Whyを考え抜いた選択。
“キャリアの桃源郷”リクルートから、なぜスタートアップへ転職したのか?
大企業ならではの充実した待遇と人材の厚さ、スタートアップ並みの裁量とミッションドリブンな社風。「リクルート」はそんな両者の強みを持ち合わせた数少ない企業といえるだろう。
しかし、そんな充実した環境を2年ほどで飛び出し、創業間もないスタートアップへの転職を選ぶ若手もいる。彼らは何を求め、圧倒的な“成長環境”の外に飛び出したのか。その意思決定の過程や得た経験に迫るべく、FastGrowはトークイベント「リクルート出身3名に聞く なぜスタートアップに転職したのか?」を開催した。
- TEXT BY HARUKA MUKAI
「大企業か、スタートアップか」
就活生時代、友人とそんな会話を交わした経験のあるビジネスパーソンは少なくないだろう。事業規模の大きさや、充実した福利厚生が魅力的に映る一方、裁量を得て全力でコミットする機会にも胸が踊る。
そう迷った先で、その“両方”を持ち合わせた組織に進む学生もいる。彼らが選ぶ企業の筆頭が「リクルート」だ。
年齢を問わず裁量を与える企業文化や、柔軟な雇用制度、人材の厚さなど、成長を求める若手にとって理想的な環境が整っている。同社の卒業生の多くが起業家・経営者として活躍していることからも、他社にはない成長機会が提供されていることが伺える。
そんなリクルートを1、2年で退職して、社員1桁台のスタートアップにジョインする若手もいる。望めば社内で新規事業の立ち上げも経験であろう環境をあえて飛び出し、スタートアップを選んだ理由はどこにあるのだろうか。
その意思決定の過程に迫るべく、FastGrowでは「株式会社Azit」のれいき氏、「株式会社フラミンゴ」の牟田 吉昌氏、「Graffity株式会社」の横井 悠氏を招き、リクルートで得た経験から辞めた理由、スタートアップとの違いなどを語っていただいた。
事業開発のノウハウと“人”の魅力で選んだ
まずは、3名がなぜファーストキャリアにリクルートを選んだのか、それぞれの経緯を共有してもらった。
横井氏は在学中からスタートアップでインターンとして働き、大学3年生のときにリクルートのサマーインターンに参加。その後、同社のメディア・テクノロジー・ラボに勤務し、新卒で日常生活領域を専門とする事業会社「リクルートライフスタイル」へ入社した。生み出したサービスを、事業として成り立たせる手腕に惹かれたという。
横井僕が就活をしていた当時は、サービス開発の技術的・コスト的な敷居が下がり、スタートアップをはじめとしたプレイヤーが増えている時期でした。けれど、サービスをしっかりマネタイズし、事業として継続できている会社は決して多くはない。リクルートはそこに強みのある会社だったからこそ、ぜひ入社して学んでみたいと考えました。
大学時代から語学サービスを提供する株式会社フラミンゴに携わっていた牟田氏も、リクルートが新規事業を成功に導いてきた経験が決め手になったという。
牟田創業期のスタートアップに携わるなかで、組織や事業の立て方を知らず、ただ目の前の仮説検証を回している状況に課題を感じていました。そこで「事業で成功するとは一体どういう状態なのか」を最も学べるであろうと考え、リクルートに入ることにしたんです。
リクルートであれば最適解にたどり着けるだろうという期待と、あれだけ多くの人材を輩出している会社の内部についても興味がありました。
れいき氏は大学時代から自身でウェブサイトを運営し、就職をしないつもりだったという。しかし、リクルートのインターンなどに参加するなかで、出会った“人”に「面白さ」を感じたそうだ。
れいき高校、大学と周りにインターネット大好きな人が全然いなかった中でリクルートのインターンに参加し、「お前らどこに隠れてたんだよ」ってくらい、インターネットに深く関心のある同世代とたくさん出会うことができて、一緒に働きたいと純粋に思いました。就職活動ではほぼリクルートしか受けなかったですね。
明確な“意思”を掲げ、学び取る姿勢が問われる
