「労働集約」型産業の変革こそ、日本再生の最適解──“食”のオイシックスと“介護”のヤマシタTOP対談。AIを駆使した産業DXの最前線に迫る

登壇者
髙島 宏平
  • オイシックス・ラ・大地株式会社 代表取締役社長 

東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了後、マッキンゼー日本支社勤務を経て、オイシックス株式会社を設立。2013年東証マザーズに上場。2018年に経営統合を実現し、食材宅配3ブランドを擁するオイシックス・ラ・大地株式会社代表取締役社長に就任。同社は2020年に東証第一部(現プライム市場)へ指定替えとなる。ほか2007年、世界経済フォーラムYoung Global Leadersに選出。2018年からは一般社団法人日本車いすラグビー連盟 理事長に就任し、経済界からパラスポーツを支援。EY Entrepreneur Of the Year日本代表。公益社団法人経済同友会 副代表幹事など

山下 和洋
  • 株式会社ヤマシタ 代表取締役社長 

東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、2010年株式会社ヤマシタコーポレーション入社。2013年代表取締役専務を経て、同年代表取締役社長に就任。東京商工会議所 1号議員、一般社団法人日本リネンサプライ協会 理事、一般社団法人 日本福祉用具供給協会 理事、一般社団法人 全国福祉用具専門相談員協会 理事などの公職がある。

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DXは重要だ。レガシーな産業を変革せよ──。こうした議論は、すでに多くの場で耳にする。しかし、具体的に現場レベルでどれほど進行しているのか、その実態はなかなか見えてこない。

例えば、介護や食といったレガシー産業では、現在どのようなDXに取り組んでいるのか。また、日本の再生と産業の変革を推進していくためには、どのような事業展開が必要なのだろうか。

今回「FastGrow Conference 2024」では、福祉介護用品のレンタル事業を展開するヤマシタの代表 山下和洋氏と、サブスクリプション型で食の安全性を重視した個別宅配サービスを提供するオイシックス・ラ・大地の代表、髙島宏洋氏が登壇した。

介護と食の領域でリードする両社では、DXやAI、M&Aをどのように活用して業界の変革を推し進めているのか、その実態を紐解いていこう。

  • TEXT BY YUKO YAMADA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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“食”のオイシックスと、“介護”のヤマシタ、右肩上がりで事業規模を拡大

──まずは髙島さん、山下さんの順に企業紹介をお願いできればと思っております。

髙島皆さんこんにちは。オイシックス・ラ・大地代表の髙島と申します。今回は山下さんにお誘いいただきましたので、上手く話を引き出せるよう、一生懸命に頑張りたいと思います。

オイシックス(現 オイシックス・ラ・大地)は2000年の創業以来、「とくし丸」や「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」、そしてアメリカの現地法人「Three Limes Inc.(Purple Carrot)」といった同業他社との経営統合により事業を拡大させてきました。

髙島最近ではSHIDAXとの経営統合も実現し、約2,400億円の売上を持つ企業へと成長しています。

髙島私たちの企業理念は「これからの食卓、これからの畑」です。

経営統合を進める上で、通常それぞれの良いところを持ち寄り、活かすことを考えていきますが、価値観の違いから、単に良いところを取り入れるだけでは上手くいかないことがあります。そこで私たちは未来に向けて、未来の食卓に対して責任を持とう、という想いを理念に込めました。

髙島日本には解決すべき社会課題が数多くあります。政策やNPOといったさまざまなアプローチの手段がありますが、私たちは「食」に特化し、ビジネスモデルを通じて社会課題の解決を目指しています。

──お二人がどのようなご関係なのか気になる方も多いと思います。髙島さんから見て、山下さんはどのような経営者なのでしょうか。

髙島山下さんは、やっていることと、人から受ける印象にギャップがある方ですね。

外見はスマートなので“IT業界の社長”っぽい雰囲気を持っている方なんですが、一方で社会課題に真摯に向き合っており、見た目からは想像もつかないほど愚直に泥臭いことをやられている。そうした存在は非常に稀有であり、大変素晴らしい経営者だと思います。さらに、知り合ってから、自宅が徒歩1分のご近所であることがわかったというご縁もあるんです。

山下そうなんです(笑)。髙島さんありがとうございます。髙島さんは私が尊敬する経営者であり、この場に登壇する上で髙島さん以上に適任者はいないと思い、今回お声がけさせていただきました。本日はよろしくお願いします。

