ご自身のバイブルとなっているような、何度も読み返す書籍はありますか?
稲盛和夫さんが書かれた「生き方」です。10回以上繰り返し読んでいるバイブルですね。最近だとフードデリバリーの領域のような競合が多数存在する市場とは異なり、hokanがアドレスしているInsurTechのような競合が少ない市場では、己との戦いが非常に重要だと考えています。競合との戦いも重要ですが、それよりもなぜこの会社・プロダクトが必要なのかという使命感に向き合い続けることが大切であり、「生き方」からはその使命感を学びました。
尾花 政篤氏の回答
コロナ禍で事業面において変化・影響はありましたか?
こちらの質問でも回答しましたが、あまり影響はありませんでした。それはhokanがどの代理店にとっても必ず必要となる基幹システム領域を取りにいっているからです。改めてバーティカルSaaSであれば顧客が多額のお金を投資しており、絶対に必要とするコア領域に狙いを定めることが重要だと感じました。
尾花 政篤氏の回答
SaaSスタートアップにとって一番大切なことは何でしょうか?これからSaaS領域で起業する方へアドバイスするなら、どんなアドバイスをしますでしょうか。
最も大切なことは「標準化」です。SaaSをやっていると必ず各社からカスタマイズ要望の嵐が起こります。ここで求められるのがお客様以上にお客様の将来を考え抜くことです。あるべき顧客の未来から逆算し、課題を抽象化してプロダクトを標準化していくことにSaaSスタートアップは終始向き合い続けなければならないと思います。
また、先を考えすぎないことも大事です。リサーチすることはもちろん重要ですが、起業する前からTAMなどを考えすぎる必要はありません。既に存在している競合で数億くらいの売上を上げている企業があれば、マーケットとして参入できる可能性があります。あまり先を考えすぎずに行動することも大切です。
尾花 政篤氏の回答
ぶっちゃけ、DXは進んでいると思いますか?実際に取り組まれていることや事例、もしくはDXに対する考えなどがあれば教えてください。
保険業界においては、デジタルをフル活用し、ビジネスモデル自体にデジタルが組み込まれるという本当の意味でのDXはまだ進んでいないと思います。むしろDXに勝つために、どれだけ人らしく頑張れるかが重要です。
私は保険営業の魅力は「ハートフル」と「使命感」だと思っています。保険は大切な人やモノにかけるものですよね。ですから、そこにどれだけ想いを寄せれるか、顧客に寄り添えるかが肝です。また、保険は絶対に必要なものであり、それを自分が届けるんだという強い使命感が保険営業では成果を分ける要因になります。
デジタルで生産性を高めて、人にしかできないことにフォーカスするという意味においては保険代理店は徐々に進化しており、保険会社よりも先進的な取り組みをしている代理店も出てきています。この領域を支援できているのは本当に面白いなと感じています。
尾花 政篤氏の回答
いまも成長を続けられている要因は何でしょうか?
戦略面では代理店の基幹システム領域に狙いを定めていることです。バーティカルSaaSはホリゾンタルSaaSと比べてマーケットが限られるため、お客様が一番高い金額を払っている基幹システム領域を攻めることが重要だと考えています。
新型コロナウイルスの影響を強く受けた企業が多数ある一方で、hokanはそこまで大きな影響を受けていません。それは基幹システムという、どの代理店にとっても必須の領域に的を絞っていたためです。また、SalesforceがM&Aによって様々な機能を追加してきたように、基幹システム領域はそこから派生していくことができます。こういった様々な流れを生み出せる、本流を抑えていることが成長を続けられている要因の一つかなと思います。
また、組織的な要因もあると考えています。hokanのメンバーには「マジメでまっすぐ」という共通点があり、実直に頑張れる人たちが一枚岩になっています。メンバー全員がコトに向かい、成果に向き合い続けているのも成長の大きな要因です。
尾花 政篤氏の回答
いつ「PMF」したと思いましたか?また、SaaSにおけるPMFの定義もお考えがあればお聞きしたいです。
SaaSにおいてPMFはうかつに使ってはいけない言葉だと思っています。あくまで特定のセグメントにおいて一定使ってもらえているというイメージで私は捉えています。
その意味では、hokanの場合「CRMの原型」と「意向把握」の2つの機能が出来上がり、これらが業界の中でも随一の機能になったタイミングでPMFしたという感覚を覚えました。PMFするにあたり、まずはSalesforceやGoogle Calenderのような機能をまるっと詰め込んだ「CRMの原型」を作り上げました。
そして次に取り組んだのが「意向把握」機能の開発です。これは2016年に保険業法の改正が行われたことによって保険事業者に義務付けられた手続きです。複数の保険商品を扱う代理店が自社の手数料が高い商品ばかりを売るのを防ぐために、顧客の意向をしっかりと把握し、記録に残しておくことが必要となりました。この機能が出来上がり、業界の中でトップレベルのものとなったときに受注が一気にしやすくなり、特定のセグメントにおいてはPMFできたなと感じました。
尾花 政篤氏の回答
創業時、競合の存在はどのように考えていましたか?アイデア構想から実際の開発まで至った経緯、また競合などもいる中で見えていた「勝ち筋」があれば教えてください。
創業当時、日本においてはまだInsurTech領域に参入している競合はあまり存在していませんでした。アメリカではソフトバンクが3億ドルを投資したレモネードなどのInsurTechスタートアップが存在していましたが、国内では2018年がInsurTech元年と呼ばれており、まだあまり目立った競合の存在はなかったという認識です。
事業の勝ち筋としては「人経由での販売」x「比較検討」の領域を支援することがキーになると考えていましたね。日本国内において、オンラインでの保険販売は8%ほどしかなく、未だに保険の営業の方から直接「人」経由で買う方が大半です。また、『ほけんの窓口』のように複数の保険を比較検討して買う習慣が一般消費者に根付いてきているとも感じていました。そのため、乗合代理店と呼ばれる複数の保険会社の委託を受けている代理店向けのサービスからはじめました。
実は、初めは保険代理店向けのサービスではなく、一般消費者向けに保険をデジタルで販売しようと構想していたんです。しかし、進めていく中で法規制の問題や人経由での販売が大事であると感じ、乗合代理店向けのサービスにフォーカスしていきました。InsurTech領域でSaaSのような形態をとっている競合はいなかったため、スピード感をもち、CSをしっかりと行っていければ勝てるのではないかというのが、当時の勝ち筋でした。