カスタマーサポートはコストじゃない、成長エンジンだ──AI変革で待ったなしの3.1兆円市場で、エンプラAIXの旗手を目指すRightTouchの野望
Sponsored生成AIにより、大きく時代はシフトしてきている。DXという旗を掲げ、多くの企業が業務ごとのSaaSやツールを導入し、「ポイントソリューション(特定の課題に対応した専門的なソリューション)」による効率化を図ってきた。しかし、データの分断やシステム間連携の複雑さから、生産性向上や新たなビジネス創出といった実質的な効果を得られていない例も少なくない。そして今、生成AIの波が押し寄せている中でも同じ轍を踏まないためには、個別のツール導入にとどまらない思考と実践が必要だ。ワークフローやデータを包括的に捉え、現場と顧客双方の体験を向上させる具体的なアプローチが求められる。
そこで注目したいのが、AIとデータでカスタマーサポートを変革しようとしている株式会社RightTouch(以下、RightTouch)の挑戦だ。カスタマーサポートといえば、「コールセンターが一括で、クレームを含めた問い合わせに対応する」という運用が一般的だ。そのためか、“コストセンター”というイメージが根強い。さらに、「電話がつながらない」「たらい回しにされる」といった顧客の不満に加え、グッドマンの法則によると96%の顧客が問い合わせすらしない(サイレントカスタマー)という深刻な課題もある。「仕方がなく発生してしまうコスト」として現状維持が続く中、“負の体験”が積み重なり、顧客がサービスから離れていく一因となっていることも多い。
もちろん、中にはコールセンター変革に取り組む企業もいた。だが、課題を解決しようにも一筋縄ではいかないイシューが多く、その道のりは地味で地道。派手さもなく“企業を成長させる領域”には思えないだろう。とはいえ、日本のカスタマーサポート市場は、実は約3.1兆円の巨大市場だ。この潜在力の高い市場において、RightTouchはAIとデータの力で顧客体験を根本から再定義しようとし、着実に変革と事業成長という成果を積み上げ始めている。
2021年に株式会社プレイドのグループ会社として誕生し、創業3年半で急成長を続ける同社。2025年4月にはシリーズAラウンドにて総額8億円の資金調達を発表した。グローバル・ブレイン株式会社をリードとし、GMO VenturePartners株式会社(以下、GMO VP)など多数の投資家からもアツい視線を注がれている注目のスタートアップである。
読者の皆は今、こう考えていることだろう。
「変革なんて本当に起こせるのか?」「プレイドの子会社だし、RightTouchだけでやるんじゃないでしょ?」──。
そんな疑問に答えるべく、FastGrow編集部が同社を徹底的にリサーチし、解剖した。その全容を余すことなくお伝えする。
- TEXT BY HARUKA YAMANE
- EDIT BY TAKASHI OKUBO
DXの轍を踏まない──3.1兆円カスタマーサポート市場でAI革命を起こすRightTouchの挑戦
なぜRightTouchは「顧客体験を根本から再定義する」必要があると考えているのだろうか。それは、長らく「非効率なコストセンター」や「収益を生まない受け身の業務」として扱われてきたカスタマーサポートが、今まさに大きな転換点を迎えているからだ。単なる問い合わせ対応ではなく、企業の顔として顧客体験全体を左右する重要な接点へと進化しているのだ。

提供:株式会社RightTouch
この巨大市場は現在約3.1兆円規模だが、これは実際に問い合わせをする顧客だけを対象とした数字だ。冒頭で述べた通り「96%の顧客は困っても問い合わせをしない」とされており、この“サイレントカスタマー”全体を本質的なサポートの対象と考えれば、市場規模は単純計算で25倍(4%→100%)の77.5兆円にまで膨らむ可能性があると言えるかもしれない。そうなれば、たとえばRightTouchがシェアを10%取るだけで7.7兆円の売上を得ることになるのだ(ちなみにソフトバンクグループの2025年3月期通期連結売上高が7.2兆円の規模だ)。
あくまで想像と仮定を掛け合わせた試算でしかないが、夢の膨らむ市場だと感じるのではないだろうか?

