連載【TORiX 高橋浩一直伝】 勝てる営業組織の戦略的な作り方

案件タイプによる受注ストーリーの違い──コンペ型&稟議型

高橋 浩一

東京大学経済学部卒。ジェミニコンサルティング(その後ブーズ・アンド・カンパニーに)で勤務した後、アルーを創業、取締役及び副社長として組織マネジメントに従事。新卒を戦力化して業界平均よりパフォーマンスの高い受注を獲得する営業組織を構築。2011年にTORiXを設立して代表取締役に就任。 自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%(現在も8年以上継続中)。その経験を基にしたメソッドが好評で、年間200件以上の研修登壇、800件以上のコンサルティングを実施。『ワールドビジネスサテライト』『日本経済新聞』『日経BP』など取材実績多数。

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アカウント型営業案件 2つのタイプ

前回の記事では、アカウント型営業において、受注を勝ち取る際に「お客様の評価軸×選択肢でマトリックスを整理し、そこに対してネックを解消することが重要である」、という話をしました。今回はその中でも、特に典型的な案件のパターンについて解説をしていきます。

発注をいただくためにクリアしなければならない問いは、「なぜ、今、お客様は当社に発注することを選ぶのか?」ということになりますが、お客様が悩む場合を三つに分類したのが図1です。

1つ目のパターンは、「他にも良い商品・サービスがあるのになぜ当社か?」というものです。この場合、他社や競合サービスとのコンペになるため、コンペ型案件と定義しています。

そして2つ目は、「外注せず内部で対応するという選択もあるのになぜ御社(自分の会社)に発注するのか?」。3つ目に、「先延ばしにしてもいいはずなのになぜ今なのか?」。

2つ目と3つ目については、競合他社の提案があるわけではなく、内製(お客様が外注せずに社内で対応する)や、判断を保留するという選択肢に対して、いま自社に発注していただくことがプラスになることをお客様に訴求する必要があります。このような案件タイプを稟議型案件と定義します。

もちろん、コンペであってもお客様の稟議を通さないといけないというのはあるわけですが、受注のためにクリアすべきハードルとして、他社との競争が占めるウェイトが大きいものを「コンペ型」、お客様社内での企画推進支援のウェイトが大きいものを「稟議型」のように分けているとご理解ください。

それでは、コンペ型案件・稟議型案件のそれぞれについて、どのような勝ちパターンを描いていくのかについて考えていきましょう。

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有利なポジションを築き競合提案に勝つことを目指すコンペ型

コンペ型の案件の受注プロセスを説明したのが図2です。

もちろん提案の内容は重要なのですが、競合との接戦になる場合は、提案内容だけで勝負しようとしてもなかなか勝てない、という状況もあり得ます。

例えば、競合の方が先にお客様と取引しており、後から自社が逆転しようしても、競合との情報量の差によって自社が不利な状況に陥るといったケースです。

スタートアップやベンチャーの場合、既に入り込んでいる他社をひっくり返していくというリプレイス営業の場面は多いでしょう。

また、競合に対してビハインドでなくとも、コンペの勝率が高いハイパフォーマー営業は、「提案内容をプレゼンする前に勝負をつけている」ことが多いです。

要は、提案内容を出す前に、どれだけ有利な位置を獲得するかということです。

さて、提案内容を出す前のフェーズでは、営業マンの印象付けが重要になります。すなわち、お客様が他社と当社を比較した場合、こちらの営業マンの方が動きが良い、レスポンスが早い、お客様が求めている情報をたくさん持っているなど、プラスの印象付けを積み重ねていくということです。

お客様に対してプラスの印象付けができていれば、お客様から相談をいただき、「この営業との接点がなくなるのは惜しい」と思われるようなポジションを獲得することもできます。

提案内容を考えたりプレゼン資料を作成することにあまりにもこだわりすぎて、営業マンとしてしっかりお客様に食い込むという前半のプロセスがおろそかにされてしまうことは多々見受けられます。しかしまずは、営業マンとしてお客様におけるポジションをしっかりと確立していくことが重要です。

このポジションを確立することで、何が起こるかというと、「プレゼン内容についてお客様からフィードバックを頂く」「競合がどういう提案を出しているかについて情報収集する」「自社の提案に足りないと思われている点を、判断前に教えて頂く」といったことがやりやすくなります。

アカウント型のコンペは、検討期間が長くなることもありますので、基本的に提案内容を一発で判断されて終了、というよりは、「お客様からフィードバックを頂きながら、提案の改善サイクルを回していく」展開に持ち込めた方が、勝率は高くなります。

官公庁の入札など一発勝負にならざるを得ないケースはありますが、一般企業向けの法人営業であれば、「改善サイクルを何周、回すことができるか」は勝率を高めていく上で重要です。

では、提案の改善サイクルをどのように回していくかを考えていきましょう。

基本的には、まず本提案前に、仮提案として「このような形で考えています」というアイデアに対して、お客様のニーズに応えているかどうか、そして、競合が出している(あるいは出してきそうな)提案と比べてどうか、という点についてフィードバックを頂けると望ましいです。これが、「競合とのギャップ確認」です。

