大手に行けば、大きな仕事に関われるのか──「割り算」をした瞬間に崩れた、就活の前提【本田・金谷】
Sponsoredプロサッカーでは世界的に、選手一人ひとりの動きをデータで取って可視化するという取り組みが一般化している。走行距離、急加速の回数、多くいた場所。各チーム・各選手の特徴が、印象ではなく数字として説明できるようになった。采配だけでなく、選手獲得の検討にも、常にデータを基にした判断が使われている。
では、「大企業の経営」はどうか。
正直に言う。FastGrow編集部も、最初は「経営管理」と聞いて、地味な事務作業を思い浮かべていた。だが取材を重ねるうちに、その理解がまるごと崩れた。読者が抱いていそうな勘違いも、大きく3つあった。「経営管理は、地味な事務作業」「大手のほうが、大きな仕事ができる」「AIが、若手の機会を奪う」。
この3つを崩していくと、ひとつの問いに行き着く。
大手に行けば、本当に大きな仕事に関われるのか。
その答えを、双日に新卒で入り9年勤めたあとディグル株式会社(以下、Diggle)に転じた金谷竜太郎氏と、新卒からITベンチャー一筋でDiggleのVP of Productを務める本田大晟氏、経歴が正反対の2人に聞いた。
日本企業に欠けているのは、収益力ではない。
意思決定を支える、情報の精度
その3つの勘違いを、一つずつ崩していきたい。経営管理の話から始め、大手の話とAIの話は、後半で2人に直接聞いていく。
取材内容等を基にFastGrowにて作成
まず、いちばん大きいところから確かめたい。日本企業は、本当に収益力を失ったのか。
日本企業の課題は、収益力そのものではない。生み出した資金が、次にどこへ振り向けられるか。その決め方のほうにある。その「決め方」を内側から見ていたのが、Diggleでカスタマーサクセス(導入した企業が使いこなせるまで支える仕事)を担当する金谷竜太郎氏だ。新卒で双日に入り9年在籍。金属資源の部署で日本・海外の営業を担い、オーストラリア駐在時には現地事業の数字の管理も任された。
金谷双日だけでなく、日本の大企業の多くが今もExcelでの管理を中心に動いています。その情報を基に難しい意思決定を進めている。その一つひとつの意思決定が変わるだけで、日本の経済はよくなる。これは私の経験から、間違いないと言えると思っています。
数億〜数千億円規模の投資判断が、いまも表計算ソフトの上で検討されている。これは収益の上げ方の話というより、「資金の使い道を、どう“決める”か」の話である。
金谷商社の現場で働く中で、経営陣が決める方針の中身はわかります。ただ「なぜ、そう決めたのか」がいつもはっきりわかるわけではなかった。それがわかれば、もっとアグレッシブに現場で動けたかもしれない。自分たちが稼いだお金の使い道に、ちゃんと納得できるようになるからです。
同じ構図は、日本企業の数字全体にも表れている。企業が1年に上げる利益(経常利益)は、この10年余りでおよそ倍に増えた。それでも、預かったお金にかかるコスト(資本コスト)を利益が上回れているかで見ると、日本企業の平均は依然として厳しい水準にとどまっている。「利益は出ている。だが、預かったお金を使って本当に価値を生めているとは言い切れない」という状態だ。
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この事実は、経営の現場でもう一段ねじれた形で表れることがある。「ROICを上げよう」という号令だ。ROICとは、Return on Invested Capital、投下資本利益率の略。投じたお金に対してどれだけ利益を生んだかの割合である。この号令のもと、実質的な価値につながらない自社株買いを選ぶ企業もある。自社の株を買い戻せば、割り算の分母にあたる資本が減るので、割合のほうは上がる。数字の上では指標が改善して見える。だが、それは生み出した資金を未来へ振り向けたことにはならない。
Netflixの事例が対照になる。同社は「古い事業を捨てて、新しい事業に賭けた」としばしば語られるが、実際にやったのはもっと緻密なことだった。アメリカ国内のDVDレンタルが生む利益を、海外展開という次の賭けを支える元手として使う。畳んだのではなく、主力事業に次を支えさせることを、リスクを取って決めたのだ。それができたのは、DVD事業が今後どれだけの利益を生み、いつから何を失い始めるのか、海外事業がどんな時間軸で何を生むのか、その差し引きが見える状態にあったからである。
