協業よりも、30年後の企業変革を考え抜け──三菱地所のCVC・BRICKS FUND TOKYOが考える「オープンイノベーションの進化論」とは

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インタビュイー
那須井 俊之
  • 三菱地所株式会社 新事業創造部統括 

2006年に三菱地所に入社。マンションや市街地再開発、住宅事業グループ各社のバリューチェーン構築に携わった後、2016年から新事業創造部へ。オープンイノベーションの実現と新たな事業での利益創出を目的として、スタートアップとの協業・資本業務提携を推進。社内のアイデアを活用した新規事業開発にも携わる。

橋本 雄太
  • 三菱地所株式会社 

新聞社、コンサルティングファーム、鉄道会社を経て三菱地所に入社。成長産業の共創を目指す新たなスタートアップ投資ファンド「BRICKS FUND TOKYO」を企画し、立ち上げをリード。新規投資およびファンド全体の戦略企画に従事する。前職では、アクセラレータープログラムやインキュベーションオフィスの立ち上げ、資本提携等による新事業共創などオープンイノベーション活動を中心となって推進。5年以上にわたるオープンイノベーション全般の経験を活かし既存産業の変革と新産業の創出への貢献を目指している。

三菱地所は2022年3月、スタートアップ投資を推し進めるCVCファンド「BRICKS FUND TOKYO」の開始を発表した。今後5年間で国内外スタートアップに合計100億円程度の出資を計画している。投資対象は「不動産」に留まらない。“成長産業の共創”をミッションに掲げ、投資テーマは「新たなライフスタイル」「既存産業のパラダイムシフト」「サステナビリティ」と幅広い。

これまでも、他企業のCVCと遜色ないほどの積極性を保ちながら、スタートアップ投資活動を進めてきた三菱地所。だから、「なぜ今になって、わざわざCVCを?」という疑問がそこかしこから生まれている。それは、社内からも、である。

立ち上げを推進した那須井氏と橋本氏は、「オープンイノベーションの新たな進化論をたどっている」と力を込める。これからの時代、大企業が変革と成長を実現していくために、スタートアップ投資は不可欠な活動となり、その様相も「進化論」ばりに変容させていかなければならない、という持論を実践しているわけだ。つまりは、スタートアップエコシステムの大いなる発展と、大企業の大きな変革を、同時に成し遂げようとしている。

そのための周到な準備と実践、そして思想を紐解けば、30年後の日本経済をどうにかして発展させようと奮闘する動きを感じ取ることができる。スタートアップに関わる人なら、必読の記事だ。

  • TEXT BY RYOSUKE EZURE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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なぜ今、CVCを立ち上げたのか

最初に、今回話を伺う2人について簡単に紹介する。

橋本氏は、三菱地所の中でも先頭に立ってCVC投資を推進していく立場だ。ファンド全体の戦略や企画を考え、上長や役員と調整を行う。同社に転職してきたのは1年半ほど前。以前は鉄道会社でオープンイノベーション活動をさまざまに推進してきた。三菱地所入社当初から、那須井氏とはファンドの創設に向けて話し合っていたという。

その那須井氏は2006年に入社し、2016年から新事業創造部でオープンイノベーションの実現に向けた業務を担当。スタートアップへの直接投資や協業・資本業務提携を積極的に推進しており、今回のファンド創設においても大きな役割を担った。現在は、自ら立ち上げた新規事業『NINJA SPACE』の推進に注力するとともに、既存出資先との事業連携や事業部との橋渡し役を主に担う。

BRICKS FUND TOKYOについては「遂に三菱地所がCVCを立ち上げた」と見る向きがある。だが彼らがまず強調するのは、これまでの投資活動がすでに、同社のCVCとしての活動になっていたという点だ。そんな中、新たなブランドとミッションを掲げることにより、同社が進めるスタートアップエコシステムへの貢献をより明確化したかたちだ。

とはいえ、これまでの投資との違い、そして独立系VCとの違い、さらには三菱地所が担うスタートアップエコシステムにおける役割など、なかなかイメージしにくいことも多くあるだろう。安心してほしい。そうした疑問について根掘り葉掘り聞いていった。じっくり読み進めてほしい。

橋本今回の立ち上げは、オープンイノベーションのフェーズが社内外で変わってきたという要因が大きいですね。数年前までは不動産事業の周辺領域を中心に協業を生み出すことに注力していましたので、必要な時に、必要なパートナーを探してアプローチしていけば良かった。近い領域であれば、ある程度待ちの姿勢でも良いスタートアップと出会うことも可能だったと思います。