提供:株式会社RightTouch
人手不足の深刻化やDXの加速を背景に、この巨大市場でのAI活用ニーズは急速に高まっている。しかし、多くの日本企業ではカスタマーサポート領域のデジタル化が後回しにされがちだ。その理由として、直接的な収益貢献が見えにくく投資対効果が測りづらいことや、複雑な顧客対応を機械化することへの不安、また既存システムの改修コストの高さなどが理由として挙げられる。また、導入されたとしても個別の業務改善に留まるポイントソリューションが多く、顧客体験全体を変革するには至っていない。
DXが叫ばれた時と同様に、生成AIブームの中で表層的な導入(単にチャットボットを置き換えるだけ、既存業務の上にAIを乗せるだけなど)だけでは本質的な変革は難しい。しかし、この技術の真価を理解し活用することで、カスタマーサポートはまさに変革の中心地となる領域だ。実際、マッキンゼーの最新の調査によれば、生成AIが年間にもたらす経済的価値の約75%は、「顧客業務(カスタマーオペレーション)」、「マーケティングおよび営業」、「ソフトウェアエンジニアリング」、「研究開発(R&D)」のわずか4つの主要領域に集中しており、その中でも「顧客業務」を筆頭に挙げている。

提供:株式会社RightTouch
これは、カスタマーサポート機能が生成AIによって最も大きな変革と価値創出が期待される分野であることを明確に示していると言えるだろう。だからこそ、SaaSやAIツールを単に導入するだけでなく、カスタマーサポートの現場と顧客体験全体を俯瞰し、AIを「賢く使いこなす」アプローチが不可欠なのだ。RightTouch代表取締役である長崎氏も、カスタマーサポートこそAIが必要な領域であると強調する。
長崎カスタマーサポート領域こそ、AI活用の真価を発揮できる最適な領域の一つ。顧客とのコミュニケーションを通じて蓄積される膨大なデータと、パターン化しやすい業務特性により、AIの恩恵を最も受けやすい分野なんです。
この停滞した市場の変革に挑むのがRightTouchである。
創業から2年半でSBI証券、ジェイシービー(JCB)、みずほ証券、東京ガス、パナソニック、JTBなど名立たる大企業への導入が進んでいる。
この急成長が、プロの目にも魅力的に映っているのは間違いない。GMO VPとの対談記事では、大きなベンチャー投資を呼び込むこととなったポテンシャルについてしっかりと書き記したのでぜひあわせてチェックしてみてほしい。
こうした成長の背景には、創業当初からの先見性と地道な基盤構築がある。立ち上げ当初より大手金融機関、通信会社、人材、旅行、インフラ系などさまざまな業界のエンタープライズ企業が導入し、確実な成果を積み重ねてきた。
同社が今後、日本でどんなカスタマーサポート革命を起こすのか。その伸びしろを知るため、RightTouchの原点から立ち返っていこう。
熱量を元にプレイドからスピンアウト──“日本を元気にしたい”想いがカスタマーサポート事業に火をつけた
RightTouchを知る読者のなかには「親会社のプレイドがつくったプロダクトの代理店みたいになっているだけなのでは?」と感じている人もいるかもしれない。
だが、断言する。RightTouchは、単にプレイドのグループ内で一つの事業を手掛ける会社というわけではない。
まず、プレイドとRightTouchでは、向き合う市場も顧客属性も全く異なる。プレイドがマーケティング領域を軸に展開するのに対し、RightTouchはエンタープライズのカスタマーサポート領域に特化。テクノロジーの浸透度や顧客の課題感も大きく異なるためだ。これらの違いがあるなかで、最大の価値を発揮できるよう最終的に導き出された解が“分社化”だった。

