連載【寄稿連載】VP/CxOになる方法

大きなテーマは「重要なところから」では動かない。VPoPが変えた「掴み方」と「触る順番」【寄稿 Vol.03/03:ディグル株式会社VPoP本田】

寄稿者
本田 大晟

立教大学経済学部卒業後、Retty株式会社に新卒入社。入社当初はデータアナリストとしてプロダクト・ビジネス両面の意思決定支援に従事したのち、BtoB向けプロダクトのプロダクトマネージャーを担当。 2022年8月よりディグル株式会社にPdMとして入社。2024年7月にPdM/デザイン組織を統括し、2025年8月よりVP of Productに就任。

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※本記事はディグル株式会社VP of Product本田大晟氏による寄稿です

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はじめに

こんにちは、ディグル株式会社でVP of Productをしている本田です。

連載第2回は、誰の担当でもない問題を定義して解く、という話でした。第2回の締めで書いたように、その問題を解き進めていくと避けては通れない「AともBとも言い切れない判断」と「数値という結果」について今回お話ししていきます。

経営を目指す上では、「大きなテーマ」に向き合い、AともBとも言い切れない判断を積み重ねながら、数値として示せる成果を残すことは必ず必要になるでしょう。

しかし大きなテーマを任されたのに、なかなか動かない。方向は間違っていないはずで、分解もして、重要そうなところから手をつけている。それでも半年経っても手応えがなく、報告の場では市場環境や他部署の事情を説明している。言っていることは嘘ではないが、言い終わった後に妙な後味が残る。そんな経験はないでしょうか。

私も同じことをしていました。そして長いあいだ、これは自分の詰めが甘いせいだと思っていました。もっと丁寧に分解して、もっと優先度を詰めればいい、と。

ただ、どうもそういうことでもないみたいだ、と最近は感じています。詰めの問題というより、掴み方と、触る順番の問題だったのではないか。

なので前半では、私が実践していることを3つ書きます。①要望も数字も粒度を落としてから扱う、②循環を図にして連鎖する1点を探す、③戻せるかではなく次があるかで触る順番を決める、の3つです。これが「言い切れない判断」への、今の私の答えです。ただ、この3つを回しても、結果が返ってくるまでが遠いという問題が残ります。後半では、そこにどう向き合っているかという「数値という結果」の話を書きます。

ポジション自体を目指すのは違うと思っていますが、野心を持つことは大事だと思っています。ここに書くのも私個人の事例で、正解ではありません。私自身まだ道中にいるので、整理しきれていないところはそのまま出します。

こんな方に読んでいただければ嬉しいです。

  • 大きなテーマや新規領域を任されたものの、動かせている実感がない方
  • 「重要なところから」で進めてきたのに、手応えが薄いと感じている方
  • 成果が返ってくるまでが長い仕事と、どう向き合えばいいか悩んでいる方
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大きいものは、大きいままだと動かない

第1回はGTM(Go-to-Market)プロジェクト、第2回はHR領域の話で、どちらも実はPdMの仕事と地続きだった、と書いています。ただ、大きなテーマに取り組むことは正直、地続きだとは言えませんでした。

プロダクトの意思決定にも大きいものはあります。ただ多くは自分たちの手の中に閉じていて、仕様も優先度もリリース時期も、最後は自分たちで決められます。しかし事業として大きなテーマを持つと、決められない変数のほうが多くなります。市場も、顧客の意思決定のサイクルも、他部署の事情も、こちらの都合では動きません。しかも結果が返ってくるまでが長い。

要するに、大きなものを大きなまま動かそうとしていたのだと思います。

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①要望や数字の掴み方:粒度を落とそう

「動かせない」と感じたとき、対象が本当に動かないというより、自分の掴み方が粗かっただけ、ということが私にはよくあります。

今私は設備投資管理という領域で新規事業の立ち上げも担当していて、商談やインタビューの内容を持ち寄る夕会をやっています。ある日、3社分を並べたら、要望がどれも同じ言葉になっていました。「長期で投資対効果を見たい」。

同じことを言っているように見えるので、そのまま解こうとすると1つの機能要件になります。ところが1社ずつ掘っていくと、1社目は投資を実行するかどうかの判断そのもの、2社目は投資が決まった後の見込み管理、3社目は終わった投資の事後分析でした。同じ日本語で、求めているものが全部違ったんです。

「長期で投資対効果を見たい」の中身(3社)
会社 要望 掘って見えた本当のニーズ
A社 長期で投資対効果を見たい 投資を実行するかどうかを判断したい
B社 長期で投資対効果を見たい 投資決定後の変動見込を管理したい
C社 長期で投資対効果を見たい 投資実行後の分析をしたい

