する必要はなく、セールスやオペレーション、サプライチェーンなども含まれてきます。事業家は、こうした時間軸とドライバーについて全ての責任を自分ごととして捉え、コントロールしていくことが必要だと思っています。

田部私は「事業を伸ばすためになんでもやる人」が事業家だと思います。その事業に対して「自分がいないと伸びない」と信じていて、「最後の砦になる覚悟」がある人ですね。

起業家や経営者は自分の資産を投じている場合も多く逃げ道がないので、事業を伸ばすためにオーナーシップを持たざるを得ません。

一方、雇用される側の立場であっても、オーナーシップを持って、事業と自分の成長を考え、危機感を持って事業に取り組める人もいます。そのような人もまた、事業家と呼べるのではないでしょうか。

──続いて、事業家人材を育む機会提供について教えていただければと思いますが、UPSIDERでは、「責任ある立場を任せる機会提供」について何か仕組みはありますか?

伊藤機会提供の仕組みとして、特別な制度があるわけではありません。お客様の事業を成功させるためにチームで一丸となり動き続けた結果、任せてもらえる範囲が広がりました。

今は『支払い.com』の事業責任者を務めておりますが、入社当初はお客様からの問い合わせ対応をメインに行う業務に従事していました。もちろん、それ自体も大切な業務ではあるのですが、「もっと『支払い. com』を多くの方に知っていただき、力になるためにはどうしたらいいだろう」と考え抜いた結果、「問い合わせ業務を担当しているだけでは目標を達成できない」と感じるようになり、自ら掛け合い、業務内容を広げてもらったんです。

事業を伸ばすためには協力してくれる仲間を探さなくてはならないため、当時はインターンの身ではありましたが、『支払い.com』の正社員採用を任せてもらうようになりました。このように、新しい挑戦をし続けている内に挑戦できる幅も広がり、今の事業責任者という立場を任せていただけるようになったのだと思います。

──そのような機会が伊藤さんに回ってきた理由について、水野さんは経営者としてどのように捉えられていますか?

水野「責任ある立場を任せる機会提供」の仕組みではないのですが、私は「あえて“上位何%"という言葉を使うなら、あなたは社会の中で上位何%になりたいですか?」という質問をして、そのためにどこまで頑張れるのかを聞くようにしています。

伊藤は「なんでもやりたい」ということでしたので、その環境を整えるのが私の責任だと捉えました。「失敗しても何度でも機会は用意する。とてもきついと思うけど、折れずに一緒に頑張っていこうね」という約束をしましたよね。

伊藤はい。「普通に仕事ができる優秀な人材ではなくて、世の中に大きなインパクトを与える突き抜けた人材になりたい。なので、上位0.1%になることを選びます」と伝えました。

「大変な道のりで何度も挫折することがあるかもしれないが、それでも挑戦したい」と、自分で決断して入社を決めました。

──とはいえ、全員が全員「上位0.1%を目指す」というメンバーばかりではないと思いますが、その辺りはいかがでしょうか。

水野もちろんそこは個々の自由ですので、判断は任せています。その場合は「一歩ずつ、今できることの半歩先をやっていこう」と伝えていますね。

──では楠さんは、今の機会をどのようにして得てきましたか。

そうですね。与えられたミッションにおいて、常に成果を出し続けることが大切であり、その結果として機会を得てきたと思っています。そのために、「視座や業務内容が自分よりも2つグレードが上の人」と自身を比較して考えるようにしています。

たとえば、「田部さんがこの業務を担当したらどんな成果を出すんだろう」「どうして私に任せてくれたんだろう」と考えるイメージです。

そうすると、「田部さんは自分でやった方が成果が出るのは承知の上で、それでは会社が大きくならないからという思考で私に任せてくれているんだろうな」と気づくわけです。

その結果、「自分が取り組んでいる業務にどのようにして再現性を持たせ、組織を大きくするのか?そして自分はどのように新しいテーマに移るのか?という視座を田部さんは持っているんだ」ということがわかるわけですね。こうした思考訓練を繰り返していると、日々の業務の取り組み方も確実に変わってくると思います。

また、常に今の自分にとって1つレベルの高い仕事を巻き取り続けることも意識しています。そうすることで結果的に上のポジションにも早く到達できるし、今までとは違うミッションに辿りつけるのではないでしょうか。

田部弊社では「解像度」という言葉を社訓と同じくらい大切にしています。

私たちの言う解像度とは、「物事を深く洞察した時に、その人にしか見えないものがある。それが見えるまで仕事をしているか」ということです。私にしか見えないこともあるし、セールスやエンジニア、それぞれの人にしか見えない解像度があります。

「日本や世界の中で、その人しか気づいていないことがどれだけあるか」ということを大事にしており、評価の基準にもしています。役職に関係なく、ある課題やその事業に対して高い解像度をもっている人にこそ、事業をお任せする仕組みづくりをしています。