取材内容等を基にFastGrowにて作成
そもそも同社の創業は、プレイドのトップダウンから始まった話ではない。共同創業者の長崎氏と野村氏が「バーニングニーズ」を発見し、熱い想いを持ってプレイドの経営陣に対して事業化の相談をしたことがすべての始まりだ。
企業がカスタマーサポートにおいて実現したいことはさまざまある。例えば「問い合わせ対応の平均時間を減らしたい」「クレームを円滑に処理したい」などの企業視点のニーズもあれば、真の要望(VoC:Voice of Customer)を収集して「より良い商品を使ってもらえるようにしたい」「日々の生活の悩みごとを解決したい」などのエンドユーザー視点のニーズもある。細かく挙げれば無数に出てくるだろう。
こうしたさまざまな課題を、できるだけ多く解決するための「バーニングニーズ」があった。それは、多くの企業が見過ごしてきた問い合わせ前の課題解決である。

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従来のカスタマーサポートがFAQやチャットボットなどの機能を増やす対応をとってきたが、それらはいずれも「問い合わせが来てから(エンドユーザーが問い合わせようと考えてから)」の施策であった。それに対し、そもそも「問い合わせが来る前」の顧客体験にフォーカスしようとしたわけだ。
ここに本質的な課題があり、解決できるプロダクトが求められているという、大きな発見だったのである。
エンドユーザーがWebサイトで情報を探し、つまずき、結果的に問い合わせに至る──この「問い合わせ前」の体験はブラックボックス化されており、サポート担当がこれまでせっかく蓄積してきた知見も、いわば“掛け捨て”の状態になってしまっていた。

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参照:CSはなぜ"減らすべき声"になったのか——3.1兆円市場の余白に挑むRightTouchの原点
こうして、バーニングニーズの種を基に創業し、事業を立ち上げてきた長崎氏・野村氏の二人。
長崎日本を元気にできるような大きな変革を、カスタマーサポートを起点に起こしたかった。せっかくいいサービスでも、困った時にスムーズに解決できない、同じ説明を繰り返す必要があるなど「負の体験」に出くわすことは多い。
つまずくことなくスムーズに自分の目的やニーズを叶えられる──。そんな、負の体験から解放された状態であれば、サービスの価値をもっとダイレクトに享受できるはず。この良いサイクルを実現できたら、大きなインパクトを生み出せると思ったんです。
なお、組織づくりにおいても、グループ会社というよりもむしろ普通の単独起業に近い進め方をしてきた。それは、プレイドCEO・倉橋氏の「熱量が揃う胆力のある人たちを当初から集めるべき」という考えをきっかけとしている。創業時に、“プレイドからのアサインはなし”、“オフィスも別で置くべき”といった方針を決めていたのだ。
そんな当時について、長崎氏と野村氏は同社のnoteで以下のように綴っている。
「『プレイドからエンジニアをアサインしてほしい』と倉橋に伝えたところ、『自ら“やりたい”と熱意を持って携わる人が技術のトップに就かないと持続性がない』『そもそも、自力で“最初の一人”も巻き込めないようでは、事業としては成功しない』と言われたことが印象に残っています」(長崎氏)
「もっと早くオフィスを出て行っても良かったくらい。プレイドの広いオフィスにいると、たくさんの社員と会うんです。だから、まるで自分たちの組織にも、人がたくさんいる感覚に陥るんです」(野村氏)
当初、分社化に反対意見を発していたプレイドの経営メンバーもいたが、1年後には「一つの会社として離陸できているし、事業成長も加速している。分けて良かった」という結論になっているという。バーニングニーズから出発し、「問い合わせ前」という独自の着眼点で市場に挑んだからこそ、確かな成果を生み出すことができたのだ。
なぜカスタマーサポートはAI活用に最適なのか?──非構造化データと業務特性が生む「レベル3」エンタープライズ革命
そんなRightTouchが、巨大なカスタマーサポート領域の変革者たり得る理由について述べていこう。その一つが「AI」である。その理由を語るために知ってもらいたいのが、この領域におけるAI活用は世界的に急速に進展していることだ。
米国発のAIスタートアップSierra(シエラ・2023年設立)は、元Salesforceの共同CEOで現OpenAI会長のブレット・テイラー氏らが創業。LLM(大規模言語モデル)を活用した会話型AIチャットボットサービスを展開している。その特徴は、企業の専門用語を理解しながら、会話の文脈に対応し、配慮と共感を持って返信できる点だ。
たとえばスポーツジムの事例では、怪我による解約希望者に対し、単純に退会手続きを案内するのではなく、契約の一時停止オプションの提案を、怪我を気遣いながら進めるのだという。この挙動が好評で、実際に導入企業では顧客からの5点満点中4.6点の高評価を獲得し、契約の継続に至る例も増えているという。「良質なサポート体験がロイヤル顧客を生む」というかたちで、事業にわかりやすく貢献しているのだ。

