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米国動画アプリ市場の最前線── 「トリビア」の次にくる3つのカテゴリー

日本でも大人気となったテレビ番組『クイズ$ミリオネア』。

もとはイギリスで始まったこの番組は、
回答者が四択形式で出題される全15問のクイズに答え、
高額賞金の獲得を目指す。

最終問題に近づくほど難易度が高くなるため、
最高賞金の1,000万円を獲得できた挑戦者はほとんどいなかった。

番組視聴者は回答者が選択に迷っている姿や、
司会者が煽るハラハラした雰囲気を楽しんでいた。

このクイズ番組の雰囲気を、
ライブ動画アプリで再現するトレンドが生まれつつある。

2017年、ニューヨークを拠点とするクイズアプリ
HQ Trivia(エイチキュー・トリビア)」が、
“モバイル版クイズ$ミリオネア”の市場を開拓した。

創業からまだ約1年しか経っていないが、1,500万ドルもの大型資金調達に成功している。

  • TEXT BY TAKASHI FUKE
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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アジアで広がるクイズアプリ

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HQ Triviaは、米国時間の午後3時と午後9時の計2回、ライブ動画を介してクイズショーを開催する。

ユーザーは計12問ほどの問題に与えられた各10秒ほどの時間で答えていくので、検索する暇はない。賞金は全問正解者で山分けする制度となっている。

『AdAge』の記事によると、各クイズに参加する平均ユーザー数は10万人、ダウンロード数は世界中で500万に至る。2018年3月に賞金を5万ドルにした特別ショーを開催した際には、参加ユーザー数が200万人にものぼったという。

10万人を超えるユーザーがリアルタイムでアクティブになっている場は、なかなか誕生しない。そのため、新しい広告の場としてHQ Triviaは見られ始めている。

実際、Warner Bros. Entertainment(ワーナー・ブラザーズ)やNike(ナイキ)が協賛企業として名乗りをあげた。映画コンテンツをクイズ形式で出題したり、自社製品に関する問題を投げかけて、ブランドイメージを向上することが狙いだ。

こうしたライブ動画時代の新たな広告プラットフォームの波がアジアでも広がりつつある。日本では「グノシーQ」や「LIVEトリビア」が代表的だろう。アジア圏では、タイを拠点とする「Panya Studio(パンヤスタジオ)」が有名だ。『TechinAsia』の記事によると、Panya Studioは2018年3月の立ち上げから約3ヶ月で100万ダウンロードを達成した。

しかし、クイズアプリの運営は、いわばバイラルメディアの収益モデルに等しい。なるべく多くのユーザーを得るために、大口の先行投資をして有名人を司会者として起用し、とにかくバズるコンテンツを量産する。また、どの企業も全く同じコンセプトでサービス展開をしていることから、競合優位性が低く、市場参入は非常に容易だ。

それでは、クイズアプリに注目が集まっている現在の動画市場において、重要な要素は一体なんなのであろうか? 昨年まで、15万人の登録者を持つ短尺SNS動画メディアを運営していた筆者の視点から、大切だと思う点を2つ述べたい。

1つ目は、オリジナル性の高いコンテンツ、もしくはエッジの効いた新しい取り組みをすること。2つ目が、自社サービスのみを好んで観に来てくれるユーザーの囲い込みだ。

これらの条件を満たすことが、動画市場の競争で勝ち残る上で大切となるであろう。次の章からは、こうした点を重視した動画サービスの事例を紹介していきたい。

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お笑いコマース ── 「MikMak」

MikMak

日本の動画コマースサービスとしては、「LiveShop!」や「メルカリ」や「BASE」の「生配信機能」が有名であろう。“モバイル版TVショッピング”として着実に認知されつつある。

こうしたサービスは、主にインフルエンサーや、発信欲の強いユーザーを起用することで成長してきた。LiveShop!の場合、ネットで有名な女性インフルエンサーに商品紹介をしてもらうことで、多くのファンを獲得してきた。

メルカリの場合は、サービス立ち上げ当初に著名人を起用してサービス認知を図っていたが、今では「ニコニコ動画」のように、ユーザーが自発的にライブ配信をするまでに至っている。これは巨大なC2Cプラットフォームを構築できているからこそ成し得ることだ。