山下ではあらためまして、株式会社ヤマシタの代表・山下和洋です。私はヤマシタの3代目として生まれました。新卒で入社し、その後、2代目である父親が交通事故で亡くなり、2013年に25歳で会社の代表を継ぎました。

事業内容としては、介護用品のレンタルとリネンサプライの2つの事業を柱としています。

簡単に説明すると、介護用品のレンタルでは、在宅の高齢者向けに車椅子や電動ベッドなどの提供。リネンサプライでは、ホテルや病院などで使用されるユニフォームやタオル、シーツなどのリネン類を回収し、クリーニング後に再配送を行っています。

山下全国に78拠点あり、社員数は約2,500名。私が経営を継いだ時点での社員数は1,600名でしたので、この10年間で約1,000名ほど増えています。

また、売上も年々伸びており、CAGR(年平均成長率)は14%です。2013年に経営者に就任してから4年間で売上利益が12億円に達し、今年度も順調に利益を生み出せています。

山下長期ビジョン2030では「EX→CXを強みに非連続成長へ」を掲げています。これは、EX(従業員の仕事のやりがい、体験)の向上が、CX(顧客の感動体験)の向上に繫がり、結果的に事業成長を加速させるというものです。

山下では、どうやってこのビジョンを実現するのかというと、デジタルを活用した人財戦略や育成、新規事業の創出が鍵となるのですが、詳しくはのちほどお話させていただきます。

経営においては安全が一番であり、社会に貢献をするためには品質の維持も重要だと捉えています。その上で効率を追求していくという考え方が、ヤマシタにおける経営方針になります。

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AGENDA1:食と介護・社会課題を解決するビジネスモデルの共通点とインパクト

──ではメインテーマに移ります。今回、3つのアジェンダをご用意しました。はじめに食と介護という領域が持つポテンシャルと社会的インパクトについて、それぞれのご見解をお聞かせいただけますか。

髙島食品業界は、約100兆円という巨大なマーケットサイズを誇ります。そして日本がグローバル市場で競争できる高いポテンシャルを持っていることは誰もが認めるところです。

世界全体での温室効果ガスの排出量において、最も大きな割合を占めるのが食品産業です。自動車産業の排出量が約8%なのに対して、食品産業は約25%と言われており、私たちの食事が地球環境に与える影響は非常に大きい。

そして環境への負荷は、国ごとの食品生産の方法や輸送量、食生活の違いによって大きく異なります。例えば、温室効果ガスの排出が多いとされる牛肉の消費が高い南米の食生活を世界中で取り入れると、地球が25個分必要になると言われています。

髙島一方で、野菜や海藻、豆製品といった食材や魚介類、発酵食品を中心とした日本食を世界中の人たちが食べれば、地球2個分まで抑えることができると。これは、日本人の食生活が比較的地球に優しいという証拠です。

こうした環境問題の観点からも、「食」に関する社会の変化は避けられず、これらの変化は日本にとって大きなチャンスであり、マーケット的にも非常に魅力があるということです。

しかし、これは介護領域と共通して言えますが、食や介護といった社会課題を扱う領域には、株式会社だけではなく、NPO法人なども数多く存在します。つまり、普通にビジネスをしていては収益を上げにくい領域であり、ビジネスモデルの変革が不可欠だということです。

そこで私たちは、ビジネスモデルの変革にあたって「良い野菜」の定義を見直すことから始めました。今までは形が綺麗で重たいものが「良い野菜」とされていましたが、安全で美味しいものを「良い野菜」と定義し、安全なものを生産する人たちが収益を上げられる仕組みにしたのです。

介護領域においても、日本が世界で最先端であり、かつ元気な高齢者が増えている領域です。「良い介護とは何か」と定義していくことで、新たなサービスが生まれるかもしれない。そう考えると、非常にチャンスに溢れた領域だと感じますね。

山下ありがとうございます。髙島さんがそのように介護領域を見られているのが面白いなと興味深く聞いておりました。

ところで皆さんは、食の社会課題についてはイメージが湧くものの、介護となると自分には関係ないとイメージが湧かないと感じている方は多いのではないでしょうか。しかし、介護は皆さんの未来に直結しているということをお伝えしたいと思います。まずはこちらをご覧ください。

山下要介護・要支援者数の人数は2042年に1.5倍の957万人に増加すると予測されています。そして介護保険費も、現在約10兆円から2040年にはほぼ倍の規模になる見込みです。

