バズに再現性を、スタートアップに推進力を──ホットリンクとエードットはSNSの可能性を再定義する

インタビュイー
牧野 圭太
  • 株式会社エードット 取締役副社長 

1984年生まれ。2009年博報堂入社 / コピーライターに配属。HAKUHODO THE DAYを経て、2015年独立。 株式会社エードット 取締役副社長 CBO / 株式会社文鳥社/カラス 代表取締役。ブランドジャーナリズムを掲げ、社会性あるクリエイティブを啓蒙・実施している。

飯髙 悠太
  • 株式会社ホットリンク マーケティング本部 本部長 

1986年生まれ。2014年 株式会社ベーシックに入社。ferretを立ち上げ、創刊編集に就任。2017年 株式会社ベーシックの執行役員に就任。2019年 株式会社ホットリンク マーケティング本部長に転籍。これまでに複数のWebサービスやメディアの立ち上げ・東証1部上場企業を含め50社以上のコンサルティングを経験。

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SNSを通して拡散されていく“バズ”。

いかに注目を集めるか──といった露出量や広告効果をはかる上で重宝されることが多いが、バズをきっかけに企業や商品の認知度が上がり、購買行動につながることも少なくない。つまり、バズを適切に運用すれば、直接的に事業の成果も期待できる。

ただし、バズの課題は、内容はもちろん、時流やタイミングなどの変数がさまざまあり、散発的になってしまうことだ。今、このバズに再現性を持たせて活用すべく、動き出した企業がある。2019年11月21日、キャンペーン企画やプロモーションの展開・制作を得意とする株式会社エードットと、SNSデータの解析ツールを武器に、SNSの分析やコンサルティングを行う株式会社ホットリンクが手を組んだ。両者はクリエイティブから流通までを一貫して担い、再現性のある「成果につながるバズ」を作るという。

なぜ、2社は手を取り合うことにしたのか。そして現代におけるバズの意義とは──。エードット取締役副社長CBOの牧野圭太氏と、ホットリンク執行役員CMOの飯髙悠太氏が語り合った。

  • TEXT BY RIKA FUJIWARA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
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お互いの強みと弱み。ピースがピタリとハマるようだった

企業のブランディングや商品のプロモーションなどの命運を分ける“企画”。エードットは企画力を磨き、数々の成果を生み出してきた。

ローソンで好調な「悪魔のおにぎり」のデザインを担当したり、スポーツ動画配信プラットフォーム DAZN とともに、オフラインのコミュニケーションスポット DAZN CIRCLE を実現したりと、マス広告に依存しない新しい打ち手を提案している。

また、2019年8月末、夏休みの終わりに実施した「Oisix × クレヨンしんちゃん」の企画では、春日部駅にグラフィックを掲載しただけにも関わらず、Twitterで10万リツイート→Twitterトレンド入り→Yahooトップに掲載→めざましテレビなどの複数のテレビに露出し、大きな話題となり、Oisxiのブランド価値向上に貢献した。

実績からすれば、順調に進んでいるように見えるエードットだが、牧野氏はある課題意識を抱えていた。

牧野我々が得意とするプロモーションでは、SNSによる拡散は結果を出す上でとても重要な要素になります。企画力には自信がありますし、結果も出してきました。ただ、SNSの拡散に再現性がなく、拡散される保証はできない……といった状態だったんです。

悩める牧野氏に声をかけたのが、飯髙氏だった。ホットリンクは、キーワードを入力するだけで商品の口コミを分析できる「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」を提供するほか、SNSマーケティングのコンサルティング事業を展開。AIを活用したビッグデータを武器に、再現性のあるSNSマーケティング施策に強みを持っている。

しかし、ホットリンクもまた、再現性だけではカバーできない部分に課題を感じていた。

飯髙多くのエージェンシーは、バズをマーケティングに生かしていく上で「瞬間的に商品を流行らせること」を意識しがちです。しかし、瞬間でのインプレッションだけを狙うと、その日のニュースや他社のリリース情報などで情報が埋もれてしまうケースも少なくありません。

