FastGrow厳選!2025年版 急成長テックカンパニー8選──テクノロジーで社会課題を解決する、次世代の成長企業たち
2023年、FastGrowは「真のテックカンパニー」を問う特集を公開した。あれから約2年──。
当時注目した企業はさらなる進化を遂げ、新たなプレイヤーも続々と台頭している。エンタープライズAI、ブライダル、ERPなどなど。一見バラバラに見える領域で、ある共通点を持つ企業たちが急成長を遂げていた。
テクノロジーで業界の「当たり前」を壊し、顧客の事業そのものを再定義する──。
今回、FastGrow編集部が改めて徹底調査。2025年下半期、注目しておきたい急成長テックカンパニー8社を厳選した。
次の10年を動かすプレイヤーは、ここにいるのかもしれない。
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
ソルブレイン──社員60名で大手企業のAI変革を牽引。仙台発ベンチャーの実装力
提供:株式会社ソルブレイン
「テクノロジーで顧客の事業そのものを再定義する」──テックカンパニーの本質をこう捉えるならば、仙台発のソルブレインはその最も忠実な体現者の一社だ。
2023年、三井物産からの出資を機に大転換。中小企業向けマーケティング支援から、エンタープライズのAI/DX支援へと舵を切った。以降、日本を代表する大手企業から次々と声がかかり、社員60名ながら複数の大型案件を同時に推進。売上構成比でもエンタープライズ比率が急拡大している。
取材等を基にFastGrowにて作成
なぜ、60名の組織が大手から選ばれるのか。
答えは「全体最適」へのこだわりにある。単なるAIツールの導入ではない。顧客企業のバリューチェーン全体を見渡し、業務フローそのものを再設計する。上申業務の効率化、社内問い合わせの自動化、AIアバターによる窓口応対──手がける領域は多岐にわたるが、共通するのは「部分最適ではなく、事業構造から変える」という姿勢だ。
現場を率いるのは、20代中盤〜30代前半の若手たち。BizDevが在庫管理からインサイドセールス体制の再構築まで横断的に手がけ、エンジニアが商談や提案にまで踏み込む。職種の垣根を越えたチームが顧客の業務現場に入り込み、試作と検証を高速で回す「デザイン駆動型開発」。この仕組みが、若手にも再現可能な実装力を生み出している。
人口減少で事業継続が揺らぐ今、エンタープライズ企業のAI変革ニーズは高まる一方だ。その最前線で成果を出し続けるソルブレインの実装戦略は、以下の記事で詳しく解説している。
Entaar──数十兆円市場への入口、7,500億円の空白地帯を攻める
エンタープライズIT市場は数十兆円規模に上る。SIer、コンサルティングファーム、ITツールの調達仲介を担うIT代理店──こうしたプレイヤーが何十年もかけて築いてきた巨大市場だ。
この牙城に風穴を開けようとしているのが、2024年5月創業のEntaarである。創業からわずか1年半で、キリンホールディングス、中国電力、オリックス生命など大手30社超が導入を決めた。
取材等を基にFastGrowで作成
同社が見出したのは、巨大市場の中に眠る約7,500億円の「空白地帯」だ。大企業のIT担当者は、システム調査やベンダー調整といった日常業務に年間1,200時間を奪われている。外部に委託したくても、大手コンサルは数億円案件が主戦場、BPO事業者ではIT企画の専門性が足りない。結局、他に選択肢がないから、高単価コンサルタントに日常業務を頼み、高額なフィーを払い続ける──そんな歪んだ構造が常態化していた。
取材等を基にFastGrowで作成
Entaarはここを突いた。大手コンサルやSIer出身のプロフェッショナル人材を、従来の約5分の1の価格で提供する。従来のコンサルが「人月単位」で専属の担当者を送り込むのに対し、Entaarは「時間単位」のシェアード型。例えば月160時間のプランなら、IT部門の複数メンバーが分散して利用できる。ある担当者は5時間、別の担当者は20時間といった具合に、必要な時に必要な分だけ使える仕組みだ。さらに、支援で生まれたナレッジは全てデータベースに蓄積され、AIで活用可能に。
