「KPIは、UGC発生率」
SNS解析企業が明かす、Twitterを活用したビジネスグロース手法
2014年からWebマーケティングのノウハウを学べるメディア『ferret』の立ち上げに携わり、創刊編集長としてメディアの成長を牽引してきた飯髙悠太氏が、2019年1月、ビッグデータ・SNSマーケティングで知られる株式会社ホットリンクに転職した。
入社後数日の飯髙氏を訪れ、新天地で何を目指すのか、そしてスタートアップはSNSをいかに活用すべきか聞いた。
- TEXT BY YASUHIRO HATABE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
SNSが人々の購買行動を大きく変えた
今回、ホットリンクに転職された経緯を教えてください。
飯髙自分のnoteにだいたいのところは書いたのですが、SNS領域の会社で働いてた過去もありますが、基本はマーケティング領域で仕事をしてきた過程でSNSの成長を目の当たりにし、情報源がマスメディアやWebメディア、Web検索だけに限らなくなってきたこと、またSNSを通じて個人がいろんなことを発信する時代への急激な変化を目の当たりにしました。そこで、もっと「個人」にフォーカスされることをやりたいと思ったのが一つ理由としてあります。
もう一つは、今回の転職の軸の一つに「グローバル」という軸があって、アメリカ、それから中国でのマーケティング事業でシェアを広げている会社ということでホットリンクを転職先に選びました。
でも一番の理由は、僕自身、SNSが、Twitterが好きだからかもしれないですね。SNSができる前には決して出会えなかった人と出会えるようになったし、知識を経験に変えたことをSNSを通じて人に伝えられるようになった。すごく恩恵を受けていると思います。「SNSがなかったら、今どうやって仕事しているんだろう」と思うほどに。
マーケティング本部 本部長としてどのようなミッションを負うことになるのですか?
飯髙ホットリンクはSNSを活用したマーケティング支援を行っている会社なのですが、現状で売り上げの50%以上がアメリカでの事業・中国市場向けビジネスでの売り上げという、日本のベンチャーとしても珍しい会社だと思います。海外では、データドリブンマーケティングを中心に、中国ではプロモーションやECサービスまで一気通貫でやっています。
一方、日本ではこれまで、ソーシャルメディア分析ツールの「クチコミ@係長」などSaaS製品などの展開にとどまってきました。でも昨年、Twitterを中心とするSNSマーケティングのコンサルティング事業をテスト的にやり始めたところ非常によい手応えが得られたということで、今年からマーケティング部門を新設して本格的にやろうということになりました。そこへ声を掛けていただいた形です。
ですから、私に課せられたミッションの大枠としては、ホットリンクの提供するプロダクト・サービスのリード獲得という柱と、クライアント向けのユーザーグロースに貢献するという柱の二本立てになります。ただ、新設の事業部なので、具体的なところはまさに今、計画しているところです。
Twitterでバズを生むのに重要なのはUGC(クチコミ)
スタートアップ界隈でも「マーケティングのためにTwitterを始める」という個人・企業の方によくお会いします。そこで話を聞いていると「いかにバズらせるか」を競い合っている印象を受けるのですが、そう考えることは正しいのでしょうか?
