売上を追うな、熱狂を追え──元ベインの共同代表2人があえて“2年間の沈黙”を選んだ、合理的過ぎる理由【InsightX共同代表・中沢氏×佐竹氏】
Sponsored東京大学大学院で情報系を専攻し、テクノロジーへの深い知見を持つ中沢氏。
東京大学経済学部を卒業し、市場のメカニズムに精通した戦略家、佐竹氏。
この二人、対話を欠かさない。
毎朝30分。アジェンダがあろうがなかろうが、必ず時間をとって話し込む。時には技術の未来について、時には顧客の些細な反応について。お互いの思考を同期させるかのように、議論は尽きることがない。
世界的な戦略コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)で出会い、2021年の創業以降、彼らは互いの背中を預け合い、修羅場を乗り越えながら、互いに成長してきた。
強みを活かし合い、最適解を探り続ける──そんな補完関係にあるともいえるこの二人が、「共同代表(Co-CEO)」としてどのような未来を共に描いているのか。そこには、InsightXというスタートアップの勝ち筋も垣間見える。
ともすると"なれ合い”にもなりかねない、同世代での共同経営。その中で、どう高め合い、どう成果を出していくのか。その関係性の妙を探る(InsightXの事業戦略については、先に公開したこちらの記事に詳しいので合わせてお読みいただきたい)。
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
アプローチの思考法は違えど、未来への想いは共通
二人の出会いは、古巣であるベイン・アンド・カンパニー時代に遡る。オフィスの片隅やランチ、あるいは懇親会の席で、彼らはよく議論を交わしていた。「それって本当にクライアントのためになるのか?」「もっと本質的な価値はどこにある?」と、青臭いまでの理想論をぶつけ合う日々。
中沢氏は技術の可能性を信じ、佐竹氏はロジックで課題を解き尽くす。アプローチには異なる部分が目立ったが、根底にある「社会に対する想い」には共通するものがあった。
中沢弘樹の原動力:「Pay it forward(恩送り)」
中沢氏を突き動かしているのは、極めてピュアで、ある種“求道者”的とも言えるほどの使命感だ。
中沢私はこれまでの人生で、本当に多くの人たちに助けられ、支えられてきました。ハードシングスが重なり、奈落の底まで落ちるような瞬間もありましたが、そのたびに周りの人たちの善意によって救い上げられてきた。
自分が受け取ったこの莫大な「恩」を、そのまま相手に返すというよりも、社会の発展のためまた別の場所で還元する。そんな「Pay it forward(恩送り)」という考え方があると知り、人生のミッションとして掲げるようになりました。それが、私が起業家として生きる動機です。
情報科学を修め、エンジニアとしてのインターン勤務や起業も経験した彼が、戦略コンサルティングファームでのファーストキャリアの後、選んだのは「パーソナライゼーション」という領域での起業だった。その背景には、現代社会が抱える「情報過多」に対する危機感がある。
中沢生成AIの進化によって、世界は情報の奔流にのまれようとしています。無尽蔵に生まれるコンテンツが、一方的に消費者に浴びせられるだけの未来。そこで私たちは、情報過多という名の「しんどさ」に閉じ込められてしまうかもしれない。
テクノロジーは、人を追い詰めるものではなく、人を幸せにするものであるべきです。大量のデータの中に埋もれた、一人ひとりの「幸せ」につながるインサイトを見つけ出し、技術の力で「探す苦しみ」を「出会う喜び」に変えること。これこそが、私ができる最大の「恩送り」だと信じているんです。
佐竹佑基の原動力:「情熱が報われる市場を」
一方、佐竹氏の視点はより構造的だ。彼はコンサルタントとして、そして一人の生活者として、「良いものが必ずしも売れるわけではない」という市場の不条理にもどかしさを感じてきた。
佐竹私は、「市場経済」という仕組みは人類が生み出した最も優れた発明の一つだと考えています。人々の「こんなものがあったら暮らしがもっと良くなるはず」という情熱が、商品という形で結実し、社会を豊かにしていくはずです。
