会話を“機能”単位から“価値/優先度”単位に変えたら、PdMからCxOへの道が見え始めた話【寄稿 Vol.01/03:ディグル株式会社VPoP本田】
※本記事はディグル株式会社VP of Product本田大晟氏による寄稿です
はじめに
こんにちは、ディグル株式会社でVP of Productをしている本田です。
今回、FastGrowさんで「VP/CxOになるには?」というテーマで連載の機会をいただきました。……と書いた時点で、自分でも少し居心地が悪い感覚があります。まだ成長途上のシリーズBのスタートアップのVPが、まるでキャリアの正解を語るかのようなテーマを掲げていいのだろうか、と。
なので、最初に三つだけスタンスを明確にさせてください。
1点目。VP/CxOというポジション自体を目指すことが目的になるべきではないと思っています。ポジションは結果としてついてくるものです。ただ、「いつかそこに届きたい」と野心を持っておくこと自体は、すごく大事なことだと思っています。一方で、「CxOになれないなら辞める」「VPの肩書がないと働きたくない」みたいな話は、正直あまり共感できません。
2点目。これから書くことは、あくまで私個人の事例です。正解を語っているわけではありません。環境も、強みも、タイミングも、人それぞれ違います。「こういうケースもあるんだな」くらいの距離感で読んでもらえるとありがたいです。
3点目。私自身、まだ道中にいます。何かを成し遂げて振り返っている話ではなく、一つの成長途上のスタートアップでVP of Productをやっている人間が、今この時点で考えていることを共有する。そういう記事だと思っていただければと思います。
「経営目線を持て」と言われたことがある人へ
「もっと経営目線を持ってほしい」
1on1でこう言われたことがある人は、少なくないのではないでしょうか。
自分なりに頑張っているのに、何が足りないのかがわからない。「経営目線」という言葉だけが宙に浮いて、具体的に何を変えればいいのか、誰もちゃんと教えてくれない。私自身もずっとこの言葉に引っかかっていました。
では、経営目線はどうすれば身につくのか。
その文脈でよく言われるのが「打席に立て」という言葉です。大事な場面に自分から出ていけ、と。それ自体は間違っていないと思います。ただ、私が振り返って感じるのは、打席に立った瞬間に何ができるかは、打席に立つ前の日常でほぼ決まっていたということです。
では、その「打席に立つ前の日常」とは何だったのか。私の場合、それは常に一つ上のレイヤーを意識して行動し続けることでした。
最短距離で"経営目線"に至ろうとするのではなく、まずは一つ上のレイヤーの視点で着実に信頼を積み上げていくことが重要です。
一つ上のレイヤーを意識するということ
「一つ上のレイヤーを意識しろ」
これもよく聞く話だと思います。ただ、具体的にどういうことなのか、あまり語られていない気がしています。
大前提として、自分の役割で結果を出し、信頼を積むこと。これはベースラインです。ここが中途半端な人間が「事業全体を見たい」と言っても、やっぱり説得力がない。まず足元を固める。これは当たり前の話なので、あまり深くは触れません。
私が本当に大事だったと感じているのは、その上で常に一つ上のレイヤーだったらどう考えるかを意識して行動・発言し続けることです。
具体的にどういうことか。
私はディグル株式会社にPdMとしてジョインしました。「Diggle予実管理」という一つのプロダクトを担当するPdMです。特定の機能の要件定義やデリバリーまで責任を負う立場になるので、普通にやっていれば、日々の会話は「この機能って……」と機能単位の話から始まります。でも私は、上長と話す時に意識的に会話の入り方を変えるようにしていました。
「全体の優先度と戦略ってこうだと思っていて、その上でこの機能の価値ってこうしていくといいと思うんですが、どうですか?」
つまり、一つのファンクションのPdMでありながら、PO(プロダクトオーナー)だったらどう判断するかという目線を持った上で会話をする。自分の担当領域の話であっても、プロダクト全体の文脈の中に位置づけて話す。ただ報告するのではなく、一つ上のレイヤーの視点を持って提案する形でコミュニケーションを取るということです。
ただし、ここでは2点、大事な条件があります。
1点目は、あくまで自分のメインタスクをちゃんと完遂するための着地になっていること。戦略論やそもそも論だけ展開して、目の前の仕事が進まないのでは意味がありません。一つ上の目線を持ちつつも、それを自分の具体的な行動に落とし込むところまでがセットです。