この現場を変える役割が、企業における「経営管理」だ。会社がヒトとカネをどこへ使うかを決めるための材料を揃える仕事、と言い換えてもいい。営業のように売上を自ら生むわけではない。エンジニアのようにモノを自らつくるわけでもない。それでも、ここの精度が低ければ、会社は人材と資金を誤った場所へ振り向けてしまう。
Diggleは、この配分の判断そのものを事業領域に置いている。ミッションは「Dig the Potentia──テクノロジーで、企業の成長可能性を掘り起こす」、コーポレートビジョンは「経営の動脈になる」。
ここまでで、最初の問いには答えが出た。日本企業は、収益力を失ったのではない。生み出した資金と人材をどこへ振り向けるか。その判断に足る精度の材料が、いま揃っていないのである。
ただ、材料が揃わないのは、誰かが手を抜いているからなのだろうか。
経営と現場に、最大2カ月の時差。
意思決定のスピードを縛る、構造の問題
では、なぜ材料が揃わないのか。先に答えを書くと、手を抜いている人はいない。数字が経営へ届くまでの道のりのほうに、原因がある。
会社の意思決定を、飛行機のコックピットにたとえてみたい。いまどこを飛んでいるのか、燃料はあと何時間分あるのか。それを一目で示す計器盤があるから、即座に判断できる。
会社の計器盤は、どうなっているのか。「Excelとメールのバケツリレー」。Diggleはこの状態をそう呼んでいる。現場がExcelに入力し、メールで提出する。部門ごとに集計・転記され、ようやく経営会議へ届く。結果として、数字が経営陣に届くころには、1〜2カ月前のものになっている。
金谷構造は、双日にいた当時も、いまのお客様先でも、まったく同じです。カスタマーサクセスとして立ち上げを担当していると、導入の最初の打ち合わせのあと、お客様の数字を整理するところで必ず止まります。部門ごとのExcelに数字が散らばっているので、掻き集めるだけで時間がかかる。しかも集め終わってから、この数字は合っているのかという間違い探しが始まります。
前職でも、同じ一つの事業の管理なのに、シートが何種類もありました。楽観的な観測のシート、保守的な計画のシート、手元に置いておく予備のシート。同じ会社の同じ事業について数字が3種類あって、どれも嘘ではない。役割が違うだけなんです。ただ、その3種類をつくるのにも、突き合わせるのにも、誰かの時間が使われています。
Diggleは経営管理を「企業の未来を意思決定する営み」と定義している。数字が届くころには現場の状況が変わっている、という遅れの正体は、個人の能力の問題ではなく、数字の通り道の形が生んでいる遅れである。
取材内容等を基にFastGrowにて作成
計器盤をつくり直すこと自体は、成果ではない。決められるようになって、はじめて成果になる。つくり直す側に回ると、この仕事の見え方は変わる。表に出ない仕事ではなく、会社がどこへ動くかに、決まる前から触れる仕事になるのだ。
ただし、このつくり直しには厄介な性質がある。どこに何の数字を置くべきかの正解が、会社ごとに違うのだ。
「売上をいつ数えるか」すら、会社ごとに違う。
AIにも、標準の手順にも頼れない
では、その2カ月を、AIに詰めさせればいいのではないか。社内に散らばったExcelとメールを、すべてAIに読ませて整理させる。誰もが最初に思いつく発想だろう。
だが、それを邪魔するものがある。売上をどの時点で売上として数えるか。ものを渡したときか、相手がOKを出したときか、それとも使う期間で分けるか。どの商談を、受注しそうな案件として計画に入れるか。どの部署がその費用を負担するか。誰にどの数字を見せてよいか。これらはどれも、会社ごとに違う。会計のルールが許す幅の中で、その会社が長い時間をかけて決めてきた約束事だからだ。しかも、どこにも明文化されていないことのほうが多い。
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本田どれも、その会社が決めて、そのうえで何年も回してきたものなんです。だから外から「こっちが正しい」とは言いにくい。最初は「御社ではどう決めていますか」を、その会社の人に聞くところから始まります。社内のルールというのは、世界の標準ではないもののほうが多いんです。
