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連載|4つのコンセプトから語る、店舗概念の変化
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店舗は販売の場所ではなく、広告の場所へ ── データドリブンな小売トレンド

前編では、従来の店舗ビジネスでは出店コストが大きすぎる点を指摘し、
この旧来モデルを「小売1.0」と表現した。

この課題背景を解決するために登場したのが、
店舗を分割してブース貸しするモデルを展開する「Bulletin(ブルティン)」だ。

この新業態を「小売2.0」と称した。

後編では、2.0までを踏まえ、データ活用を軸に活躍する「小売3.0」のスタートアップ、
さらにはコミュニティ要素を付け足した最新トレンド「小売4.0」の事例までも紹介していきたい。

  • TEXT BY TAKASHI FUKE
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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対Google広告としての店舗活用

B8ta

リアルの場が「インターネット世界」のように、簡単にデータ取得できる場所となっている。

ここからが「小売3.0」の世界だ。

たとえば無人店舗「Amazon Go」のように、店舗内カメラを通じて顧客の商品をトラッキングできるようになった。こうした背景から、店舗の概念は新たなステージへと至りつつある。

その注目すべき事例が、家電量販店スタートアップ「B8ta(ベータ)」だ。2015年にサンフランシスコで創業し、累計調達額は3,800万ドル(約42億円)にも及ぶ。同社はIoTやドローン、VRヘッドセットなどのテックスタートアップ向けに、月額サブスクリプションモデルでブースごとに店舗スペースを貸し出す不動産企業である。これは先述したBulletinと同じ収益モデルだ。

しかしBulletinと比較して累計調達額に20倍近い差があるように、B8taは大きな競合優位性と特異なアイデアを持つ。それはGoogle広告に対抗するビジネスモデルの構築を目指している点だ。彼らは店舗を広告の場として捉えている。

B8taの創業者は、Googleに買収されたIoTスタートアップ「Nest(ネスト)」のマーケティング部門出身。彼らはNestの製品をAmazonマーケットプレイスで販売した際、売上などの基本情報しか得られず、マーケティング戦略の策定に苦心した経験を持つ。Amazonがデータを一社独占する体制に不信感を抱いたのだ。

そこで同業他社が詳細な販売データを取得できるサービスを作ろうと思いついたのが、B8taの始まりだ。ハードウェア企業にとっては、顧客がどのような体験価値を見出してくれたのかも大切なデータとなる。EC上だけでは取得できないデータが重要となるため、実店舗の開店を目指したのだ。

B8taは小売向け店舗解析ツール「RetailNext(リテールネクスト)」と提携し、店舗天井に備え付けられたカメラを通じてブースごとの顧客の滞在時間や属性データを取得する。取得されたデータはB8taが開発したダッシュボードで随時確認できる。

B8ta

実際の店舗数値データはB8taのプレゼン動画で発表されている。たとえば電動スケートボード企業が月額2,000ドルでブースを借りた際、顧客の合計月間滞在時間は1.3万秒であった(一人当たり23.8秒滞在したという)。

“滞在”をインターネット広告でいう“エンゲージ”と置き換えるとCPE(1エンゲージメントあたりの広告コスト)は0.15ドルになる。一顧客当たり3.57ドルになる計算だ。店舗まで足を運び、商品情報を見るだけでなく実際に体験までしてくれることを考えれば、3.57ドルという数値の費用対効果はインターネット広告よりはるかにリターンが大きいと言えるだろう。

プレゼンでは発表されていなかったが、仮に店舗での購入率が5%だとすると、CAC(顧客一人当たりの獲得費用)は71.4ドルとなる。電動スケートボードは3,000ドル程度はする高価な商品であることから、71.4ドルの顧客獲得単価で収まっている点は非常に魅力的だ。

同額をGoogle AdsenceやFacebook広告に費やしたとしても、体験できない状況下だということもあり、高額製品の購買には繋がらないだろう。対して、B8taを通じて製品広告すれば、圧倒的に高い売上と商品認知を期待できる。