新規事業開発のノウハウや人材輩出の仕組み、熱意ある仲間のいる環境を求めて入社した3名。実際の環境をたずねると、牟田氏と横井氏ともに「意思が問われる文化」を挙げた。
牟田とにかく『なぜやりたいのか』を問われ続ける環境でした。そして、その描いた絵を『どう達成するのか』も説明できないといけない。厳しく聞こえるかもしれませんが、明確な意思をもって旗を立てれば、優秀な同期や先輩が積極的に助けてくれます。
例えば社内の新規事業コンテストに取り組んでいる時期、通常業務の目標達成がギリギリの状況でもマネージャーはコンテストを積極的に応援してくれましたね。
横井『やりたい』という意思だけでなく、『やりたくない』という意思に対しても寛容な印象があります。もちろん『やる』と決めた役割を果たすことは大前提ですが、その自由が与えられているところは良いなと思います。
牟田僕もそう思います。今の会社でも、『やりたい』と手を挙げた人を応援する文化は積極的に取り入れようとしています。
「意思を掲げる文化」に加え、れいき氏は「必達する文化」について語る。
れいきリクルートでは半年ごとに『ミッション』を設定し、その達成に向けて何をするのか、どのように走るのかを徹底的に考え、行動に移すことが求められます。日頃の業務であろうと社内コンテストであろうと、絶対に勝つという空気がある。やり切るために自ら学び続ける覚悟があれば、プレイヤーとしてはかなりの活躍ができる環境だと思います。
「自ら学び続ける」という言葉に、横井氏と牟田氏も同意を示す。
横井成長する機会には溢れていますが、『どうすれば上手くいくのか』を手取り足取り教えてくれる環境ではありません。フラットな組織なので優秀な人たちと仕事をする機会はありますし、何でも話せる機会はある。ただ、その機会を掴むには自分から動くしかいないという環境ですね。
「リクルートはある程度規模も大きいし、ノウハウを教えてもらえる」みたいなスタンスで入社してしまうと期待はずれな印象を抱くイメージがありますね。
牟田『How』を聞いても教えてくれませんよね。とにかく『Why』を聞かれ続けるので、どれだけ思考力があっても、「なぜ?」を語れるやりたいことがない人だと辛いかもしれません。
『心からやりたいことかどうか』が決め手になった
明確な意思を持って入社した彼らにとって、能動的な姿勢が求められる環境は十分マッチしているように思える。それにもかかわらず短期間でリクルートを去った理由はどこにあったのだろうか。
横井氏とれいき氏は、自らの取り組みたいサービスと、リクルートが得意とするビジネスモデルの間にあるギャップが決め手になったと振り返る。
横井僕はFacebookやSnapchatのようにコンシューマー向けのコミュニケーションサービスを立ち上げたいと考えていました。一方、リクルートでは主力事業から新規事業に至るまで、基本的には企業と消費者のニーズをマッチングさせるリボンモデルの事業にフォーカスしています。
そのモデルに比べると、やはりコンシューマー向けのサービスは収益やスケーラビリティが見込みづらいため評価されづらい。けれど、そのリクルートが攻めない領域こそ、まさに僕が挑戦したい領域だった。そこに向けてチャレンジするべく、辞める決意をしました。
牟田たしかに、リクルートは良くも悪くも「事業ドリブン」の会社だと思います。入社前に思っていたよりも、「テクノロジードリブン」な事業を発案して推進していくのは、難しいイメージがあります。
リクルートのいまの売上規模に貢献する新規事業というと、売上100億円程度がマストで求められると思うのですが、ToC向けのサービスで数年で売上100億円に届く事業はそう多くないですから、仕方ない一面もあります。やはりリボンモデルでは、企業と消費者双方のニーズを踏まえ、最適解を探っていかなければいけません。
けれど、僕は大学時代から消費者と向き合うサービスを作っていたので、消費者のニーズをいかに満たすかを徹底的に追求したかった。時に企業側の事情を踏まえた意思決定が求められることにも違和感を覚えていました。仕事は面白かったですが、人生は限られている。残された時間を意識したときに、一番やりたいことをやるべきと考え、辞める判断に至りました。
