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【MaaS最前線】インフラ企業や自動車メーカーとの協業も。
スタートアップ各社が抑えたい交通動向まとめ

テクノロジーの発展はインターネットの内部にとどまらず、リアルな場にまで進出している。さまざまな移動手段を統合し、移動そのものをサービスとして捉えなおす「MaaS」は、その代表例の一つだ。

企業や行政は、MaaSの推進に向けた取り組みを着実に進行させている。今後、本格的な浸透が始まることを見据え、先例を押さえておくことは、スタートアップで働くビジネスパーソンにとっても必要なはずだ。

本記事では、インフラ事業や自動車メーカーなどを中心に、MaaS市場の実態を紹介する。

  • TEXT BY HAYATE KAWAJIRI
  • EDIT BY MONTARO HANZO
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フィンランドの成功例にみる、MaaSの定義とは?

MaaSとは「Mobility as a Service」を略した用語である。明確な定義は定まっていないが、国土交通省や総務省は以下のように表現している。

“MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念である”(国土交通省 国土交通政策研究所 より)

“ユーザーの利便性を大幅に高めたり、また移動の効率化により都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの問題の解決に役立てようとする考え方の上に立っているサービスがMaaSです”(総務省「次世代の交通 MaaS」より)

他にも、個別に運営されている鉄道やバス、タクシーなどの交通手段を、ICTを活用してクラウド化し、同一のプラットフォームに統合するものを、狭義のMaaSと指すことが多い。一方で、自動運転やカーシェアリング、配車サービスなど、プラットフォームへの統合を目指さないものも該当する。交通手段の利便性を高め、データ連携を可能にする取り組みは、広義のMaaSであるとされている。

日本に先駆けてMaaSの取り組みが進んだ国はフィンランドだ。なかでもMaaS Globalが提供するプラットフォーム「Whim」は、MaaSにおける世界屈指の先進的な取り組みとして知られている。

電車やバス、タクシーといった交通機関のほか、バイクシェア、自転車、徒歩など、あらゆる移動手段をスマートフォンで一括管理、検索可能。最適な交通手段をユーザーに提示する。サービス開始後、公共交通の利用割合が48%から74%へ増加し、自家用車の利用率は40%から20%へ減少しているという

「Whim」によるMaaS普及の背景には、官民が一体となった体制構築が挙げられる。もともと自家用車による交通渋滞や環境悪化が課題に挙げられていたフィンランドでは、MaaSの普及に問題解決の糸口を見出し、100以上の民間企業、大学を巻き込んだ「ITSフィンランド」を発足。運輸通信省と連携させることで、MaaSの普及をどこよりも早く推進してきたのだ。

この事例も相まって、世界各国ではMaaSに参入する自動車メーカーの姿や、新興スタートアップの存在が顕著になってきた。もちろん、日本も例外ではない。

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データ基盤開発からCVCの発足まで。国内交通インフラ大手によるMaaSへの動向

日本政府の取り組みを紹介しよう。経済産業省と国土交通省は2019年6月に「スマートモビリティチャレンジ キックオフシンポジウム」を開催した。当イベントでは、NTTドコモや小田急電鉄などの民間企業や地方自治体が集まり、モビリティサービスの社会実装に向けた各団体の展望が語られた。

MaaSに向けた動きは政府のみならず、民間企業間でも活発に行われている。交通インフラ大手の動向から見ていこう。

まず紹介したいのは、小田急電鉄が開発する共通データ基盤「MaaS Japan」だ。鉄道やバス、タクシーなどの交通データや各種フリーパス・商業施設での割引優待をはじめとした電子チケットの検索・予約・決済などの機能を一元化し、各交通事業者や自治体が開発するアプリにも活用するのが狙いだ。

乗り換え案内サービス「駅すぱあと」を開発している株式会社ヴァル研究所の支援のもと、MaaSの実現に向けた共通データ基盤を構築している。同基盤を利用した実証実験は、2019年末までに実施が公表されている。

九州旅客鉄道、日本航空、JapanTaxiなどの各種交通機関や事業会社との協業は既にはじまっており、今後も幅広くパートナーを拡大し、移動手段と多様な生活シーンのサービス連携が見込まれている。

続いて、2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、JR東日本が日立製作所やチームラボと協業開発するアプリ「Ringo Pass」について紹介しよう。

本アプリでは駅周辺で利用可能な交通サービスを一括で検索できるほか、複数の交通機関を利用しても同一のアプリでまとめてネット決済可能。支払いさえ済めばシームレスにシェアバイクやタクシーを利用できる。将来的には対応する交通手段を拡大し、JR東日本アプリやモバイルSuica、各種電子マネーとも連携。サービスの利便性を高めていくという。

観光に特化したMaaSアプリも実証実験が開始されている。JR東日本、ジェイアール東日本企画、東京急行電鉄の3社協業による伊豆周辺エリアでの利用に特化したMaaSアプリ「Izuko」が代表的だ。

観光客は鉄道、バス、AIオンデマンド乗合交通、レンタサイクルなどの交通機関をスマートフォンで一括管理し、シームレスに移動できる。実証実験は複数回に分けて行われ、2019年4月1日から6月30日までの初回には、2万人を超える利用を確認。12月1日から二度目の実証実験がスタートする。サービスエリアも随時、拡大していく予定だ。