また、介護というと施設をイメージする方が多いのですが、実は約77%が在宅介護であり、多くの人たちは自宅で生活をしています。これは将来的に高齢者の人口が減少するため、施設をつくり過ぎてしまうと使われなくなる可能性があるためです。

つまり、世の中が在宅介護の方向へどんどんシフトしていくため、実は在宅介護のシェアが大きいということがわかります。

しかし、ご存じの通り、介護業界では給与の低さや労働力不足が深刻な問題となっており、2040年には69万人の介護職員が不足すると予測されています。さらに、家族の介護を理由に離職をする人たちが増え、結果としてGDPの減少につながる可能性も否定できません。

山下これらの問題に対処するため、住環境の整備や介護用品の活用など、少ない人手で高齢者が自立した生活を送れるよう支援することが求められています。また、同時に生産性を向上させ、サービス提供力の担い手を確保するためには社員の給与引き上げも不可欠です。

こうした中、私が最もチャンスだと感じているのは、世界的に見てもサービス産業の市場規模が拡大しており、2023年の15.4兆ドルから2028年には23兆ドルへの増加が予測されていることです。

特にアジア市場は高齢化が進んでおり、我々は既に中国においてもサービスの展開を始めています。上海では7割のシェアを獲得し、天津でも会社を設立しています。このように介護の領域は多くの課題を抱えていますが、新たなビジネスモデルやサービスの可能性を秘めており、非常に大きなチャンスがあると捉えています。

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AGENDA2:今後の事業展望とビジョン・DX / AIを活用した事業構造変革

──在宅介護サービスには大きなチャンスがあるとのことですが、ヤマシタの事業展望ならびに、事業構造の変革について具体的に教えていただけますか。

山下この点については人事制度と在宅介護プラットフォーム戦略を交えてお話しします。

ヤマシタでは「正しく生きる、豊かに生きる」という企業理念を創業以来変わらず掲げており、この理念を軸に、長期ビジョン「EX→CXを強みに非連続成長へ」という目標を設定しています。

山下そしてこのビジョンから、中期経営計画や年度事業計画、部門目標に落とし込んでいきます。上図の右側に位置するバリューは、お客様を原点としたサービスや求められる行動、人物像を指し、人事制度の行動評価に反映されます。

例えば、外部環境の影響で業績が振るわなくても、日頃から良い行動をしている人は報酬で適切に評価されるべきですよね。

一方で、たまたまラッキーパンチで業績が向上したけれど、日頃の行動が理念と一致していない人は評価に反映しないなど、理念に基づき、パフォーマンスに相応しい報酬を決定しています。また、成果の再現性を高める行動特性やスキル発揮をもとに、等級を決定しています。

山下続いて、在宅介護プラットフォーマー戦略に移ります。ヤマシタではEXとCXの好循環により、さらなるCXの向上を目指し、デジタルを活用した新規ビジネスを創出していきます。

山下具体的な進め方として、我々は電動ベッドや車椅子などのレンタルサービスを展開しているため、家庭内におけるさまざまなニーズに対しても提案を行うことができるんですね。実際、ECサイトやオウンドメディアの運用を通じて、介護に必要な情報の共有や介護用品の提供を行っています。

また、我々は自宅のバリアフリーに向けて、手すりの取り付けや和式トイレから洋式トイレへの変更など、年間1万件の施工を実施しています。実際、ヤマシタでは大工を採用しているため施工のスピードが早いのが特徴です。

山下今後はバリアフリー化だけでなく、特にリフォームの需要が高い40〜50代向けに、老後を見据えた住宅改修を提案し、事業を拡張していく予定です。

美容分野においても、例えば脱毛サービスなどを検討しています。日本では脱毛文化はあまり浸透していませんが、実際に介護を経験すると体毛がないことで介護の負担を軽減できるんですね。白髪になると脱毛レーザーの効果が得られにくいため、早期から対応していく必要があると考えています。

このように、ヤマシタは在宅介護のプラットフォーマーとして今後もさまざまなサービス提供を進めていきます。

──ありがとうございます。では、髙島さんからも、食の領域でのビジネスモデルの変革や今後の展望についてお聞かせください。

髙島そもそもなぜ、食や介護などの領域でビジネスモデルの変革が求められているかと言うと、それはひとえに「頑張っている人が報われにくい業界」だからです。

特に農業界や食品業界では、素晴らしい食品をつくる生産者が経済的に苦労をしているという現状がある。そこで、私たちはゲームのルールを変えることでサステナブルなビジネスモデルの構築に注力してきました。

