コンサル不在の巨大市場で、ブラックボックスをこじ開ける──「セオリー度外視の現場主義」を通じた、デファクトスタンダードへの挑戦【クラフトバンクCOO田久保・CFO巻島】
Sponsored国内市場規模、約70兆円。
就業者数は約500万人に及び、日本のGDPの約1割を支える巨大産業、建設業。
本来であれば、あらゆるテック企業やコンサルティングファームが注目するはずのこの領域は、長らく「デジタル化が最も困難な市場」とされてきた。
現場の複雑な商習慣、電話とFAXが中心のアナログなコミュニケーション、そして20万社以上の中小企業がひしめくロングテール市場。多くのプレイヤーがシリコンバレー流の「SaaSの教科書(The Model)」やDXノウハウを持ち込み、標準化によるスケールを目指したが、現場の厚い壁に阻まれてきたのが実情だ。
だが今、この参入障壁の高い市場に対し、あえて「全社カスタマイズ」というSaaSのセオリーとは異なる戦略で挑み、導入企業は全国47都道府県に広がる、利用職人(≒ユーザー)14,000人以上の規模の、2025年10月に総額38億円のシリーズBラウンドを完了したスタートアップがある。クラフトバンクだ。
これまでWebマーケティングをほとんど活用せず、全国津々浦々の建設事業者を独自のセールスで開拓してきた。スケーラビリティを欠く非合理な戦い方に見えるかもしれない。しかし、その戦略の裏側では、東大卒のCOO・CFOコンビが描く、冷徹なまでの「勝ち筋」が計算されていた。
「思想を持って現場に入るCOO」田久保彰太と、「政府系金融機関出身・MBAホルダーの戦略家のCFO」巻島隆雄。
なぜクラフトバンクは、セールス・マーケティング戦略をWeb広告ではなくコミュニティやパートナー連携で、そしてプロダクト戦略を「標準化」ではなく「カスタマイズ」で、それぞれ推し進め、この難しい業界でのグロースを実現してこられたのか。
本記事では、「きれいな戦略」だけでは足りないと痛感した経験を持つビジネスパーソンたちに向け、「セオリー度外視」で進めてきた戦略と、これから目指す「業界標準」への挑戦内容を語り合ってもらった。
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
Webを捨て、アナログな「信頼」でブラックボックスをこじ開けるGTM戦略
「まずはWebマーケティングでリード(見込み顧客)を獲得する」。それが現代のITビジネスにおける定石だ。しかし、クラフトバンクはその常識を真っ向から否定するかのように、泥臭い戦い方を続けてきた。
田久保僕らのターゲットである建設業の中小企業、特に小規模事業者はホームページすら持っていない企業が多く存在します。
つまり、彼らはWeb上にはいません。じゃあどこにいるかといえば、建設現場か、地域のコミュニティか、そして「銀行」なんです。
巻島我々はWeb広告費をかけずに、まずは各地方をめぐって営業行脚を重ねてきました。時には、地元の居酒屋でのコミュニケーションも多くなります。
そして、そんな動きをスケールさせるべく、地方の銀行や信用金庫とのパートナーシップ構築にリソースを集中させたのが近年の戦略です。ここ2年の間に全国60以上の金融機関と連携を進めてきました。
とはいえ、田久保さん、最初の頃は金融機関経由で得たアポイントを東京からZoomで進めようとして、ぜんぜん上手く進まなかったんですよね。
田久保そう(笑)。銀行を開拓して少し経った頃、痛感しました。「これ、現地に人を置かないと進まないな。その代わり、ワークしたらものすごく伸びるかもしれない」と。
建設業は、究極のローカルビジネスです。地域で生まれ育った人たちで構成された事業者同士が組んで、一つひとつの建設プロジェクトを一緒に回していく。そして打ち上げを地元の居酒屋で行い、その場で次の案件についても決まったりするわけです。
そんな場に、東京に住んでいる人間が画面越しで「業務効率化しましょう」と現れても、社長の心は動かせません。