同じく、JR東日本ではNTTやNTTデータと手を組み、Suica認証を活用した「デマンド交通」の取り組みも実施している。駅に設置する専用端末にID番号とメールアドレスを登録し、専用ウェブサイトに乗車情報を入力することで、AI運行バスが利用可能に。そして周辺の商業施設では、お得なサービスの提供も受けられる。現在は横浜市のみなとみらい地区などで実施されている取り組みだ。

各社の流れに合わせ、高速バス大手のWILLERは2019年8月、観光MaaSアプリケーション「WILLERSアプリ」をリリース。出発地と目的地の2地点を検索すると、鉄道や空港、バスなど多岐に渡る交通手段をレコメンドしてくれる。また、WILLERは先行してベトナムで、タクシーと都市間バスを組み合わせたMaaS事業への取り組みに着手しているようだ。

MaaS事業の展開は、鉄道会社だけに見られる傾向ではない。航空業界でもこの流れは顕著になっている。日本航空と全日本空輸の事例を見ていこう。

日本航空は、先述のように「MaaS Japan」でのデータ共有を進めるだけでなく、自社でもMaaS関連のビジネス創出を目指すという。2019年1月に立ち上がったCVC「Japan Airlines Innovation Fund」も実現に向けた施策の一つだ。80億円規模の投資ファンドを設立した背景として、新しいエアモビリティーの実用化を狙うスタートアップへの出資を挙げている。

全日本空輸では、2019年7月に社内企画室として「MaaS推進部」を発足。MaaS戦略の策定や社内外との連携による実証実験、サービス開発などに向けた動きを加速していく狙いだ。また瀬戸内エリアを中心とした、協業も進んでいるという。

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協業や提携が加速する、大手自動車メーカーにより「MaaS」の動き

ここまで交通インフラ大手の動きを見てきたが、日本の主要産業である自動車メーカーでも、同様に提携やサービスで目立つ動きが多い。

ソフトバンクとトヨタ自動車による、新しいモビリティサービスの構築に向けた共同会社MONET Technologiesの設立は、業界を揺るがせた。同社は、次世代モビリティサービスの推進や移動における社会課題の解決、新たな価値創造を目的とした企業だ。

MaaS普及に向けた環境整備や、複数の企業と連携した事業開発を目指すべく活動しており、他業種の企業やMaaS分野での新規ビジネスを検討する人々を集めたイベント「MONETコンソーシアム」を主催している。

同社には設立時から日野自動車とホンダが投資するほか、2019年6月末より、いすゞ、スズキ、スバル、ダイハツ、マツダの5社による出資も決定した。車両やモビリティサービスから得られるデータを共通のプラットフォームに連携していくほか、掲げる社会像の実現に向けてMaaS事業を加速する見込みだ。

自動車メーカーとスタートアップによる協業で特徴的な例としては、日産自動車とDeNAによる無人タクシー「Easy Ride」の存在が挙げられる。アプリで自動運転車を配車し、好きな目的地まで自由に移動できるモビリティサービスである。実証実験は、横浜市のみなとみらい地区で2018年と2019年に実施済みだ。配車アプリで目的地を自由に指定し、支払いにも対応するなど、アプリを基盤として快適な移動が実現する予定。2020年のリリースに向けて、開発が進められている。

国土交通省は2019年6月、「限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて旅客自動車運送事業者が安全性・利便性を確保するためのガイドライン」を策定した。これにより、自動運転の導入を目指す事業者数の拡大が予想される。

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Uber、CREW、notteco!…国内におけるライドシェアビジネスの現状

最後にライドシェアビジネスにおける、スタートアップの国内での動きを振り返ろう。取り上げるのは、「Uber」「CREW」「notteco(のってこ!)」の3サービスだ。

Uber」はアプリで配車しライドシェアできる、米国発のマッチングサービス。日本では6年前にリリースが開始したが、旅客輸送をめぐる規制により、諸外国並みの普及まで至らなかった。しかし期待されているのが、2020年の東京五輪・パラリンピックだ。外国人観光客の急増に備え、整備の改善も期待されている。Uberを運営するウーバー・テクノロジーズはソフトバンクグループから出資を受けているほか、トヨタ自動車との自動運転車に関する技術での協業にも昨年合意しており、今後も大きな動きが予想されるだろう。

CREW」は“乗りたいと乗せたい”をつなげる、モビリティプラットフォーム。アプリで出発点と到着点を設定すると、近くを走るCREW公認のドライバーとマッチングし、移動できる。現在は、都内一部エリアを対象にサービスを展開し、2019年6月からは鹿児島県与論島でも本格運用がスタートした。2018年には総額約10億円の資金調達をしており、CREWを運営するAzit社では同サービス以外にもMaaS浸透に向けて活動を進めていくと公表している。

notteco」は日本最大級の長距離ライドシェアサービス。安く移動したい人とガソリン代などの実費を節約したいドライバーをつなげており、2015年にはガイアックスが100%子会社化している。2018年よりドライバー登録数は1万件を超えた。利用事例として、音楽イベント、ウィンタースポーツ、スポーツ観戦などを目的地にした相乗りも多く、ただの移動手段にとどまらない付加価値を生み出しているといえる。

国内のMaaS市場規模は2030年に、6兆3,600億円まで拡大すると言われている。本記事で紹介したMONET Technologiesのように、これまで競合していた自動車企業が手を取り合い、新しいモビリティ社会の実現に向けて動き出す傾向は今後も増えていくだろう。またEasy Rideのようなスタートアップとのさらなる協業にも、期待できるかもしれない。

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執筆

川尻 疾風

ライター・編集者(モメンタム・ホース所属)。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。

編集

姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2019年10月01日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。