まず私たちが最初に取り組んだのは、生産者とのダイレクトネットワークの構築です。これにより、市場を介さずに直接生産者から野菜を仕入れることが可能になりました。次に、サブスクリプションを導入し、定期購入のお客様に対して販売を開始します。これにより、約50万世帯からなる需要情報と、全国約4,000の農家からの供給情報を把握し、マッチングさせるビジネスモデルを築き上げることができました。

髙島今後の展望としては、BtoCの顧客基盤をさらに拡大していくとともに、家庭での食事だけでなく、さまざまな食への対応を考えています。その中でも私たちのサブスクリプションモデルと親和性があるのが、BtoBの給食事業です。

特に、病院給食に対しては強い問題意識を持っています。というのも、病院給食が美味しいというイメージはほとんどないでしょう。しかし、病気を治す場所での食事が美味しくなければ食欲がわかず、それが病気の回復にも影響を与えると思うんですよ。

先ほど、「良い野菜」の定義を見直したとお話ししましたが、同様に「良い病院給食」「良い介護の食事」の定義を見直し、それを基にビジネスモデルを構築していきながら、今後はBtoCだけでなく、BtoBにもチャレンジしていきたいと思っています。

──ここで参加者からの質問を紹介します。「日本のサービス業は他の先進国と比較して生産性が低いとされていますが、社員のレベルは他国に比べて低いとは思いません。日本のサービス業の生産性が低い要因は何だと思いますか」とのことですが、お二人はいかがお考えでしょうか。

髙島明確に言えることは、日本は単純にサービスの価格が安いことに尽きると思います。

例えば、私たちはデリバリー業務を行っていますが、注文が正しく届かない確率は0.01%以下です。しかし、アメリカで同様のサービスを提供した場合、約4%の確率で配送ミスが発生します。にもかかわらず、価格は変わりません。

つまり、私たちは0.01%の失敗率に対して追加料金を請求していないですよね。レストランでも同様で、テーブルを拭くサービス、箸やお手拭きの提供、笑顔での接客に対して追加料金は発生していない。日本のサービスは高品質でありながら、「質」という部分に価格を反映させていないのです。とはいえ、私はこうした日本独自のおもてなしや気遣いなどの文化は誇るべきものだと感じています。

そのため、「日本のサービス業の生産性が低い」と一括りするには語弊がある。もちろんサービス業全体で価格を少し高く設定しても良いと思うんですが、日本の文化的強みに対して「生産性が低い」という風潮に憤りを感じることがあります。

山下高島さんのおっしゃる通りですよね。日本製品の品質は海外と比較して非常に高く、それが日本の製造業が発展した一因にもなっています。さらに、サービス業においても高品質を目指す文化が根付いたのは素晴らしいことです。その高いサービスレベルがあるからこそ、日本のサービス業がグローバルへ進出できるのでしょう。

しかし、サービス業は人件費の割合が高いため、現状を維持するだけではいくら努力しても生産性の向上は難しいという問題があります。そうした中、作業の流れを明確にし、「ここをデジタル化すれば効率化できる」という改善策を見出し、実行している企業が少ないのが現状です。

山下多くの場合、阿吽の呼吸や、「何となくこの人は良いサービスを提供している」という感覚に頼り、ノウハウが蓄積されていない会社が多いのではないでしょうか。

だからこそ、日本のサービス業では、どこにリソースを集中し、どこをデジタル化することで、品質を維持しながら生産性を向上させていけるか、その余地は確実にあるのではないかと私は思います。

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AGENDA3:DX / AIを活用した産業構造の再生の具体的な取り組み

──では、3つ目のテーマに入っていきたいと思います。具体的に現場レベルでどのようなDXやAIを展開しているのか、その取り組みについて、山下さんからご説明いただけますか。

山下介護事業は、基本的に利益を出すことが難しい業態です。給与水準を上げながら採用を拡大していくためには、かなりの努力をしなければなりません。では、我々はどのように生産性を上げているのか、ここでは介護用品レンタル事業のDXの事例を紹介します。

山下これは一例ですが、こうした5つのテーマをデジタルに移行することが我々の目標です。抜け漏れしやすい部分のアシスト機能やスケジュール作成、KPIの可視化など、人が行っていた作業をデジタル化することで、5年間で225%効率化が実現できると見込んでいます。一例として、訪問計画をどう作成しているかについてご説明しますね。