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また、カナダのAda(2016年設立)も、AIを活用したカスタマーサポート自動化プラットフォームを提供し、大手企業の導入が増えている。顧客の質問意図を正確に理解し、パーソナライズされた回答を提供する技術が強みだ。Squareなど世界的企業が導入し、チャットボットと人間のエージェントを組み合わせたハイブリッドなサポート体制を構築している。
こうした海外の動向は、日本のカスタマーサポート市場にも新たな視点をもたらしている。しかし、海外の成功事例をそのまま日本市場に適用するだけでは、真のインパクトは生まれない。
なぜなら、日本のエンタープライズにおけるカスタマーサポートは、独自の進化を遂げているからだ。顧客が期待するサービスレベルは極めて高く、それに伴い現場のオペレーションは複雑化。特に金融やインフラといった業界では、一つの誤案内が重大な問題に発展しかねないミッションクリティカルな環境であり、単純なソリューションの導入では対応しきれないのだ。
ただしそんな現場を、今、AIの力でさらにコストパフォーマンスの良い運用に抜本改善するチャンスが生まれている。そのためRightTouchは、創業初期から敢えてエンタープライズに集中した事業展開を進めてきたのだ。
長崎氏・野村氏は、実際に日本のエンタープライズのコールセンターを10社以上見学し、現場のワークフローや課題を徹底的に理解してきた。
長崎Sierraのようなスタートアップは、AI応対に全振りしてコンタクトセンターがそこまで大きくない市場(小売など)にアプローチしています。一方で、日本の金融やインフラ企業などのエンタープライズにおける応対の複雑性は全く違う。特に、誤案内をしてしまうと省庁報告が必要なので、ハルシネーション(AIの誤回答)のリスクが許容されにくい環境です。そんな現場で大きなインパクトを生むためには、AIが駆動しつつも人が重要な役割を果たす、そんな設計を目指す必要があるんです。
具体的には、日本のエンタープライズ企業では以下のような課題が存在する。

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こうした日本特有の複雑な状況に対し、単純に海外事例を当てはめても効果は限定的だ。だからこそ、RightTouchは自動運転でいう「レベル4やレベル5」の完全自動運転ではなく、中期的には「レベル3」のアプローチでAIを適切に導入する。
自動運転のレベル3とは、システムが基本的な運転を担うものの、人間が監視し必要に応じて操作する状態を指す。同様に、カスタマーサポートにおいても、AIが自律的に対応できる領域と人間の判断が必要な領域を見極め、両者が協調することで、エンタープライズ環境でも安全かつ効果的なAI活用を実現する。