経営陣は、元消防官の代表、メドレーで新規事業を立ち上げたCOO、VC出身のCFAO。コンサルファーム出身者が一人もいない「異端の事業家集団」だ。だからこそ、業界の常識に縛られない発想が生まれた。低コストで顧客基盤を築き、ナレッジを蓄積し、AIで高収益事業へ転換する──コンサル業界ではなく、SaaSスタートアップの成長戦略そのものである。
エンタープライズIT市場にとどまらず、将来は全く異なる領域への展開も視野に入れる。この事業家集団が次に何を仕掛けるのか、目が離せない。
Cloudbase──導入企業2倍、利用量10倍。大手が頼るクラウドセキュリティの“伴走者”
提供:Cloudbase株式会社
「アラートの山。どこから手をつければいいんだ…」。
クラウド移行を終えた大企業の情報システム部門で、悲鳴が上がっている。外資製の高機能セキュリティツールを導入したものの、検出されるリスクは膨大。優先順位も改善策もわからないまま、担当者は途方に暮れる。
この「リスクの検知ができたとしても、修復までやりきれない」問題に切り込んだのが、Cloudbaseである。
AWS、Google Cloud、Microsoft Azureといったクラウド環境のセキュリティリスクを可視化し、優先順位付けから改善策の提示まで一気通貫で支援する。だが、真の強みはプロダクトだけではない。導入から運用まで、顧客が確実に使いこなせる状態になるまで“人”が徹底的に伴走する。この支援体制こそが、外資には真似できない武器なのだ。
出典:IDC Japanプレスリリース『国内パブリッククラウドサービス市場予測、2024年~2029年』(2025年2月20日)
国内パブリッククラウド市場は2024年時点で約4兆円、2029年には約8.8兆円規模に膨らむ見込みだという(IDC Japan調査)。ENEOS、出光興産、スズキ、ロッテ──Cloudbaseの導入企業には、名だたる大手がずらりと並ぶ。
2022年のローンチから2年で累計調達額は19.2億円に到達。エンタープライズ導入数は1年半で2倍以上に拡大し、既存顧客の利用量が10倍超に跳ね上がった事例も出始めている。
2025年6月にはオンプレミス環境向けの新プロダクト『Cloudbase Sensor』もローンチした。クラウドからオンプレミスまで、企業の基幹インフラ全体をカバーする体制が整いつつある。日本企業のDXを、セキュリティの側面から支える──その中核を担う存在へと、着実に歩みを進めている注目のスタートアップだ。
イングリウッド──売上325億円、競合企業をマーケット創造の“仲間”に変える異端の成長戦略
「敵に塩を送る」どころの話ではない。
累計3,500万食──冷凍弁当市場を席巻する『三ツ星ファーム』。このブランドを生んだイングリウッドが、同じ市場で戦う大手食品メーカーの新規事業を丸ごと立ち上げた。戦略、マーケティング、在庫管理。惜しみなく注ぎ込んだのだ。
業界の常識で言えば、異例の選択である。
だが結果はどうか。2025年8月期、売上高325億円。昨対比34.2%成長。3年連続NEXTユニコーン。競合を支援しながら、自らも伸び続けている。
カラクリはシンプルだった。日本の小売市場150兆円に対し、EC化率はたった9.78%。食品は4.52%。市場の9割以上が手つかずなら、奪い合うより一緒に広げたほうが賢い。「競合」ではなく「共創」。この発想の転換が、異常な成長曲線を描かせた。
取材等を基にFastGrowで作成
この戦略を支えるのが、独自のデータ分析基盤『KOURY(コウリー)』だ。20年分の販売データを武器に、市場分析からLTV予測、在庫管理まで自動化。経営陣も現場も、毎日──時には時間単位でデータを見て即断即決する。2017年にはAI専門部署を設置し、全社員のAI活用状況を可視化。「AIを使いこなせない人材は生き残れない」と社長自らが訴える。広告クリエイティブでは1日あたりの制作数が150%増加、需要予測では精度が飛躍的に向上し廃棄ロスも大幅に減少した。