それ以来、粒度の粗い要望は、その粒度のままでは解かないようにしています。大きく掴むと動かないのですが、切り分けると動き出す感覚があります。

同じことが数字の側でも起きます。例えば「受注数を増やす」という目標だけでは粒度が荒くどう動いていいかわかりません。「受注数」を「商談数」や「受注率」など、その数字を構成する要素ひとつひとつに分解して考える必要があります。分解したうえで、短期では動かない受注率と受注リードタイムは定数として固定し、動かせる商談数に絞ります。動かせないものを確定させるのは、諦めというより変数を減らす作業だと思っています。

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②最初に触るもの:連鎖の起点を探す

では、切り分けた要素に対して、どこから取り組んでいくべきか。私は重要な順に手をつければいいと最初は考えていました。分解した要素を並べて、重要だと思う順に着手する。ただ、この形だと結局は全部やることになりますし、個々の施策は正しいのに全体は動かない、という状態が続きました。

重要なところから手をつけるのは、間違いではないと思っています。単独で存在する問題なら、重要度の順に力を入れるのが正しい。ただ、大きなテーマが動かないときは、重要なところと、動かすと連鎖するところがズレていることが多いように感じています。

そこで今やっているのは、要素を並べるのをやめて、何と何が循環しているかを図にしてみることです。導入事例が増えると商談の質が上がる。質が上がると受注が増える。受注が増えると事例が増える。こういう輪がいくつか回っていて、その中に、動かすと他が連鎖する1点があります。ボウリングでいうセンターピンのようなものだと思っています。頭の中でやろうとせず、一度図に描いてみるのがおすすめです。描いてみると「ここが詰まっているから、他が全部止まっているのか」という見え方になります。

社内で別の領域の新規事業立ち上げをやってきた人と1on1で話していたとき、立ち上げ期をこう振り返っていました。いろいろ試した末に、効いたのは導入事例だった。最初からそこを狙ったわけではない、と。「どういうルールで勝敗が決まるゲームなのかを見つける作業だった」という言い方をしていて、なるほどと思いました。

同時に、困りました。後から見ればセンターピンだった、では、これから決める人間には使えないからです。

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③触る順番:常に“次”から逆算

センターピンを一発で見抜けないなら、何度も試せる場所から触ればいい。順番の基準はそこに置いています。

可逆かどうかは、元に戻せるかではなく、失敗しても次があるかで決まると思っています。完全に元通りにできる打ち手はほとんどないので、外したときにもう一度打てるかどうかで見ています。候補の打ち手が並んだら、重要度ではなくこの基準で順番を入れ替えてみてください。

正直に言うと、これは自分の判断から学んだものではありません。他人の意思決定を眺めながら貯めていた考え方です。

以前、ある上場企業が複数プロダクトのブランドを統合するかどうかを議論しているのを、外から見ていたことがあります。当事者ではないので事情はわかりません。ただ、すでに名前が知られている会社にとって、ブランドを動かす判断は戻せないんだな、と思いました。影響範囲が大きいほど、可逆性は下がります。

同時に、その裏側も見えました。まだ知られていないということは、選べる手がそれだけ多いということでもあります。無名であることを弱みとしてだけ数えていましたが、可逆性という軸で見ると、資産の側に置き直せる気がしています。

第2回で、原理は他人の事象を見ているときに貯まって、自分の番が来たときに使われる、と書きました。これはまさにその形で出てきたものです。

私の中では2階建てになっています。センターピンがどこを狙うかで、可逆性がどこから触るか。

この2つは並列ではないようです。可逆なところから触るから試行回数が確保できて、試行回数があるから何が何に連鎖するのかがわかってくる。センターピンは見抜くものというより、触っているうちに見えてくるものなのかもしれません。

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大きなテーマほど、結果が返ってくるのが遠い

ここまでの3つで、どこをどの順番で触るかは決められるようになりました。ここからが後半です。触ってからデータが返ってくるまでが、とにかく遠い。そして遠いほど、自分を騙しやすくなると感じています。

第1回で、商談獲得には、その場で結果が出るものと、半年先に効いてくる仕込みがある、と書きました。この時間軸の違いを体で理解できたことが、自分にとっては大きかったです。

「視座を上げろ」ともよく言われます。これもよく聞く話だと思うのですが、視座の高さというのは、実質、扱っている時間軸の長さで測られているんじゃないかと思っています。

逆側もあります。時間軸の短い仕事は、きちんと成果を出していても、経営から見るとバリューが小さいと評価されることがあります。理不尽に感じる瞬間です。ただ、長い時間軸の仕事は勝手には回ってこないというのも実感としてあって、短い時間軸で積み上げた信頼が入場券になっているのだと思います。