山下実際に訪問した際、現場で入力作業がどのようなフローで行われ、事務員や配送スタッフに共有されているのかを図示しています。

そして、最初の作業には1件あたり1分かかり、次に3分というように計算しているんですね。しかし、営業アプリによるタッチ操作を採用することで営業訪問先での入力が可能となり、それまでのPC入力よりも圧倒的にスピードが上がり、大幅に時間を削減できています。

また、多くの企業は帳票や売上の集計をExcelで行っていますが、それを営業単位やリーダー単位で分けて、手作業で集計をするのは時間がかかる。そこで、我々は手作業の集計を自動化できないだろうかと考え、Microsoftの生成AIサービス『Fabric』を日本で先駆けて導入しました。

これにより、さまざまなシステムから情報を集約し、最終的にPowerBIで可視化することで、データの集積や分析が瞬時にできるようになりました。

山下他にも福祉用具の選定を自動化するためにChatGPTを利用しています。プロンプトエンジニアリングと呼ばれる手法を用いることで、2,000〜3,000字にわたる特定の条件から車椅子の選定が可能になります。多くの手法を試した結果、これが最も正答率が高いですね。

山下また、ヤマシタでは、エンジニアリングの専門部隊以外でも、社員が現場でシステム開発できるよう、ローコードで開発できるプラットフォームを活用しています。

山下最後に、私が最も「未来がある」と感じているのは生成AIによるアバターの活用です。

特に高齢者など、要点を端的に話すことが苦手な人たちにとって、アバターによる受け答えは大きな助けになるはずです。こうした技術を活用することで自動化が進み、今まで利益を上げにくいと言われていたサービス業に大きな変革をもたらすことができると確信しています。

──従来の介護事業のイメージと異なり、かなり先進的な技術を導入されていることに驚かれた方も多いかと思います。なぜ、ヤマシタではこうした高度な事業構造の変革が可能なのでしょうか。

山下採用に非常に力を入れていますね。ヤマシタには、我々のビジョンに共感し、マッキンゼーやアクセンチュアといったコンサルティングファーム出身者も多くジョインしております。

介護というとレガシーな印象を持たれるかもしれませんが、中身は外資っぽいと言われることも多いです。

──外部パートナーには落合陽一さんも参画されていますね。

山下そうなんです。落合氏と私は同じ年で、30歳以下の経営者・起業家が集まる「G1のU30」のボードメンバーでした。彼は天才で、出会った頃は彼の言っていることがまったく理解できませんでした(笑)。

しかし、生成AIの登場でようやく「彼が言っていることはこういうことだったのか」と理解できるようになり、そこからヤマシタの戦略アドバイザーにもなってもらいました。

最近は、2030年の長期ビジョンに関する動画をレビューしてもらったんです。彼は世界中のあらゆる情報に精通しているので、非常に有益なフィードバックをもらえました。アドバイザーとして彼を迎え入れたことは、大きな価値があったと感じています。

──続いて、オイシックス・ラ・大地では現場レベルでどのようなDXやAIを展開しているのでしょうか。

髙島先ほど、私たちは4,000件の農家の供給データと50万人の需要データを持っているとお伝えしましたが、このマッチングをアルゴリズムを用いて行っています。

具体例を挙げると、天候の影響で大量にきゅうりが収穫された場合、どうすればお客様に負担をかけずにきゅうりを多く購入してもらうかを考えなければなりません。

そこで私たちはアルゴリズムを用いて、「50万人のお客様の中から、この5万人にはこうした表示をしていこう。こちらの1万人にはこの表示でいこう」と選別し、一人ひとりのニーズによって陳列が異なるスーパーマーケットのようなスタイルで展開していくんです。この仕組みこそが、私たちのビジネスの核となっています。

髙島通常、スーパーマーケットの野菜の廃棄率は約5%ほどなのに対し、私たちは0.1%まで削減できています。それほどマッチング精度が向上しているわけです。しかし、これ以上の廃棄率を下げることは困難であり、ビジネスインパクトも小さい。

そこで私たちが注力しているのが、畑のフードロス削減です。多くの農家が収穫量不足を避けるために必要な量の1割増しで生産しているため、どうしても野菜が余ってしまうんですね。