牟田氏の判断もれいき氏に近い。自らが信じられるゴールに向けた挑戦に駆り立てられたという。
牟田当時の僕は『AirPay』の担当をしており、『キャッシュレスを推進する』という大きなミッションに向けて日々仕事をしていました。
他社が数年かけてやっと実現させた大手カードブランドとの提携を、立ち上げから一年程度で実現させてしまうなど、「これはリクルートだからできるスケーラブルな仕事だ!」と思える瞬間もありました。それ自体は意義あることだと思っていましたし、周囲の先輩や同僚もかなり優秀な方ばかりでしたが、ミッションに対して強い共感があったかというと、そうではありませんでした。
一方、フラミンゴの掲げる『多文化共生社会の実現』というビジョンには心底共感していました。すでに友人の金村(株式会社フラミンゴCEO)は着々と事業を成長させ、自分自身が心の底から成し遂げたいミッションもあるなら、今踏み出すしかないと考えました。
スタートアップでは取り組む課題の“解き方”が変わる
それぞれの「意思」を持ちリクルートを飛び出した3名。スタートアップにジョインして働き方はどのように変わったのかをたずねると、れいき氏は「頭の使い方」について語る。
れいきリクルートではロジックが通っていることが何より重視されます。しかし、スタートアップで対峙するような意思決定では論理的に全て数字で落とし込むことは不可能だが、今ここに注力すべきという決断を下さなければいけない場面がある。「100%ロジックで語れて初めて物事を進める」というマインドから脱するのは、少し苦労しました。
問いへの向き合い方が変わったというれいき氏の意見を受け、牟田氏は“問い”そのものの変化についても言及する。
牟田れいきさんのおっしゃる通り、リクルートではいかに自分がやっている仕事が論理的に間違ってないか、社内に証明できないといけません。だから、当時の僕が取り組んでいた問いは「いかに正しいオペレーション、ロジックを作れるか」になる。一方、今の僕が向き合っているのは、「外国人がチャレンジできる社会をどうつくるのか」という問いです。
それが「正しい」かの判断はユーザーの反応に委ねられています。彼らに価値を届けるために何が必要なのかを考え、経営から運用のレイヤーに至るまで自らが動かなければいけない。業務の深さも広さも以前とは大きく変わりました。
横井氏は日々の仕事に対する姿勢の違いを挙げた。
横井「自分がいないと動かない」という気持ちが増しましたね。正直リクルートなら僕が朝起きて会社に行かなくても何とかなってしまう。でも、スタートアップは与えられた課題をすべて自らクリアしていかないと前に進めませんから。
牟田リクルートなら日常の細々した業務もそうですし、事業を進める際も他部署から手厚い援助が得られます。規模も規模なので、たしかに社内調整や稟議に時間がかかることはありますが、それさえ乗り越えれば、一気に全国の1,000人前後の営業の方が動いて、1ヶ月で数十億円を売り上げてしまいますから。
れいき自ら事業を作る立場になると、恵まれた環境にいたのだと実感しますよね。だからこそ、「成し遂げたい目的のために、あらゆることを割り切ってやれるか」は事前に考えておいたほうがいいかもしれません。
リクルートからスタートアップへの転職を果たした3人に、自らの選択に対する後悔の色は一切感じられない。きっとそれは彼らが、『リクルートかスタートアップか』という『How』に囚われず、自身のなかにある『Why』と忠実に向き合ってきた証左だろう。
一言で『成長』といえど、事業モデルや仕事内容、組織の文化によって、その中身は大きく異なる。そこで得られる経験が自らの『Why』と接続するのかを問い続ける。その繰り返しの先で、きっと後悔のない選択が見えてくるはずだ。
こちらの記事は2018年08月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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