INTERVIEW
後藤 英紀
17-09-13-Wed

【ドリコムCFO 後藤】
元外資系バンカーイチオシの、
“仕事の基本”を綴った時代小説とは?

TEXT BY FastGrow Editorial

「ビジネス書はまず読まない」と語る株式会社ドリコム取締役・CFO 後藤英紀。

しかし彼にも、キャリアに影響を与えた2つの本があった。

それは遺伝子論を大衆向けに解説した『利己的な遺伝子』、
生真面目な商人道を説いた時代小説『銀二貫』である。

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演繹的なアプローチを教えてくれた『利己的な遺伝子』

後藤ビジネス書は基本読まないですよ。そういう習慣が身につかなかったんです。

多分、他の人もそうだと思うんですが、我々の世代の投資銀行系の人達はほとんどビジネス書を読まなかった。たぶん、顧客や同僚との会話でおなかいっぱいになっちゃうんだと思います。

新しい事柄を整理するために読むことはありましたが、それ以外ではなかったですね。ただ、ファイナンスなどの専門書は必要に応じて読みますよ。

そんなわけで“らしい”おすすめをあげることは難しいのですが、これまでで印象に残っている本が2冊あります。その本の1つが 『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス、紀伊國屋書店)。私が大和総研に新卒入社し、駆け出しのアナリストとして働いていた時に読んだ本です。

著者のリチャード・ドーキンスは、「生物は遺伝子によって利用される"乗り物"に過ぎない」と言うほど強烈な遺伝子中心視点を提唱した人物。彼の視点は新しく、様々な議論を引き起こしました。

中心となる考えは、「すべての生物は遺伝子が住むための生存機械(Survival Machine)だ」ということ。

生物の行動や進化は、遺伝子が持つ進化的安定戦略(Evolutionarily Stable Strategy―ESS)に沿った結果と説明されていますが、この着眼点は帰納的な考えだけでは生まれない。だからこそ彼の思想は、演繹的なアプローチをすれば新しい発想が生まれると教えてくれるんです。

この本のおかげで、マクロ的に物事を俯瞰することを覚え、人とは違った視点で面白いものの見方ができるようになりました。

例えば、この本を読んだ後、1996年夏にインターネットに関するレポートを書いてWEBで公開した時には色々なところで話題になりました。英訳版をアメリカで発行もしたのですが、本家とも言える西海岸からも好評をいただきました。

リサーチャーとして俯瞰的に状況を捉えることで世の中で面白いことが起こり始めていると実感でき、きちんと調べてレポートとして世に問う勇気というか勢いを持つことができていたからかもしれません。

ただ、世の中で起きている歴史的なパラダイムシフトに気づいてしまったので、大和総研を飛び出すことを決意しました。

その頃はテクノロジー産業、企業が勢いを持ち、一般に広がっていく時で、名立たる経営者だけでなく、BSD UNIXのビル・ジョイ氏、GNUのリチャード・ストールマン氏とか、新しい時代の礎を築いてきた方々が表舞台にいて、今では神格化されているほどの人物から直接話を聞ける刺激的な時代だったんです。

そんな時代の変曲点ともいえるエキサイティングな時だったので、テクノロジーにより近く、大企業よりもっと小さな自由闊達な場所に身を置きたいと思ったのです。

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5人で始めたリサーチ・コンサルディングビジネスに限界を感じ、投資銀行へ

そして、インターネットやテクノロジー関連のリサーチをきっかけに知遇を得た、ガートナーグループの日本市場を担っていた会社に転職しました。今も注目を集めるガートナーの“ハイプ・サイクル”や“マジック・クアドラント”は、わたしが働いている当時からガートナーの切り札でしたね。

その後その会社はガートナーとの契約を更新せず、5人のメンバーで新たにアメリカのパートナー企業と提携して、テクノロジー系のリサーチ・コンサルティング事業をはじめました。

結果として2000年にこの会社を辞めるので3年という短い時間ではありましたが、非常に面白く刺激的な日々でした。オフィスを探すことから始まり、プロダクトをカタチにしていく。

リサーチとかコンサルティングの仕事って非定型でカスタムメイドなプロダクトなわけですが、これを部分的に定型化して量販できないかという挑戦でした。

ただ、結果として私自身は力及ばず「人×時間」の呪縛から逃れることができなかった。この挑戦に疲れたというのがホンネですかね。

で、ドイツ銀行にテクノロジー分野のリサーチアナリストとして転職しました。

ドイツ銀行に、というと突飛な印象だと思いますが、私自身はドイツ銀行というよりその傘下におさまったアメリカ最古参の投資銀行アレックスブラウンを以前から尊敬していたというか憧れていたんです。

マイクロソフトやオラクルが代表例かもしれませんが、名立たるテクノロジー企業のIPO時に目にする投資銀行だったのです。そのテクノロジー分野での強みを活かして日本支社を拡大させていくことに非常に興味を持ちました。