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たとえば、顧客とのコミュニケーションデータから問い合わせ理由や感情の分析、改善提案の生成はAIが担い、最終的な意思決定や改善施策の実行は人間が担当する。FAQなどのナレッジ作成でも、AIがドラフトを生成し、人間がチェック・修正するというワークフローを構築している。
これは「AIですべてを解決する」という幻想ではなく、エンタープライズの現実的な制約と要求水準を踏まえた、実用的なアプローチといえる。
そして何より、カスタマーサポート領域はAIとの親和性が非常に高い。電話での会話内容、問い合わせメール、チャットログ、アンケートの自由記述欄といった非構造化データが豊富に蓄積されており、これらは従来のシステムでは分析が困難だったが、生成AIの登場により有効活用できるようになった。同時に、大量の労働力が必要で業務の再現性が高いという特徴も、AI活用の効果を最大化する要因となっている。
長崎氏は「私たちは創業当初から、生成AIがフル実装されたときにも価値が残り続けるデータとワークフローを徹底的に押さえることに集中してきました。差別化されたAIプロダクトには、そのMOAT(競争優位性:競合他社を防ぐ参入障壁)構築が不可欠です」と語る。
こうした考えのもと、ソニーグループをはじめとする超大手企業をリファレンスカスタマーとして実証実験をスタートし、金融、通信、人材、旅行、インフラ系など幅広い業界で成果を積み重ねてきた。
ChatGPTが登場した際にも、問題と回答のマッチングプロセスはAIに置き換わっていく一方で、企業が持つナレッジデータや顧客と企業が持つコンテキストの重要性は変わらない、という本質を見極め、カスタマーデータ、コミュニケーションデータ、ナレッジデータを取得するためのプロダクト開発と統合基盤構築に注力してきた。この先見性と地道な準備が、今日の成功につながり、カスタマーサポート領域における「真のAIX(AI Transformation)プレイヤー」と呼べる存在になろうとしているのだ。
データ統合×共創開発で築く競争優位──RightTouchが体現するエンタープライズ戦略、2つの肝
ここまではいわばRightTouchの“土台”の話だ。今まで積み上げてきた土台とAIの進化が合わさり国内のカスタマーサポート領域に革命を起こそうとしている。
あなたは今「で、具体的にどうやって?」と思っているはず。だからここからは具体的な同社の事業戦略について述べていこう。
まず特徴は2つ。一つは「CS領域におけるEnd to Endの統合型プロダクト」、もう一つは「共創型事業開発」だ。これらの戦略により、同社はDay1からこだわって取り組んできたエンタープライズ領域において、確固たるポジションを築いている。同社がエンタープライズ市場に戦略的にフォーカスしている理由は、セクション2で述べた通り「多くの人が利用する大手企業のサービス体験を変革する必要があったから」だ。こうしたアプローチは、ミッションとして掲げる「あらゆる人を負の体験から解放する」を実現するための必然的な選択なのである。

提供:株式会社RightTouch
そんなエンタープライズ市場での成功を支えている一つが、「CS領域におけるEnd to Endの統合型プロダクト展開」である。RightTouchは以下の主要プロダクトを統合的に展開している。

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その根幹にあるのは、カスタマーサポートの複雑な課題を点ではなく"面"で捉え、データとワークフローを統合的に解決するという考え方だ。
従来のカスタマーサポートは各工程(つまずき→チャネル選択→問い合わせ→本人確認→応対→処理→全体の改善)が分断されていた。顧客は「同じ説明を何度もさせられる」といった不満を抱え、企業側も「全体像を把握できない」という課題を抱えていた。
具体的には、顧客がウェブサイトで情報を探して解決できなければ電話問い合わせに移り、そこでまた一から説明し直す。さらに担当者が変わるたびに同じ話を繰り返さなければならない。別の問題が発生すると、それぞれの担当部署ごとに対応が分かれていて顧客情報も共有されず、一貫した対応ができない。企業側も顧客の全体的な体験を把握できないため、効果的な改善が困難になっている。