これまでに、福岡、北海道、大阪、仙台……銀行を開拓したエリアには、必ず現地で人を採用し、事務所を構えることにしました。
なんと今では30以上の都道府県に常駐の従業員を配置。各地でのセールスやカスタマーサクセスをさらに加速させているところだ。
銀行員ですら喉から手が出るほど欲しい「社長の脳内データ」
手間ばかりがかかりそうな、この「アナログ営業」。しかし、日本政策投資銀行(DBJ)でのキャリアの経験から、地方金融の領域にも明るいCFO巻島は、合理的な勝機を見出していた。
巻島金融機関にとって、建設業は魅力的なブルーオーシャン市場なんです。工事の運転資金など融資ニーズは旺盛にある。でも、銀行はお金を貸すところにまでなかなか至れない。なぜなら、多くの情報が社長の脳内に閉ざされており、融資に必要な審査を進めにくい構造があるためです。
田久保銀行員さんが「今後、どんな工事の予定があるんですか?」と聞くと、社長は記憶ベースで「ああ、あるよ。あれとか、あれとか、かな……」と答える。これがよくあるやり取りです。裏付け資料がスッと出てくる場面はかなり稀です。
巻島工事の予定、見込み利益、入金日。これらが、社長の脳内や、現場のホワイトボード、メモ書きなどに散らばっている。決算書などの「結果」としてのデータはあっても、未来の仕事や、それらを回すキャッシュフローの裏付けが存在しないため、銀行側も判断をしにくいんです。
でも、『クラフトバンクオフィス』を使ってもらえれば、その状況を一変させることができます。社長の頭の中にある案件情報や利益計画をデジタル化できるんです。
これは、銀行にとっても、融資判断に必要なデータが可視化されるということ。だから、銀行員の方々は本気で我々のツールを担いでくれるというわけなんです。
そうして社長の紹介を得て、クラフトバンクの営業は、現地のコミュニティにも入り込みながら対話を重ねる。Webではリーチできない層に、銀行という「社会的な信用」も活用し、全国同時多発的に展開していく。これがクラフトバンクのGTM(市場参入)戦略のリアルだ。
「御社に合わせる」は敗北ではない。SaaSのセオリーを捨ててでも業界深く入り込む、“CS起点”のグロース戦略
銀行を通じて顧客の懐に入り込む。
そうして獲得した顧客に対し、クラフトバンクはSaaS業界において“タブー”ともされる「全社カスタマイズ」を実行する。
通常、SaaSのビジネスモデルは標準化こそが正義だ。しかし、彼らが選んだのは、SaaSの理論を捨て、顧客の現実に徹底的に寄り添う道だった。
田久保僕らは、「これが正解です」と押し付けることはしません。徹底的にヒアリングし、お互いに合意した上で、彼らの業務に一番適した形にシステムを作り込んでいくんです。
それは単なる受託開発とは異なります。共通のプラットフォームを持ちながら、まるでオーダーメイドのような体験をお客様に提供する。この「構造化されたカスタマイズ」こそが、アナログな現場を動かす唯一の解なんです。
先ほども言った通り、多くの小規模事業者がホームページを持っていない。日々の業務は「紙とホワイトボード」。ITシステムなんて導入したことがないこともザラです。そんな彼らに、「うちのシステムはこうなっているから、業務フローを合わせてください」と求めても、現場は動きません。
巻島一見、非効率に見えます。しかし、結果としてチャーンレート(解約率)は0.34%と、極めて低い水準を維持しています。彼らにとって「自分たちの業務に合わせて作られたシステム」は、もはや替えが効かないインフラになるからです。
提供:クラフトバンク株式会社
CSは「納品係」ではない。価値提供の最大化で売上貢献へ導く
「カスタマイズ」によって顧客の懐に入り込み、強固なリテンション(継続利用)を実現したクラフトバンク。
次なる一手として、これまでプロダクト開発部門の下にあったCS(カスタマーサクセス)チームを、事業サイドでレベニュー全体を管掌するCOO田久保の下へと移管させたのだ。いわば、「攻めの部隊」という色が濃くなった。