金谷商社の中にも、子会社や事業がいくつもありましたから、その中だけでも数字の扱い方は多様でした。
日本の大企業には、こうした調整役として「経営企画」という部署が置かれていることが多い。ただし経済産業省の資料によれば、この部署はお金を動かす権限を持たず、役員会議の事務局と予算のとりまとめに追われがちだという。会社ごとにルールをつくり込んできたぶん、全社をまとめて通す仕組みが育ちにくい構造がある。
だから、さきほどの問いへの答えは「できない」になる。売上をいつ数えるかすら会社ごとに違い、その正解は会社の外にない。AIにも、標準化された手順にも、代わりに決めてもらえない。一社ごとに人が入って、何が問題なのかを定義し直すしかないのだ。
では、その「一社ごとに入って定義し直す」仕事を、いったい誰がやっているのか。
候補は多くない。コンサルティングファームに頼む手もある。だが、契約期間が終われば去っていく。何が本当の課題かを掴みきる前に、プロジェクトのほうが終わってしまう。かといって、社内の経営企画に任せきることもできない。前述の通り、この部署はお金を動かす権限を持たず、日々の調整業務に追われがちだ。
つまり、コンサルでも、社内の人材だけでも、AIでもない。外部の視点を持ちながら、腰を据えて中に入り続ける役割が、空白のまま残っている。Diggleが自分たちの仕事として置いているのは、まさにこの空白だ。
ただし、それはソフトウェアを納品して終わる話ではない。空白を埋めるのは、結局のところ人である。先に見た金谷氏の仕事──顧客の会社に入り込み、Excelに散らばった数字を一緒に整理し直す仕事は、まさにこの空白を、一社ずつ埋めていく作業そのものだ。
では、その空白を埋める仕事は、具体的に何をすることなのか。
役割は、問題ごとに変わる。
それが「あえて総合職」の意味だ
一社ごとに定義し直すとは、具体的には何をすることなのか。そして、どの職種の専門家になれば、それができるようになるのか。
その定義は、机の上ではできない。社長や役員は何を決めたいのか。現場はどうやって数字をつくっているのか。どこで情報が切れているのか。それを掴んだうえで仕事のやり方を変え、ときには組織のほうを動かす。顧客と話すのはセールスやカスタマーサクセスの領域だ。数字の持ち方を設計するのはプロダクトの領域である。組織を動かすのは、そのどちらでもない。一つの職種の内側に留まっていると、問題の半分しか触れないことになる。
Diggleが新卒採用で掲げる「あえて総合職」は、ここから来ている。配属先が決まっていないという意味ではなく、解くべき問題に応じて、自分が担う役割を変えるという意味の総合職である。
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本田職種で区切ると、問題の途中で担当が変わるんです。顧客の話を聞く人と、数字の持ち方を決める人が別だと、その間が抜けてしまう。だから総合職なんです。採用の都合ではなく、事業のほうが職種をまたぐ形をしている。
経験者だけでは足りないのか、と思うかもしれない。実際、Diggleにはすでに経験者が集まっている。ただ、いまの成長スピードは、経験者の採用だけでは追いつかないところまで来ている。
本田直近1年で、社員数が大きく増えました。組織はまだ、走りながら作っている状態です。入社1年未満で昇格した人もいます。半期ごとの評価なので、年齢に関係なく上がれる。経営メンバーがすぐ隣にいて、役員も自分で手を動かしています。
加えて、職種名でまだ自分を定義していない新卒のほうが、役割を変えること自体に身構えずに済む、という側面もある。本田氏自身、立教大学を卒業して2020年にRettyへ新卒入社し、データアナリストからプロダクトマネージャーへ。2022年8月にDiggleへ移り、2025年8月にVP of Productになった。3年である。いまは新規事業と人事の責任者も兼ねる。金谷氏は逆に、総合商社で9年を過ごしてから来た。
ただし、役割を変え続ける働き方は、本人の意思だけでは長く保たない。それを支える土台が、Diggleの内側にはある。
「高速で決めて、高速で直す」を、組織の掟にする。
Diggleの4つのバリュー