しかし、現実の市場は不完全です。人間の認知能力には限界があり、市場に溢れるすべての選択肢を把握することはできません。その結果、どんなに素晴らしい情熱で作られた商品も、発見されなければ「存在しない」のと同じになってしまう。
作り手の努力や情熱が、情報の非対称性によって無駄になっていく。定価で売れ残った商品が廃棄されていく。そんな光景を見るたびに、私は強い悔しさを感じてきました。
佐竹氏にとってInsightXとは、こうした「市場のバグ」を修正するための装置だとも言える。テクノロジーで人間の認知限界を拡張し、情熱を持ってモノづくりをする人々が正当に報われる社会を実現する。それが彼の掲げる「大義」である。
技術と戦略の理想的な融合
「技術で人を幸せにしたい」中沢氏と、「市場のポテンシャルを解放したい」佐竹氏。入り口こそ違えど、二人が見据える未来は同じだった。
佐竹私たちはベイン時代に、NPS(ネット・プロモーター・スコア)という概念を徹底的に叩き込まれました。「エンドユーザーを第一に考え、彼らを熱狂的なファンにすることこそが、持続可能な成長の唯一の源泉である」という思想です。
中沢の話を聞くと、起点やアプローチには違いを感じます。ですが、未来への思いは似ている。だからこそ、とことん議論を尽くすことで、一人では絶対に到達できない「最適解」に辿り着けるんです。「これは本当にユーザーのためになるのか?社会のためになるのか?」という問いに対して、一切の妥協がない。だからこそ、私はこの人とならどんな困難な壁も突破できると感じているんです。
こうして2021年、二つの強烈な「Why」が交差し、InsightX(当時はRevie)は産声を上げた。だが、彼らを待ち受けていたのは、理想とは程遠い、泥臭く過酷な「創業の現実」だった。
泥臭い2年間PoCで得たMoat
2021年、彼らが最初にローンチしたのは、現在の「InsightX」ではない。『ReviewBank』という、ロイヤル顧客のレビューを活用するマーケティング支援プロダクトだった。
だが、彼らは創業からわずか1年ほどで、このプロダクトとは別の道を選ぶことにした。理由は「目指す未来の実現まで、遠すぎる」からだった。
中沢レビューは確かに重要です。しかし、それは「すでに欲しい商品が決まっている人」の背中を押す機能でしかない。私たちが解きたかったのは、もっと手前にある「そもそも欲しい商品に出会えていない」という巨大な機会損失でした。
ECサイトを訪れた人の大半は、何も買わずに去っていきます。この「永遠のすれ違い」を解消しない限り、真の意味で「スキがあふれる社会」は実現できない。そう気づいた時、既存の延長線上にはない、全く新しいアプローチが必要だと覚悟を決めました。
こうして彼らは、シード調達後まもなく、100社以上に対する詳細なヒアリングを愚直に進めることとなる。その中で見つけた、AIによる「感性」の解析と、それを用いた「レコメンド」という未知の領域へ、ピボット(事業転換)を決めた。
そこからが本当の試練だった。2023年からの約2年間、彼らはプロダクトを一般販売せず、限られたパートナーの大企業数社との実証実験(PoC)だけに没頭する「潜伏期間」を過ごすことになる。
顧客を熱狂させない事業は、必ず伸び悩む
スタートアップの定石で言えば、ベータ版でも早くリリースし、売上(あるいはARR)を少しでも積み上げながら改善していくのが正攻法とも言われる。なぜ彼らは、あえてその道を拒んだのか。
佐竹デジタルマーケティングの業界には、情報の非対称性を利用した商売が少なからず存在します。「このツールを入れればCVRが〇倍になります」と謳うものの、売上や利益への貢献は薄いという事例も見受けられます。
しかし、私たちはNPSの思想に基づき、「顧客を熱狂させない事業は、長期的には必ず伸び悩む」と確信していました。LTV(顧客生涯価値)が積み上がらない事業モデルに、未来はありません。
だからこそ、目先の売上を捨ててでも、現場の担当者も、その先のエンドユーザーも、皆が本当にハッピーになれるプロダクトができると確信できるまで、売上は追わないことにしたんです。それが、当時の経営としては最も合理的な判断だと考えました。