ここには、フェーズが変わったことを告げる、冷静な計算があった。
巻島これまでは、CSをプロダクト寄りのチームとしていました。建設業という難しい業界の解像度を高め、プロダクトを磨き込むことが最優先だったからです。その結果、チャーンレートは低く抑えられ、プロダクトの基礎も固まった。
次は、各導入企業の経営課題をより多く解きながらアップセル・クロスセルを進め、顧客単価(ARPU)を上げていくフェーズになります。守りから攻めへ。だからこそ、全社戦略としてCSを事業サイド(レベニューサイド)へ移し、KPIは売上につながるものとして再設計したんです。
田久保手前味噌ですが、これまでのうちのCSは非常に生産性が高かった。ですが、プロダクト寄りだった分、どうしてもお客様とのコミュニケーションが「納品」に近くなっていた。「機能の説明」は完璧だけど、「経営全体の話」が相対的には少なかった。
社長たちは、単にツールを使いたいわけじゃない。経営課題を解決したいんです。営業の時にはあれだけ熱く経営の話をしていたのに、導入後は機能の話ばかり。これでは価値提供は限定的になってしまいます。
巻島現場に入り込んで信頼を得ている今、CSは単なるサポート部隊であってはならないんです。顧客の課題をもっと深く掘り起こし、新たな提案をしていく「攻めの部隊」にならなければ、非連続な成長は作れません。いよいよここに本腰を入れるフェーズとして、体制も含め、アクセルを踏み込み始めたんです。
蓄積した知見でオセロを返す。「個別解」から「業界標準」へ至るロードマップ
組織を改編し、CSが顧客の経営中枢にまで入り込む。そして、プロダクトは一社一社の業務に合わせてカスタマイズし続ける。
外部からは「労働集約的」と懸念されかねないこの徹底した泥臭さこそが、実はクラフトバンクのユニークな強みとなっている。
なぜなら、顧客と共に汗をかいたそのプロセスによって、彼らの手元には14,000人以上の職人のリアルな「現場のアクティビティ・データ」が蓄積されたからだ。
膨大な個別解の集積は、やがて普遍的な「型」となる。彼らは今、その蓄積された知見を武器に、個別最適(カスタマイズ)から全体最適(標準化)へと力強く舵を切る。
田久保今、『クラフトバンクオフィス』は14,000人ほどに導入いただいています。これまでは一件一件、カスタマイズをしてきました。まさに「オンリーワン」のものを納品してきた感覚です。でも、そろそろ「デファクト(業界標準)」を作りに行きます。チャレンジする準備は整いました。
建設業と一口に言っても、実は29もの業種が存在し、さらに細分化すれば100以上のセグメントに分かれる。例えば同じ「電気工事」でも、住宅の部屋配線をやるのか、ビル全体の強電をやるのかで、業務フローは全く異なるのだ。
大手SaaSが標準機能で攻めきれなかった理由は、この細かすぎる「差異」にある。
田久保僕らの手元には今、各業種・各セグメントごとに、大体10社ずつの「成功パターン」が溜まっています。これまでは「御社はどうやりたいですか?」と聞いてカスタマイズしてきました。でもこれからは違います。「強電メインで民間主体の一次請けなら、これが正解です」と、僕らが提示できるようになる。
数百社の「個別解」から導き出した「業界の正解」を標準機能として実装し、一気に市場を制圧する。彼らが積み上げてきた石が、オセロの盤面を一気にひっくり返すのは、まさにここからだ。
「非連続な成長」を描く、CFOのM&A戦略
現場を知り尽くした田久保が「プロダクトの標準化」でスケールを狙う一方で、CFOの巻島はさらに大きな盤面を描いていた。
彼が見据えるのは、SaaSの積み上げだけではない。M&Aや新規事業を絡めた、金融出身者ならではの「非連続な成長」だ。
巻島SaaSとしてチャーンレートも低いし、連続的な成長は見込めます。でも、この業界の人手不足は待ったなしで進行している。2030年には圧倒的に人が足りなくなる。そのスピードに追いつくには、直線的な成長だけでは不十分なんです。