ネットで調べた情報や、誰でも知っているような情報を持ってきて「マーケティング分析しました」では意味がないんです。私たちが「0次情報」と呼んでいる「その人にしかない情報」をどれだけ持っているか、どこまでそれに迫れるかが機会を得る上で大切ですよね。

──オーナーシップについて伺いたいのですが、田部さんから見て楠さんが変わった瞬間はありますか。

田部楠は元々、上昇志向は持っていました。ただ、その上昇志向がオーナーシップに変わった瞬間があると思っています。

というのも、楠は入社してすぐの会議で一度も発言しなかったことがあったのですが、その時に私は彼に「もう会議出なくていいよ」「入ってくるな」と言ったんですね。

というのも、弊社にはカルチャーとして「発言責任」というものがあって、会議に参加する人は必ず発言しなくてはいけません。

そこで私の言葉を受け取った楠は、周りと自分を比較して、「周りの人ができているのに自分ができていないこと」に気づいたようです。そこからですね。彼がオーナーシップを持ち始めたのは。

お恥ずかしいエピソードですね(笑)。おっしゃる通りで、その会議以降、私はお客様との商談に上の役職の人を呼ぶのをやめました。呼んだらどうしても頼ってしまうからです。

なので以降は商談前にあらかじめ、「この商談は自分が仕切ります。こういうふうに提案します」と上長の許可を得て、一人で商談に向かうようにしました。正に、自分で背負うことが大切なんだと感じた瞬間でした。こうしたスタンスを持ちながら失敗を繰り返していくことで、オーナーシップが大きくなるのかなと思います。

他にも、私は比較的手先が器用でして、資料づくりや会議体の設計などを得意としていました。しかし、ある時その様子を見た田部から、「それはリーダーがやることなの?どこに楠の存在価値があるの?」と問われたことがあったんです。この時も自身の性格や特徴を見ながら伸び代を指摘してもらい、成長への気づきになったと感じています。

なので、周りから「オーナーシップを持て」と言われて育つものではないと思います。本人の中の強烈な原体験や気づき、コンプレックス、絶対に負けたくないという気持ちによって生まれるものだと思っています。

田部そうですね。少しだけ補足すると、弊社は採用も各事業責任者に任せています。採用では、自分の右腕になってくれそうな人や、自分よりも下の人を採用しようとする人が多いのですが、この時に自分よりも明らかに能力の高い人にオファーができるかどうかが重要です。

なぜなら、そうした人を採用し、仲間として力を貸してもらうにはオーナーシップがなければできないからです。なので、それができた時には社内では「川を渡ったな」という表現をしており、ポジティブに評価するカルチャーがありますね。

──伊藤さんのオーナーシップについてのギアが変わった瞬間についても教えてください。

伊藤ありがとうございます。私の場合、業務の一部を外部の人に委託していた時のことですが、自分のマネジメント不足も重なり、思うような結果が出せなかったことがありました。その頃、私はその状況に対峙し、「当たり障りなく、丸く収めよう」と捉えてしまったのです。

しかし、そのような私の態度を見た水野が私に対して「それ、自分を守ろうとしていない?」という言葉をかけたんです。その時に、波風を立てずに事なきを得ようとする自分自身の弱さに気づき、目を背けたり逃げたりしないことの大切さを学ぶことができました。

そこからは、もう一度委託相手と1on1でしっかりとコミュニケーションを取り、問題点と解決策を突き詰めた結果、元の成果から5倍にリカバリーすることができました。この経験は私にとって大きな自信に繋がりましたね。

水野田部さんがおっしゃるように、私たちも解像度は大事にしていて、どこまでやり切れるか、どこまでやっているのかは常日頃から重視しています。

伊藤そうですよね。私は役割柄、事業の数字をみることが多いんです。ある時、水野から「その数字の背景にあるお客様のことまで思考を巡らせているか?」と問われ、はっとしました。まさに「お客様に対する解像度が低いのではないか」、と気が付くことができた瞬間の出来事です。

お客様の事業の悩みと、私たちがその悩みをどう解決できるのかをもっと深く知りたい──。そう考えるようになってからは、お客様とのアポイントを積極的にとるようになりました。

ある時には、大学のゼミ合宿で沖縄に滞在中に、教授に納得いただいた上で合宿を中抜けさせてもらい、担当していたお客様と5時間飲みながらお話をさせていただく機会がありました。

事業のこと、お客様の人生や家族のこと、大切にしている価値観まで深くヒアリングすることができ、数字だけでは決して見えなかった、解決すべきたくさんの課題を掴むことができたんです。「これが、数字だけをみるのではなく、n=1 のお客様について解像度を上げることなんだ!」と心から理解することができた瞬間でした。

それ以来、日々の業務では「リアルを見る」ことを常に心がけています。

──続いて、権限委譲について話をお伺いしていきます。「人に仕事を任せる」という観点で、失敗談や経験談をお話いただけますか。

田部権限委譲が失敗することの大半は「オーナーシップのない人に任せてしまったために事業が進まない」という状態を作ってしまうことに原因があると思います。オーナーシップやウィルや解像度がなければ、権限委譲はうまくいきません。