LiveShop!は他社に負けないユーザーコミュニティを構築できているが、コンテンツの独自性という意味では少し物足りないだろう。インフルエンサーを雇える資金力のある企業ならば、LiveShop!と同様の展開ができてしまうからだ。

メルカリやBASEの動画配信機能も、コンテンツはユーザー任せのため、コミュニティ創出はできていても、オリジナル性の高さという条件は満足させられていない。

いずれのサービスにおいても、成長に必要となるのはコンテンツのオリジナル性だ。そこで紹介したいのがお笑い動画コマースアプリ「MikMak(ミクマック)」である。従来の動画サービスとは違い、コメディー要素を入れて商品紹介をする切り口の動画コマースサービスだ。2014年に創業し、累計資金調達額は320万ドルにのぼる。

まず、小売店や商品開発企業が、MikMakのネットワークに紹介してほしい商品を登録する。その中から、任意で選ばれた商品がアプリで紹介される。売上の15%程度の手数料で収益化をおこなう。

MikMakの特徴は、ガジェット商品を中心に、面白い演出やトーク力で注目を集めさせ、購入まで転換させる訴求力にある。これまで消費者が興味を抱かなかった商品に目を向けさせることが目的であり、そのためにコメディーを通じた企画に力を入れている。

従来、どの動画コマースアプリも知名度の高いインフルエンサーの起用に頼ってきたが、コメディー分野の企画に注力することで、オリジナル性の高いコンテンツの制作と、それを楽しみにするユーザーコミュニティの創出の両方を満たし、ユニークな市場ポジションを確立させた。事実、『TechCrunch』の記事によると、著名人を起用していないにも関わらず、リテンション率が市場平均値より2.5倍高いという。視聴者が長い時間接触する趣向がうかがえる。

MikMak

また、MikMakは自社アプリだけでなく、スポンサー企業のInstagram(インスタグラム)やSnapchat(スナップチャット)の商品ページのコーディネートをおこなうサービス「Attach(アタッチ)」も立ち上げた。

『TechCrunch』によれば、SNSユーザーは動画を通じて商品を知り、購入ページへスワイプしても90%ほどが離脱してしまうという。大きな原因は、商品を販売するEコマースページへ飛ぶと、SNSとは全く違う単調な商品説明が並ぶUIに違和感を持ってしまうからだ。

そこで、Attachは2つのサービスを提供する。まずは、「Facebook」、「Instagram」、「Snapchat」のストーリーズ向けに、消費者の目を引くような商品紹介動画を制作する。次に、その場で商品を好きなEコマースサービスのカートに直接入れられる機能をもたせたのだ。

たとえば、ユーザーが商品購入をする際、面白い動画を通じて商品を知れるだけでなく、わざわざEコマースページに飛ばされることなく、ストーリーズ上で商品をAmazonのカゴに入れることができる。先述の記事によると、Instagramストーリーズの商品購入率が5倍にまで高まった事例もあるという。

日本でもお笑いプロダクション「ワラシベ興業」や、「メディアブレスト」が開発するアプリ「LaLaLive」の登場など、少しずつコメディー市場が熱を帯びてきている。

自社でお笑い芸人を雇う日本の芸能プロダクション企業が、MikMakのようなサービスを展開した場合、他社アプリとは一線を画すコマース分野を開拓できるだろう。コンテンツの競合優位性も高く、お笑いに強い興味を持つユーザーコミュニティ形成も可能だ。この点、動画市場で生き残るための要素全てを満たすことができるだけに、期待が膨らむ。

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社会に優しいノウハウシェアリングアプリ ── 「Proveit」

Proveit

既存のクイズアプリは、決められた時間に運営側が用意した質問に答えていく1対マスの構図になっている。ここでユーザー同士のコミュニケーションは一切発生しない。そこで登場したのが「Proveit(プローベイト)」だ。

Proveitではユーザー自らがクイズを作成し、発表する。1対1の構図を作ることで、ユーザー同士のコミュニケーション活性化にも力を入れる。具体的には、個々のユーザーが作成するクイズに対して「ここが難しかった!」「面白いクイズを作ってくれてありがとう」というコメントのやり取りを通じた会話を発生させる。内容は自分の得意な分野に合わせて作ることができるため、ユーザー同士のノウハウシェアリングのきっかけ作りにもなっている。