当時、2000年から6年連続で日経金融新聞の総合アナリストランキングで1位だった佐藤文昭さんがリサーチ部門のヘッドで、有能な若手アナリストを率いているという状況で、組織も非常に勢いがありました。

この時期、日経金融新聞やInstitutional Investor誌などのランキングで、外資系で最も評価されたリサーチ部門だったと記憶しています。

こんな場所だったので楽しく面白いのですが同僚との差別化もたいへんなわけです。そんななか、2002年の底値でソフトバンク株の「買い」だとか、2004年春先にインターネットの勢い鈍化を指摘できたりしたのも、『利己的な遺伝子』で得たことが活きたのかもしれませんね。

そういった面白い環境に2000年から身を投じ、私自身もアナリストランキングで部門1位などの評価をいただきましたが、2006年に同じドイツ銀行の投資銀行部門に異動することになりました。

当時ソフトバンク株式会社によるボーダフォン株式会社の買収の際に、ソフトバンク側のアドバイザーを務めるなど、ドイツ銀行は着実に日本で実績をあげていた。

また、通信・メディア・テクノロジー(TMT)分野の成長に合わせて、高度で複雑なニーズが多くなってきたこともあり、投資銀行部門でテクノロジーチームを再編することになったんです。

そして、社内からの誘いでインベストメントバンカーに転じたわけです。

ただ、皆さん御存知の通り、サブプライムローン問題を契機に、投資銀行も2007年くらいから風向きが悪くなるんです。複数の半導体関連のM&A案件に関わることができましたが、ワクワクするような仕事も減ってきて、自分の成長曲線が緩やかになるなと感じはじめました。

その時ちょうど40歳を過ぎたぐらいということもあり、楽しくないことに時間を使ってる余裕もないな、とも思っていました。

結局2008年初にドイツ銀行を退職し、長年の親友が経営する飲食関連会社を手伝うことにしました。

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友人の飲食店経営を手伝っていて出会った『銀二貫』

その飲食関連会社は、多店舗展開し売上高もそこそこの規模になっており、IPO準備の前段階という状況でした。ただ、サブプライムローン問題に続くリーマンショックは予想以上に深く、結果的にはIPOどころか債務整理を手伝うことになったわけです。

しかし今思えば極めて貴重な得難い経験でした。借入返済のリスケ交渉をしたり、スポンサーを付けてDIPファイナンスを行ったりと。会社を関わる法律も必要に迫られ学びました。

この時に読んだのが、もう1冊の印象的な本、『銀二貫』(髙田郁、幻冬舎)です。仇討ちで父を亡くした主人公・松吉が、偶然居合わせた寒天問屋の主人・和助に銀二貫で救われ、商人としての道を歩み成長していく時代小説。

親友の飲食店を手伝うまで、私は金融とはいえ株式中心の仕事をしてきたので、銀行とのコミュニケーションの経験はありません。

だんだんとわかってきたのは、「悪い話は先にする」、「話を膨らませない」、「嘘をつかない」といった極々基本的なコミュニケーションの積み重ねが大事だということ。つまり、誠実に信頼関係を築いていくことという極めて当たり前なことです。

そういった地道なことの積み重ねの大切さが、商人のあり方を通してこの本では描かれている。直面する現実がある分生々しく感じるところもあったと思います。

誰にも直面する困難な現実があってそれに真摯に誠実に向き合えるのか、向き合う勇気をもらうという点でも、特に若い人に読んでほしい話ですね。

現在ドリコムでCFOとして働く上でも、このときの経験は活かされています。

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人や仕事に誠実であること。今でも活かされている『銀二貫』の教え

ドリコム代表の内藤とは、私がドイツ銀行で働いていたころからの付き合いです。株式上場した2006年の彼は、正直なところ地に足がついていないなと感じるところもあったんです。

が、2010年に久しぶり再会した際にはずいぶん変わっていました。株式上場後に色々な苦難を経て、ドリコムも彼自身も大きく変わったのだと思いました。

(左)『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス、紀伊國屋書店)
(右)『銀二貫』(髙田郁、幻冬舎)

友人の会社で私が手伝える仕事がなくなったこともあり、2010年にドリコム参画を決断しました。

私の業務範囲でいうと、ドリコムは複数の大手行と取引し、今年7月には25億円のシンジケートローンを組むなど、この規模の会社では前例がないことを実現できています。

また、先の2月にはマザーズ上場企業として例を見ない公募増資も行えました。これらは、ドリコムが銀行、投資家の方々を含む多くのステークホルダーの方々と真摯、かつ誠実なコミュニケーションを重ねてきたことを評価いただけた結果だと思っています。

金融機関や投資家の方々だけでなく、事業を行う、仕事をすすめる上でその基礎となる信頼関係を築くというのは、地道な日々の積み重ねで、『銀二貫』で描かれているような仕事に対する矜持を持った誠実な姿勢が大切なんです。

会社同士の信頼関係っていうのは、担当者同士の信頼関係から始まります。さらに、その前段には同僚との信頼関係があって、より良い提案やプロダクトが生まれうるわけですよね。

[文]FastGrow編集部

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