その土台の正体は、企業のバリューだ。企業のバリューは話半分に読まれがちだ。FastGrow編集部も、そのつもりで資料を読んでいた。だが、Diggleが掲げる4つのバリューを1つずつ確かめていくと、ここまで見てきた事業の構造と、驚くほど正確に対応していることに気づく。
高速考動(Think Fast, Act Fast)──小さいサイクルで高速に改善を繰り返す。先に見たとおり、会社ごとに正解が違う以上、最初から完璧な仕組みを設計することはできない。だから小さく試し、すぐ直す。本田氏がプロダクトマネージャーとして入社してから、わずか3年でVP of Productになったことも、この速度感が個人のキャリアにそのまま反映された結果だと見ることができる。
自学成長(Keep Learning)──学び続け、経験値を積み上げる。Diggle自身、新卒採用のページでこう言い切っている。「経験よりも、問いを立てられる人を求めています」。総合商社という畑違いの場所から移ってきた金谷氏を、Diggleが迷わず迎え入れたのも、経験の量より学ぶ力を評価するという、この価値観の裏返しだろう。
経済志向(Result Oriented)──大きな価値の提供は、大きな対価につながる。だから顧客に確かな価値を提供し続け、社会に適切な利益を生み出す循環を回す。先に触れた「ROICを上げるための自社株買い」は、この順序が逆になった姿である。価値を生まないまま数字だけを動かしても、対価は後からついてこない。「顧客の成功なくしてDiggleの成長はない」という言葉も、この延長線上にある。
誠心敬意(Integrity & Respect)──社会の一員として、守るべきモラルやルールを守る。誰に対しても何に対しても、真っ当に社会の一員として取り組む。他社の経営数字を預かる仕事である以上、ここは前提条件に近い。数字の裏取りに手間を惜しまないのも、真っ当に取り組むという意味では同じことだ。そのうえで、リスペクトを持って人と向き合う。
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4つのバリューは、それぞれ独立した標語ではない。速く決めて、学び、価値を生み、誠実であること。この4つが揃って初めて、一社ごとに定義し直すという地味な仕事が、組織として回り続ける。
このバリューの中で、実際に20代を過ごしてきたのが、金谷竜太郎氏と本田大晟氏の2人だ。
隣の20代と、自分で決めた回数が違った。
事業の大きさ÷働く人の数
役割を変え続ける場所と、そうでない場所と。20代のうちに、その2つでは何の差がつくのか。
金谷氏の就職活動の軸は、いまもほとんど変わっていない。「日本経済に貢献したい」。
金谷学生時代に海外へよく行く中で、日本はこのままだと廃れてしまうかもしれない、それは悔しい、なんとかしたいと思うようになりました。
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双日では新卒1年目からやりがいの強い仕事が続き、オーストラリア駐在では営業に加えて事業の数字の管理も任された。扱う範囲は広がっていった。それでも、安定と引き換えに、何かが見えなくなっていく感覚があったという。
金谷会社の看板で仕事をしている、という感覚がありました。景気が良ければ数字が伸びるし、悪ければ落ちる。自分がどれだけ寄与したのかが見えにくい。ほかの環境で力を試してみたい、そんな思いが強くなっていきました。
その感覚を変えたのが、駐在中に出会った、資源の大手企業から独立した起業家だった。「責任はあるけれど楽しい」という生き方に触れ、Sansanへ移る。担当は請求書クラウド『Bill One』の大企業向けセールス。「どこからどうやって商談を始めればいいのかわからない」というところから、1からのやり直しだった。
だが、この移籍でいちばん強く語ったのは、セールスの苦労話ではなかった。隣にいた20代のことだ。
金谷入ったとき、20代の若いメンバーが多くいました。私と同じようにセールスをして、同じようにPDCAを回している。ただ、もともと優秀だからというより、自分で判断して決断してアウトプットするという「打席」の経験数が、圧倒的に違うんだと感じたんです。