飯髙バズを生むこと自体は基本的には間違いじゃないと思います。ただ、バズらせるために何をどうするか、これについては誤解されている部分もあるかもしれません。
バズらせるには、「UGC(User Generated Contents)=クチコミ」が大事です。コンテンツというとWebのページになった「記事」をイメージするかもしれませんが、「クチコミ」という場合の「コンテンツ」はもっと広い意味です。ツイート一つもコンテンツですし、Instagramの写真もコンテンツ。あるいは、“良い商品”自体がすでにコンテンツだともいえるでしょう。
なぜクチコミが大事なのか。仮にフォロワーが1万いる「商品A」の公式Twitterアカウントがあるとしますよね。でも、すでに「商品A」に言及したツイートが2万あったら、1万フォロワーの公式アカウントから一生懸命発信する必要はあるでしょうか?それよりも「商品A」に言及するUGCをいかに発生させるかを考えることが「バズらせる」ためには大事なのです。
UGCが自然発生しない時こそ、コンテンツマーケティング
でも、立ち上げたばかりのスタートアップだとクチコミはなかなか発生しないですよね。
飯髙UGCが発生しにくい企業や商品・サービスというものは確かにありますね。
例えばキャンピングカーのような高価で、少ない顧客数でもビジネスが成り立つ場合。あれって年間5万台とか売れると思いますか?おそらく数百台という世界ではないでしょうか。そうするとUGCが生まれにくい。
BtoB商材やサービスの場合も爆発的に多くのUGCが生まれるとは考えにくいですよね。ただ、それが残念なことかというとそうではなくて、そもそもそれほどまでにバズが必要か、ということをいったん考えたほうがいいと思います。
例えば、私がこの間まで編集長をしていた『ferret』の記事広告は、80万〜100万円という価格帯です。でも、1つの記事広告のビュー数ってFastGrowの読者だったら想像できるのではないでしょうか。100万円出してそれだけのビューしかないのか?と考えるかもしれませんが、BtoBのツールベンダーさんが自社でコンテンツをつくって配信しても、そのビュー数さえ獲得するのが難しい。だからそれだけのコストをかけてでも『ferret』を読んでいるマーケターにリーチしたいと考えるわけです。
そして、そのビューが多いか少ないかという評価は商品・サービスの価格や目標売上によりますよね。BtoBのSaaSが何千件成約するというケースは普通は考えにくいので、そうすると十分な母数だといえます。広告をリピートしていただけるのはその証左だと思います。
飯髙つまり、UGCがない場合にはコンテンツマーケティングによってUGCの着火剤をつくることです。何もしなかったらUGCは生まれないけれども、UGCのきっかけになるような、効果的な事例や実績、関連するノウハウを紹介するコンテンツをつくることは企業がコントロールできます。そのために、先に述べたように記事広告を出稿したり、あるいはプレスリリースを配信したり、メディアに直接コンタクトを取って記事に取り上げてもらえたりするよう、働きかけることが必要になってきます。
従来の広告代理店的な考え方だと、短期的に表れる成果や分かりやすい数字を追いがちです。CPAという考え方自体もそうだし、クリック単価を下げてコンバージョン率を最大化するためにLPOを頑張りましょう、みたいなことですね。
それをそのままTwitterマーケティングに持ち込むと、まずは自分たちのアカウントのフォロワーを増やしましょう、その後にアクションを増やしてエンゲージメントを高めましょう、という考え方に陥りがちです。「自分たちのアクションが直接引き起こした結果」しか視野に入っていないんです。
でも、Twitterではその考え方はNG。KPIに置くべきは、公式アカウントのフォロワーの数でもエンゲージメント率でもなく、「1投稿あたりのUGC発生率」です。UGCがTwitterや他SNSの上にどれだけ生まれたか、自社の商品やサービスがどれだけ言及されているかを重視すべきなんです。
フォロワーの「質」とは?
では、BtoB企業はTwitterアカウントをつくっても意味がないのでしょうか?