2点目は、対案・提案を必ず出すこと。「こうした方がいいんじゃないですか」と言うなら、ネクストアクションまで提案する。それができないのであれば、正直、言われた通りやる方がまだマシだと思っています。上の目線で意見を言うこと自体が目的ではなくて、それを具体的な行動提案に変換できるかどうかが問われていると感じます。
この2点を押さえた上で、一つ上の目線でのコミュニケーションを繰り返すことで、上長との会話の質が変わっていきます。単なる報連相ではなく、同じ目線で議論できるようになる。そして、その議論の中から自分がやるべきことがより明確に見えてきて、自分の行動に落としていく。
やがてPOの役割を担うようになると、今度はVP of Productだったらどう考えるかを意識するようになりました。プロダクトだけではなく、事業全体の中でプロダクト組織はどういう貢献をすべきなのか。他のファンクションが抱えている課題に対して、自分たちに何ができるのか。
ディグル株式会社における役割の違いイメージ
*……ディグル株式会社ではプロダクト組織をミッション単位で構成しています。各ミッションごとにPO・PdM・エンジニア・デザイナーが一つのチームとして動く、クロスファンクショナル(部門横断型)の組織体制になっています。
これは意識的に「上を目指そう」と気合を入れてやっていたというよりも、一つ上の目線でコミュニケーションを取り続けることが習慣になっていった、という方が正確です。
その延長線上にあった、GTMプロジェクトへの関与
VPレイヤーの目線で事業全体を見るようになると、自然と自組織の外にある課題にも目が向くようになります。私の場合、あるGTM(Go-To-Market)プロジェクトへの関与が、その延長線上にありました。
事業全体の議論に参加する中で、特定のターゲットに対する商談獲得が事業のボトルネックになっていることが見えてきました。
そのGTMプロジェクトの責任者はセールスとしては非常に強い方でした。ただ、マーケティングやインサイドセールス(IS)的な手法を組み合わせて商談を作りにいくような動きは、必ずしも得意領域ではなかった。社内にもその領域の知見はほとんどありませんでした。
ここがまさに、一つ上のレイヤーを意識し続けてきた結果が表れた瞬間だったと思います。VPレイヤーの目線で事業を見ていたからこそ、このボトルネックに気づけたのだと思っています。そして、自分のデータ分析のバックグラウンド、すなわち「問題を理解し、課題仮説を立て、ソリューションを検討し、実行するサイクルを回す力」がここに活きると判断しました。
上長に「ここ、自分がやれる気がするんですよね」と相談しました。ちょうどプロダクト側が少し落ち着いていたタイミングだったこともあり、わりとすんなりGOが出ました。大きなドラマがあったわけではありません。根拠を持って提案すれば、意外と通る。それが実際のところでした。
「便利屋」と何が違うのか
こう書くと、「それって結局、プロダクト以外の仕事も引き受けただけでは?」と思われるかもしれません。
確かに、他者から見ると同じ行動に見えるかもしれません。ただ、「頼まれたからやる」「人手が足りないから手伝う」、これは便利屋であって、経営に近づく動きではないと思っています。
大事なのは、事業のどこにレバレッジがかかるかを自分で考えた上で、自分の強みが刺さるポイントを見極めて、主体的に動くことです。「ボトルネックはここだ」「自分のこの強みが活きるはずだ」と、自分で判断して飛び込むことと、言われたから手伝うことは、本質的にはまったく違うものだと感じています。
そしてもう一つ。外に出ている間も、本来の自組織での仕事で期待を上回り続けることは絶対に必要です。「外のことばかりやって、本業がおろそかになっている」と思われた瞬間に、せっかく積み上げた信頼が崩れます。ここのバランスは、正直、常に緊張感があります。
実は、PdMの仕事とそんなに遠くなかった
実際にGTMプロジェクトでやったことは、データを整理して現実的な商談獲得目標を仮置きで立てるところからでした。次に、商談ターゲットの解像度を上げるために外部インタビューを行い、そこで得た示唆をもとにターゲットに刺さるコンテンツ(セミナーや事例記事)を作り、それがトークに落とし込まれるようにISと連携する。展示会への出展も行いました。
書き出してみると、プロダクト開発とはまったく違う領域の仕事に見えるかもしれません。でも実は、PdMとしてやってきたこととそんなに遠くなかったというのが正直な感覚です。ターゲットの解像度を上げるためにインタビューをするのは、顧客理解のために普段からやっていたことですし、刺さるコンテンツを作ってISと連携するのは、プロダクトの価値を言語化して届けるという動きの延長線上にある。
