連載【TORiX 高橋浩一直伝】 勝てる営業組織の戦略的な作り方

営業モデルによって「勝ちパターン」は異なってくる

高橋 浩一

東京大学経済学部卒。ジェミニコンサルティング(その後ブーズ・アンド・カンパニーに)で勤務した後、アルーを創業、取締役及び副社長として組織マネジメントに従事。新卒を戦力化して業界平均よりパフォーマンスの高い受注を獲得する営業組織を構築。2011年にTORiXを設立して代表取締役に就任。 自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%(現在も8年以上継続中)。その経験を基にしたメソッドが好評で、年間200件以上の研修登壇、800件以上のコンサルティングを実施。『ワールドビジネスサテライト』『日本経済新聞』『日経BP』など取材実績多数。

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前回の記事では、質問力・価値訴求力・提案ロジック構築力・提案行動力という4つのスキルが「接戦」である提案を受注に導くために重要だという話をしました。しかし、営業モデルによってその4つのスキルそれぞれの重要度は変わります。どのような営業モデルが存在し、それぞれの勝ちパターンは何なのか。それを今回は解説しましょう。

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自社の営業モデルはどっち?

前回の記事ではお客さまから選ばれるための4つの力について説明しました。今回は営業モデルを2パターンに分類し、4つの力がどのように使われていくのかについて解説をしていきます。

営業モデルを2パターンに大きく分けると図1のように、「ルート型営業」と「アカウント型営業」に分けられます。

ルート型営業というのは、1人の営業マンが数百件ほどのリストを持って、電話営業や飛び込みなどを駆使して数多くの顧客リストを抱えて営業するモデル。

一方でアカウント型営業というのは、1人の営業が数社、多くても30社程度のリストを持ち、1社1社に対して深堀りアプローチをする営業モデル、ということで定義をしています。

書店に行くと営業に関する本はたくさん並んでいますが、多くはルート型に関するものですね。営業の人口としては、ルート型の方が割合は多いです。

一方、「提案型営業」、「ソリューション営業」といった言葉がタイトルに含まれている本はアカウント型営業に関するものです。どちらの書籍が自分に合うのかよく考える必要がありますね。

2つの営業モデルのうち、どちらが今の自分に当てはまるか?によって、営業時に求められる行動はかなり変わってきます。

ルート型営業では、1人の営業マンがたくさんのリストを抱えて営業活動をしています。商談のリードタイムは短く、1人の営業マンの提案数も多く、複雑な承認プロセスを経ずに受注が決まりやすいという特徴があります。

例えば、街中の店舗や中小企業の事務所をターゲットにエリア営業を展開するベンチャー企業や、あるいは個人事業主に対して利便性のあるサービスを提供するスタートアップなどでは、この営業モデルを中心とした組織になるでしょう。

ルート型の営業マンとしては、資料などは極力作りこまず、会社から配られたパンフレットや営業ツールを活用することにより、なるべくたくさんの商談数をこなしていくという提案パターンがほとんどでしょう。

1件あたりの単価はそれほど大きくならないため、この営業モデルでのハイパフォーマーは短期間でどんどんクロージングをかけていき、商談のリードタイムをいかに短くし、短期間でどのぐらい多くの受注数を獲得できるか、という点がポイントになっていきます。

一方で、アカウント型営業というのは、クライアント1社が持っている大きな予算の中でどのぐらい自社比率を上げられるか?が勝負どころです。

1案件の金額が大きくなるため、意思決定に絡む関係者の数が多く、クライアントの複雑な意思決定構造を把握し、時間をかけて丁寧にアプローチをしていく必要があります。

もちろん商談のリードタイムも長くなりがちですので、1人の営業マンが対応できる提案数は必然的に少なくなっていきます。ただ、1社に対して金額の大きな提案をしかけていくため、営業マンとしては創意工夫できる余地が大きいパターンが多いのがこのモデルの醍醐味でもあります。

例えば、大企業のスタッフ部門や購買担当者を対象に、既存のサービスとは異なる切り口でアプローチを試みるようなスタートアップでは、創業者が持ち前の営業力でアカウント開拓することにより、大企業の実績を積み上げていくことが会社の成長を支えていることが多いでしょう。

アカウント型営業におけるハイパフォーマーは、受注確度が高そうな提案中の案件を多く抱えることにより、良質の「ヨミ」や「見込み」案件が沢山積まれていることが特徴的です。

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組織内で2つのモデルを混同しないよう注意

ここまで、営業モデルを2つに分類して説明してきましたが、難しいのは、ルート型やアカウント型というのは必ずしも「この会社の営業組織はルート型である、この会社の営業組織はアカウント型である」という様に、会社単位ではっきり分かれるものではないということです。

1社の中でも、その中にルート型の傾向を持つチームがあり、他にアカウント型の傾向を持つチームもありという様に、1つの会社の中に両方のモデルが存在しているケースも多いでしょう。

例えば組織の中で、既存取引先をメンテナンスするアカウント型営業部隊と、膨大なリストに対してルート型の新規開拓をするチームが分かれている場合です。

あるいは1人の営業が、若手の時はルート型営業でキャリアをスタートし、成長していく過程で大口のお客様が増えていきアカウント型に近づいていく、といったことも起こったりします。