梨花が立ち上げた『AKNIR』の高価格帯シャンプーは2年で100万本、MEGUMIがプロデュースするエイジングケア『Aurelie.』は1年半で350万本。ヒット連発の裏には、勘と経験ではなくデータで回すPDCAがある。
取材等を基にFastGrowで作成
2025年4月、メディカルコート社がM&Aによりグループイン。日常消費領域のコングロマリット企業として、3年後の売上1,000億円を狙う。「ものづくりは世界一。足りないのはマーケティングだ」。その課題を、データとAIで解きにいく。
TAIAN──継続率99%。ブライダルから「お祝い経済圏」を狙う異端児
ある導入式場では、紙・FAX運用が95%消えた。
今、ブライダル業界に異変が起きている。
従来の慣習では、招待状は手書き、発注は電話FAX、顧客台帳はExcel。華やかなウェディングの裏側で、プランナーたちは“アナログな業務フロー”に押しつぶされてきた。
この「聖域」に切り込んだのが、2020年創業のTAIANだ。
同社のバーティカルSaaS『Oiwaii』は、来館予約から挙式、さらにその後の顧客関係構築まで一気通貫で管理する。業界には部分特化のツールが乱立するが、『Oiwaii』はそのすべてを飲み込む、生成AIが組み込まれたAll in Oneプラットフォームだ。
提供:株式会社TAIAN
驚くべきは、その定着力。プロダクトは全国で導入されており、継続率99%(記事掲載時点)。プランナーが抱える複雑怪奇な業務を知り尽くした設計が、この数字を支えている。2025年末時点で取引事業者数は750社を突破し、わずか1年の間に新規契約件数3倍増と、勢いに乗るスタートアップだ。
だが、TAIANの野心はブライダルに留まらない。結婚式で得た顧客データを武器に、「お祝い経済圏」の構築を狙う。あらゆる記念日、さらには法人向けパーティもすることで人生の節目すべてを射程に収める構想だ。宴会場×企業を結ぶ新規事業も、水面下で動き始めている。
デジタル化が遅れた業界に、風穴が開いた。
StoryHub──10ヶ月でARR1億円。「広告費ゼロ」でメディア業界を席巻するオールインワンAI編集アシスタント
広告費ゼロ、社員7名。ARRは1億円(2025年7月当時)──。
FastGrowも携わるメディア業界に、変革が起き始めている。人手不足、編集コストの増大、品質維持へのプレッシャー。構造的課題に喘ぐ現場へ、ある“武器”が急速に浸透し始めた。
StoryHubが提供するオールインワンAI編集アシスタント『StoryHub』だ。
企画・取材準備から執筆、校正・校閲まで、コンテンツ制作の全工程を一気通貫で支援する。テレビ局、新聞社、出版社、企業のオウンドメディア──2024年9月の正式リリースからわずか10ヶ月で、導入は100社を超えた。
提供:StoryHub株式会社
なぜ、これほど刺さったのか。
答えは「一次情報へのこだわり」にある。汎用的な生成AIがネット上の二次情報を寄せ集めるのに対し、『StoryHub』は現場で取材した一次情報をベースに記事を生成する。さらに、熟練編集者のノウハウを「レシピ」としてテンプレート化。経験の浅い担当者でも、一定水準のアウトプットを出せる仕組みを整えた。
2025年7月、シリーズAで累計2.5億円を調達。東洋経済「すごいベンチャー100」、日経クロストレンド「未来の市場をつくる100社」にも選出された。
経営陣はスマートニュース、LINEヤフーなど大手メディア出身者で構成される。日々コンテンツ制作と向き合うFastGrow編集部としても、この業界ペインは痛いほどわかる。だからこそ、応援したい一社だ。
リチェルカ──認識率99%、日鉄物産、エイチ・エス損保や茨城県庁も採用。レガシーERPの牙城を崩す挑戦者
「また手入力か」──月末の購買部は修羅場と化す。
届いた納品書と発注データを突き合わせ、1件ずつ確認。取引先ごとにフォーマットが違うから、自動化しようにも設定だけで日が暮れる。ベテラン社員が数日かけて終わらせる作業を、誰も疑問に思わなくなっていた。
この「仕方ない」を壊しにいくのが、リチェルカだ。