そして競合とのギャップを確認したら、次に、「競合に対して当社が勝っている(と、お客様から認識されている)ところ」、および「競合に対して当社が劣っている(と、お客様から認識されている)ところ」への対処が必要になりますが、その順序が重要です。

まず、順序としては、お客様が競合に対してプラスに感じているポイントについて「その点に感じる魅力は、手段は多少違っても、当社も満たすことができますよ」という点を伝えていくのがよいでしょう。

ここで、「競合との差別化が重要では?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。

では、「競合のいいところは当社では実現できないが、競合にはないプラス面を持っている当社案」と、「競合のプラス面も享受できて、さらに競合にはないプラス面を持っている当社案」とでは、迷っているお客様にとってどちらが選びやすいでしょうか。

競合の真似をしようというわけではありません。「他社は●●という領域で他にはない実績がある(ので、選ぶにあたってリスクが低い)」というのをお客様が魅力に感じているのであれば、当社の案は「こういうやり方でリスクを軽減できます」のように示しましょう、ということです。

その次に、「さらに当社としては、競合にないこういうプラスもあります」というところを訴求し、最後に当社に対してのネガティブポイントや不安に感じていることを解消していく、というのが受注に向けた流れになります。

このように考えていくと、「まずは営業マンとして有利なポジションを作る、その次に提案内容で勝負する」という流れが、アカウント型営業におけるコンペでの理想となります。

ここで、過去の連載記事で説明した4つのスキルが発揮されます。営業マンとしてのポジションをしっかり確立するという点においては、価値訴求力や提案行動力が必要になってきます。そして、提案内容で差をつけるという点に関しては、さらに加えて質問力や提案ロジック構築力が重要になってくるでしょう。

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必要なサポートを提供し社内での決裁承認を狙う稟議型

ここまで説明してきたコンペ型の案件とは、受注までの道筋が異なるのが稟議型案件です。

図3は稟議型案件において、お客様の社内での検討プロセスおよび、どのようにそれをサポートしていくのかといった流れをまとめたものです。

多くの営業マンが陥りがちなことは、いきなり「キーパーソンの方を紹介してください」と担当者に迫ってシャットアウトされてしまったり、それとなくかわされてしまい先に進まない、もしくは、目の前の担当者が「良い提案だ」と言ってくれているもののがそれ以上先に進められる気配がない、といったものです。

特にスタートアップやベンチャーの場合、サービスの目新しさから、目の前の担当者は良い反応を示してくれても、新しいサービスが社内で他の方に理解されず検討の優先順位が落ちてしまう、というのはよくあることです。

このような状況をうまく切り抜けるためには、まず目の前の担当者ご本人のニーズにどのくらい響いているのかを確認します。ニーズに響いているということであれば次のステップに進めますが、まだニーズに響いていないときには、いきなりキーパーソンの紹介を迫るのではなく、まず目の前の担当者を惹きつけることが必要です。

そして、目の前の担当者のニーズに響いたとなったら次のステップです。

「こちらの営業マンとしてのサポートがあればお客様の関係者を巻き込むことができる」というレベルを担保していきます。

お客様の担当者がまだこのレベルに達していないときは、社内用の資料を一部作成したり、社内で何か巻き込みを図る際のメール文面を途中まで提供したり、といったサポートが必要になることもあります。

そして、「社内の巻き込みはこちらのサポートがあればできるレベル」が大丈夫であれば、後は「先方が単独で社内を巻き込めるレベルまでの後押しをする」という流れになります。

この場合、資料やメール作成のようなサポートをいつまでも続けていると、お客様が社内で進める際に逐一こちらを頼らなければならないという事態になり得ます。

そうすると、ちょっとした停滞が起こったときに、社内での推進が止まってしまうため、「サポートの割合を落としながらも、状況を伺う」モードにシフトしていきます。

お客様の様子をモニタリングし、お客様が社内で巻き込みを進めていることを適宜確認しながら必要に応じてサポートする、という意識が必要です。

そうすると徐々に決裁関連の情報が入ってくるようになります。

会議で決まるのか、あるいは、誰かの承認が必要なのかを具体的に特定し、それに応じて、こちらのキーパーソンも同席した商談の機会を申し出る、あるいは社内の会議で出していただく資料をこちらから一部提供する、といった対応をしていきます。

目の前の担当者に「キーパーソンの方を紹介してください」と打診しても、この段階まで進んでいれば、むしろお客様も喜んで応じてくださるでしょう。

これらのプロセスにおいては、全体として提案行動力が必要となっていきますが、お客様の状況を確認するために質問力が必要だったり、お客様社内での検討や巻き込みがうまくいかないときの価値訴求力でサポートしたりといった動きが求められます。

そして最終的に提案を社内で通してもらうためにはもちろん、提案ロジック構築力が必要です。

以上のように、コンペ型案件と稟議型案件では戦い方が異なるため、アカウント型営業では特にこの2パターンの案件に適した戦い方を選ぶことが重要となります。

こちらの記事は2017年12月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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