それを防ぐためには、単に拡散するだけではなく、ある程度の口コミが出ている状態をつくり、商品の売上や評価へ繋がる導線を用意しておくのが理想です。そうした口コミを積層させていく上で、重要になるのが企画です。しかし、ホットリンクは企画力に課題を抱えていました。

とはいえ、膨大なデータを元に、企画を生み出せそうにも感じられる。なぜ、手を組む必要があったのだろうか。

飯髙ホットリンクが分析できるのは、あくまでもソーシャルメディア内でのユーザーの動きです。“どういう人”に広告を配信することで口コミが出やすいかを仮説立て分析できる一方で、“どのように”企画を当てるのかはデータでは見えてこない。そこで、企画に強みのあるエードットさんの力を借りて、“当て方”に磨きをかけていきたいと感じ、声をかけました。

提携を持ちかけられた時のことを、牧野氏は「お互いの強みと弱みがピタリとハマる感覚があった」と振り返る。

牧野私たちの施策は、どうしても「広告を打って終わり」といったフロー型になってしまいがちです。しかし、これからの時代は、長期的にファンを増やしていくストック型のコミュニケーションが重要になる。その時、消費者と継続的なコミュニケーションが可能なSNSの持つ役割は非常に大きい。

エードットの企画を通して“山”をつくり、ホットリンクが持つデータの知見を生かし、SNSでその山を長期的に持続させていく。ホットリンクさんがいてくれたら、その可能性が広がっていくという期待がありました。

この言葉に、飯髙氏も首を縦に振る。

飯髙ホットリンクは、キャンペーンを分析する技術を持っているので、バズの起爆剤は正確に把握しています。そうしたデータの裏付けがあれば、企画の解像度をさらに上げられるはずです。私たちが手を組むことで、クリエイティブとSNSをより戦略的に活用できると考えたんです。

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バズを支える上で欠かせない、UGCと商品力

2社が手を取り合うことで、より戦略的にバズを生み、ビジネスへとつなげていく。そのために欠かせないのが、「UGC(User Generated Contents)」だと飯髙氏は考える。

飯髙バズを継続的に事業成長へつなげていくには、ユーザー発信の口コミなどのUGCが欠かせません。

ユーザー自らが投稿する商品やサービスへのレビューをもとにするUGCは、数字でも現れる「いいね」といった共感の声を呼び込み、SNSや検索エンジンでの指名検索、ひいては購買へとつながります。そして、購買した人が新たにUGCを生み出すことで、さらなる拡散へつながっていく。これは、企業が一方向的に発信するCMだけでは起こせない動きです。

とはいえ、商品自体に魅力がないと悪い口コミが広がり、逆効果にもなりかねない。バズの効果を最大限活用するためにも大切なのが“商品設計”だ。

牧野「この商品をSNSでバズらせたい」という依頼の中には、そもそもの商品や商品名を変えなければ難しい……というケースもあります。一緒にプロジェクトを進めているクライアントの方にも「SNSに投稿したくなるように商品設計からやりましょう」と伝えています。

当たり前のことですが、最も効果が高いと思うは「買った人による口コミ」ですよね。たとえば、例えばコンビニなんかであれば、1日10万個売れる商品があるわけで、それらを買った人のうちの1%がつぶやいたら1日1,000投稿です。商品自体が良いものであるのはもちろん、SNSで自発的に広がるきっかけを商品設計に組み込むのは、今の時代に欠かせない思考です。

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フォロワー数でもリーチ数でもなく、“影響力”を見る

UGCの発生と、商品力。この2つがバズをビジネスで活用していくための大きなポイントになる。その上で、再現性を持たせていくためには口コミを「誰が」つぶやくのかが重要だというのが、飯髙氏の見解だ。