もし店舗でのエンゲージ率が低くても、製品が顧客に受け入れられなかったという貴重なデータとなり、製品開発フィードバックの場としてB8taを活用できる。その場合、一度B8taの登録を辞めて数カ月後に改良版を再度展示すれば、どのくらい市場に受け入れられるのか比較できる。低リスクで、何度でも市場の反応を探れるのもB8taの使い勝手の良さの一つだ。

B8taは、こうした実店舗での転換率をつまびらかにし、インターネット広告より圧倒的に利用価値の高いサービスであることを市場に提案し、急成長を遂げた。米国大手ホームセンター「Lowe's(ロウズ)」との提携も果たし、店舗数の増加はますます加速している。

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空きスペースにデータ解析を

VisuWall

そこで登場したのが空きスペースを活用した小売スタートアップだ。“空きスペース”と聞くとポップアップストアを連想してしまうかもしれないが、これから紹介するニューヨーク拠点の「VisuWall(ビズウォール)」は空き店舗のショーウィンドウを活用する。

同社は全米各地のショーウィンドウをネットワーク化し、ブランドや広告代理店に提供する。ショーウィンドウの所有権を持つ不動産側と収益分配をする事業モデルを採用。そのため、空き店舗オーナーは入居企業を募ることなく手軽に居抜き店舗から売上を立てられる。

各ウィンドウにはカメラが設置され、プライバシーが守られた形で通行人の広告アテンション率を計測する。B8taと同様にデータ解析の概念を取り入れた具合だ。

どの場所に、どのようなブランド広告を設置すれば、どのような属性の人にリーチできるのか。ビッグデータを貯めることで、ウィンドウ広告市場の最適化を狙う。

同市場の競合にはイギリス拠点の「Appear Here」が挙げられるが、データ解析の考えはサービスに反映されていない。短期で店舗出店できるポップアップストアや、広告出稿できるショーウィンドウをネットワーク化して貸し出すマーケットプレイスモデルを展開するが、解析用カメラを搭載して分析をするといったテクノロジー要素は入っていないのだ。同社が累計2,140万ドル(約23.5億円)を調達していることから、ネットワークを拡大できればVisuWallは同等以上の資金調達が望めるかもしれない。

日本市場で同じビジネスを展開する場合、たとえば「Placemeter」のような映像解析IoTを活用することで、すぐにでもサービスを始められるだろう。事実、先に紹介したB8taも、店舗内に取り付ける解析カメラはRetailNextと提携して外部発注している。ビジネスモデルの核となるテクノロジーは外注し、コンセプトを売り出して店舗市場を席巻した形だ。重要なのはコンセプトであり、技術はサードパーティーへ頼ったとしてもスケールが期待できる。

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百貨店を再発明する“コミュニティ店舗”

Neighborhood Goods

最後に紹介するのが「小売4.0」だ。

BulletinやB8taのように店舗をシェアリングする事業モデルは普及し始めている。この事業モデルを踏まえた上で最近登場したのが顧客同士のコミュニケーションを促す“コミュニティ店舗”のコンセプトだ。

ステルス企業「Neighborhood Goods(ネイバーフッドグッズ)」はサービスローンチ前の2018年5月に575万ドル(約6.3億円)を調達した。現在テキサス州ダラスで1.3万平方フィートの敷地を所有し、2018年秋に店舗開店を目指す。

サービス情報は一切公開されていないが、「TechCrunch」の記事によると、アパレルブランドなどだけでなく、イベント事業者やアート作品出展者が出店できるブース貸しモデルになるという。また、iOSアプリを通じて各コンテンツの情報を取得できるだけでなく、店員を呼べたり、商品購入までできる仕組みになる模様だ。テクノロジーを駆使して、よりコミュニティ要素を高めた店舗を目指す。

ここからは筆者の考察になるが、モバイルアプリを使っている点から、GPSを使って顧客と双方向のコミュニケーションを図る導線設計が予想される。

たとえば著名ベンチャーキャピタル「Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)」が出資し、累計1,360万ドル(約15億円)を調達したクーポンアプリ「Shopular(ショップラー)」が参考となるだろう。ユーザーが好きなブランドを登録しておけば、GPS情報をもとに、お気に入りブランド店舗の近くを通ったタイミングでクーポン情報を自動通知するサービスだ。