仕組みはHQ Triviaとは少し異なり、エントリー料金を支払わなければならない。たとえば10ドルの賞金を獲得できるクイズの場合、1ユーザーのエントリー料金は3ドル前後が相場だろう。最終的に集まったエントリー料金から、全体の賞金額を引いた賞金を作成者は獲得できる。この場合、クイズが簡単すぎる場合は、損失が出てしまう恐れもあるだろう。

Proveit側は、10-15%ほどの手数料をとることで収益化を目指している。『TechCrunch』の記事によると、2018年6月までに8万ダウンロードを達成した。

また、最も特徴的な要素といえるのが、教育市場に向けたチャリティー活動へ力を注いでいる点だ。クイズアプリは、強い金銭欲を持ったユーザーしか集まらない場だと見なされがちである。一方、Proveitはユーザーが作成したクイズを通じて、社会に還元するきっかけも作り出しており、より健全なコミュニティ育成に取り組んでいる。

ミレニアルズの社会志向を的確に捉え、ノウハウシェアリングのコンセプトを通じてリテンション率の高いユーザーを集める戦略は、サービスに愛着の強いコミュニティ運営につながるだろう。一回きりの利用で離脱するフローユーザーではなく、長く利用を続けてくれるリピートユーザーを着実に獲得できるサービス形態となるかもしれない。

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ドキドキ感を掻立てるライブ動画ショッピング ── 「Gravy」

Gravy

動画コマースにクイズアプリの要素を入れたオークションアプリが「Gravy(グラビー)」だ。HQ Triviaと同様に司会者が登場し、ヘッドフォンやスマートフォンのような高級ガジェットを販売する。

ライブ動画を通じて商品を販売するのだが、既存サービスとの大きな違いは販売価格が時間を追う度に下がっていく点にある。

販売開始時は、小売価格と同じ値段で売り出すのだが、時間がたつ度に価格が下がる。どのタイミングで購入するかはユーザーの自由だが、在庫量は限られているため、価格が0になるまで待っていたら売り切れてしまう。いつ購入ボタンを押すかを、ドキドキしながら待つ緊張感がユーザーを虜にする仕組みだ。

Gravyの事業モデルの特徴は、大手小売店で余った在庫を安く買い取ったり、寄付してもらったガジェット製品をユーザーに販売することで、仕入れコストをかぎりなく抑えている点である。また、アプリ上でどの企業から商品が提供されたのか広告することで、企業は低価格で売れ残り商品を買い取ってもらえるだけでなく、広告費用を抑えることにもつながる。

小売市場の課題点を、ライブ動画コマースとクイズアプリ要素を通じて巧みに解決している秀逸なビジネスモデルと評価できるだろう。『TechCrunch』の記事によると、週ごとにおける視聴者数の成長率は15%という。

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独自の世界観を築くことが鍵

写真:Flickr ©Hamza Butt

2018年6月、Facebookがトリビアサービスの提供を開始すると発表した。大手SNS企業がこうした動きに出ることは、いかにトリビアサービスが真似しやすいかという証左である。

大手企業にサービスを真似されてしまっては、スタートアップに勝ち目はない。そのため、独特なサービスの切り口や、強いサービス愛を持つユーザーコミュニティの構築に注力する必要が出てくる。この点、本記事で紹介した3つの動画サービスは、競合優位性の観点から長く生き残れる戦略を打ち出しているといえるだろう。

日本の動画サービスは、米国のトレンドをそのまま単調に真似たものが多い印象だ。全く同じモデルを輸入しても、HQ TriviaのサービスがFacebookに真似されたように、競合優位性が低いというビジネスモデルの欠点もそのまま引き継いでしまう。

日本ならではのリソースと組み合わせることで、初めて魅力的なサービスが登場するだろう。本記事で紹介したような、ユニークなサービスの登場が期待される。

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執筆

福家 隆

1991年生まれ。北米の大学を卒業後、単身サンフランシスコへ。スタートアップの取材を3年ほど続けた。また、現地では短尺動画メディアの立ち上げ・経営に従事。原体験を軸に、主に北米スタートアップの2C向け製品・サービスに関して記事執筆する。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2018年08月12日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。