飯髙まずBtoCの場合の話をすると、会社や商品・ブランドのアカウントのほうが有効でしょう。会社名や商品が知られているのですから、それを前面に出して活用すべきです。
では、BtoB企業はどうかというと、個人のアカウントを活用すべきです。スタートアップであれば創業者ないし社長が「起業家アカウント」をつくり育てていく。そして個人のパーソナリティを売ってバズにつなげていくほうが効果的です。なぜなら、企業の公式アカウントで発信してもバズらないからです。企業が発信する法人向けサービスの告知ツイートを、リツイートしたことってありますか?ありませんよね(笑)。
ですから、起業家アカウントを、努力してどうにかフォロワーを増やして、少なくとも万単位にできれば、安定的な拡散やバズの起点となることができます。また、他の起業家アカウントやインフルエンサーと対等なフォロワーを保有していることで、その人の投稿をRTすると別なときに自分の投稿をRTして貰えたりする。これは単純に返報性の法則ってことです。フォロワー数が少ないと、インフルエンサーに対しては一方的な「お願い」で絡んでもスルーされるのが関の山ですね。
万単位のフォロワーというと気が遠くなりますが…。
飯髙万単位と言いつつ、僕の個人アカウントは現在4,700フォロワー程度なのでお前違うじゃんと思う人もいるかもですが(笑)ただありがたいことに結構コアな方にフォローしていただいているので、自分で言うのもなんですが、比較的高いエンゲージメントを獲得できているほうだと思っています。
それは、エンゲージメントが高ければフォロワーが少なくてもよいということですか?
飯髙万単位というのは目標とすべき数字としてお話ししましたが、フォロワーの「数」だけではなく「質」も重要です。
フォロー&リツイートキャンペーンをやる企業アカウント、よくありますよね。フォローして特定のツイートをリツイートした人の中から抽選で賞品が当たります、というような。あれをやると、確かにフォロワー数は増えるんですけれども、その大半が「懸賞専用アカウント」で占められてしまうリスクがあるんですね。
でも、「懸賞専用アカウント」のほとんどはサブアカウントで、普段は使われていません。ツイートもしなければ、いいねもRTもしない。懸賞やキャンペーンがあったときに使うだけ。そんなエンゲージメント「ゼロ」のアカウントが増えてもバズにつながるわけはないことは容易に想像できるはずです。
フォロワーを増やしていく上で、何に気をつければよいのでしょうか?
飯髙着目すべきは、自分のフォロワーの「フォロワー数」ではなく、「エンゲージメントの高さ」ということになります。よく誤解があるのは「フォロワー数が多いアカウント=インフルエンサー」というもの。でも、例えば100万のフォロワーがいても、自分のツイートをリツイートしてくれるわけでもなく、「いいね」もつけてくれないアカウントは「自分にとっては」インフルエンサーとはいえません。
では「自分にとっての」インフルエンサーってどんな人か。それは、フォロワー数がたとえ30でもいいから、頻繁に「いいね」を付けてくれたり、たくさんリツイートしてくれるアカウントです。そういう人にフォローしてもらうことが大事。
あるいは、フォロワーからのエンゲージメントがそこまで高くなくても、よくツイート・リツイートするアカウント。Twitterのタイムラインを眺めている時間が長くて、ちゃんと読んでないのにメモ代わりにリツイートする人っていますよね。そういうアカウントを持つフォロワーも大事にしたほうがよいでしょう。
そういう人をフォローしたり、ツイートに「いいね」を付けたりリツイートしたりしていくうちに、その何%かはフォローが返ってきます。あるいは、リアルの知人はそれだけで自分へのエンゲージメントが高いですから、Twitterアカウントを持っていれば相互フォローして、地道にフォロワーを増やしていくといいでしょう。
要するに、Twitter運用においては「熱狂度が高い集団を狙え」ということです。マーケティングって、大衆を狙いがちだと思うんですが、そこが本質的に異なると思っています。
日本最大級のSNSをマーケティングに生かさない手はありえない
今日、話を聞いて、Twitterマーケティングは手間も時間もかかりそうだと思ってしまったのですが、それでもやはりTwitterを使うべきでしょうか?
飯髙Twitterは、グローバルで見るとFacebookやWeChatなどと比べて「イケてない」と思われることもあるんですけど、日本では順調に増え続けてきて、2018年末時点では月間アクティブユーザーが4,500万を超えたと発表しています。マーケティングにこれを使わない理由があるでしょうか?