ロケーションデータの取得を行い、店舗近くの人たちを効率的に集客する導線の確保は、Neighborhood Goodsでも十分に実現可能だと考えられる。顧客属性データと購買履歴を紐づけられれば、適切な商品情報を通知することができる。パーソナライズ体験の強化が可能になるのだ。先述したように、ブース貸しモデルでは、毎月コンテンツが入れ替わってしまう。新たなコンテンツ情報を適切な来店客に届ける仕組みを構築する必要があるだろう。

いずれにせよ、テクノロジーだけでなく、店舗をコミュニティの場として捉える新たなトレンドが生まれることは、Neighborhood Goodsのコンセプトからみても間違いないはずだ。

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3つの顧客体験の条件を満たすのが「小売4.0」

Flickr ©Jörg Schubert

小売業界に再編の兆しが見える。なかでも実店舗は大きな変化が起こっている。

「BusinessInsider」の記事によると、2017年度に米国では主要ブランド8,000店舗が閉店に追い込まれたという数値が出ており、これは近年稀に見る閉店スピードである。日本では百貨店の閉鎖が相次ぎ、1991年比で売上が6割減少したというデータもある

一方、実店舗への需要が失われているかというと、そうではないだろう。「日本ショッピングセンター協会」の公式データでは、ショッピングセンターの数は2017年末時点で3,217。過去数年では微増もしくは横ばいが続く。数年遅れで百貨店と同じように閉店数の増加が始まるかもしれないが、この数値を見る限り、店舗自体への需要も減っているとは言えない。

しかし、BulletinやB8taに代表されるように、従来の出店モデルを変えない限り、主要ブランドだけが百貨店やショッピングセンターに店を構えて、コンテンツが均一化してしまう。これでは顧客にとっては、どの場所へ行っても同じブランドにしか出会えず、購買意欲を削がれてしまう危険性がある。ショッピングセンターも、前編で紹介したBASEとの提携事例のようなモデルへシフトしない限り、顧客を満足させられず、百貨店と同じく閉店に追い込まれる可能性がある。

そこで大切になるのが、次の3つの要素だと筆者は考える。

1つは、店舗体験の充実化。店舗コンテンツの新陳代謝を促す仕組みを取り入れることで、来店客を飽きさせない工夫が必要となる。その上でB8taのように出店側が詳細なデータを取得できれば、より良い製品が市場に出回るエコシステムが完成する。

2つ目が、パーソナライズ体験。オンラインであろうとオフラインであろうと、どの顧客に対しても最高のサービスを提供できる小売戦略が必要となる。Amazonの事例は好例だろう。マーケットプレイスで取得している顧客単位のデータは、実店舗「Amazon Go」の購買履歴データと紐づく。つまり、ECで得た購買データは店舗で活かされ、もちろんその逆も可能。顧客単位でデータ管理ができているからこそ、来店客がどのチャネルを利用してもパーソナライズ化した購買体験を提供できるのだ。

3つ目の要素が、コミュニティ。この点は未だ成功事例が見出されていない。Amazonですら成しえていない。しかし、SNS限定グループやサロンサービスに見られるように、同じ興味で集ったグループを店舗ビジネスに組み込むことができれば、新たな競合優位性となるだろう。地元の井戸端会議や行きつけのお店にも似た、強いエンゲージメントを店舗で発生させられれば、繰り返し足を運んでくれる高い訴求力につながる。この点をテクノロジーを通じて再現できれば、強力な武器となる。

ここまで数々のスタートアップを紹介してきた。残念ながら、各スタートアップ店舗事例は、いずれも競合に真似されてすぐに陳腐化してしまうだろう。技術力も、いまの時代ではすぐに競合他社に追いつかれてしまうに違いない。だからこそ「体験」「パーソナライズ」「コミュニティ」の3つに挙げられるように、顧客体験が一番に優先されなければならない。

顧客体験を最大化させる上で、テクノロジーを駆使するスタンスは持っておくべきなはずだ。この点に十分留意した上で、既存小売店・小売スタートアップは10〜20年の長期戦略を立てる必要があるだろう。

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執筆

福家 隆

1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。東京大学(教育思想)→某AIスタートアップ(マーケティング・事業開発)→現職。関心領域は、ビジネス・テクノロジーから人文知まで。

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2018年10月23日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。