連載4つのコンセプトから語る、店舗概念の変化
「小売4.0」時代の準備はできたか?──店舗の共有からコミュニティまで
- TEXT BY TAKASHI FUKE
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「店舗」のあり方が変わりつつある。
私たちが普段訪れるショッピングセンターや百貨店は、テナント側に最低でも数カ月から数年単位での場所の借り入れ契約を課す。そのためテナントは、出店直後に該当地域のターゲット顧客のニーズに合わないとわかったとしても、すぐに撤退できないジレンマを抱える。この従来の店舗出店のあり方を「小売1.0」と称しておく。
次に、百貨店やショッピングセンターの一角を、単一のブランドのみで長期賃貸するのではなく、複数ブランドで共有する流れを「小売2.0」としよう。2018年6月、ネットショップ作成サービス「BASE」が丸井と提携し、BASEに出店するEC事業者が1日3万5,000円で店舗出店できるサービスを始めたと報じられた。これまで日毎で出店するにはポップアップストア(空き店舗などに、数日から数週間期間限定で出店する形態)の利用が考えられたが、顧客が多く集まる百貨店スペースをスポットで賃貸するモデルを提案した形だ。
そしていま、データ取得の場として店舗を捉える「小売3.0」のトレンドが起き、店舗にコミュニティ要素を入れた「小売4.0」へと市場が進化を遂げつつある。本記事では、前後編にわたる「小売トレンド分析シリーズ」として、まずは「小売1.0」から「小売2.0」までの事例を紹介していきたい。
高まるミレニアルズの店舗需要
そもそもなぜ店舗の必要性が増しているのだろうか。
「CouponFollow」が発表したレポートによると、ミレニアルズの53%が実店舗での買い物を志向するという。同世代の31%がデスクトップPC、16%がスマートフォン上で買い物をするデータもあることから、オンラインでの購買需要を超える、実店舗への高いニーズが伺える。
店舗を構えると、購入前に製品体験をおこなえる。「JLL」のレポートでは、ミレニアルズがブランドを選択する際、店舗内体験に影響される確率が、他世代と比較して77%ほど高いという。つまり、店舗を持つブランドの方が強い影響力を持つのだ。たとえば米国の寝具D2Cスタートアップ「Casper(キャスパー)」が全米で200店舗を開設している動きは、リッチな店舗体験を提供することで顧客と長期的な関係を結ぶ重要性が高まっている証左であろう。
また、「Entreprenuer」の記事によると、88%のミレニアルズが、送料を抑えるために「オンライン購入、店舗ピックアップ」サービスを求めているという。実店舗を持てば顧客は余分なコストを支払う必要もなくなり、かつ梱包作業なしで返品をおこなえる安心感を得られるだろう。
こうした店舗需要に応えるには、相当厳しいハードルが存在する。たとえば飲食店を立ち上げる際に、敷金は賃料の10カ月、礼金は0〜2カ月、そのほか店舗投資費や前家賃など、多額のコストがかかることが想定される。
そこで力を発揮するのが、冒頭で紹介した「小売2.0」だ。単一ブランドで出店した際のコストは膨大であるが、場所を複数ブランドでシェアリングできれば、費用分散につながるだけでなく、従来市場には出てこなかった小規模ブランドの出店ニーズを掴むことができる。
以下では、店舗にシェアリングの概念を持ち込み、注目を集めているスタートアップを説明したい。
出店ハードルを圧倒的に下げた“小売版WeWork”
まずは「小売2.0」の代表例から紹介したい。2015年にニューヨークで創業し、累計220万ドル(約2.4億円)を調達した「Bulletin(ブルティン)」は“小売版WeWork”を謳い登場したスタートアップだ。同社は著名アクセラレータ「Y Combinator(Yコンビネータ)」のプログラムを卒業している。
Bulletinのプレゼン動画によると、小売事業者の85%が、実店舗で商品販売をするチャネルを持たないのだという。そこで同社は米国大手オークションサイト「eBay」や手芸品Eコマースプラットフォーム「Etsy」で商品販売をする中小Eコマース事業者をターゲットに、実店舗の場を提供することにした。
従来、半年を超える賃料の前払いなどを求められていたが、月額サブスクリプションモデルでブースごとに店舗スペースを借りられる料金体系を提案。
日毎で場所を借りるポップアップと違い、利用し続ければ低コストで旗艦店を有することができるメリットを持つ。また、利用する必要がなくなっても、1カ月前に退会手続きを踏めばすぐに撤退できる手軽さもウリだ。
店舗の雰囲気を壊さないために、ブース出店をするにはBulletinのキュレーション審査を通らなければならない。公式な数値は発表されていないが、出店料は月額2,000〜 3,000ドル程度といわれる。
出店コストが低く、退店もしやすいとなると、サブスクリプションモデルの核となる継続利用率の低下が懸念される。出店企業にとっては満足度の高いサービスではあるが、ビジネスモデルとしてはリスキーだと思う人も少なくないだろう。
しかし、筆者はその点については問題ないと考えている。確かにWeWorkに代表されるコワーキング事業では、継続利用率が重要となる。一方のBulletinでは、たとえすぐに退店されたとしても、新しい事業者がブース出店すれば、店舗コンテンツの刷新に繋がる。来店客に対して1カ月前に訪れた時とは違う体験を提供できるのだ。こうした好循環を生み出せている点が、サブスクリプション解約のリスクヘッジへと繋がっているのではないだろうか。
以上、本記事では「小売1.0」から「小売2.0」までの事例を紹介した。後編では、「小売3.0」から「小売4.0」の事例として、店舗を広告データ収集の場所へと変化させたスタートアップや、百貨店に店舗シェアリング及びコミュニティ要素を付け足し、新たな業態を生み出そうとする取り組みを説明していきたい。
こちらの記事は2018年10月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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連載4つのコンセプトから語る、店舗概念の変化
執筆
福家 隆
1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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