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こうした状況において、単一のソリューションでは複雑な課題を解決できない。エンタープライズのカスタマーサポートにはデータ、システム、組織の分断という壁があり、これらを統合的に解決することで初めて真の顧客体験向上が実現するというわけだ。
実際、これらが連携することで、企業と顧客双方に価値ある体験を創出している事例は多い。たとえば、みずほ証券では最適な情報提供と適切なサポートチャネルへの誘導を実現し、auじぶん銀行ではフィッシング詐欺問い合わせの約4,000件を自己解決に導いた実績がある。
そんななか、新規プロダクト開発やAIを軸としたプロダクトリニューアルもかなり力を入れて推進していると聞く。RightTouchの「CS領域におけるEnd to Endの統合型プロダクト展開」には、今後さらなる進化に期待が高まる。
共創型事業開発でパートナーとともに再現性の高いプロダクトをつくりあげる
続いてもう一つの特徴である「共創型事業開発」について。RightTouchは、リファレンスカスタマー(*)との共創(Co-creation)を通じた事業開発を明確に掲げており、こうしたパートナー企業が10社以上もある。
*…製造された製品を使い、その製品にお金を支払い、どれだけ製品を愛しているかを進んで話してくれる顧客のこと。

RightTouch noteから引用
一般的な事業開発では「(1)プロダクトをつくる」→「(2)市場に出す」という流れで進むことが多い。しかし、実際には「つくったものの使われなかった」ということもよくある。
そこで同社は、まずリファレンスカスタマーにアイデアのコンセプト段階から話を持っていき、ディスカッションしながらリアルな課題を引き出す。そこで得たフィードバックをもとにプロダクトをブラッシュアップすることで、“使われないリスク”を早い段階で下げられているのだ。
長崎最初はほんの1枚の資料とか、ホワイトボードに描いた構想を見せながら、「こんなことを考えているんですけど、どう思いますか?」というところから始まります。こうやって、アイデアの受容性を検証しやすい環境があるのはすごくありがたいです。リファレンスカスタマーとのディスカッションの時間は、自社にとって資産とも言えるほど大事な時間です。
こうした「使われる確信を得てから形にする」アプローチは、同社が今年リリースした新プロダクト『RightVoC』の開発プロセスにも活かされている。VoCデータの加工・分析・活用を生成AIで自動化するこのプロダクトは、構想から約1ヶ月という短期間で開発されたが、その裏側には緻密な共創プロセスがあった。事業開発の田中彬寛氏は次のように語っている。
当初からプロダクトとしての完成を目指していたわけではなく、具体的な顧客課題の解像度を高めるため、クライアントからVoCデータをもらって各社のニーズに合わせたアウトプットに加工・提供していました。VoCデータとの接点をつくり、理解を深めることを、まず先にしたいと思ったからです。
解像度が上がってくるにつれ、「これは個社ごとに対応するのではなく、ひとつのプロダクトにするのが良い」という感覚を得たので、パワーポイントに簡易的にアイディアを落とし込み、10社ほどのクライアントにプレゼンを行って仮説を検証していきました。(田中氏)