ここで押さえておくべき重要なポイントは、アカウント型営業とルート型営業は勝ちパターンが異なるということです。成果をあげるためには、それぞれに合わせたやり方を実行すべきなのです。

ルート型というのは必然的に、前掲の図2の通り、お客さまとの接点や、担当エリア内でのシェアをどれだけ増やせるか?ということが重要になってきます。

そのためには訪問すべきお客様に適切なタイミングで会いに行けるか?というのが勝負の分かれ目になります。そうすると、まずは行動の「量」を増やしてから行動の「質」を高めていく、というのが王道の勝ちパターンになっていきます。

お客様のリストが数多くあると、その中には今まさに購買タイミングであるお客様もいれば、「今は検討時期でない」のように、タイミングがきていないお客様もいます。

商談のリードタイムの短さがルート型営業の特徴ですから、常にお客様に接している状態をつくっておかないと、ちょうどよい購買タイミングに出会えるかどうかはわかりません。そのため、「訪問件数が大事」、「行動量が大事」という正攻法はこのルート型に当てはまることが多いです。

一方でアカウント型では、お客様の限られた予算のシェアを各社で奪い合います。その中でどのくらい受注率・単価をあげていくかがカギとなります。

当然そのためには、お客様の意思決定に関わる内部情報を、深く・広く収集して圧倒的な説得力を生み出せるか?という点が勝負の分かれ目となります。組織や事業の課題を網羅的に把握し、自社の提案が採用されるロジックに落とし込んでいく、というのが必勝パターンになっていきます。

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モデル毎にスキルの重要度が異なると認識しておく

このように、営業モデルをルート型、アカウント型に分類して考えていくと、図3にあるように、四本柱のスキルの中で求められるウェイトが異なってくることが見えてきます。

両方とも質問力・価値訴求力が大事であることは変わりありません。お客様から情報を引き出す質問力、そして、お客様に対して自社が価値を実現できる根拠を示す価値訴求力。

この二つがお互いに機能し合うことによって、お客さまから情報を引き出すことができ、自社が価値貢献できるポイントが鮮明に見えてくることによって提案の質も向上します。その結果、お客様の役に立つことができ、さらに情報がいただける、というサイクルが回り始めます。

このサイクルによって営業に好循環が生まれることはルート型もアカウント型も変わりません。しかし、そこから先に「勝ち続ける営業マン」になるために重要な活動が異なります。

ルート型はどちらかというと、どのくらいの生産性でこのプロセスを回すことができるか?が大事になってきます。

訪問する必要があるリストの件数が多いため、1社に対して深く入り込み時間を使ってしまうと、1件当たりの受注までの生産性が落ちてしまうこともあります。「短期間にとにかく数多く回る」という行動がどうしても必要になってくるのがルート型営業です。

一方で、アカウント型営業の場合は限られた社数に対してアプローチしていくため、どれほどロジック、ストーリーを緻密に描いて戦略的に提案できるか?が重要になっていきます。

もちろん、ルート型であっても提案構築力は重要ですし、アカウント型営業であってもある程度の行動量は必要です。前述の通り、ここではっきりとお伝えしたいことは、ルート型とアカウント型とでは、勝ち続けるために必要な「行動」と「ロジック」のウェイトが変わってくるということです。

このポイントをしっかりと把握できていないと、ルート型の組織でアカウント寄りの戦略を実行したり、あるいはアカウント型のチームでルート型の施策を部分的に必要としたりする際に、うまくいかないことが多々発生します。

例えば、数百件のリストを持ってとにかく行動量を増やすことが必要なルート型営業に対して、受注率や単価を上げていくために「提案型営業しましょう」「ソリューション営業しましょう」というメッセージを、何の説明やサポートもなしに伝えてしまうと、1件1件の訪問・商談にむやみやたらと時間がかかったり、あまり見込みがないお客様に対して過度に時間をかけすぎたり、ということが起こってきます。

一方で、アカウント型で数件のリストを深掘りしている営業チームのヨミ案件がなくなってきたからといって、「じゃあ新規開拓のためにテレアポしましょう」といったことをトップダウンでやろうとしても、慣れていないせいか、なかなか思うようにコール数が増えないでしょう。

確かに、営業の戦略として、ルート型営業でも受注率や単価を上げることが必要な局面はありますし、アカウント型営業における新規開拓が求められる、といったことは起こりえます。

しかし、ある営業モデルの組織に対して、もう片方の要素を取り入れる際には注意が必要です。こういったケースでは、組織のトップから直々に「なぜ、今、この戦略をとるのか/この施策を打つのか」に関する丁寧なメッセージが発信されていないと、なかなか戦略や施策が浸透しません。

例えば、ルート型組織に提案型営業のメッセージを出す際には、「“行動量が重要”と今まで言ってきたが、その成果として訪問件数は増えたものの、受注率が伸びていないという課題が出てきている。その原因を分析すると、お客様の情報を把握しきれていない状態で提案して失注しているケースが多い」といった背景説明が、数字のデータとともにあると望ましいです。

次回の記事から、ルート型営業とアカウント型営業についてそれぞれ、勝ちパターンを実行するために必要な要素について、さらなる深掘りをしていきたいと思います。

こちらの記事は2017年10月23日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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