那須井ところが、ここ5年くらいは、エコシステムもだいぶ成熟してきました。CVCも連日立ち上がっていますし、スタートアップ投資額も1兆円に迫るかたちで、リスクマネーもかなり投じられるようになってきた。こうなると、スタートアップが大企業を選ぶ側に変わってきます。

橋本また、中長期的な価値創造に向けて当社がアプローチすべきテーマもヘルスケアやカーボンニュートラル、Web3など、時代変化の最先端をいくものが増えており、中途半端な知識量とコミット量では、スタートアップからの信頼を勝ち取りにくくなっています。これらの領域に対して本腰を入れて仕掛けていく必要がある。

そこで、スタートアップ投資を通じて「知の探索」を恒常的に実現する枠組みを構築し、適切なアセットとリソースを割くためにBRICKS FUND TOKYOをスタートさせました。

社内で新たにCVCを立ち上げるのは、容易ではない。それはもちろん、潤沢な資金を持つようにも見える三菱地所においてもまったく同様だ。そこで橋本氏が入社してすぐに、この2人は社内で新たな枠組みの重要性を説いて回った。

社内でさまざまに議論される中、特に論点となったのは読者のあなたも想像しやすいこの点だ。「既存の投資活動の枠組みで、なぜ十分ではないのか?」

確かに、三菱地所では、すぐに協業を計算できるスタートアップだけでなく、アストロスケールといったすぐには協業がイメージしにくい飛び地への投資だってこれまでもしてきたわけである。さらにいえば、VCへのLP出資もしてきたため、最前線の情報も直接伝わってきていた。これらの出資を通して、スタートアップの考え方について知見も貯まっている。

なぜ今、新たなチャレンジが必要だったのか。この当然の疑問に、2人が前のめりに答える。

橋本社会課題の解決や産業構造の転換といった中長期的な社会インパクトの創出は今や、スタートアップが担い手となっています。既存事業の枠を超えたイノベーションを起こしていくためには、自分たちからもっとアクティブに仕掛けに行って、有望なスタートアップから選ばれる状況をつくらないといけない。

これまでも協業はたくさんやってきましたし、社内の各事業部がスタートアップとのオープンイノベーションに対して非常にポジティブな状況になってきていることもあり、スタートアップエコシステムが成長を続ける中で、僕ら自身も進化するタイミングだと考えたんです。

那須井自社の視点に立つと、どうしても短期目線で本業に利益貢献ができる、というだけで終わりがちです。そこから一歩踏み出して、産業を一緒に創っていく立場としてスタートアップエコシステムにより強く貢献することが、結果として自社の新たな事業や収益源を中長期的に構築していくという道につながるはずなんです。

三菱地所という日本を代表する企業自身が、スタートアップをより良く理解し、自社の発展にまでつなげるためには、短期的な環境の変化に惑わされずに、足腰を据えて10年以上のスパンで投資をする体制が必要だった。この2人が本気で動き始めた背景にあるのは、こうした課題感だったのだ。

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短期的なシナジーだけを追わない

さて、VCとCVCは、主に未上場企業に投資を行うという点では同じだが、読者の頭の中にはこのような違いがイメージされるだろう。VCはあくまで、財務的・金銭的なリターンを求めて投資を行うのに対し、CVCは既存事業の拡大やシナジーに焦点を当てる。

ところがBRICKS FUND TOKYOが投資を決めたスタートアップには、バイオテックなど、不動産とは距離のありそうな事業も見受けられる。どのような基準があるのだろうか。

重要なのは、いずれの投資も長期目線での価値創出を見据えているということだ。すぐに協業などの関連性は見当たらなくても、それだけで直ちに投資を見送ることにはならないと強調する。

橋本それぞれの領域で、どのくらいの時間軸でどのくらいの規模の産業になるのだろうかということを徹底して分析して予想し、新たに生まれる事業機会について考えをめぐらせています。

ポイントは、マーケットやテクノロジーの潮流を見極め判断していくことです。自社目線で考えると具体的な協業の発想に近づいてしまうので、本質を見失ってしまいます。

もちろんBRICKS FUND TOKYOは純粋なVCではないので、規模が大きくなりそうという予想だけでは意思決定しません。中長期で考えて、どこかで何かしらのかたちで三菱地所と交わりそうな要素がある、そういうイメージができた時に、話を進めるようにしています。