飯髙UGCを起点とした消費行動は、“横のつながり”によって起きていきます。だからこそ、投稿する人の影響力に着目すべきです。

影響力にフォロワー数は関係ありません。フォロワーが100人だったとしても、その人の口コミで、5人が商品を買ったら「影響力がある」といえますよね。その5人がさらに口コミを投稿し、その口コミを見た人たちがまた商品を買うというサイクルが生まれやすくなるんです。

その購買と口コミのサイクルが回るのは、SNSにおける「ある法則性」からだという。

飯髙基本的にSNSは、お笑い芸人にはお笑い好き、サッカー選手にはサッカーファン、経営者にはビジネスマンといったフォロワーがつきます。つまり同じような人が相互にフォローし合っているので、ひとりが興味を持つものは、その人のフォロワーも興味を持つ可能性が高いんです。

だからこそ、バズを生み出すには、リーチしたい層を明確にし、影響力のある人にアプローチしていくことが大切になる。その人に刺されば、自然とその周囲の人たちにも伝播していきますから。

こうした施策を打つ上で、飯髙氏は指標を見誤らないことが大切だと警鐘を鳴らす。それは短期的な数値ではなく、バズの“先”を見据えることだ。

飯髙多くの企業は、インプレッション数やエンゲージメント数など、バズったことがわかりやすい数字に目を奪われがちです。でも、本当は果たしてその投稿で、商品の売り上げが伸びたのかという視点を忘れてはいけません。

誰が口コミをして、誰がリツイートをしているのか。購買につながる指名検索は伸びているのか。目に見える数字の奥にある変化を知り、適切なコミュニケーションを取れば、フォロワーなどという形で価値は蓄積されていきます。そうなると、長期的に口コミが出続ける状態をつくれるのです。

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スタートアップこそ、SNSを果敢に攻めるべきだ

両者は提携を通し、このシステムをスタートアップにこそ、挑戦してほしいと考える。

飯髙我々は大手のクライアントが中心と思われますが、UGCを軸とするSNSマーケティングは、スタートアップにこそ相性の良い企業が多いと確信しています。すぐに実行に移すスピード感があり、効果検証のサイクルをいち早く回せるからですね。

たとえば、現在一緒にプロジェクトを進めているスタートアップは、SNSマーケティングに対して懐疑的でした。しかし、一緒にプロジェクトを進めるようになってから、3カ月でツイート数が500件から3,000件にまで躍進。Googleの指名検索も増え、購買にもつながっています。

プロダクトが良ければSNSをきっかけに物が売れる時代です。良いものを作ってもらえれば、適切な情報の流通はそう難しくありません。

牧野氏も、SNSでのマーケティングは早い段階で着手するべきだと語る。

牧野マス広告を出せる規模でなくても、まずはSNSでファンを作り、マーケティングを仕掛けていくことは大切だと思います。SNSは小さく試して検証を繰り返しやすいフォーマットです。早い段階から着手することで知見が貯まり、大きな成果が見込める可能性も高まるはずです。

資金調達のシリーズAくらいで、プロダクトの認知を伸ばしていく段階であれば、私たちも十分に後押しできます。良いプロダクトをお持ちのスタートアップこそ、一緒に設計から関わり、再現性のある戦略でサポートできると嬉しいですね。

SNSの普及により、口コミの価値が上がった現代。だからこそ、本当に良い商品を作り再現性のあるバズを活用すれば、資金力がまだ弱いスタートアップにも十分な勝ち筋はある。

エードットとホットリンクのタッグは、大きな可能性に満ちたスタートアップを後押しする第一歩でもあるだろう。

こちらの記事は2019年11月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

藤原 梨香

ライター・編集者。FM長野、テレビユー福島のアナウンサー兼報道記者として500以上の現場を取材。その後、スタートアップ企業へ転職し、100社以上の情報発信やPR活動に尽力する。2019年10月に独立。ビジネスや経済・産業分野に特化したビジネスタレントとしても活動をしている。

写真

藤田 慎一郎

編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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