田久保だからこそ、SaaS以外の手段も使い始めました。例えばBPO(事務代行)です。僕らが事務作業を巻き取ることで、顧客の生産性を強制的に上げる。これも、現場に入り込んでいるからこそ「クラフトバンクに任せれば安心」と言っていただける。
巻島さらに言えば、M&Aによるロールアップも視野に入れています。事業承継に悩む工事会社は多い。我々がそういった会社を引き受け、クラフトバンクのツールとノウハウを注入して生産性の高い事業構造をつくる。資金調達で得た資金と、蓄積した信用力をテコにして、産業構造そのものをアップデートするような「非連続な一手」を打っていきます。
創業以来掲げてきた「職人や工事会社が儲かる仕組みをつくる」を業界のデファクトとして仕掛けたいと思っています。
現場を知る者だけが、戦略を描ける。外資系コンサルも不在の「空白地帯」で、君は自らのロジックを証明できるか
70兆円の巨大市場でありながら、外資系コンサルも、メガベンチャーも、まだ誰も「正解」を出せていない場所。
クラフトバンクが挑んでいるのは、そんな広大なフロンティアだ。
田久保は、この市場の特異性を、逆説的な言葉で表現する。
田久保社会課題というと、一次産業や医療・介護などは注目されますが、建設業はなぜか対象になりにくい。また、実は外資含めコンサルティングファームが、この領域にまだ深く入り込めていないんです。
マーケットは巨大で、デジタル化等による市場成長の伸びしろも大きいはず。特に、地方の建設現場を回している中小企業に、支援はほとんど行き届いていない状態でした。変革はほとんど進んでいません。
そんな現場に、既に深く入り込んでいるクラフトバンクだからこそやれることが、非常に多くあると感じています。
競合がほとんど存在しないのは、魅力がないからではない。あまりに複雑で、マーケティングもセールスも一筋縄ではいかないからだ。
だが、そんな現場こそ、自らの頭で戦略を描きつつ実践を進めたいビジネスパーソンにとって、最高の環境になる。
田久保ここは「形式知化」がほとんど進んでいない業界です。なので、誰かのマネをしようとしても意味がない。自分で現場に行って、一つひとつ紐解いて、「これがこの業界においては正解になるだろう」という仮説を自ら実証できる。
「スマートな戦略論」が通じない場所だからこそ、現場感と知的好奇心で、自分だけのロジックを組み上げて証明したいと感じる人には、これ以上ない環境だと思います。
金融のプロとして数々の企業を見てきた巻島もまた、この「未開の地」にこそ、キャリアの勝機があると断言する。
巻島コンサル業界や金融業界の出身者がスタートアップに求めるものって、結局は「事業の手触り感」ですよね。
まだ答えが見えていない業界で、模索しながら、事業を創っていく。コンサルタントとして外部から支援するのではなく、プレイヤーとして業界に飛び込むのに、これほどチャレンジングな領域はなかなかないと思います。ここではまだまだこれからも「ファーストペンギン」になれます。
田久保どうせなら「一番難しい場所に来てみませんか?」と言いたいですね。
誰かが証明した「正攻法」をなぞるような仕事に、飽き飽きしていないか?「勝ち馬」に乗るキャリアを、無意識に探してしまってはいないか?
こうした問いかけにドキッとするならきっと、クラフトバンクこそが打ってつけの環境だ。
現場に入り込んで動き回る者だけが、本質的な戦略を描ける──クラフトバンクは今、その「証明」に挑む仲間を待っている。
こちらの記事は2025年12月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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藤田 慎一郎
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