SEMって、「購買行動」が起こる瞬間を取りにいっている、そこに至るプロセスは他のところにあったりします。でも、「購買行動」はあくまで「ユーザー行動」の一部に過ぎません。ユーザーはいろんな経緯で、いろんな行動をした結果、購買にたどり着きます。
例えば「インスタ映え」は「ユーザー行動」です。結果としてチョコレートパフェを「購買」するわけですけど、そのユーザーは結果としてチョコレートパフェを食べたけど、「インスタ映え」が撮れる店をそもそもチョイスしているわけ。
赤いドレスを買った人がいたとします。コンバージョンだけ見れば、赤いドレスが一つ売れたという事実しか分かりませんが、それを買ったのはパーティーに行くというユーザー行動があったからでしょう。例えば車が1台売れたのは、子どもをスキーにつれて行きたいから。購買の前には「ユーザー行動」が先にくるんです。
飯髙CPAとかCPCなどの数字はすべて結果論であって、そこに至るまでの「ユーザー行動」は一つではありません。どうやってその購買という結果に至ったかの「ユーザー行動」を検証できるのがTwitterであり、SNSなんですよ。
でも、こういう話を広告代理店の友達にしても分かってもらえないことが多いんですよね(笑)。この間もその仲間たちが「SNSから購買なんてイメージできない。周りもそういう認識だ」というので、「じゃあその人たちも集めて、食事でもしながら話しましょう」という話になって。参加される方たちと直接LINEでつながって、場所と日取りを調整したんです。
そして当日、店に入って開口一番「飯髙さん、やっぱりSNSで購買行動とかありえないですよ」というので、すかさず僕が「でも皆さん、今日は僕からのLINEを見てこの店に来ましたよね」と言ったら、一瞬「あ…」という顔をして、その後はぐうの音も出ませんでした。落語みたいな話ですけど(笑)、そういうことなんです。こんなことはTwitterでもFacebookでも容易に起こりえる。
ユーザー行動と、結果としての購買行動の「狭間」
飯髙逆三角形のマーケティングファネルがありますよね。AIDMAでもAISASでもいいんですけど、その一番上の間口のところ、ユーザー行動の起点となる「Attention」を一気に広げられるのがTwitterなんです。そして、「Attention」が広がれば広がるほど、ファネルの下に落ちてくる数も、結果的に増えるはず。
「ユーザー行動」を捉えて、いかに「購買」につながっているかを分析して、ノウハウをちゃんと確立したいと思ったのが、今回、ホットリンクに転職した理由の一つでもあります。
飯髙それを感じたのは、『ferret』運営を通じてでした。メディアって直接的に売り上げに貢献しづらいじゃないですか。特に立ち上げ当初は。でも、とにかく『ferret』のために、読者のためにと思ってコンテンツを増やし、トラフィックを伸ばしていった結果、2018年末の時点で獲得会員数は月間5,000人、自社SaaSの「ferretOne」へのリードを2,500獲得するまでに成長しました。1リード当たり5,000円の価値と考えても、1,250万円、月間売り上げに貢献していることになるわけです。つまり、メディアがユーザー行動を喚起して、その結果購買につながるということです。
メディアだと売り上げに大きく貢献できるまでに年単位の時間がかかりますが、Twitterを上手く使えば、より早く結果が出せる。そこにちゃんとしたノウハウを確立したいというのが、今回ホットリンクに転職した理由の一つでもあります。
SEMだったら「こうすれば効果が上がる」という定石は確立してきていますが、SNSマーケティングに関しては、個別の成功事例がたまに拡散することはあるものの、理論的な、再現性のある定石は確立されていません。この状態って、クライアントを不幸にさせる可能性があると思っていて。だから、まずここでやりたいことは、ホットリンクでやっているTwitterやソーシャルメディアを活用したマーケティングノウハウを“業界標準”にすること。
「Twitterマーケティングといえばホットリンク」と思ってもらえることを目標に、貢献していきたいと思っています。
株式会社ホットリンクが提供するTwitterマーケティング
こちらの記事は2019年01月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
畑邊 康浩
写真
藤田 慎一郎
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