「三菱地所の事業との関連性や協業は投資の前提ではありません」と明記する(提供:三菱地所)

例えば、投資先の1社であるGeltor,Inc.は人工培養のヴィーガンコラーゲンを製造販売するプリンストン大学発のバイオテックベンチャーだ。一見、三菱地所とは関わりのない領域に思えるが、橋本氏は異なる見立てをしているという。

橋本細胞培養などのバイオテック領域は我々の暮らしを一変させる次世代のインフラ産業です。そうした領域の有望スタートアップにアプローチしていくこと自体が重要なことだと考えています。

少なくともウェットラボのような形で三菱地所がこの領域に関わる可能性はあります。ですがそれ以上に、人々の生き方や暮らし方を支えていくという観点で、もっと大きな事業機会を見出すこともできるかもしれません。

また、matsuri technologiesへの投資も印象的だ。同社はテクノロジーを駆使して空間を宿泊・滞在施設に生まれ変わらせる「StayX」を展開し、日本最大の民泊運営プレーヤーとして収益性の高い事業を展開している。ただ、同社の事業は一見、三菱地所が得意とする不動産事業との関連性が高く、これまでの投資活動との違いが不明瞭だ。

しかし、これは同社が本業ではカバーできていない領域ということから、BRICKS FUND TOKYOからの投資になっていると明かす。

那須井matsuri technologiesの事業は、昨今広まりつつある多拠点居住などの新しいライフスタイルを生み出しているところに面白味があります。

また、驚くべきことに、matsuri technologiesは長引くコロナでインバウンド需要が激減する中、売り上げを倍増させています。要は、インバウンドではない、新たな国内ニーズに対応しているのです。

民泊について知見を持っていなかったら、「インバウンド需要がなくなったら終わりだ」と思ってしまいますよね。でも、スタートアップに目を向けてみると、全然違う目でマーケットを見て、事業を成長させていることがあるんです。

BRICKS FUND TOKYO立ち上げ以前の事例でも、象徴的なものがある。アストロスケールへの投資だ。こちらも協業やシナジーは考えづらいが、2人は明確なビジョンを共有している。その背景にあるのは、「宇宙旅行」という事業領域の魅力だ。

那須井ようやく最近、大富豪が宇宙旅行を楽しむようになってきましたよね。宇宙への心理的距離がどんどん近づいていて、日本でもスペースポート団体が設立されており、三菱地所も加盟しているんですよ。

さらに、これから確実に高まる国内の宇宙旅行ニーズに応えるために、沖縄の下地島を日本の宇宙港にするプロジェクトも発足しています。三菱地所が運営している既存の空港との将来的な協業が、実は見込めるんです。

「必ずしも、投資決定以前に思い描いていたストーリーというわけではない」と明かす那須井氏。だが、市場の盛り上がりやテクノロジーの発展に伴い、新たな事業機会は生まれ続けるのだ。そしてそれは、まだチャレンジが多くない未成熟な事業領域だからこそ起こることだろう。

こうして見ると、CVCが飛び地を含めたスタートアップへ投資を行う際には、社内で考えやすい合理的な理由ばかりに目を奪われてはいけないのかもしれない。

一方で、社内では通常、投資への合理的な説明を求められるだろう。このジレンマを彼らはどう解消しているのだろうか。

橋本氏は、次のように合理性とリスクのバランスについて語る。

橋本その点が今回、個別の投資からファンド活動へと取り組みを進化させた理由です。特に飛び地的な領域に対して、1件1件に「何で?」を求めはじめると何もできなくなってしまいます。ファンドとして独自の投資戦略に基づいてポートフォリオを構築し、機動的に投資を行うことが重要です。

50社くらい投資をするうちの数社程度しか、具体的な戦略リターンが出ないかも知れません。でも、その1社か2社が三菱地所の将来に大きく繋がるインパクトをもたらすはずと信じています。

また、そのような不確実性の高い取り組みですので、しっかりと財務リターンを確保していくということも重要だと思っています。ポートフォリオ全体でリターンを確保していく前提の中で、リスクを取っていくということにしています。

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ファンド名にあえて「三菱地所」を入れない、その思想とは

ここで閑話休題。今更ながら、今回発表した「BRICKS FUND TOKYO」というファンドのネーミングやロゴの意味について掘り下げてみることにしたい。これも、2人が語り出すと止まらない。相当なこだわりがあるとわかる。