逆に言えば「俺にしか解決できない」というレベルに到達できた人には、どんどん任せていくべきだと考えています。その思考には再現性があるので、一度そのレベルに到達できると、どんな事業であっても回せるようになるんです。

なので、深い洞察をしてオリジナルな発見をした人にこそ、私は積極的に権限を渡していますね。

過去の役職や経歴がキラキラしていても、オーナーシップを持てない人は世の中にたくさんいますので、「世の中の誰も気づいていない、自分にしか辿り着けない情報を獲得している」ぐらい深い仕事ができているかどうかは、細かく見るようにしています。

水野任せるという点では、まず「どのくらい事前準備をする人なのか」を重視しています。

また、私たちからのフィードバックを受けて、「そのフィードバックを無視してでも自分の意思でやり切れるのか」も大事だと思います。

「無視をする」と聞くとネガティブに聞こえますが、「自分ならできる」という信念を感じるかどうかということです。リスクとリターンが見合っていなくて反対されるようなことでも、圧倒的に準備をして「それはお客様や社会のためなのか?」を突き詰めて考えて欲しいですね。

UPSIDERにも、過去の役職や経歴は立派だけれど成果を残せなかった人はたくさんいます。経歴よりも、過去にとても大きな失敗経験をしたとか、圧倒的な準備で大きなことを成し遂げたなど、どれだけの修羅場をくぐってきたのかが大事だと思っています。

伊藤水野が言うように、経験のないことであっても、圧倒的な準備があれば誰よりも変化・成長できる可能性があるのではないかと思っています。

最初は「できない」「怖い」と思うのですが、それを圧倒的なインプット・行動量で準備し克服すると、最速で自信を持てるようになる。UPSIDERでの経験を経て、今はそのように感じています。

──最後になりますが、組織全員が意思決定者になるためにはどうしたらよいでしょうか?

今回のセッション全体を通して改めて思ったのが、組織の全員が意思決定者になるのは不可能だということがわかりましたね(笑)。これはネガティブな意味ではなく、適材適所ということです。

もちろん、オーナーシップを持っている人が成果を出して賞賛される組織・文化は大切だと思いますが、そこを目指さない人がいるのも組織として健全な形だと思います。

全員が意思決定をしなくとも、活躍できる場はあります。みんなが意思決定することよりも、いろんな役割の人がお客様のために一歩でもよくなろうと取り組むことが、組織として重要かなと思います。

伊藤私も「全員が意思決定者になること」は必ずしも当人にとっての幸せにはつながらないと思います。

その中でも意思決定者を目指す人は、初めのうちは「成功したい」とか「褒められたい」といった自分のエゴがモチベーションであってもいいと思うんです。そこから最終的に、「お客様や社会のために何ができるのか」を突き詰めて考えられるようになることで、真のリーダー、意思決定者になっていけるのかなと感じました。

田部私は「多数決で解決することは意思決定ではない」と思っています。意思決定が会社の戦局を揺るがすようなこともありますし、事業の方向性が大きく決まることもありますから、誰にでもできることではありません。

ただし、スタートアップでは日常のほぼ全ての業務において答えがないし、前例もありません。そのため、スタートアップで働く人は「前例がないことを作り上げる意識」を持たないといけないし、結論が出ないものを自己判断で勝手にやれるかどうかでスピード感が大きく変わってきます。

大企業では意思決定を民主的におこなう場合が多いですが、スタートアップではそのようなことをしている時間がありません。自走する人は失敗もしますが、その分成長もしていきます。そうやって意思決定の精度を磨いている人のことを引き上げ、事業を任せていくことが大切だと思います。

水野「お客様や挑戦している会社のために役に立つのがUPSIDERの存在意義」だということは伊藤に限らず社内で繰り返し伝えています。それを当たり前のように実践してほしいと思います。

ちなみに社内のSlackでは「お客様にこんなことを褒められました」とか「こんな風にお客様の役に立ちました」と日頃から投稿する文化があるんです。日々、お客様のリアルな言葉が全社に共有されることでポジティブな影響をもたらすことを実感しています。

そして最後に、私たちUPSIDERは伊藤がリードする『支払い.com』の事業が失敗したら、会社そのものが潰れると思っているため、常に全力投球しています。なので、会社としても、彼としても逃げ道がなく、成長するしかありません。

組織全体が意思決定者になることが重要なのではなく、一緒に頑張れる人、「あなたが挑戦してダメだったのならしょうがないよ」とお互いを認め合える人でチームをつくり、事業に向き合うことが大切だと思います。

伊藤は私より何倍も優秀な人材です。そういう人をいかに巻き込むかが、組織として大事なことだと思っています。

こちらの記事は2024年04月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

巖 朋江

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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