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なぜ、その差が生まれるのか。金谷氏によれば、原因は目標の置き方そのものにある。
金谷双日だと、業績はある程度、外部環境に依存します。だから予算を達成できないこと自体より、「これぐらいで着地します、なぜならこうです」という見通しの説明がまず重要で、ブレをなくすことに注力する構造になる。一方スタートアップは、目の前のお客様からいかに受注して、1年かけて積み上げ、目標を超えられるかにひたすら注力する。誰かに指摘されるより先に、じゃあどうしよう、と自分で考え行動する。その積み重ねが「打席」を増やすんだと思います。
段取りの経験値、決算書(損益計算書と貸借対照表)を読む力。そして人に会う経験──政府機関の会議、資源国の実業家、オーストラリアの鉱山オーナー。9年間で得たものは、金谷氏にとって決して小さくない。それでも、差がついていたのは能力ではなかった。自分で判断し、決断し、結果を引き受ける──その回数だった。
では、その回数、つまり打席の数は、何で決まるのか。1社目からずっとベンチャーにいる本田氏に聞くと、まず出たのは数字ではなく感想だった。
本田金谷の話を聞くと、本当に面白い。商社という現場は、私のキャリアのなかでは絶対に得られなかった経験が詰まっている。こんなに対極の世界観を持つメンバーがいるチームって、面白くないですか。
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そのうえで、本田氏は割り算を持ち出した。
本田大きい会社に行けば行くほど、事業の規模は大きい。ただ、そこに300人、400人いる。1人当たりで割ると、扱える規模は小さくなる。じゃあ小さい会社はどうかというと、5人の会社に行ったら、扱う総額そのものが小さい。割り算をすると、大企業と、いちばん小さい会社とで、1人当たりが扱えるビジネスの規模は、だいたい同じになるはずなんです。
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大手のほうが、大きな仕事ができる──冒頭に挙げたこの前提は、割り算をした瞬間に崩れる。そして本田氏は、Diggleではこの割り算そのものが狂っていると続けた。
本田私たちのような会社の今のフェーズでは、事業の規模があまりにも早く伸び続けているために、この割り算が合わなくなっている。1人が持てる仕事のサイズが、通常より大きくなっている。しかも私たちが扱うのはたいてい市場の変わり目なので、イージーモードではなくハードモードの状態で落ちてくる。
自分自身も、その理屈に乗って動いてきたのだと本田氏は笑う。
本田経営に近づけば近づくほど、扱える幅は当然広くなる。要は、幹事をやったら好きなお店に行けるようなものです。もちろん場をわきまえたうえでの話ですが、自分がオーナーシップを持ちたいと思ったから、そこを目指したというところがあると思います。
同じ理屈は、採用の現場にも表れている。
本田うちは、メンバーよりもマネージャーのほうが採用しやすいんです。なぜかというと、その課題に直面した経験がある人ほど、うちに入りたいと思ってくれるから。
会社の安定は、自分の安定ではない。1人が扱える仕事の大きさは、事業の規模をそこで働く人の数で割った答えで決まる。そして、1人あたりに回ってくる大きな仕事を実際に引き受けられるのは、役割が固定されていない総合職だからこそだ。役割を変え続けられる環境にいるかどうかが、20代のうちに積み上がる打席の数を、最後に分けている。
材料集めはAIがやる。決めるのは自分だ。
残り40年を、どこで始めるか
その打席で積んだ経験は、AIが当たり前になる時代にも、持ち運べるものなのか。本田氏は、まず自分自身の成長を振り返るところから答え始めた。
本田金谷と比べて、私が何で成長してきたかというと、経験学習、つまりやってみた結果から学ぶことでしかないと思います。打席が圧倒的に多かった。それをそれなりに活かせた結果として、うまくいった部分が大きい。
その経験学習こそが、AIと組み合わさると強くなる、と本田氏は続けた。
本田いまはAIが出たことで、経験から学ぶという学習の仕方の効き目が、何倍にもなっています。AIを使うことと経験学習は非常に相性がいい。だから、AIを使ってうまくいく仕事を、たくさんやったほうがいい。