オイシックスでは、そうした捨てられてしまう野菜をすべて買い取っています。

もちろん、アルゴリズムを用いた販売だけではすべての野菜を提供し切ることはできないため、その野菜を使って、冷凍食品やお惣菜、ミールキットをつくる工場なども運営しています。このように、フードロスになり得る商品を加工して、お惣菜として売り切るビジネスモデルは、大きなビジネスチャンスだと捉えていますね。

──オイシックスは他にも病院の給食事業も展開していると思いますが、こちらではどのようにDXやAIの活用を進めているのでしょうか。

髙島ありがとうございます。栄養士の仕事と生成AIの親和性は非常に高いため、私たちは現在この分野の研究を積極的に進めています。

例えば病院では、「この患者さんはアレルギーがある」「噛む力が弱い」といった個別のニーズに合わせると、肉じゃが一品とっても320通りのバリエーションを用意する必要があるんです。こうした複雑なニーズに合わせて食事を準備する際、AIの活用は非常に有効です。

また、「良い食事」とは何かを考えたときに、食べ残しが少ないことも一つの指標になります。そこで食べ残しの画像を撮影し、画像認識の技術を用いてデータ化することで、どのメニューが完食されやすいのかを分析していく。こうしたアプローチにより、多くの方により魅力的な食事を提供することができると考えています。

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経営者として考える社員の報酬・キャリア
〜参加者へのメッセージ

──ここでまた質問です。「DXの推進で利益を追求する一方で、社員の給与を上げることも、その人のキャリアや人生を豊かにする重要な要素だと思います。こちらに関してはどのように考えていますか」とのことです。

山下ヤマシタでは、最初に経営側が痛みを伴う決断、つまり給与を上げることで、社員がそれに応えて戦略を実行してくれているというケースが上手くいっていますね。

来年度も実質的に報酬は12%ほどアップする予定です。これはみなし残業の撤廃や、それ以外の昇給も含め、P1等級という最もボリュームゾーンの等級の方が、20時間残業をした場合、12%は上がるという意味です。

やはり採用市場での競争に勝つためには、成長している企業に対抗する報酬を提供しなければなりません。だからこそ、優秀な人材の報酬はどんどん上げて、キャリアを築いていける人事制度を設けています。

髙島私たちの企業は、エッセンシャルワーカーが多くを占めています。人間にしかできない価値ある仕事をする方がしっかり給与を受け取れるよう、DXを活用し、その結果として企業の利益を上げることが重要だと考えています。

さらに、私たちは金銭報酬だけでなく、非金銭報酬の最大化と仕組み化にも注力しています。特に、食や介護のような分野で働く人々にとっては、仕事を通じて得られる内面的な満足や達成感も非常に大切です。

日々の業務が忙しいとこうしたやりがいを見失いがちですが、私たちは、お客様の喜びや生産者の感謝のメッセージを共有することで、社員が常にやりがいを感じられるよう務めています。

──ありがとうございました。それでは最後に、髙島さん、山下さんの順に皆さんへメッセージをお願いします。

髙島かつて社会課題の解決は、政府や公的機関の役割だと捉える時代がありましたが、その時代はとっくに終わりました。現在は、企業がビジネスモデルを創出し、国のあり方、社会の幸せを導く時代です。

こうした変化の中で、企業が担う役割は非常に重要になっています。日本や世界が幸せになれるかどうかは、私たちビジネスの力や努力にかかっていると信じています。

ぜひ、皆さんと一緒に社会を良くするために力を注いでいきたい。たくさん挑戦して、たくさん失敗も経験して、そして時々、成功してもらいたいなと(笑)、そう思っています。本日はありがとうございました。

山下尊敬する髙島さんと共に一緒の舞台に立つことができて、今、とても幸せを感じています。

在宅介護業界において、日本が世界の中で先進国になることは間違いありません。人手不足の問題の中で、介護用品や環境整備を通じて介護がしやすい仕組みを構築することが非常に重要です。

現在、介護問題を重要視していない人でも、10年後、20年後には多くの人にとって重要な課題になるでしょう。その解決を担うリーダーにヤマシタがなれていたら良いなと考えています。そのためには、20〜30代の優秀な方々の力が必要です。

今回の話を聞いて、自分たちの力で日本社会を大きく変えていきたいと感じてくれた方は、ぜひ一緒に変革を起こしていきましょう。ヤマシタにはその機会が豊富にあることを保証します。髙島さん、参加者の皆さん、本日はどうもありがとうございました。

こちらの記事は2024年04月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

山田 優子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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