この独特のロゴマークには、産業創出の主役であるスタートアップを同ファンドが影ながら支えるという意味を込めている。黒い部分は「B」の影を表しており、「BRICKS」は東京駅など丸の内の建物に多く使われている赤レンガから来た言葉だ。三菱地所が本拠地とする東京・丸の内のアイデンティティを表現している。

橋本明治時代に日本初のオフィスビルが丸の内にできて以降、産業革命や戦後の高度経済成長を経て日本は経済大国として発展を遂げてきました。その歴史の中で、丸の内というエリアは常に日本の産業の中心として、大きな存在感を示していたと思います。

時代は変わっても、次の産業をこの丸の内からつくるというのは僕ら三菱地所にとって、とてもナチュラルなことです。今、スタートアップが産業の担い手になるというのであれば、そこを我々が支援する。僕らの手で「次の丸の内の主役」を生み出していきたいんです。

また、「BRICKS FUND TOKYO」にあえて三菱地所の名前を入れなかったことにも理由があるという。

前述の通り、同ファンドは成長領域に積極的に投資を行い、日本の産業創出をリードするというミッションを掲げている。三菱地所という社名を前面に押し出してしまうと不動産領域における協業だけが意識されているように見えるため、今回はあえて入れないことにしているのだ。

橋本「三菱地所ベンチャーズ」という案もありましたが、これだとスタートアップから見れば、協業を目的としたファンドに見えてしまうかなと。

那須井あくまでフラットな立場であることを示すネーミングにしつつ、僕らのアイデンティティは残すようにしています。

「TOKYO」と名前は付くが、もちろん投資先は東京のスタートアップだけではなく、国内外に幅広く行う。

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理想の“オープンイノベーション進化論”をダイナミックに実現する

スタートアップは、いかに市場の波に乗り、市場を占有できるかがカギとなる。BRICKS FUND TOKYOではスタートアップファーストなファンド運営を実践していくために、機動的な投資の意思決定を進める仕組みを社内で構築している。こうした点を見ても、「大企業のCVC」としてイメージされる姿とのギャップが感じられるのではないだろうか。

那須井僕自身、これまでの案件を通じ、すぐに協業を始められなくても数年経ってから思わぬ結果に繋がったり、「やっててよかったな」と感じたりすることはとても多いですね。

社内から見るとなぜ投資をする必要があるのか一見わかりにくいものでも、実際に現場でやってみる中では、スタートアップと対話し続ける意義を強く感じます。将来に向けて、三菱地所が変貌していくための種を多く見つけることができるんです。

橋本私はこの活動を、「オープンイノベーションの進化論」であり、さらにいえば「大企業の生存戦略」だと考えています。

三菱地所のように、長期にわたって社会的価値を生み出し続けてきた大企業が、日本にはたくさんあります。ですが最近はその多くが、これまでのような成長を遂げることができていません。

事業会社が非連続的な成長を実現していくためには、自らをディスラプトし、産業構造自体を塗り替えていくようなアプローチが必要不可欠です。そのためには、スタートアップとのオープンイノベーションの目線を、協業という視点から“成長産業の共創”というレベルに引き上げる必要があると思っています。

そういう意味では今後、事業会社が機能として、VCに近いかたちでスタートアップとの共創機能を当たり前に持つ時代が来るはずです。最終的には、僕らのような企業が産業創出のプラットフォームになり、常にスタートアップエコシステムに貢献している状況を創り出せれば、結果として大きな企業変革に繋がると思いますし、日本経済の発展にも役立てるはずです。

橋本氏の言うように、会社やファンドがスタートアップから常に注目され、彼らにとってのプラットフォームとしての役割を担うことができれば、あらゆる産業でのコラボレーションが実現可能だ。そうすることでこそ、三菱地所という企業それ自体を大きく変革させることだってできるはず。ソニー、あるいは富士フイルムといった企業は、メイン事業を大きく転換させ、新たな成長を生み出している。そんな未来を実現しようとしているのだ。

新しい領域にチャレンジをはじめた三菱地所のBRICKS FUND TOKYO。十数年後、あるいは数十年後、誰もが驚くようなイノベーションの影に、彼らの貢献があるかもしれない。

こちらの記事は2022年09月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

江連 良介

写真

藤田 慎一郎

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