取材内容等を基にFastGrowにて作成
ただし、本田氏はすぐに条件をつけた。どんな仕事でも打席になるわけではない、と。
本田商慣習や、Excelの書式が決まっている会社には、AIで解決できないものがあります。なぜなら、それは価値観だからです。「これは商慣習だから」で片付けられてしまうと、経験学習が効きにくい。しかもその社内のルールは、世界の標準ではないもののほうが多い。AIで効き目が何倍にもなるのは、そういう社内の作法の側ではなく、市場に対して向き合う本質的なことのほうだと思っています。だからこそ、どこに身を置くかがいちばん大事だと考えています。
これは、先に見た、会社ごとに違う約束事に関わる仕事そのものを否定する話ではない。その約束事を外から診断し、定義し直す仕事──まさにDiggleの仕事そのものは、会社をまたいで通用する普遍的なスキルになる。本田氏が退けているのは逆のパターンだ。1つの会社の中に閉じ、その会社の作法を「そういうものだから」と疑わずに受け入れ続けるだけの働き方には、AIを使っても積み上がっていく経験が生まれにくい、ということである。
同じ結論に、まったく違う経歴を歩んできた金谷氏もたどり着いていた。
金谷私たちが就職活動をした頃は、大手に行ければいい、という感覚がありました。でも今はそうではない。不確実性が高い。20代半ばにして、あと40年残っている。そうなると、どこへ行っても使えるポータブルなスキルを若いうちから身につけることの重要性は、たぶん強まっています。私は双日でなんとか頑張りましたが、結局そのポータブルなものがなくて、いろいろ苦労して、今なんとかやっています。
残り40年をどう使うか。この物差しで見たとき、日本経済を良くしたいなら大手や総合商社のほうがいいのではと考える学生に、金谷氏は何と言うか。取材の終盤、率直に聞いた。金谷氏は、少し考えてから答えた。
金谷やっていることは、大規模に見えて、かなり泥臭いんです。何百億というプロジェクトを、社内で何十人、何百人が関わって動かしているなかで、自分に回ってくるのは、その調整業務です。勉強になること、今でも活かされていることはもちろんたくさんある。けど、ずっとやり続けたいことかどうかは素直に問いたい。大規模とは言えない案件でも、手前の1件を、自分の頭をフル回転させて、自分の責任で取ったほうが嬉しいと思います。何百億のほうがインパクトは大きく見える。でも、そのインパクトと、自分が毎日1歩ずつ進んでいる感覚と、40年で見た時にどっちがいいと思うか。私だったら、そう問いかけます。
本田氏が、短く応じる。
本田その1歩を、何回踏めるか、ですよね。
金谷そう。結局、回数なんですよ。
残るものは、はっきりしている。材料を集める作業はAIが引き取る。だが、その材料を見て決めること、決めた結果から学ぶことは、人の側に残る。そして学ぶには、決めた回数が要る。
冒頭に挙げた3つの勘違いは、ここで同じ場所に行き着く。経営管理が扱うのは、ヒトとカネをどこへ動かすかという判断だった。AIが引き取るのは、その判断の手前にある材料集めだった。そして、その判断を自分で下せる回数は、どこで働くかで変わる。
正直に言う。取材を重ねるほど、この2人の対比の誠実さに驚かされた。金谷氏は大手で得たものを否定せず、本田氏は大手を見ておかなかったことを悔やんでいる。どちらも自分の選んだ道を、唯一の正解だとは言わない。断言よりも留保を選べる人たちが、いま同じ会社で、経営の材料を揃える仕事をしている。それを知って、FastGrow編集部はこの2人が語る「打席」という言葉を、素直に信じてよいと思った。
冒頭で触れた、日本企業の収益力の話に戻る。生み出した資金と人材をどこへ振り向けるか。その判断が遅く、根拠も乏しいところから、価値の目減りが生じていた。その判断を扱う打席の数は、会社の名前では決まらない。事業の規模を、人数で割った答えで決まる。その割り算が、いま合っていない場所がある。
その仕事に、新卒1期生として入る道が、いま開いている。
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こちらの記事は2026年10月22日に公開しており、
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