株主のベンチャーキャピタル(VC)の理解・支援も得て、この2年間、彼らは泥にまみれた。PoCのパートナーとの定例会議にはエンジニアも同席し、その場で挙がった課題を即座にコードに落とし込む。時には手動でデータを補正し、ECにおけるさまざまなユーザージャーニーを見据えて泥臭くA/Bテストを繰り返す。
たとえば、あるパートナーの大企業が運営するアパレルECサイトで、トップページのコンテンツ掲載内容のA/Bテストを行った時のこと。トップページの見え方を変えるテストとなるため、リスクを最小限にとどめつつ、その後のリターンが最大化できる効果的な検証を進めたいところ。また、トップページから商品ページの遷移率だけでなく、その後の購入率や購入単価の向上、さらにはECサイト全体での売上/利益の増加にまでつながることが証明できなければ、意味がない。多岐にわたる変数が絡むような複雑な計算の連続になる。それを見事にやり切り、「こうすればECサイト全体の売上が○%向上する」という勝ち筋を一つずつ証明していったのだ。
このように、普通であれば数カ月を要するような大企業のECでの仮説検証を、同時並行で一気に進めていった。その合計数が100を超えると聞けば、並大抵のPoCではないとも感じられるだろう。支援していたVCからも「ここまで突き詰めて実験するスタートアップはほとんどない」という声がこぼれる。
不合理な選択に見えるかもしれない。だが、このレベルのA/Bテストを100回以上積み上げ、2年間地道に取り組み続けたことで、今のInsightXにとって最も重要な「堀(Moat)」が生まれたのだ。
中沢遠回りに見える2年間、経営者として不安を感じる日々も多くありましたが、そんな中でも自分たちを何度も納得させ、踏ん張ってきました。だからこそ、今の「月1,000万円以上の売上貢献を生むプロダクト」を実現できているのだと思います。
技術と戦略を掛け合わせる「共同代表」の機能
こうした泥臭い時期を乗り越えてきたのが、中沢氏・佐竹氏の二人なのだ。この組み合わせこそ、InsightXの最大の強みである。
中沢氏は、技術の可能性を信じ、まだ見ぬ未来のビジョンを描く「広げる(Expansion)」役割。
佐竹氏は、その壮大なビジョンを冷徹なビジネスの現実に落とし込み、組織と顧客を動かす「深める(Deepening)」役割。アクセルとブレーキではなく、どちらもアクセルだ。
毎朝30分、「脳の同期」という規律
その阿吽の呼吸は、相性や関係値によって成り立っているわけではない。プロフェッショナルとしての厳格な「規律(ルーティン)」によって、能動的に維持している側面もある。
佐竹私たちは毎日必ず、朝の30分間を対話の時間に充てています。アジェンダがあろうとなかろうと、必ず話す。そこでお互いの思考を完全に同期させようとしています。
中沢が今、何にワクワクし、何に不安を感じているのか。情報の非対称性を極限までなくすことで、離れていても同じ判断軸で意思決定できる状態を作っているんです。
中沢私にとっても、毎朝の30分は単なる情報共有ではありません。佐竹の持つ想いや、ビジネスの論理を、私の脳にインストールする時間でもあるんです。
私たちは「無知の知」を大切にしているんです。互いに、相手の領域には、自分よりも深い思考と一次情報があると捉え、リスペクトしている。だからこそ、この同期の時間で意見が食い違った時こそが、最大のチャンスなんです。
もし二人の意見が常に同じなら、共同代表をやっている意味がない。とことん議論を尽くし、アウフヘーベン(止揚)することで、一人では絶対に到達できない解に辿り着く。このプロセスそのものが、InsightXの経営の強さだと自負しています。
「テクノロジーでCXを高速に変革させるプロ集団」へ
このトップ二人の関係性は、そのままInsightXが目指す組織像にも投影されている。彼らが掲げるのは、「テクノロジーでCXを高速に変革させるプロ集団」というビジョンだ。