まったく新しいスキルが必要だったわけではなく、自分がPdMとして持っていた力を、違う場所に持っていった。これは便利屋的に「何でもやります」と引き受けたのとは違います。自分の強みがレバレッジを効かせられる場所を見極めた上で、飛び込んだということです。
三つの「運」と、それを掴めた理由
とはいえ、振り返ると、このプロジェクトには三つの幸運な要素があったと思っています。
一つ目は、結果がわかりやすく出るプロジェクトだったこと。商談数という明確な指標がありました。二つ目は、自分の強みが活きる領域だったこと。データ分析のバックグラウンドが直接的に役立ちました。三つ目は、事業にとって本当に大事なプロジェクトだったこと。つまり、成果が正当に評価される構造になっていました。
この三つが揃っていたのは、正直、運が良かったと思っています。ここを美化するつもりはありません。
ただ、その運を「掴めた」のは運ではなかったとも思っています。PdMの頃からPOの目線で、POになってからはVPの目線で、常に一つ上を意識してコミュニケーションを取り続けてきた。その積み重ねがなければ、そもそもボトルネックの存在にも気づけなかったし、「自分がやる」という選択肢も生まれなかったのではないかと思います。
外に出てみて、何が変わったのか
では、このGTMプロジェクトを経て、何が変わったのか。
正直に言うと、やっていること自体はあまり変わりませんでした。問題を設定し、仮説を立て、実行する。そのサイクルは、プロダクト開発でもGTMでも本質的には同じだと感じました。
ただ、見える景色は明らかに変わりました。
プロダクト開発をやっていると、どうしても半年単位で物事を考えることが多くなります。一方で、商談獲得はすぐに結果が出るものもあれば、半年先を見据えた仕込みが必要なものもある。この時間軸の違いを、頭ではなく体で理解できたことは大きかったです。
何より変わったのは、事業全体を議論する場での自分の振る舞いでした。複数の役割の時間軸や力学を体感しているからこそ、いろんな立場の人の目線に立って議論に入れるようになった。「プロダクト側の人間が言う意見」ではなく、事業全体の文脈を踏まえた論点を提起できるようになった。
これが「経営目線」と呼ばれるものの実態ではないかと、私は今のところ感じています。もちろん、まだわからないことだらけです。でも、あの時プロダクト開発の外に出てみたことが、確実に今の自分の動き方を変えていると実感しています。
そして振り返ると、その「外に出る」という行動自体が、PdMの頃からずっと一つ上のレイヤーを意識し続けてきた延長線上にあったのだと思います。経営目線は、ある日突然身につくものではない。日常の中で少しだけ上を意識し続けた先に、気づいたら立っている場所なのかもしれません。
こちらの記事は2026年06月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
連載【寄稿連載】VP/CxOになる方法
1記事 | 最終更新 2026.06.22おすすめの関連記事
【ベンチャーキーパーソン名鑑】BizDev編 Vol.34:アムール株式会社 沖野耕基氏
- アムール株式会社 代表取締役
Preferred Networksに異能のプロ達が集う3つの理由──元メルカリ小野氏らを引き寄せた技術・社会的信頼の実態を大解剖
【ベンチャーキーパーソン名鑑】BizDev編 Vol.33:NEL株式会社 萬寧々氏
- NEL株式会社 osina事業部 部長
【ベンチャーキーパーソン名鑑】HR責任者編 Vol.10:株式会社パートナーズ 清家良太氏
- 株式会社パートナーズ 最高人事責任者 CHRO
【ベンチャーキーパーソン名鑑】CTO編 Vol.2:株式会社ソラジマ 持田 章弘氏
- 株式会社ソラジマ CTO室・クリエイターエコシステム部 / CTO
【ベンチャーキーパーソン名鑑】BizDev編 Vol.35:talentbook株式会社 白水 彰一氏
- talentbook株式会社 執行役員 兼 営業開発本部長
【ベンチャーキーパーソン名鑑】BizDev編 Vol.36:株式会社ソルブレイン 注連内 翔太氏
- 株式会社ソルブレイン ビジネスディベロップメントDiv. / おうちキャンバス事業責任者
【ベンチャーキーパーソン名鑑】PdM編 Vol.14:株式会社Neautech 田 京寧氏
- 株式会社Neautech ANS事業部 プロダクトマネージャー/開発PM