同社の『RECERQA Scan』は、AIを活用した次世代OCR(紙やPDFの文字を自動でデータ化する技術)。従来製品は帳票ごとに読み取り箇所を事前設定する必要があったが、『RECERQA Scan』は設定なしで即時データ化できる。認識精度は99%。他社製品の約74%を大きく上回る。日本製鉄グループの中核商社である日鉄物産をはじめ、HISグループのエイチ・エス損保や茨城県庁といった大手・公共機関への導入も進み、2025年9月には丸紅I-DIGIOグループと代理店契約を締結。事業も急成長を続けており、ARRはYoYで1,230%に達した。
提供:株式会社リチェルカ
だが、同社が見据えるのはOCRの先、巨大なERP市場だ。
『RECERQA』シリーズはSCM(仕入・在庫・販売の一貫管理)領域全体をカバーするソリューション。OCRによるデータ化とデータ整形を強みとした、「業務特化AIエージェント」単位での利用も可能となっている。そのため、課題のある業務のみを選んで導入でき、既存の基幹システムとも連携できる設計だ。「全部入れ替えるか、不便なまま使い続けるか」──従来ERPが突きつけてきた二択を根本から覆す。実際、日鉄物産では見積作成業務において『RECERQA』を活用すべく、リチェルカとプロジェクトを進めている。
代表の梅田祥太朗氏は、ワークスアプリケーションズで最年少マネージャー、AI insideでは執行役員CROとしてIPOを牽引した人物。オービックやAS400といったレガシー製品のリプレースを射程に、AIをベースにした新しいERPの定着を掲げる。
RightTouch──96%は黙って去る。3.1兆円市場の「見えない顧客」を狙うAIスタートアップ
96%の顧客は、困っても問い合わせをしない。
衝撃的な数字だ。電話がつながらない、たらい回しにされる、同じ説明を何度もさせられる──「負の体験」に嫌気がさし、黙って離脱していく。企業はその存在すら把握できない。いわゆる「サイレントカスタマー」である。
この巨大な“見えない顧客”に切り込むのが、RightTouchだ。
日本のカスタマーサポート市場は約3.1兆円。だがこれは「問い合わせをした4%」だけの数字。96%のサイレントカスタマーまで視野に入れれば、潜在市場は単純計算で77.5兆円に膨らむ。同社が狙うのは、この途方もない空白地帯だ。
提供:株式会社RightTouch
2021年、プレイドのグループ会社として創業。だが「子会社」のイメージとは程遠い。共同創業者の長崎氏と野村氏が自らバーニングニーズを発見し、経営陣に直談判して立ち上げた。創業初日からオフィスも別、人材のアサインもなし。完全に独立したスタートアップとして走り出した。
従来のカスタマーサポートは「問い合わせが来てから」の対応に終始してきた。たとえば、FAQを増やす、あるいは、チャットボットを置く。だがRightTouchは「問い合わせが来る前」に目を向けた。顧客がWebサイトで情報を探し、つまずき、諦める──このブラックボックス化されたプロセスを可視化し、先回りで解決する。
取材等を基にFastGrowで作成
創業3年半で、SBI証券、JCB、みずほ証券、東京ガス、パナソニック、JTBと、名だたる大企業が導入。2025年4月にはシリーズAで8億円を調達した。auじぶん銀行ではフィッシング詐欺関連の問い合わせ約4,000件を自己解決に導いた実績もある。
マッキンゼーの調査によれば、生成AIがもたらす経済価値の約75%は「顧客業務」「マーケティング・営業」「ソフトウェア開発」「R&D」の4領域に集中し、筆頭が顧客業務だという。カスタマーサポートこそ、AI活用の本丸なのだ。
「カスタマーサポートはコストセンターとして過小評価されすぎています」と長崎氏は言う。顧客に最も近く、最もインサイトを持つ部門。その暗黙知とデータが経営に活かされれば、企業と顧客の関係は根本から変わる。
コストセンターを、成長エンジンへ。3.1兆円市場の96%を解き放つ挑戦が始まっている。
こちらの記事は2025年12月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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