書きながら気づいたのですが、この連載は3回とも同じ構造の話をしていました。足元で信頼を積んだ上で一つ上のレイヤーの話をする。本業をやりきれていないなら外の問題は拾わない。短期の成果が長期の仕事の入場券になる。角度を変えて、同じことを3回書いていたようです。

そして、この領域には一番便利な言葉が待っています。「定性的には意味がある」。使ったことはないでしょうか。私は何度もあります。

長期の仕事は途中で数値の成果を出せないので、この言葉はいつ使っても正しく響きます。厄介なのは、本当に長期だからまだ見えないのか、単に効いていないのかが、外から区別できないことです。外から区別できないなら、自分でも区別できません。だから私は、この言葉を使いたくなった瞬間を警戒信号として扱うようにしています。

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途中経過の指標を、自分から先に出す

では、途中で何を見ればいいのか。

正解を当てにいくのではなく、自分を騙さない条件を先に置いておく、というのが今やっていることです。やり方はこの3ステップです。

  • 最終成果の途中経過を代理で測る「手前指標」を自分で定義する
  • その指標を、聞かれる前に自分から関係者に説明する
  • 手前指標をチェックポイントにして、返ってきた情報で次を設計する

まず、手前指標の定義です。ここを定義できるかどうかに一番差が出ると思っていて、最終成果と相関がなければただの作業量になりますし、細かすぎると意味を失います。

次に、置いた手前指標を自分から関係者に説明します。自分の中だけで持っている指標は、解釈をいくらでも歪められてしまうのですが、先に外に出した瞬間に逃げ道が塞がります。 私はこれがコミットメントの実体だと思っています。宣言や決意表明は要らなくて、評価される条件を先に置くことが宣言の代わりになる、という感覚です。

新規事業では、商談数を手前指標に置きました。しばらく追って返ってきたのは、受注ではありませんでした。質の良い商談と悪い商談の区別と、どこまで数を追えるのかというアッパー(上限)です。商談数という量の指標を追っていたら、②で書いた「商談の質」という循環を構成する一点に、たどり着いた形です。

アッパーがわかったということは、新しい定数が1つ確定したということです。定数が確定したので、次はファネルのどこを改善するかを設計できるようになりました。手前指標を置いて動かすことは、①で書いた変数を1つずつ定数に変えていく作業そのものだったんだな、というのが今の理解です。

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正しさは、決める前にはわからない

正直、決める前に正解がわかったことはありません。

私はこの領域で大きく外した経験がないのですが、それは見立てが良かったからではなく、外れようのない置き方をしていたから、という面が大きいと思っています。

商談数を手前指標に置いたのも、当てにいったわけではなくて、まだ何もわかっていなかったからです。良い商談の定義も、数の上限も未知でした。動かせるものを動かして、返ってくる情報のほうを取りにいっただけ、とも言えます。手前指標は的中させるものではなく、未知を既知に変えるために置くものなのかもしれません。

それでも、引っかかっていることが1つ残っています。可逆性を理由に慎重に進めることと、単に怖くて決めないことは、外形が区別できません。可逆なところから触っている、と言えば、いくらでも先延ばしができてしまいます。自分がどちらだったのか、今も言い切れていません。

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おわりに

大きなテーマに取り組む時に私がやっているのは、この4つです。

  • 動かせるものと動かせないものを分けて、粒度を落とす
  • 循環を図にして、動かすと連鎖する1点を探す
  • 戻せるかではなく、次があるかで触る順番を決める
  • 途中経過の指標を置いて、自分から先に外に出す

総論としては「大きいものは小さく分けて、動かせるところから動かす」という当たり前の話です。ただ、その順番をどう決めているかまで書いてみると、少しは具体的になるかなと思って書きました。

そしてこれは、結局スキルの話ではなかったのだと思います。第1回で一つ上のレイヤーの話をし続けたのは、まだ責任を負っていない範囲に先にコミットしていたということでした。第2回で誰の担当でもない問題を拾ったのは、誰も引き受けていない結果責任に手を挙げたということでした。

連載タイトルの問いに一度戻ります。VP/CxOになるにはどうすればいいのか。役職を得てからコミットするのではなく、コミットしている人に役職のほうが追いついてくる。 少なくとも私の場合はそうだったな、と振り返って思います。

3回お付き合いいただき、ありがとうございました。この連載が、大きなテーマの前で足が止まっている方のヒントになれば嬉しいです。

こちらの記事は2026年11月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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