RightTouchの事業開発では、課題(イシュー)の特定と効率的な解消手段の見極めを重視している。同社はカスタマーサポート現場の特性を踏まえ、早期からMVP(Minimum Viable Product)開発に着手し、実際のプロダクトに近い形で顧客に提示。このアプローチにより、価値あるプロダクトをパートナーとともに創り上げながら、エンタープライズへの横展開も可能にしている。
こうしたリファレンスカスタマーとの共創関係は長期的な信頼構築にも繋がり、新たな顧客獲得の機会も増加。AI活用においても現場の実態に即した導入を進めることで、真の価値を発揮する土台となっているのだ。
「CS領域におけるEnd to Endの統合型プロダクト展開」と「共創型事業開発」という2つの事業戦略には、同社のミッションである「あらゆる人を負の体験から解放する」という思想が色濃く表れているといえよう。だがさらにもう一歩深く、同社の思想の深層に迫りたい。
ここで少し、前述した「創業経緯」を少し思い出してほしい。
そもそも同社の創業は、プレイドのトップダウンから始まった話ではない。共同創業者の長崎氏と野村氏が「バーニングニーズ」を発見し、熱い想いを持ってプレイドの経営陣に対して事業化の相談をしたことがすべての始まりだ。
こうした“熱い想い”は1ミリも失われていない。FastGrow編集部が同社に取材を重ねるなかで再三聞いてきたのは、カスタマーサポートそのものの位置づけを根本から変革し、企業経営の中心に据えることである。そしてその先に見据えるのは、「体験格差」のない社会の実現だ。
長崎カスタマーサポートはコストセンターとして過小評価されすぎています。一番顧客に近く、一番インサイトを持っている職域がカスタマーサポートです。彼らが持っている暗黙知や大量のデータが各部門にちゃんと活かされれば、顧客と企業の関係性は根本的に変わります。
冒頭で述べた通り、長らく「非効率なコストセンター」や「収益を生まない受け身の業務」として扱われてきたカスタマーサポートは、今まさに大きな転換点を迎えている。企業の認識を180度転換させたいと向き合い続けてきたRightTouchにとって、非常に重要なフェーズにあるのだ。
彼らが描く未来像は明確だ。顧客の声を最も近くで聞いているカスタマーサポート部門が、企業の意思決定の中心に参画する。顧客が本当に困っていることや求めていることを、リアルタイムで経営層に伝える。その結果、顧客が離脱しなくなり、解約率が下がり、より長期間サービスを利用し続けてくれる。
長崎顧客の専門家みたいな方が役員というかCxOに入っているような状態。CCO(チーフカスタマーオフィサー)がどの会社にもいる状態が実現できるといいなと思っています。
RightTouchが構築する統合的なサポートプラットフォームにより、どんな人でも、どんな状況でも、企業のサービスの本来価値を十分に享受できる社会の実現。それこそが、同社の存在意義なのだ。
圧倒的な推進力を生む組織── “全員が事業の仕掛け人になれる”カルチャー
こうした壮大なビジョンを実現するために、RightTouchには特別な組織文化がある。それは“全員が事業の仕掛け人になれる”カルチャーだ。同社では、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといったフロントオフィスだけでなく、アクセラレーター(2*)を含めた全員が、事業課題の発見・解決に主体的に取り組む“全員プロダクト担当、全員顧客担当”というマインドを重視している。
*2…RightTouchでは経理・財務の枠を超え、事業計画の策定や営業チームとの連携を行うなど、事業成長を加速させるための活動を積極的に推進するメンバーをアクセラレーターと呼ぶ