中沢氏と佐竹氏が体現している「異なる強みの掛け算」が、社内の至るところで生まれている。現場で導入企業とのプロジェクトを進めるDS(Deployment Strategist)とFDE(Forward Deployed Engineer)は、互いの強みを活かしあうことで、導入企業にとっての最適解を新たに探り続ける。エンタープライズセールスは、DS・FDEの力を借りることで、最もスピーディーな提案進行を実現しようとあらゆる手を尽くす。
これからチームが拡大する中でも、こうした化学反応を追い求めていく(これら各役割の詳細については、追って公開する記事で探っていく)。
シリーズAで一気に加速へ。見据える「インフラ」への道
今回、InsightXはシリーズAラウンドの1st closeとして総額6億円の資金調達を実施した。リード投資家となったDNX Venturesは前回のシードラウンドからのフォローオン投資というかたちで、担当のPrincipal新田氏は「成長実績とその内容から、投資しない理由はなかった」と語っている。
中沢私たちは、これから組織を急拡大させていきますが、単に人数を増やすつもりはありません。目指すのは、一人ひとりがAIを使いこなし、通常の10~100倍以上の生産性を発揮する「テクノロジーでCXを高速に変革させるプロ集団」です。
今回の調達資金は、そうした優秀なメンバーを増やしつつ、全員が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えるため、惜しみなく投下します。
前回の記事でも詳述した通り、InsightXが見据えるのは、すべてのBtoCサービスに本質的なパーソナライゼーションが埋め込まれる未来だ。そして、現在フォーカスしているアパレルECへの支援は、購入に至るまでの変数として「なんとなくこういう服が欲しい」という“感性”の影響が大きいという点で、最も重要で難しい事業領域だとも言える。だからこそ、初めの事業展開先としても打ってつけだったのだ。
佐竹InsightXが提供するのは、単なるEC効率化ツールではありません。企業が運営するWebサイトそのものを、顧客一人ひとりに最適化されたパーソナライズドサービスへと変革させる次世代のプラットフォームです。将来的には、アパレル業界にもEC領域にも閉じる必要はないと考えていますし、オンラインとオフラインの体験を真に結合させるインフラにもなり得ます。
これからは、AIが裏側で常にサイトの見え方すべてを最適化し続ける時代になる。私たちはそのOS(基本ソフト)になろうとしているんです。
中沢社名の「X」は「無限の可能性」を意味しています。Insight(インサイト、感性)を明確に捉えることができれば、その先の可能性は無限大(X)になる。今はECサイトが主戦場ですが、将来的にはメール、LINE、そしてオフラインの店舗体験まで、あらゆるBtoCビジネスにおける接点を「個」に最適化していきたい。
GAFAのような巨大テック企業が「効率」や「規模」で世界を席巻したのなら、私たちは「感性」や「情緒」という、人間にとって最も大切な価値をテクノロジーでエンパワーメントすることで、新しいデファクトスタンダードを作り出せるはずです。
この二人となら、どんな荒波も越えられる
中沢弘樹氏と佐竹佑基氏。前職時代からの関係性の共同代表だが、決して「馴れ合い」の経営体制などではない。彼らを結びつけているのは、創業からの修羅場を共にくぐり抜けてきたという事実と、「この相手となら、どんな高い山でも登り切れる」という、理屈を超えた信頼なのだと感じられた。
すでに様々な紆余曲折を経験しているが、ようやくPMFを達成し、シリーズAラウンドの資金調達を終えたばかりの段階だ。完成された組織などではない。今もこの二人は悩み、もがきながら、試行錯誤を続けている。
プロダクトの先進性は間違いないとも言えるだろう。だが、それを活用して未来を作る挑戦は、まだまだ道半ば。あなたが貢献できる余地も、大きく広がっている。
DS・FDE・エンプラセールスなどの採用に注力中、詳しくはこちらから
こちらの記事は2025年12月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
写真
藤田 慎一郎
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