提供:株式会社RightTouch
たとえば、マーケティングのメンバーがセールスの業務にも関わるなど、部署の垣根を超えた活動が日常的に行われている。各メンバーが個別のKPIにとらわれすぎず、「事業全体をどう成長させるか」という視点で自発的にチャレンジするマインドが組織全体に浸透しているのだ。
社内のSlackには #experience というチャンネルがあり、メンバーが日常で遭遇した“負の体験と良い体験をシェアする”場になっている。そこではカスタマーサポートでの体験に留まらず、あらゆる体験がシェアされ、「どうすれば自分たちの事業で解決できるか?」とSlack上でディスカッションすることも日常茶飯事だ。そうした日々の小さな気づきや対話の積み重ねが、やがてプロダクトの改善や新たな施策の種となり、事業全体を前進させる力へとつながっている。
現在、同社の正社員は48名(2025年6月時点)。コンサル、金融、広告、人材、監査法人など数々のバックグラウンドを持つメンバーが集まっている。豊かな経験を持った各個人が、職種や役割に縛られずに“事業の仕掛け人”になれる環境があるからこそ、新しい価値提供をどんどん実現できるのだ。
さらに組織の推進力を高めている要素として、“Backcasting”というマインドがある。数年〜数十年後の未来から逆算してミッションを軸に意思決定を重ね行動していく考え方だ。
長崎氏はこのアプローチについて「カスタマーサポート市場には多くの解消すべき課題があり、AI活用によって解決したい事柄も非常に多い。基盤となるデータやワークフローを整えながら、段階的に顧客体験を向上させていくことが重要だ」と説明する。
たとえば同社では、まだ本格的には普及していないパーソナルAI(*3)時代を見据え、企業が持つVoCデータ、ナレッジデータ、顧客コンテキストなどの情報を今から収集・整備している。「今の準備期間は、近い将来パーソナルAIが当たり前になったとき、市場で強いポジションに立つための布石です」と長崎氏は先を見据えている。
“今どれくらい進んでいるか”よりも“時代がどう変わっていくか”を重視し、プロダクトも組織も動かしているのだ。
*3…個々人の好みや行動などを分析して、その人に合ったサポートをするAI技術のこと。
AIによる顧客体験革命の主役に──新たなプロダクトカテゴリーの創造を目指して
“全員が仕掛け人”となれる組織力は、今後ますます重要になるだろう。カスタマーサポート市場は今、大きな潮目を迎えているからだ。それは冒頭で述べた海外事例や昨今のAIエージェントの波を見れば明らかだ。これからエンタープライズを筆頭に多くの企業が"顧客中心の経営"を意識し、動かざるを得なくなる。
そして、RightTouchはその変革の最前線に立っている。
同社がAI活用において業界をリードしていることは、既に導入している名だたるエンタープライズ顧客との協業実績が物語っている。みずほ証券やauじぶん銀行の事例のように、すでに動き始めているエンタープライズも徐々に増え始めており、カスタマーサポートを“体験価値”の中心に据える時代が、すぐそこまでやってきているのだ。
しかし、現状ではまだまだ世の中にある多くのカスタマーサポート関連プロダクトが“ポイントソリューション”にとどまっており、各々が孤立している状態にある。また、既存システムは、いまだにExcelでの手作業による運用や、カスタマイズされた大規模システムインテグレーション(SI)で構築されたレガシーシステムが主流となっており、柔軟な対応や迅速な改善が困難な状況も多い。
RightTouchが目指すのは、こうした分断された現状をエンタープライズ顧客と共に根本から変革することだ。顧客体験全体を通したデータとプロセスの“End to End”統合により、カスタマーサポート領域における新たなプロダクトカテゴリーを創出する。
長崎氏は「分断されたSaaSは再び統合される“リバンドル”の時代に向かう」と確信している。AIの進化に乗ってこの流れを加速させ、同社は既存カテゴリーの枠を超えた、統合的なカスタマーサポートプラットフォームを通じて、「エンタープライズ×AI」のメインストリームの確立を目指している。

取材内容等を基にFastGrowにて作成
この野心的な目標の実現に向けて、RightTouchは名だたるエンタープライズ顧客とのパートナーシップをさらに拡大・深化させていく。2025年はカスタマーサポート領域での活用拡大を大きく進めるため、新プロダクトの展開はもちろん、エンタープライズSaaSにおけるセールスやアカウントマネージャーをはじめとしたビジネスサイド、プロダクトエンジニア、AIエンジニアなど全職種の採用を強化する計画だ。
これは始まりに過ぎない。RightTouchとエンタープライズパートナーが手を携えて実現する「体験格差のない社会」への挑戦。AIを「賢く使いこなし」、データとワークフローを基盤とした本質的な変革で3.1兆円市場に革命を起こす——その壮大な物語の第一章が、今まさに書き始められている。
日本のカスタマーサポートが「コストセンター」から「成長エンジン」へと生まれ変わる時代。その変革を牽引するRightTouchの挑戦から、目が離せない。
こちらの記事は2025年06月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
山根 榛夏
編集
大久保 崇
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